【"日本支部理事会"に一致する結果はありません】
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「なあ、日本支部に独自の理事会があったら面白いと思わないか?」

 俺は牛丼と卵をかき混ぜながら、目の前にいる同僚に話しかけた。同僚は蕎麦を静かに啜りつつ、目だけでこっちを見てきた。

「言っている意味が解らないな」
「そうつれない言い方するなよ。例えばの話だ。ほら、日本って各国支部の中でもかなり収容アノマリーが多い方だろ? だから日本支部にも、限定的にO5の代理を務められるような、総代表的な存在がいてもいいんじゃないかと思うんだよ」

 同僚は箸を止め、細い目でじっと俺のほうを見る。こいつとは新人時代からの付き合いだが、この感情を見せない冷たい視線だけは、何年たっても慣れなかった。

「成程。で、それの何が面白いんだ」
「面白いだろ。一部とはいえO5の代わりが出来るんだ。日本支部の地域性に合わせた独自の収容プロトコルとか、本部の指揮系統から独立した機動部隊があれば、こっちの仕事もやりやすくなるってもんじゃないか?」

 同僚は、目を伏せてため息を吐いた。

「たかが極東の島国に、わざわざO5の代わりになるような機関を置くとは思えない。百歩譲って置いたとしても、独自の方針で機動部隊なんて作られたら本部はたまったものじゃないだろうな。クーデターを起こしてくださいと懇願しているようなものだ」
「うーん、やっぱり駄目かなあ?」
「ジョークのつもりか知らないが、サイトの中でそういう軽口を叩くのはいい加減に控えろよ。お前ももうすぐ昇格だろう。財団に対する忠誠を疑われたら出世どころではないぞ」

 そう吐き捨てたきり、同僚は無言で蕎麦を啜る作業に戻った。これ以上何を言っても無駄と悟った俺は、冷め始めた牛丼を胃にかき込むことにした。
 我ながら、話を振る相手を間違えたなあ。
 同じことを考えている奴がいないかどうか、後で財団データベースをチェックしてみよう。検索ワードは"日本支部理事会"だな。
 
 
 


 
  
「おお、意識が覚醒したようだ――やはり特異な…………」
「聞くだけ聞いたら…………するんだ。言葉は慎重に選べよ」
「お二方、目の前で喧嘩は…………」

 老いた男と女の声が、ぼんやりと頭の中に響いてきた。どれも知らない声だ。目は明かないが、やけに寒い。ここはどこだ?

「はじめまして。佐原君だったかな? 突然ですまないが、君にはいろいろと尋ねたいことがあるんだ」

 誰だ? と答えようとしたが、口が開かない。耳以外の器官が機能してないみたいだ。財団に入って以来、様々な悪夢を見てはきたが、ここまで酷いのは久しぶりだな。

「混乱しているだろうから、まずは簡単に状況を説明しておこうか。君は我々に捕捉され、そして捕縛された」

 捕縛? 何を言っているんだこの爺さんは。ここは夢の中だろう。ああ、夢の中で俺は捕らえられたってことか。要注意団体の報告書の読みすぎかな。

「何故捕縛されたか聞きたいだろう。君はーーわかりやすく君たち財団職員の言葉で言うなら――"異常存在"と我々に認定されたのだ。どうやら、君の脳には超次元的な知覚能力が備わっているらしい。それが我々の存在を無意識化で知覚し、そして表現する要因となった」
「喋りすぎだ、"鵺"。今日という今日は言わせてもらうが、貴様のそういう態度が部下に悪い影響をーー」
「喧嘩しないよう言ったでしょう、"獅子"。これを発見したのは"鵺"ですわ。本件は彼に裁量権があるかと思いますけれど」
「随分手前勝手な論理だな、"鳳林"。我々は平等な立場のはずだろう?」

 俄かに騒めき始める爺さんたち。何だ、よく分からんがコードネームで呼び合ってるのか?
 少しの応酬の後、どうやら一応決着はついたようで、さっき"鵺"と呼ばれた爺さんの声が、再び俺に話しかけてきた。

「本来なら、そこの"獅子"が言うように、君は即時抹消されるべき対象なのだがね。私の判断で、特別にここに来てもらったんだ。君の脳がどのようなメカニズムで我々を知覚したのか、ここにいる全員が大きな興味を抱いているのだよ」

 明かなかった目が、ゆっくりと開く。モニタ画面に、おそらく声の主であろう人々の顔が映っていた。

「目を明けてくれたね、佐原君。我々は"日本支部理事会"。そして私は"鵺"。君たち財団を作り出し、そして統括している者。私は君たち財団が、"人間"がとても好きなんだ。だから知りたい。君たちの脳に秘められた謎、その全てを」

 モニタに映っているそれは、明らかにヒトではない何かだった。
 俺は気づいた。喋ることが出来ないのは、俺に口がないからだと。腕も足も動かないのは、俺に体がないからだと。
 緑色の液体に満たされた水槽の中で、俺は割れるほどの叫び声を上げようとした。
 存在しない口からは何の言葉も出てこず、叫びは俺の脳髄だけを揺らしていた。

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