Orientation
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よし、それじゃあオリエンテーションを始めるぞ。俺はエージェントのマックス・ロンバルディだ。お前らのインストラクター役をやらされるはめになった。理由は……今ちょっと脚を折っちまってるってのもあるが、誰か俺を嫌ってる奴がいるんだろうな。

まあいい。いいか、この場にいるってことは、お前らには見込みがあるってことだ。単なる間抜けじゃなく、わけのわからない方法で殺しにかかってくる得体の知れないシロモノを収容するのに使える奴かもしれねえってことだ。

まず基本的なところから説明してやろう。お前らの仕事は、得体の知れないシロモノを探し出して、連れ帰るか持ち帰るかして収容することだ。で、お前らが必死になって収容したものを防弾ガラス越しに観察しながら、いかに自分たちの仕事が大変かって文句をぶつぶつ垂れるのが、お前らの賢いお友達の仕事だ。連中は67号室で、これと同じようなブリーフィングを受けてる。向こうではドーナツとコーヒーが出るがな。どうしてかって? この冷たくて非情でクソみたいな世界には公平なんて言葉はかけらも存在しねえってことを、お前らに教えるためだよ。

とにかくだ、お前らの所属は俺みたいな回収部隊か、そうじゃなきゃ収容部隊ってことになる。両方を行ったり来たりって奴もいるな。普通は、回収部隊が仕事に入る前に情報部が先立って調査をする。ちなみに情報部もコーヒーとドーナツ付きだ、財団の予算にはいくらでも余裕があるってことをお前らに教えるためにな。で、情報部の連中が出て行って、手掛かりを探り、情報を収集して、お前らに命令をくれるってわけだ。

ろくに役に立たない情報を受け取ったら、異国情緒溢れる旅行先に出発だ。ただし、旅先で一杯ひっかけたり、地元の住民との交流を楽しんだりするのは禁止されてるけどな。住民のほうがこっちを殺そうとしてきたりしたら別だが。行く先がどこだろうと、情報部に行けと言われたらとにかく行く。行ったら、まずはお前らよりもずっと偉いエージェントが聞き込みをして状況を探る。何もひがむことはねえよ。もしヤバいことになったら、真っ先にひどい目に遭うのはそいつだからな。そいつがゴーサインを出したら、残りのメンバーも行動開始だ。後はできるだけ目立たないようにスキップを回収すればいい。

そうだ、俺たちは超自然的な存在のことをスキップ(Skip)って呼んでる。言葉の由来は、説明するまでもねえよな。

それでだ、スキップってのはそう簡単にこっちの希望通り大人しくしてくれるとは限らない。いや、もちろんそういうこともあるんだぜ。動きもしなけりゃ危なくもないただの物体だったり、他人を傷つけちまうくらいなら自由な暮らしなんていらないって奴だったりな。ほとんどの場合は、まあ簡単なケースさ。だけど、大人しくするつもりなんて毛ほどもない上に、それを押し通せる手段を持ってる奴が相手ってこともある。そういうときは力ずくだ。本来なら、どこまでならスキップが耐えられるのかを情報部がきっちり突き止めてくれていて、ちょうどいいレベルの武器で一気にノックアウトってのが理想だ。だけどそれは、本来なら俺たちにもドーナツとコーヒーが出るのが理想だって言ってるようなもんだ。大抵は何もわからない状態で、素手から始めて色々試してみることになる。

場合によっちゃ、スキップを捕まえるか、自分で歩いて家に帰るか、どっちか片方しか選べねえってこともあるだろう。この中に、任務を諦めるくらいなら喜んで死ぬって奴はいるか? どれ、1、2、3、4……よし、お前ら5人は不合格だ。いいか、そういうときは後のほうを選べ。逆のことを言ってくるアホもいるだろうがな、それでもだ。スキップをちゃんと捕まえるのが一番大事ってのは確かだが、きつい仕事をちゃんとこなせるエージェントはそう簡単に見つかるもんじゃねえ。生きて仕事を続けたほうが、結局捕まえられるスキップの数は多くなるんだ。まあ、一番いいのは逃げちまうことだな。そうすりゃ、誰か他の奴が派遣されてくる。それができなくて本当にヤバい状況に追い詰められたら、そのときは銃を抜くんだ。スキップに向かってぶっ放せ。効かなかったらもう一度ぶっ放せ。しこたまぶっ放せば、100回中99回くらいは何とかなる。

言っとくが、「エージェント・ロンバルディがそう言ったんだから、動くものは何でも撃っていいんだな」なんて考えるんじゃねえぞ。今のはやむを得ない場合の話だ。本来の目的は、できる限り無傷でスキップを確保することだからな。どうしても無理なら、残骸を研究するだけでも仕方ねえって話にはなるが。

