アイテム番号: SCP-1028-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-1028-JPはサイト-81██の中型サイズ収容コンテナに収容されます。収容コンテナ内には最低一名のDクラス職員を交代勤務で常駐させるとともに、SCP-1028-JPの半径1m以内に遠隔電子ロック式の武器格納ロッカーを設置し、SCP-1028-JPの総体積の80%を破壊するに足る道具を格納してください。
Dクラス職員がSCP-1028-JPに対する破壊的衝動に囚われた場合、速やかに武器格納ロッカーの電子ロックを解除し、格納された道具によるSCP-1028-JPの破壊を指示します。破壊完了後はDクラス職員を交代させ、武器格納ロッカーの道具を交換してください。新しい道具は過去五回分の破壊に用いたものと同系統、もしくは類似する物品であってはいけません。
説明: SCP-1028-JPは裸体の西ユーラシア人男性を模した大理石製の石像です。二度に渡る破壊検査の結果、SCP-1028-JPは単純な大理石の塊ではなく複雑な内部構造を持つことが確認されました。厚さ0.█~█mmの大理石の表皮の内側に、筋肉、骨格、血管、内臓など、人体の器官を模した大理石製の精巧な石細工が収められています。体液および消化器官の内容物は存在しません。
SCP-1028-JPは総体積の80%以上が破壊された時点でゆるやかな自己修復を開始し、およそ24時間で再構成を完了します。自己修復は、SCP-1028-JPの脳髄に相当する部位から半径50m以内に存在する破片が集合することで行われます。範囲外に飛散した破片や化学反応で変質した構成物質は再利用されずに破棄され、欠損部分は範囲内に出現する粉末状の大理石によって補われます。飛散して破棄された破片や出現した粉末は、科学的に通常の大理石であることが確かめられており、異常性を有しません。修復時に形状が変化する場合がありますが、総体積および総質量は変化せず、また裸体の西ユーラシア人男性の像であるという基本的特徴は常に維持されます。
SCP-1028-JPは特定の条件を満たした破壊的干渉に極めて強い耐性を有します。現時点で確認されている条件は「人間および知性体が直接的に関わらない破壊行為」「過去100時間以内に使用された破壊手段」「SCP-1028-JPの脳髄様構造体に対する破壊的干渉」の三点です。該当する干渉を行ったとしても、損傷を与えられないだけで正常な収容に影響はありません。
SCP-1028-JPは周辺の人間および知性体に「SCP-1028-JPを破壊しなければならない」という衝動を付与する強制力を発揮します。この特性によって発生した重大インシデントについては補遺を参照してください。強制力の及ぶ範囲は時間経過に従って範囲を広げ、初期状態では半径5m、24時間後には半径400mにまで拡大したことが確認されています。拡大の限界値は不明です。この強制力はSCP-1028-JPが自己修復を開始すると一時的に消失します。強制力の喪失中に人為的な破壊が加えられるか、再生完了からある程度の時間が経過することで強制力が再発生し、再び総体積の80%以上が破壊されるまで継続します。強制力が復活するまでの所要時間に法則性は見受けられません。
強制力の影響を受けた人間および知性体は五感に異常を来たします。██秒以上の曝露でSCP-1028-JPの破壊を要求する幻聴が発生し、███秒以上の曝露でSCP-1028-JPの内部構造体を生身の人間の血肉であると認識するようになります。この認識障害は五感全てに及び、口腔内に入った大理石の粉末を血液の味であると知覚した報告も存在します。しかしそれによって破壊行動が抑制されることはなく、興奮状態に陥って更に過激な破壊行為を実行しようとします。破壊衝動および認識異常は強制力の効果範囲から離れるか強制力が消失することで失われますが、記憶はそのまま保持されるため、グロテスクな幻覚の記憶によって異常性を伴わない心的外傷を負う恐れがあります。
