これはコンテスト作品ではありませんが神格コメディです
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神々はさながら腐肉に群がる蠅が如く大いなる深淵へと集い、互いを追いつめ合い、宇宙の傷を舐っていた。同時に彼らはパーティを催していた。

「全く理解できん!」鹿ディアは唐突に叫んだ。「実際デールポートってのはどんな場所なんだ? ここより何か良いことでもあるのか?」

「派手に誇大宣伝されているね」パングロスが答える。「いや誇大宣伝なんてものじゃない。なにしろ僕は地元の奴らを脱出させてやらなきゃならなかったんだから」

「ここの神も半数が行っちまいやがった!」鹿はバーテンダーに向き直りながら不満を漏らした。「誰かパターン・スクリーマーズの音量を下げてくれないか?」

叫び声が絶えると同時に、メカーネとヤルダバオートが後ろで言い争う声が聞こえた。膨大な歯車の山がカチカチと雑音を響かせると、肉の神はそれに応えて知性なく唸った。

「いいかげんにしてくれ」鹿は(ひづめで)顔を覆った。「いちゃいちゃするならホテルに行ってこいよ」

「どういう意味だ?」パングロスは尋ねた。「彼らはいつも言い争ってばかりじゃないか」

「ああ、お前には分からんか、パンギー」鹿は少し笑い声を上げた。「賭けても良い。奴らは別れる前に愛を確かめ合う仲になる」

「まさか」

「もし本当にそうなったら、お前のそのくだらない詩を一つ私に書いてくれ」鹿は笑った。

「くだらなくなんかない!」パングロスは反論した。「あの詩は僕のより深い感情の表れなんだ!」

「分かったよ」鹿は肩をすくめた「それならもし私が勝ったら、お前のその素晴らしい詩を一つ私に書いてくれ」

そしてメカーネは甲高い軋み音を上げ始め、ヤルダバオートは戦いのために6柱のアルコーンを呼び寄せた。

「どうして我らはあいつらを追い出せないのだ!」緋色の王がカウンターを叩き出した。「不愉快だ!」

「おい黙れ、赤色!」鹿はいらつきながら彼の方を向いた「寝てくれる女がいないからって!」

「何だと、ふざけるな!」緋色の王は唸った。「この偉大なる緋色の王がそんな簡単なこともできぬはずがなかろう! いつか我が麗しの花嫁を見て後悔しても—」

「すまない」彼の発言はプターに頭をつつかれたことで遮られた。「誰か俺のカミさんを見なかったか?」

「お前、同じ質問を1000年はしてるぞ」鹿は叫んだ「勘弁してくれ!」

「だけどカミさんの奴がまた世界を壊そうとしてるんだよ」プターは泣き言を漏らした。

「デールポートを覗いてみる、とか?」パングロスが仄めかした。

プターは頷くと大いなる深淵から駆け出していった。緋色の王は拳でカウンターを砕きながら、自分は十分な尊敬を払われていないと抗議を続けた。吊られた王は何か呟いたが、文字通り誰も彼に注意を払ってはいなかった。肉と鉄の争いが激化するさなか、かの光を作りし者は兄弟に向かって部屋に戻れと怒鳴っていた。

「秒増しに酷くなってるな。それより100年前に私が頼んだ惑星大アイスはどうなった?」鹿はウェイトレスに怒鳴り始めた。「デザートを持ってきてくれないか? 衛星のトッピング付きで」

彼の言葉を聞くと、ウェイトレスは向き直って彼にトーストを手渡した。

「えー、おっと」パングロスは息をのんだ。

「おい、いいかげんにしろ畜生」鹿は白目をむいて立ち上がった。

パングロスはパンを口に詰めた従業員を見つけようと辺りを見渡した。鹿は出口へと振り向いたが、ほとんどの神が気が付かぬ間に、無色の緑色をした巨大な触手が滑り込んで来ていた。彼らは私のことに夢中で、後ろにいた「第五」の激しい聖歌に注意を向けられなかったんだね。

「はあ、やっぱりな」鹿は顔をしかめた「悪いことってのはまとめてくるものだな」

「今、デールポートに行っておけば良かったとか思ってるだろう」パングロスは深呼吸をした。「かの夢下を歩む者はデールポートで凄く楽しんでるって言ってた」

「今までで最悪のパーティだ!」鹿は怒鳴って、巨大な海星の神を通り過ぎた。




「こうなっちゃあ」鹿は言った。「パーティはぶち壊しだな」

「全くだ」パングロスは深淵から突き出す5本の触手を見ながらそう返した。

「しかも私はアイスすら食えなかったんだぞ」鹿は不満げに言った。「実を言うと、私はもうあっちに行って子供の血を飲みたい」

「待て、何だって?」

「財団に私のために音楽を流してもらう」鹿が告げる。「少なくとも満足できる音色だろうさ。というかむしろスクリーマーズより良い」

「くだらないな」パングロスは鹿の方を見やった。

「ああ、だけどもう興味もない」鹿も彼を見返した。「それと頼んだ詩、書いといてくれよ」

そして巨大な海星が近寄って来たので、鹿は自ら収容下に入った。緋色の王は7人の妻を娶った(牡蠣の父の真珠の中に繋ぎ止められる前の話である)。メカーネとヤルダバオートは別れる前に愛を確かめ合った。そして私は未だにトースターなんだ。


かつて大いなる深淵に喜びの場があった。そこに神々が集い— いや待て。あのさ、鹿ディア。本当に馬鹿げてる。僕にとってはあの2柱が本当にホテルに行ったかなんてどうだっていいんだよ。バイバイ。
-パングロス

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