さて、回収の仕事の基本的な説明はこんなところだ。残りは収容の仕事だな。

収容の仕事は、ある意味ではもっと楽だ。スキップがどこにあるのかはわかってるし、うまくすりゃスキップの能力や性質、おまけにそれを封じ込める方法についてもヒントがつかめてるだろう。だが、面倒なところもある。

まず、スキップの知性の程度によるが、向こうもこっちを観察してる可能性がある。俺たちが何をどこまでできるのか、ヒントをつかんでるかもしれねえ。制服の意味もわかっていて、武装してるのはどんな服の奴かってことまで理解してるかもしれねえ。こっちに対して怒ってる可能性もある。どうせ怒るんなら白衣を着てる奴に注射された途端に激怒してもらいたいとこだが、自分をとっ捕まえて拉致したのがどんな連中か覚えてるってこともあり得るわけだ。

脱走事故が起こったときも厄介だ。専用サイトで収容してるなら話は別だが、そうでなきゃ他のスキップの脱走にもつながって、気がついたら5体も6体もスキップを相手にしなきゃならねえってことも考えられる。スキップ同士で大喧嘩を始める可能性もあるが、そうしたらお前らはその中に割って入って止めなきゃならねえし、仲良く遊び始めるってこともないだろう。

それと、回収はほとんどの場合は簡単なケースだって言ったのを覚えてるか? 収容の仕事はそうはいかねえぜ。もちろん、収容されてるスキップの中には安全なものだってある。だけどお前らの頭をもぎ取って脳みそをかき出そうって奴もいるし、おまけにそいつらの近くにずっといなきゃならねえんだ。特に、さっき言った専用サイトの場合は危ねえ。それだけのリソースを注ぎ込んでる以上、やることは自動販売機の監視とかじゃ済まねえからな。

まあ、エージェントの仕事ってのはこんな感じだ。何か質問はあるか?

よし、そこのタートルネック着てメガネかけてるお前。どれくらいイカれてることに出くわしたかって? そうだな、俺は前に骨がゼリーに変わっちまった奴を見たことがある。グレープ味のな。そう、実験をしてな、全員グレープって答えたんだよ。イカれてるだろ。

次は丸刈りのお前、言ってみろ。回収のターゲットを決めるのは誰かって? 基本的には、担当サイトのディレクターだな。突き詰めればO5評議会ってことになるが、あの辺になると普段の仕事にはあまり関わってこねえんだ。

次はそこの、ピアスだらけでわけのわからねえことになってるお前。いや、俺は奴らがどこから来たのかなんて知らねえよ。それを調べるのは情報部の仕事だが、お前、俺がさっき情報部について何て言ったかは覚えてるよな。

よし次、3列目の赤いシャツ着てる奴。医療保障についてか。その点はすげえぜ。生きて帰りさえすれば、世界最高の医者たちが待ってるんだ。自分の足で立てる可能性が残ってりゃ、何とかしてくれるさ。

次は後ろのほうのお前だ。この仕事のいいところ? 給料がいいのと、世界が滅びるのを食い止められるってことだな。これはジョークじゃねえ。誰かがやらなきゃならねえ仕事なんだ。お前ら、生きて明日を迎えたいと思わねえか? 俺もだ。

よし、そこの太いの。何が聞きたい? コーヒーとドーナツがもらえるグループに入るにはどうしたらいいかだと? お前はピザでも食ってろ。うるせえ、それが答えだ。

じゃあ次、そこの細い顎ひげ野郎。クレフか? 研究者兼、エージェント兼、後は何だか知らねえ。本当のとこな、あいつの噂ってのは8割方か9割方くらいデタラメさ。残りも大体はデタラメだが、実際に起こったことが元にはなってる……と言えなくもない、かもしれねえ。何にせよお前はクレフじゃねえんだから、本当のところはわかりゃしねえよ。少し慣れてきたら、お前もクレフの真似をしようとか考えるようになるかもしれねえな。お前がそれだけアホならの話だが。

次、ドアの近くにいる姉ちゃん。猿? ああ、あいつはDr.ブライトだ。大丈夫、危険はねえよ。そうは言っても、スタンガンくらいは持っといたほうがいいがな。あいつにも生殖器はついてるってことだよ、わからねえのか。

さて、これでブリーフィングは終わりだが、最後までちゃんと聞いたご褒美がある。優しい俺がかわいそうなお前らのために、パンチとクッキーを用意しておいてやった。まあ、コーヒーとドーナツのほうがいいかもしれねえが、でもな……おい、誰にも言うなよ。こっちには下剤は入ってねえぜ。

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