収容経緯: SCP-1028-JPは██県██山中の廃屋で発見されました。発見のきっかけは現地の駐在所に「工事用の重機が盗まれた」との通報が入ったことで、駐在所勤務の██巡査が捜査のため山中に赴いたところ、地元不良グループの少年が重機でSCP-1028-JPを廃屋ごと破壊している現場を目撃しました。██巡査は少年を含む二名の生存者を保護し、三名の死者を確認しました。死者および重軽傷者の一覧は以下の通りです。
解説: 八十代女性。死後██日経過。後の調査で、家族の元から失踪した認知症患者の地元女性と判明
死因: 衰弱死
負傷箇所: 両手に無数の裂傷および粉砕骨折。裂傷は大理石の破片による外部のものに加え、砕けた骨による内部からの裂傷も確認された
分析: 破壊衝動のままに攻撃を行うも、非力さから充分な破壊ができず、衰弱死するまで攻撃行動を繰り返したと推測される
解説: 四十代女性。死後██日経過。現場に残されていた登山用の金属製ストック(二本とも完全に破壊)の指紋と一致
死因: 崖からの転落死
負傷箇所: 両手に裂傷および内出血。これら以外の損傷は転落時のものと推定
分析: 金属製ストックを用いて推定██時間を費やして80%以上の破壊に成功するも、疲労困憊の状態で下山を試みたことで、廃屋から██m離れた崖から誤って転落したと推測される
解説: 五十代男性。死後█日経過。渓流釣りの装備を着用
死因: 窒息死
負傷箇所: 両手に無数の裂傷。右親指と左小指、左薬指を除く全ての指の解放骨折。口内から器官、肺にかけて複数の裂傷
分析: 破壊中に両手が使用不能になったため、咬合力による破壊を試みたことで、大量の大理石の破片を誤吸引したと推測される
解説: 十代男性。モデルガンを違法改造した銃の試し射ちのため、██山に侵入
死因: (生存)
負傷箇所: 脳震盪、額の傷からの大量出血
分析: 本人の証言によると、休憩場所とするため山中の廃屋に接近したところ、突如として異様な破壊衝動に襲われた。改造銃の残弾全てをSCP-1028-JPに発砲し、銃身による殴打を加え、興奮のまま頭突きを行ったところ、異様に硬い部位(後の調査で脳髄様構造体と判明)にぶつかり、額から大量に出血した
解説: 十代男性。モデルガンを違法改造した銃の試し射ちのため、██山に侵入
死因: (生存)
負傷箇所: なし
分析: [添付資料のインタビューログを参照のこと]
その後、事件捜査は警視庁公安部特事課に引き継がれ、異常存在の引き起こした事件であると断定。捜査の主軸は該当異常存在の製造および設置に犯罪的な意図が介在しているか否かに移り、オブジェクトそのものはPEJEOPAT(既存日本超常組織平和友好条約)に則って管理所有権が財団に移譲され、捜査上の必要に応じて財団が情報を提供する形になりました。
前書: 以下の記録は警視庁公安部特事課の██捜査官による聞き取りの音声データであり、財団が使用する用語が用いられていない部分があります。
対象: 重機を窃盗した生存者の少年(以下、少年A)
インタビュアー: 警視庁公安部特事課 ██捜査官
<録音開始>
少年A: ちょ、ちょっと待てよ。これって取り調べだよな。確かにショベルカーは無断で借りたけど正当防衛なんだってば!
██捜査官: 安心しろ、ただ話を聞きたいだけだ。どうして正当防衛になると思ったのか、具体的に詳しく聞かせてほしい。
少年A: ええと、██(注釈:もう一人の生存者の少年)が改造したモデルガンを撃ちにいこうって話になって、山ん中でしばらく遊んだ後で、疲れたから休む場所を探したんだ。んで、ちょっと山を登ったところで廃屋が見えたんだけど……。
██捜査官: それから?
