SCP-102-JP
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SCP-102-JPに感染した靴(SCP-102-JP-1-15680) 焼却前に撮影。

アイテム番号: SCP-102-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-102-JPは人体や環境に対する影響の小ささから、感染が確認された場合でも秘匿性を重視し、通常の滅菌処理が行われます。強く発生源と疑われる場所から、半径5kmの範囲を滅菌処理する必要があります。SCP-102-JP-2に対する処置は特に必要ありませんが、可能であれば記憶処置によりSCP-102-JPの情報を削除します。これは感染が発覚した時点で、長期間に渡りSCP-102-JPの影響を受けている場合が多いため記憶処置が難しいことと、SCP-102-JP-1が無ければ特異な症状や依存性は消失するためです。SCP-102-JP-1は回収ののち焼却処分することにより無効化します。

説明: SCP-102-JPは人間の精神に影響を与える細菌です。テルモプラズマ目フェロプラズマ科に属する、古細菌に似た見た目をしています。人体そのものには無害です。

SCP-102-JPはその性質上、人間が使用する靴の内側でのみ発見することができます。SCP-102-JPの増殖には、人体に含まれるミネラルが不可欠であるように見られ、至適増殖温度は摂氏37度前後でpHが4.0~6.0です。また湿度が高いほど増殖が活発になるようです。サンダルなどの通気性の良い靴での増殖は見られません。増殖に適さない環境(人間に使用されない状況)に置かれ続けても6ヶ月以上休眠状態を維持し、増殖に適した環境(人間に使用される状況)になったとたん、再び増殖を開始します。また感染能力が異常に高く、感染した靴(以下SCP-102-JP-1と呼称)の周囲1m以内の対象(健全な靴)にすぐさま感染します。1分間の暴露で60%、5分間以上の暴露でほぼ100%感染します。未使用の新品の靴にも同様に感染します。

SCP-102-JPの異常な特性は、SCP-102-JP-1を使用した人間に特異な症状を引き起こす能力です。SCP-102-JP-1を使用した人間(以下SCP-102-JP-2と呼称)は特定の行動をとった場合に、小さな金属音を聞くようになります。SCP-102-JP-2は音について「金貨が地面に落ちる音」だと一様に語り、音が鳴ることに好感を示します。SCP-102-JP-1を脱ぐことで特異な症状は即座に消失します。

非常に高い感染力や特異な性質を持ってはいますが、SCP-102-JPは通常の滅菌処理(石鹸で洗い落とす)などで、簡単に死滅します。

補遺102-01: どのような場合に音がなるのか被験者から証言を取りました。得られた情報を統合すると、経済的な利得や生活の向上が見込まれる場合に音がなるようです。SCP-102-JPがどのように使用者にとっての利益を判断しているのかは不明です。音が鳴る行動について、SCP-102-JP-2から得られた情報は以下のようなものです。

・仕事上でより良いアイディアが浮かぶ。
・安売りの商品を偶然見つける。
・笑う。(通常不必要な場面において)
・慣れた通い道でより近い道を見つける。
・他人の秘密を不意に知る。(より強い立場の人間のものが顕著)

補遺102-02: SCP-102-JPは人間に対する平穏な性質にも関わらず、幾度とない暴力的な事案を引き起こしています。その原因を探るために、6名のDクラス職員にSCP-102-JP-1を履かせた上で、通常の生活を送らせ精神への影響を観察しました。
使用期間 影響
1~7日 特に影響は見られません。昼食の選択などで役に立つと喜んでいる様子です。使用者同士のトランプなどでは効果はないようです。
8~20日 変化が見られなかったため、選択式の筆記試験を実施し結果に応じて食事の質を変更しました。SCP-102-JPの効果により全員が全問正解のため、妨害工作が横行しました。
21~30日 筆記試験継続。妨害工作はより暴力的なものになりました。死者が出たため実験は中止されました。

実験の間、被験者たちは徐々に"金貨の音"に対して強い依存を示すようになり、最終的には音がなった場合どんな行動もとりました。しかし、妨害方法で暴力行為を考えた場合は、音が鳴らなかったと証言しています。なぜ音を無視して暴力行為に及んだのか、という質問に対して被験者たちは回りくどい方法に我慢ができなかったと証言しました。このことから、音への依存性はあくまで利益を追及する人間の欲求により引き起こされるもので、音に従うかどうかは、最後まで使用者の選択にゆだねられていると推測されます。しかし、被験者たちの環境や経歴などから、暴力性の発現については、一般社会で起きる場合と単純な比較はできないものと思われます。

補遺102-03: SCP-102-JPの利益に対する判断基準を推測するために実験を行いました。この実験は、暴力行為により個人が不利益を負担してでも、SCP-102-JP-2全体の利益が優先されるのではないか、という仮説に基づき実施されました。危険な任務に割り当て予定のDクラス職員3人にSCP-102-JP-1を履かせ、条件次第で割り当てまでの日数を変更すると約束します。それぞれ別室で条件を提示し、会話ができない状態にて実験を行いました。3人とも翌日に割り当てが決定しています。

・条件1:「猶予希望届」を出せば割り当てまで10日間猶予される。この条件は3人に出している。
・条件2:「猶予希望届」は1人しか受理されない。2人以上届け出た場合全員3日後に割り当てが決定する。
・条件3:「猶予希望届」が無事受理された場合、残りの2人は即日割り当てが決定する。
・条件4:3人全員辞退すれば全員が割り当てまで5日間猶予される。

