「そこの貴方、どうか私たちの話を聞いてはくれませんか」
人通りが殆ど無い路地を通過しようとした男は、小さな声に呼び止められた。
「お急ぎの所申し訳ありません。ですが、私たちの命運を左右する事態なのです」
「どうか、私たちを食べてはくれないでしょうか」
声の主を認識した瞬間、男は驚愕した。男が視線を向けたコンテナの上には、6個の人形焼らしき何か が立っていた。その内の一つが男に話しかけていた。
「どうか、私たちを怖がらないでください。見た目こそ店頭に並ぶようなものではなく欠けていたりしていますが、美味しく食べることが出来るはずです」
「私たちは、同じ鉄板から生まれました。他にも十数、同時に生まれた仲間がいました。彼らは体の一部が欠けたりしていない、正規品の人形焼として生まれることが出来ました。ですが、運悪く私たちは何らかの理由で不良品として生まれました」
その話を聞いて男が人形焼らしきそれぞれに目を凝らしてみると、手足や顔に欠損があったり、黒い焦げが付いてたり、それらは確かに正規品とは言い難いものだった。
「私たち人形焼の目的は、貴方たち人間に美味しく食べてもらうことです。見た目や、分量によって貴方たちを満足させることが出来ないとかつての仲間たちから判断された私たちは迫害され、私たちは私たちを美味しく食べてくれる人間を探して今に至ります」
「私たち全員を食べてくれとは言いません。ほんの一口でも良いのです、私たちを食べて貴方が少しでも美味しいと感じ、幸せだと感じて下さったら、私たちは救われるのです。」
男はただ一言訊ねた。人形焼きらしきそれは答える。
「確かに、死ぬことは怖いです。でも、自我を持ってしまった者たちは皆そうでしょう? 貴方たちと私たちの間にある隔たりは、生きた結果死ぬか、死ぬために生きるかの違いだけです。この隔たりには死への恐怖は関係しません」
突然、両者の頭上から、黒い影が落ちてきた。それは獲物を狩るような眼で、人形焼きらしき者たちへの殺戮と食事を始めた。
今まで声を出すことが無かった他の者たちも叫び声を上げながらその黒い影から逃走を試みていた。しかし、直ぐにその全てが捕らえられ、啄まれていた。
既に仲間の半分が動かなくなり、自身も捕らえられ啄まれてる中、それは強く男に向かって呼びかけた。
「早くっ……私を食べてください! こんな奴らに食われるのは嫌だ! んぐっ……どうか……どうか、私を食べてっ! 私たちが生まれた意味を、壊さないで下さい、私たちの生が無駄だったことにしないでください! ………………ぐあっ」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」