昼どきの雑談、あるいは料理長の献身
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「鬼食さんって、なんで料理長してるんですかね」
「うん?」

サイト-8192の地下食堂。
遅めの昼食をとっていた吹上は、後輩の顔をまじまじと見つめた。
鶏白湯をつつく後輩の視線の先には、ちょこまかと動き回る小さな人影。
ふうむ、と唸って吹上は言った。

「お前、ああいうのが好みなんだ」
「あんたの脳味噌そればっかりなんですか?」

辛辣な返事を寄越す後輩に、吹上は憮然とした表情を向ける。

「職歴詮索御法度のルールを知らんわけでもないだろが。それでも口に出すってことはお前、そういうことじゃないの?」
「そういうことじゃないのでご安心を」

言下に否定して、後輩は勢いよくスープを啜った。

「出張業務の一環ですよ。優秀な人材の発掘と再評価は我々の義務でしょう?」
「勿論。それで?」
「収容スペシャリスト資格者のリストを更新してたら、彼女が登録されてるのを見つけたんです」

それで、と彼は声を潜めた。

「気になるんですよ。収容スペシャリストなんてそうそう持てる資格じゃないでしょう。最低でも課長級待遇がないとおかしいのに、彼女はSCL-1で、経歴に現場業務の経験なし。だから」
「気になったと」
「人事考課に影響はないですけどね。収容スペシャリストは皆さん、現場業務についてるのに、彼女は特殊だったもので」
「そうかそうか」

頷く吹上は、定食の唐揚げ──関東のサイトでは万が一とらやはかせがあるので注文しづらい──を齧った。少し薄味だが、ぱりっとした衣の食感は芸術的な仕上がりだ。

「細かいことに気が付くのは良いことだけどね。彼女のことは気にするな」
「何か機密が?」
「そういうわけじゃなくて」

ちょっと説明しづらいな、と吹上は頭を掻いた。

「ええと、つまりはだ──」


提言: 機動部隊用高機能栄養食の食味に関する再検討

概要: 現行の機動部隊が使用する高機能栄養食の食味による士気への影響を鑑み、新たに12種類のフレーバーを提案する。これらは凝縮穀物スティックに塗布する形式で使用し、本来の栄養機能に影響を与えず、携行性と保存性に優れる。

状況: 採用

経過: 定期調査の結果、機動部隊に平均して19%の士気向上を確認

提言: 食品流通形態操作による財団施設への破壊的影響の防止

概要: 財団施設近傍における食品流通網への介入と、購買行動の操作による店内在庫の移転によって、予期されない杏仁豆腐を原因とした財団施設への破壊的影響を抑制する。

状況: 採用

経過: サイト-8192にて実証実験中

提言: SCP-558-JP緊急対応案-ver5-改2-3

概要: 鶏肉の加工ならびに消費形態のうち、SCP-558-JP関連特異事象の発生しないと考えられる組み合わせのリスト化と工程に要する平均的な加工時間・コストの数値化[未完成です]

状況: 即時承認

経過: 順次実施中


「──現場で収容に従事するだけがスペシャリストじゃないってことさ」
「はあ?」

困惑する後輩を無視して、吹上は唐揚げを頬張った。

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