龍一頭を羽虫千匹
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希釈によって、この脅威は打開出来そうなんだ。

その言葉を信じて、請け負おう。どうか私の元へ。
私達の元へ。


 
 
 
 
そして、蜥蜴は噛み千切った配線の一部を口に咥えたまま身体を引き千切られて果てた。赤く灼けた炎と立ち上る黒煙に足下に残っていた逃げ惑う命は踏み潰されたか、焼き付いたか。
目障りであった公共の報道ヘリ、GOCの紋章を記した戦艦、今や全てはただの残骸と成り果てている。サイトに残っている人材も逃げ出したオブジェクトも数を計る術は何も有りはしない。

絶望に祈る間も無く、その巨大な機械は地殻を踏み躙りながら世界を踏み潰し続ける。それだけでも十分脅威となっているのに、両足から額までその全身に武器が備わっているのだから、もう何も救いは無い。
蜥蜴を引き裂いただけの強靭な豪腕。胸部から放たれた弾頭はニューヨークをどろどろが残るクレーターに換え、全身から放たれたレーザーは犬から高層ビル群まで全てを穴だらけにした。

もう駄目だ、いや駄目じゃない、希望を失ってはならない、希望なんてない、もうおしまいだ、最期に家族に会いたかった。
攻撃を受けてから1時間足らずで、サイト-████は隠蔽も何も意味は無くなっている。一歩一歩迫る度に響き渡る衝撃と重低音に、未だに残ってしまった職員達は震え上がった。
他サイトからの通達を送ったが、通じない事に絶望して自ら命を絶った者もいた。祈りながら踏み潰されに走り粉塵の中で消えて行った彼女。
フェイルセーフ用の核爆弾が炸裂していたかどうかも分からない爆音に耳がおかしくなりそうで、見上げても顔は見えない程に距離が迫る。

「――愚かな人間共よ。絶望に慟哭せよ、無惨なる神に祈れ、踏み固められた大地のそこで静寂に臥すが良い。我は破壊の先駆者、我は歓喜する――」

腹の底で渦巻くような重低音を響き渡らせての言葉は、他でも無いその存在から…全身を荒々しい武装で固めた機械人形から間違い無く放たれていた。
焦土と化した世界、無数のオブジェクトは先の蜥蜴の様に挑むものも少なからず居たのであったが、全てが破壊され、今しがた蜥蜴も無力化されたとなると。
もうお終いだ、と誰かが呟いた。誰もが無口になった。オブジェクト同士を戦い合わせる事等あってはならない。しかし、蜥蜴ならばもしかしたら。
そんな一縷の望みすらも引き裂かれたのだから。もうあの存在には、オブジェクトにはこの世界の何物も破壊出来ないと味わうには十分過ぎる。白衣に身を包んだ職員が、遠い目で鉄塊を見上げる。
手の中には通信端末を握り締めて、今も尚左耳に宛がっていた。誰かと通話している。
「ああ…そのまま送り出して、構わないんだね…ああ…ありがとう。――のS████達よ」

全てを踏み潰してきた土を被った足が迫るのを目にしながら、やり遂げた様にその職員は笑みを浮かべた。


 
 
 
 
そして、蜥蜴は噛み千切った片腕ごと押し潰されてしまった。各所に広がっている火災に消化活動は間に合っておらず、サイト-████ 内からリアルタイムで放送される映像も雑音とちらつきが目立っている。
収容違反が発生したオブジェクトを追跡するべく一斉に機動部隊が、エージェントが、博士が奔走する中、かの蜥蜴と対峙した機械は勝ち誇った様に丸々と輝く両目を点滅させた。
サイト内の隔壁を抉じ開けられる豪腕。両手足から放たれたレーザーは人員の幾らかと逃げていなかったオブジェクトに穴を空けて命を散らす。

被害はどれだけだ、あの蜥蜴は遂にやったのか、ざまあみろクソトカゲ、死んでしまえクソトカゲ、今直ぐあのオブジェクトの無力化を。
通信と罵声、被害状況の確認が通信で繰り広げられる中、サイト-████は隠蔽の為に全力を尽くしている。今頃、世間では山火事が発生したと予めのカバーストーリーの下近隣の住民に避難を促している筈だ。

「――愚かなる有鱗の醜悪なる怪物よ。我は破壊の先駆者、如何様な者であれども一様に等しく圧潰し、焼き尽くし――」

聴覚器官をざらつかせる重低音が響き渡る中、がらんがらんとけたたましい音が響いたと同時に、二足で此処まで辿り着いた機械は蜥蜴によって強引に押し倒されていた。
やっぱり無力化されてはいなかったのか、と溜め息にも近しい声が…その中にも何処かで安心まで沸き立ち、普段通りに怒り狂って胸部の部品をがむしゃらに食い荒らしていく様子がモニターに映る。
ほぼ雌雄は決した様に残る職員達は読み取っただろうが、それ以上に問題なのはあの機械のせいで逃げてしまった諸々のオブジェクト類。迂闊にしてしまうと世界が滅んでしまう。いや、もしかしたらもう避けられない滅びまで踏み込んでしまったのかもしれない。
食い荒らされ続ける機械を他所にこれからの対応に追われる事が確定し、蜥蜴対応チームが現地へ向かうと連絡が届いた。
まだまだ望みは希薄なものだろう。白衣を纏った一人の職員は、各種サイトに繋がる端末とは別の端末を手に持ち、聞こえて来た声に安心した様な声で応対した。
「もう少し助けが必要だと思っていたんだ……感謝するよ、――のSa███達よ」

話している間に蜥蜴が機械の動力源に噛み付きでもしたのか、蜥蜴ごと爆炎が上がる光景を一瞬映した後、モニターが完全にブラックアウト、そして衝撃がやって来た。


 
 
 
 
そして、蜥蜴が収容されている訳でもないサイト-████の中に、新たなオブジェクトとして全長3m程の人型の機械が運ばれて来た。がたがたと手足が不自然に動いており、強引に拘束されている各所からは機械油の匂いと黒煙が上がっている。
目撃情報から現場に急行した機動部隊と対峙し、両手から放たれる熱線は7名を負傷させ、軽自動車のフレームをへし曲げる力によって2人の骨が手酷く折られてしまった。それでも死者は0人。今までの事案と照らし合わせれば、民間への被害も抑えられまさに上出来という外無い。

「――愚か、なる、人間、よ、我を」

ノイズ混じりに放たれる言葉はとても耳障りで、固定され運ばれるオブジェクトとすれ違った研究員達も苦い顔を浮かべる。破損箇所から漏れているオイル含む液体に千切れた配線は、極めてグロテスクに見えるものだった。
犠牲となった隊員達への哀悼の意もあるだろうが、そこまでの犠牲を払って確保に成功したオブジェクトは解析しなければならない。完全な機械で意志を持っていなかったとしても、故意に隊員を狙ったとしても。
「――うん、これで十分だ…もっと呼んでくれたなら、素直に受け入れよう、――の為に…」


 
 
 
 
「愚かなる人間の使いたる鱗を持ちし獣よ、壮大なる我が一撃にて果てよ」
そしてあるオブジェクトはトカゲの姿を模したガス風船に挑み、仰向けにひっくり返って部品のいくつかが飛んだ。

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