私の地獄
評価: +2+x

ちょうど大体、コンドラキが空飛ぶ火を吐くセイウチを捉えようと、修道女でいっぱいのバスを爆破しようとした時である、アルト・クレフ博士が一番最初に疑念を抱いたのは。我々のあるべき姿じゃない、のではないかと。

サイコーであるべきなんだ、と彼は理解した。そして、今はサイコーだ。爆発とともに火吹き飛行セイウチが地上をあぶり、居合わせた人が火砕性のヒレ足動物から逃げ惑うさまに、アドレナリンが込み上げてくる。スターバックスのカウンターの後ろに飛び込んで、ショット・ガン(フラグ弾装填済み)を発砲し、眺めれば、太った空飛ぶセイウチ(炎は巨大な口ひげから噴出される)が肉と血のシャワーを散らしながら爆発していた。そして、デモイン・シティの死体の山の上で、炎に囲まれながら、彼とコンドラキが拳を突き合わせたのは、確かにサイコーのはずだ。

だが、サイト-19に帰る黒のコンバーチブルに乗って、ブロンドの美女が頭を彼に近づけているのに、アルト・クレフ博士はイヤに後ろから低い声で、囁かれている気がしてならなかった。(まるでローマ人兵士で、征服将軍の横に立っていて、連中も同様に人だったのだ、と言われているみたいだ。)

これじゃない。


ビルの横をラペル降下する。さなか、オフィスの窓は爆破され、彼の周りを包んだ。赤毛の美人を脇に抱える。さなか、ドミトリ・ストレルニコフはリトル・バードヘリコプターから援護射撃をしていた。そのとき、ふっと、クレフ博士は、自分はヒーローでは無いのかもしれない、と理解した。

女の子の表情は、そう言っていた。彼女は怯えていた……そりゃ、そうだろう。それから、彼女の顔は陽気になって、興奮して、愛しあう用意ができた……

……ここ数年、出会った独身女性はみんなそんな感じだった。

どうして、この世界の、ありとあらゆる美しい女性は、彼とベッドを共にしたがるのだろうか?統計学的にはあり得ない話だ。世界一セクシーな男だって、出逢ったあらゆる独身美女とヤるなんて方法はない……クレフはセクシーでもない。

摩天楼スポンテニアス・コンバスター1を破壊した後、彼は赤毛ちゃんとキスをするため前かがみになった。しかしクレフは、自身の裸のくちびると彼女のくちびるの間が、数ミリメートルというところで休止し、後ろにそって、ドアを手振りで示した。

「望むなら、出て行ってもいいんだ。」彼は言った。

女の子は、飛び出すように出て行ったが、彼は驚かなかった。

何が違う。


「クロウ?」

「ああ、クレフ?」

「……あそこでの、民間人への被害はどれほどだったんだ?」

「なにもないよ。我々が入る前に、あの場所の人は退避したんだ。」

「連中は30秒で10街区も避難したのか?」

「当然だ。警察は、とても効率がいいんだ。」

「……6人の警察じゃ、10街区のドアを30秒の内に、叩くことだって無理だぜ。まして、中の全員を退避させるなんて。」

「じゃあ、辺りには誰も居なかったんだろうよ。たぶん、僕らは幸運だったんだよ。」

「民間人への被害がなかったことは確かなのか?」

「もちろん、なんもないよ。何か見つけたとか、したのかい?」

「いや、何も。だが……私は、ただ単に、なにか間違っているような感じがするんだ。」


SCP-076と9回目のソード・ファイトをしている途中で、クレフは問題が何であるか理解した。

人生が……刺激的すぎるんだ。

こんなに人生が刺激的になるわけがない、と彼は理解した。SCP財団のエージェントの人生は興味深いことはあるが……毎日、銃撃戦と生死を賭した戦いをするものだろうか?今まで、世界のために戦っていない日なんて、一日たりともなかった。一日たりとも、文書業務とファイル・レポートだけで過ぎた日はなかった。

彼は研究者であるが、人の頭をバールでぶちのめすほうが、実際に研究している時間よりも長いのだった。

それから、クレフはアベルをグランドキャニオンの崖から蹴り落とした。クレフは、思い出せる限りで、最後に退屈したのは、いつの日だったか思い出すのに、時間がかかった。

……oh.

Oh.

OH.

いよいよ変だぞ……

それから、それが、本当だとしたら……


「……ギアーズ?」

「はい、クレフ?」

「……私は、多分、我々を今度、SCP-953に配備するべきではないと思う。」

「……何故?」

「それは……結局はな。彼女を拘引するのにかかる全部の副次的災害よりも……彼女に肝臓を一個か二個やるほうが、破壊的じゃないだろうよ。」

「あなたは、ギブアップすると言っているのですか?」

「違う!私はただ……おい。これしか手立てはないのか?」

「我々は財団です。We secure.(確保)。We contain.(収容)。We protect.(保護)。あなたがお疲れでしたら、私は代わりにコンドラキを送ることも出来ます。」

「違うってんだ!違う……私がやろう。私は、単に……ちょっと、考える必要があったんだ。」

「必要なら、時間をいくらでもかけてください、ドクター・クレフ。あなたは、十分な仕事をしました。結論、財団は、あなた無しでは崩壊していたことでしょう。」


SCP-953をボーイング747の取入口に放り投げたあと、クレフは遂に、哀哭してしまった。

彼は哀哭した、決して間に合わなかったであろう居合わせてしまった人に。痛みと混乱に、彼はわかっている、彼が引き起こしたのだ、だが看取ってやれなかった。彼は哀哭した、財団に、優美から堕落したことに。彼の友のために、自分が何をやっているのか理解できない彼らに。

彼は哀哭した、アルト・クレフ博士に、己の創りだした地獄に捕らえられたことに。

唾棄すべきは、残りの人生がロクでもないこと。

« | ハブ | »

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。