一人じゃない
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サイト-81██付属病棟の一室、簡素な白い病室が夕焼けに赤く染まっていく。私はこの退屈な入院生活に不満を抱いていた。任務の際の負傷につき療養中、などと言えば聞こえはいいが、非異常性の事故に巻き込まれたというのでは格好がつかない。それでも今はこの体を癒すのが勤めだ、と気を紛らわせようとする。やはり皆忙しいようで、見舞いに来る人間はもうまばらになっていた。

ふと、ベットの横に一人の男がいることに気づく。誰かが来るという連絡はなかった為、僅かに気を張る。財団の設備を信用していないわけではないが、この世界で生きていくなら警戒のしすぎということはないだろう。療養中の身なら尚更だ。目を細めて確認する……SCP-4999だ。なんだ彼かと警戒を緩める。タバコを断りながら、今までの人生を振り返る。そうか、私は死ぬのか……。妙に安らかな気持ちだった。

……いや、まて。おかしい。報告書によれば、SCP-4999は孤独な死者の傍らに寄り添うという。私は決して他者との交流が多いわけではないが、それでも頼れる部下と上司、気の置けない同僚、そして愛する家族に恵まれている。そもそもこの傷も死ぬほどのものだろうか?先程安らぎかけた己の思考を再点検する。考えをまとめるのに手間取る。この意識の混乱は以前体験したことがある。精神影響系の異常だ。報告書に記載されてない異常性に気おくれする。とにかく、今の自分には何もできない。助けが必要だ。そう思いポケットに手を伸ばし携帯を取る。連絡先は……全て空欄だった。最悪の予感が頭をよぎる。いや、まさか。財団がオブジェクトの性質を見誤るはずがない。大した知識はないが、過去改変や記憶影響に対抗する技術があることも知っている。しかしその事実は、これが財団でさえ対処できていないほどのものであることを示しているに他ならない。不全な1エージェントがKeterクラスの、しかも未知の性質を持つオブジェクトに何ができるだろうか?一応ナースコールを押すが、期待はできないだろう。


「私は一人じゃない。」


そう言うのが精一杯の抵抗だった。


「ああ、君は一人じゃない。」


そうだ。私は一人じゃない。


「そばにいるさ。」


違う、そんな言葉は求めていない。元から孤独ではないのだから。しかし、それ以上反論を口にすることはできなかった。








……どれだけ時間が経っただろうか。報告書通りならば十数分程度のはずだが、それは1時間にも2時間にも感じられた。本当に死ぬのだろうか。感覚は薄れ、もはや体を動かすことすらできない。いまやタバコの匂いだけが感じられる。暗くなった空は世界を私と彼だけにした。そして私は、これがただの悪い夢であることを祈りながら、重たくなった瞼を閉じた。
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