雨の日の彼ら3
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ざあざあと、雨が降っている。

「ねえねえヤドカリさん。外すごい雨だよ。台風だって」
「そうか。アイリ。雨の時は気を付けないとダメなんだ。雷が鳴っていたら出来る限り身を低くしなければならないし、きっと学校へ行く途中でもそんな場所を目にしたかもしれないが、間違っても増水した川や水場に近づいてはならない。それに裏の山の」
「あ、プリンあるよ。食べる?」
「もちろんだ」

一人と一匹の眺めるテレビには、土砂災害警報のテロップが流れていた。




は、雨の中に居た。

額に増えた口に流れ込む僅かな水滴は、それでも土くれや木々を喰らうよりかは遥かにマシだった。
失った腕が、冷たい雨に濡れてしくしくと痛む。痛みだけはしっかりと存在を主張している。ここにあったことを。
それでも、もし"あの時飢えを満たしていたら"を思えば、幾らか気が楽だった。

仰向けになったまま、自嘲するように笑む。胃に鋭く刺さる空腹は、最早痛みを超えて酷い虚しさに変わっている。

何か、食べなければならない。
底冷えする体に震えが走り、ガチガチと歯の合わさる音がする。額から。いや、口からか。

「はら、へったな」

その声が、元々持っていた喉から発せられたものか、彼にはもう判断が付かなかった。

彼は起き上がった。せめて、この飢えを満たすために。




雨の降る中、窓辺から外を眺めると、酷い寂寞感を覚えることがある。

どうしても思い出せないそれに、心に引っ掛かるものに、彼はいつも苦しめられていた。
そう思う度、外に出て傘を差して、現れもしない何かに期待してしまう。何かに。何かが何なのかもわからないのに。

誰かが、雨の中に喜ぶ顔を見た気がする。でも、どうして自分はそれを喜べない。
曖昧な気持ちだけが、ぐるぐると渦を巻く。台風のように。

を、探してるんだっけなあ」

空を眺めても、雲は凹凸さえ見せずに真っ黒のまま、涙を流すように淡々と雨を降らせ続けている。
しかし、ビルの並ぶずっと向こうの方では、日差しが差し込み始めているのが見えた。

晴れ間が覗くと、少しだけ気分が良くなる。
しばらくすればきっとこの雨も止む。

どうにもならないこの気持ちと一緒に、早く過ぎてくれればと少年はただ願う。




「ア……アアアアッ! アアアア!!」
「な、なんだ! どうしたんだSCP-877-JP!」
「外っ! そ、外雨降ってるッスね!?」
「えっ、何故それ」
「外でー!! 外でスッ転んでる人が居るのを感じるんスよォー!! アアー! 助けに行かなきゃァー! アー!」
「転移を使用することは許可できないぞSCP-877-JP!」
「ウア、ウアアーッ! ピールオブバナナマンだって言ってるじゃないスかー!! アー!!」

雨は、降り続く。
誰の下にも平等に。




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