俺の名前は岡類人おかると 蓮吾れんご!
元気が取り得の中学1年生!入学式も終わって、これからの学園生活楽しみだなあ!
あっ!幼馴染で1歳年上の黒場くろば 郡こおり姉ちゃん!
甘いって、俺の何処が甘いの?甘い物は好きだけどさ……
中学生になってからは、小学校の時よりも勉強時間に運動量、何もかもが小学校の頃と同じままではいられないのよ。
あらかじめの心構えをしておかないと、あっという間に置いて行かれてしまうわ!
そして、何よりも学校生活の平和を蝕んでしまう存在……
それが異常存在なのよ。
異常存在!?本当にそんなものが、世界に存在するの!?
もちろんよ!こうして話し合っている間にも、世界の常識や物理的法則では完全に説明出来ない存在はそこかしこにいる。
そして全てが人間や人間社会に害を及ぼしてしまうのよ。
そんな恐ろしい存在が世界に存在しているだなんて…でも、おれたちが出会っちゃう様な事は滅多にないんじゃ…
日本人1億3000万人が1年でどれだけの異常存在に出会うか知ってる?
なんと2億4800万体も出会っているのよ。
*(2014年度調査結果)
そんなにも!?もしかしたら学園生活をおびやかしてしまうかもしれない…でも、ただの一般人であるオレ達は、どうしたらいいんだ…!
そう!世界オカルト連合っていう、世界中で人類の平和をおびやかしている異常存在を日に日にやっつけているグループ!
その中でも日本に位置している極東支部が、私達を害悪から避けてくれるのよ!
そうなんだ!そんなに詳しいなんて、ひょっとしたら姉ちゃんも……?
えへへ、バレちゃった?
私も去年から、極東部門ジュニアコースに参加しているのよ。
10歳にピークに達すると言われている異常感知能力、別名霊感が強い人の保護も兼ねるのだけど……
俺も参加してみたい!7年前の両親の殺害現場、今考えても人間の仕業とは思えない!
蓮吾君ならそう言ってくれると信じていたわ…
このパンフレットの応募書類の内容と、保護者の署名が必要よ。
おじさんにやって貰ってね。
もう姉ちゃんったら、俺のおじさんは去年に首をくくってるって言ったじゃないか!
こうして俺は世界オカルト連合極東支部のジュニア基礎コースから学び始めたんだ!
最初の内は1週間に1度、30分だけの基礎だったけど、今の状態と合わせてどんどん頻度と時間を伸ばしていけた。
分からない所はオカペン先生が懇切丁寧なアドバイスとヒント、分かりやすい解き方を教えてくれるから詰まってしまう心配は無し!
能力に応じた適している部門を重視した内容まで、個人に合わせた内容が毎週送られて楽しい!
学年が変わった夏の頃には、1週間に6度、3時間の勉強と修練に励めるだけの土台も出来た!
凄い…対霊的耐久感度が入りたての頃と比べて6.8倍にまで上昇してる!
流石蓮吾君…それだけの努力と天稟が、学校生活と共にめきめきと頭角を現していけるのよ。
それからもう私は姉ちゃんじゃなくて「ルアー」ってコードネームが付けられちゃった!
昔から魚釣りが好きだった姉ちゃんらしいや!俺も頑張ってその域を目指し…
両親を屠った可能性が高いKTE-2019-Moroを倒し…
世界を異常存在からの脅威から、救って見せる!
※資料請求はXXX-XXXX-XXXXまで!
俺の名前は格保子かくほし 勇歩ゆうほ!
努力が取り得の中学1年生!入学式も終わって、これからの学園生活に何が待ち受けているのか楽しみだなあ……!