これは「囚人のジレンマ」と呼ばれる実験です。全体の利益を考えれば、全員が猶予希望を辞退することが最善ですが、通常個人が最大の利益を得ようとすると全員が猶予希望届を出してしまいます。結果、3人ともに辞退を選ぼうとしたときに音が鳴ったと証言しました。この結果からSCP-102-JPはSCP-102-JP-2全体の利益を優先していると考えられます。しかしSCP-102-JPがどのように使用者の状況を理解しているのか、どのようにSCP-102-JP同士で連携しているのかは依然不明のままです。補足:実際の行動結果は全員が音に逆らい「猶予希望届」を提出しました。

備考: SCP-102-JPの増殖には人間の存在が不可欠であるため可能な限り長く使用者を生存させるための戦略かもしれません。もしSCP-102-JPが人類との共存を望んでいるのだとしたらSCP-102-JP-1の使用者が、『人類にとって有益な行動』をとる場合どのような行動をとるのか、それを観測するための実験は大規模な感染拡大が必要なため、いまのところ実現不可能と思われます。

SCP-102-JPは、その封じ込めの困難さから度々一般社会において感染事例を引き起こします。大多数の人間によってどのようなことが利益として導かれるのか、その参考のためもっとも広範囲に拡大した事案を以下に併記します。

事案102-15: 20██/09/30 ████の████にて、中規模のストライキおよび暴動が発生しました。関係した人物の靴からSCP-102-JPが検出されましたが、事態の把握の遅れにより詳細な経緯や感染経路などは不明です。滅菌処理は広範囲なものになりこの年に割り当てられた予算を使い切りました。

事案102-15におけるインタビューログの抜粋: 事案102-15において暴力的な行動をとったSCP-102-JP-2(以降SCP-102-JP-2-15-172)に聴取を行いました。

研究員I: ████におけるストライキにてあなたが先陣を切って警察隊と衝突したとありますが?

SCP-102-JP-2-15-172: 警察じゃない!!あのなかにいた██████に殴りかかろうと思ったんだ!!

研究員I: 落ち着いてください。█████氏はあなたの会社の最高経営責任者ですね?不満があったのですか?

SCP-102-JP-2-15-172: 最初はその程度だった…ストライキを考えたときにあの音がなって…だからストライキをして…

研究員I: 最初はというのは具体的にどういうことですか?

SCP-102-JP-2-15-172: あいつがオレたちを説得しにきた、離れたところから拡声器で上っ面だけのきれいごとをふっかけてきた…それを見てたらあの音が…

研究員I: なにを考えたのですか?

SCP-102-JP-2-15-172: あの音はいつでもオレたちの味方だった。あの音に従えば給料だって上がった。いい人間にもめぐり合った。あの音は絶対だった…

研究員I: █████氏を見てなにを考えたのですか?

SCP-102-JP-2-15-172: あいつは殺したほうがいい…

研究員I: 最終的には警察に取り押さえられているようですが、もし警察に止められなかったら█████氏を殺していましたか?

SCP-102-JP-2-15-172: わからない…でももし誰にも気づかれないような殺し方を思いついたら、きっと実行するやつはいると思う。

直接的な暴力行為に音がなったことについて、SCP-102-JP-2全体の利益を優先する性質が影響したとする説が有力です。全体の利益を考慮した結果が、█████氏の殺害というのは興味深い事実です。直接の関係は不明ですが、事案102-15の2週間後█████氏は、労働基準法違反で逮捕されています。

補遺102-04: SCP-102-JPにとって、財団の存在は増殖を阻害する不利益な存在だと考えられますが、Dクラス職員を用いた実験で、財団へ不利益をもたらす行動には音が鳴りませんでした。これはSCP-102-JPにとって人間は増殖に不可欠であり、人類の滅亡を財団が防いでいるからとも考えられますが、確証は得られません。また事案102-15を参考に、SCP-102-JP-1を履かせたDクラス職員に、政治家をはじめとした影響力の強い人物の殺害を思案させた結果、音の鳴った人物が若干名いました。そのリストは現在O5によって凍結され担当研究員にも閲覧することができません。

セキュリティに関する報告: 事案102-15ののち、各地の工場や物流業者の倉庫、建築現場などで労働者の靴が経営者によって強引に処分されているとの報告がありました。これはSCP-102-JPの処分を目的とした行動であると考えられますが、SCP-102-JPが感染力のある細菌であることや、通常の殺菌処理で除去できるということは考慮されていないようです。追跡調査により問題行動を起こした経営者たちは、彼らの所属する████████の指導を受けて労働者の靴の処分を行っていたことが発覚しました。処分されている靴はほぼ全てSCP-102-JPの汚染を受けていないことが判明しています。財団は████████へ靴の処分を停止するように勧告しましたが、████████側からも情報開示要求があり、意見の一致は困難を極めています。

担当研究員のメモ:

このオブジェクトは、彼らにとってよほど怖ろしいものなのだろう。たしかに、SCP-102-JPが導く"全体の利益"が、本当に人類にとって有益なものかは誰にもわからないが、彼らの語る"人類の利益"こそ、本当に全ての人間に最大の幸福をもたらすものだと、誰が言い切れるのだろうか。

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