財団百物語
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蝉時雨が鳴り響く夕方。太陽も隠れ出し辺りが茜色に包まれる帰り道で、エージェント・ハナは見知った男に声をかけられた。

「やあ、ハナちゃん。お帰りかい?」
「あぁ、蔵元博士。お疲れ様です。博士もご帰宅ですか?」

彼の名は蔵元博士。ハナの夫の同僚である博士で、財団加入以来の長年の付き合いである。

「うん。ところで、どうだい最近の調子は」
「まずまずですね。強いていえばここ数日の高温多湿でエージェントたちの士気が低くなっていることでしょうか」
「最近暑いもんなぁ。うちも揮発性溶媒の消費が激しい」

二人は他愛のない話をしながら歩みを進める。実際ここ数日の暑さは異常なものであり、蔵元博士は今もじわじわと首元に汗が溜まってきている。しかしエージェント・ハナは涼しい顔で会話に応じている。美人の条件は汗をかかないことと昔何かの本で読んだっけな、と博士は想起しながら彼女に話しかけた。

「そうだ、ハナちゃん、来週の火曜日の夜、空いてる?」
「また飲み会のお誘いですか、博士?」
「いやいや!ちがうちがう……でも酒も出るから飲み会と言えばまぁ飲み会か……?」
「博士こないだの健康診断引っ掛かってましたよね?飲み過ぎはダメですよ」
「む……ホドホドにする。それで空いてる?」
「まぁ……空いてますけど。いったい何をするんですか?」

蔵元博士はニヤリと笑って答える。


「百物語だ!」








財 団 百 物 語

蔵元博士: えー皆の衆、集まってもらってありがとう。とりあえず乾杯!

蔵元博士: ではいまからこのクソ暑さを乗り切るため、ゾーっとして涼しくなろうということで!百物語を始める!

蔵元博士: みんなルールはわかっているな?まぁ怪談を用意してもらっているはずだから大丈夫だろう!双葉君、蝋燭は100本つけたな?

双葉研究員: はい、完了しました。ところで蔵元博士、あの部屋の隅に置いてある機械はなんですか?

蔵元博士: 双葉くんは分野が違うから知らないか。あれは改良版カーデック計数機とメトカーフ非実体反射力場発生装置といってな、早い話が幽霊を検知する機械と封じ込める機械だな。百物語の最後には霊が出るというからな。借りてきた。

双葉研究員: そんな簡単に持ち出せるものなんですか……?

蔵元博士: 許可書は申請したからダイジョウブだろう……たぶん。じゃあ俺から行くぞ────


蔵元博士: マスクを外すと、耳まで届く真っ赤に裂けた口が────

蔵元博士: おいそこ。何をコソコソ話し合ってるんだ?


神楽研究員: いやな、口裂け女って収容簡単そうだなと。

鳥羽隊員: ポマードっていう明確な弱点がありますし……。

Agt.ハナ: 私のところはべっこう飴でした。

Agt.釈: そもそも異常性ないだろ。収容するなら刑務所じゃないのか。

小柳研究員: でも、あちこちに現れるなら何らかの異常なのでは?


蔵元博士: 人が怪談を話しているときに仕事の話を持ち込むな、お前ら!

蔵元博士: まったく……興が削がれた。次、神楽。責任取ってお前が話せ。

神楽研究員: 私か。任せておけ。これはある掲示板に女性が電車の中から書き込んだ相談から始まるんだがな────


神楽研究員: 太鼓の音から逃れて、ようやくトンネルを抜けると────

神楽研究員: ん、なんだ蔵元たち。


蔵元博士: きさらぎ駅……なかなか収容が難しそうだな。

双葉研究員: 出現条件が不明確ですし。

Agt.弓月: 現状オブジェクトクラスはEuclidでしょうか。

本白水隊員: 確か、その後も何回か報告されているんでしたっけ?

名取博士: だいたいは創作だって認められていたはず……。


神楽研究員: おい蔵元、貴様だって収容手段を考えているじゃないか。

蔵元博士: ははは、失敬失敬。冗談だ。まだ始まったばかりだ、どんどん行こう!


双葉研究員: 持ち主は次々非業の死を遂げて関わった者も不幸に────それからこの絵は見ると死ぬ絵として有名────

神楽研究員: 3回見たら死ぬ絵なら実際にあるぞ。見るか?

双葉研究員: み、見ませんよ!


名取博士: 学校の旧校舎の階段を数えてみると1段多く13段に────

Agt.ハナ: 先輩……ちゃんと数を数えられますよね?

名取博士: それは馬鹿にしているのかい?

Agt.ハナ: いえ、そういうわけでは。


小柳研究員 深夜作業中、窓の外を除くと、茶色い塊がフワフワと────

本白水隊員: それ虎屋博士だろ。


本白水隊員: ドーン、ドーンと何かを叩く音がするや否や、川上から真っ赤な血が────

Agt.釈: ちょっと待った、その屈強な謎の男たちがいたのは沖縄の川だったな……?

本白水隊員: そうですけど……どうしました釈さん?

Agt.釈: 沖縄の川にはオオメジロザメっていうサメがいてな……そいつら、SPCの連中かもしれない。


小泉助手: 悲しみに暮れたその男は夜な夜な街に繰り出し、凶行を繰り返す殺人鬼になってしまいました────

鳥羽隊員: すみません……それ財団のカバーストーリーなんですよ……。

小泉助手: えぇ!?


Agt.ハナ: 「ぽっぽぽ、ぽ、ぽっ、ぽぽぽ……」というまたあの声が────

本白水隊員: 精神影響なら私が昔対峙した人型オブジェクトの方がおぞましかったですね……。あいつは……いやセキュリティクリアランスの問題から話すのはやめておきましょう。


鳥羽隊員: 他はボロボロなのにその一角だけピッカピカの赤い椅子が────

名取博士: その椅子……SCP-396の収容違反じゃないか……?

鳥羽隊員:

名取博士: ちょっと本部に確認しよう、君来なさい。

鳥羽隊員:



蔵元博士: もう100本目か……。

蔵元博士:まったくみんな怪談にいちいちケチつけおって……全然怖くなかったじゃないか。こういう時くらい普段の仕事を忘れてさ……。

Agt.ハナ: なんやかんや皆さん仕事熱心ですから。財団で働く以上、気が休まるときはないということです。

蔵元博士: それはそうなんだけどさぁ……なんだかなぁ。純粋に怪談を楽しもうぜ……。

Agt.ハナ: まあまあ。それに博士、よく言うじゃないですか。


Agt.ハナ: Truth is stranger than fiction. 事実は小説よりも奇なり、って。












後日。
「博士。そういえば結局幽霊は出たんですか?」
「ああ。二匹ほど捕まえたよ。担当部署に送っといた」
「それはご苦労様です」

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