降り始めの雨から逃げながら、見慣れた家の近くまで来た時にようやくホッとした感情が消えていく。
まだ冬らしさが残る冷たい水滴が落ちているのに、家の中の扉は鍵も掛けられておらず、半開きのまま少年を迎え入れたから。
お母さんはおっちょこちょいだな、と思っている内にも、どこか怖い感情が湧き上がって来る。
ひょっとしたら、ドロボウが入り込んできたんじゃないか。そんな筈はないさ、と頭を振りながら小走りで玄関へと飛び込んだ。
「ただい――」
今日の午前中あった入学式にも参加してくれた。お互いに笑って、学校の門前で写真も撮った。
仕事があるからとそこで別れたけど、今日は帰宅時間と合わせて家の中でごちそうの支度をしているに違いないのだ。
だから家の外にも響くような大きな声で帰って来たよ、と言おうとして、そこで言葉が詰まる。
泥の痕が玄関から、廊下にまで続いている。大人よりも大きくて、人間が残したと言うよりはあまりにも刺々しい痕。
土足だ、と少し思ったが、ぞわぞわと背筋に駆け抜けて来る寒さがあって、肩に背負っていた新品の学生鞄を背負い直すしかない。
まさかそんな筈がある訳ないだろう。思いながら靴を脱いで、スリッパを履き直す。
ずっと扉が開け放たれていたから、玄関から奥にまで湿った土と泥の、雨の風味が立ち上って来るのが分かる。
「お、母さーん……?」
ネクタイをきつく結び過ぎた様に大声を放つ事は出来ていない。それでも声を確かに放って、一歩、また一歩と廊下の奥へと足を進める。
ぬかるんだ空気はいつもよりずっと重い気がして、まるで自分の家ではない様な気がした。足跡は続いている。廊下から、台所に通じるガラス戸に。
べっとりと血の手形が内側に貼り付いているのが見える、いつも見慣れた、少年によって一昨日磨かれたガラスの表面に。
そこで、声が出なくなった。代わりに胸元を内側から押し潰された空気だけがぎゅっと肺から漏れ出て、押し込まれる様な呼吸が耳奥に響いた。
ごそごそ音がする。台所の中から。母親が料理の支度をしている音ではない。換気扇の音も聞こえて来るが、もっと違う雑音。
そんな事がある訳ない。今日の日中も出会ったのだから。これはきっと何かの間違いで、気のせいだ。
ガラス戸の内側にヒビが入っているのが分かる。床に長い何かが擦れる音。後退りをするべきだろう。しかし身体は強張って動かない。
信じたくない。まさか母親が何かに遭っているのだと。既に居ないどころか、その命が弄ばれた後だという事に。
扉がゆっくりと開かれる。蝶番が歪んだいやな軋みが床に跡を残し、鉤爪の生え揃った七本の指が扉を掻く。
「母さ――」
どんな化物なのかも分からなかった。ただ、血と泥が混ざり合った匂いが嗅覚に捉えられて。
母親の顔は、今日も入学式に仕事が忙しい中でも顔を見せてくれて、夜は腕を振るって御馳走を作ると笑っていた母親の首は、
不ぞろいの牙に噛み付かれて、ねじ折られた首から血を滴らせているのが見えた。
それから少年は叫んだ気がする。喉が千切れそうになる程の声、ガラスが割れる音、後ろから人の気配。
気が付くと、毛布にくるまったまま何処かの車に乗せられていた。
母親の身体は、きっちりした袋に搔き集められていた。
「落ち着いたかい?」「…………」
ちょうど、刑事ドラマの取調室と良く似た場所に、少年は入れられている。
おろし立てのブレザー、入学した学校の制服には泥と血がこびりついていて、左腕には包帯が巻き付けられていた。
部屋の隅にはカメラ、真四角のテーブルの上にはレコーダーが乗せられ、顔に貼り付いたような笑顔を浮かべている警察官が向かい合って座っていた。
「何があったのか、聞かせて貰えるね。あの時君は何を見たんだい?」
「……家に帰った時には、母さんが……あいつと……」
「殺されていたんだね?時刻はいつ頃?その時の大きさは?」
見せかけの笑顔ではないと、楽しそうな様子で質問を続ける警察官を前に、少年はぽつぽつと言葉を語るしかない。
今更、あの光景を忘れられはしない。誰かに話さないとどうにもならないし、まだ父親は戻っていないので、信用出来るのは目の前の警察しかいなかった。
スモークが焚かれた窓から、ほんの少しだけ見えた光景。
少年は車に乗せられた。
母親も車に乗せられた。きっちりした袋に詰められて。
そして「あれ」は、頑丈な金属製のケースに詰められて、人間とは別の、硬そうな車に乗せられていた。
まるで、母親を殺したあの化物を、守っているかの様に。
「あれは、殺したんですよね?」「あれ?ああ、今では部屋で大人しくしているさ。キングサイズのベッドの上で、A5ランクのシャトー・ブリアンステーキでも食べているんじゃないかな?」
少年はやっと目を見開いて、驚けるぐらいには意識が揺さぶられる。テーブルに両手を乗せて、思わず立ち上がる。
「どうして?」
警察官は、心の底から嬉しそうに笑った。
「だって、何てことはない一般家庭の一人の命と引き換えに、あんなに貴重な異常存在が手に入ったんだもの。肉食であるから管理も楽だし、こちらとしては本当に嬉しくて堪らないさ!」
「母さんが死んだんですよ、あいつに殺されたんですよ、なのに何でそんなに、笑って…!」
「大丈夫さ、そんな記憶も忘れられる。ご協力ありがとう、バイバイ!」
警察官の片手には、スプレー缶に似た何かが握られ、少年の顔にガスの噴出音と共に何かが浴びせられていく。
突然に意識が薄れていく。
自分に向かって午前中に笑いかけてくれた顔も、思い出せない。
交通事故で母親を失った事がきっかけで、父親の故郷に転校した。
今では友達も出来て、着実に一歩一歩、新学期を学び始めている。
勉強に頭を抱え、バラエティ番組に歯を見せて笑い、楽しみに無我夢中になる事もある。
それでも時々どうしようもない気分が湧き上がってきて、血があふれるまで拳を握り締める。
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