少年A: アレが見えた途端におかしくなっちまったんだ。俺も██も。何だかよく分かんねぇけど、とにかくぶっ壊さなきゃって気分になって……大急ぎで廃屋に飛び込んだら妙な石像と死体があって……もう無我夢中で石像をぶっ壊そうとしたんだ。
██捜査官: なるほど、ここまでは██君の証言とも一致している。石像を壊そうとしている間の状況も教えてほしい。
少年A: 最悪だったに決まってんだろ! 頭ん中に「壊せ壊せ」って声が響くし、壊したら壊したで「もっとだ、もっとだ」ってなるし……それでも、腕や脚を砕いてる間はまだよかったんだ……! ██が銃で腹をぶん殴って……うぷっ……!
[編集済。少年Aが嘔吐した音が記録されている]
██捜査官: 落ち着いて。ゆっくり話してくれ。
少年A: ……割れた腹から内臓が飛び出してきたんだよ。生臭くって、生暖かくって……しかも今度は、キマっちまった声で「美しいだろう」だの「もっとよく見てくれ」だの聞こえてくるしよぉ……。
██捜査官: それでも壊すのは止めなかったんだな。
少年A: 止められなかったんだよ。あのときはもっともっと壊さなきゃって気分しかしなかったんだ。
██捜査官: 壊すのが楽しかった?
少年A: ……正直、あのときは。内臓が飛び出たときだって、今は思い出しただけでゲロ吐いちまうけど、あのときはすげー愉快だった気がする。俺はすげー物を見てるんだ!って感じで、心臓がバクバクしっぱなしだったよ。
██捜査官: しかし君は現場を離れて重機を盗んでいる。この理由と、それが正当防衛だと思う理由について説明してくれ。
少年A: すぐに弾がなくなって、銃も殴り過ぎて曲がっちまったんだ。そしたら██の奴、石像に頭突きし始めて血塗れになってさ。俺も負けてらんねぇ、もっと凄いモンでぶっ壊してやるって思って、山に入る前に見かけたショベルカーを使おうと思ったんだ。親父がそういう仕事やってて、操縦させてもらったことがあったからさ……あ、私有地で、だからな? とにかく、そう思って山を降りてる途中でフッと正気に戻ったんだよ。
██捜査官: 破壊衝動がなくなったのか。
少年A: もうアレをぶっ壊したいとは思わなかったけど、██がまだアレを壊そうとしてるってことは分かった。廃屋の死体も、ああやって暴れすぎて死んだんだなって気付いたんだ。それで、徹底的にぶっ壊してやったら██も正気に戻るんじゃないかって思って……。
██捜査官: それでショベルカーを盗んで戻ったと。しかし、近付いたらまた破壊衝動に飲み込まれたんじゃないのか?
少年A: えっと、はい、その通りでした……。途中で元通りになっちまって、気が付いたら廃屋も石像もぐしゃぐしゃで……
██捜査官: 他の方の死体まで踏み荒らさなかったのは不幸中の幸いだな。
少年A: ……ッス。ところで、一つ聞いてもいいっすか?
██捜査官: 何だ?
少年A: 石像の内臓、本物でした……?
██捜査官: 安心しろ、中身も石だったよ。幻聴が聞こえるくらいだったんだから、幻覚だって見えるだろうさ。
<録音終了>
終了報告書: 生存者の少年二名と発見者の██巡査は、調査に必要な情報を聞き出された後で記憶処理を施されました。これに伴い、幻覚による心的外傷も快癒した模様です。
補遺: 収容違反誘発インシデント
収容直後、強制力の発生条件および特性を調査するため、サイト-81██においてDクラス職員を使用した基礎実験が行われました。その時点では効果範囲の拡大が判明しておらず、対象も人間に限られると誤認されていました。このため、同サイトに収容されていた生物学的に人間であるオブジェクトからは充分に距離を取って実験を行いましたが、生物学的に人間でなくKeterクラスでもないオブジェクトには特別の配慮が為されませんでした。
その結果、強制力の範囲拡大によってサイト-81██に収容されていた非人間的かつ知性を有する複数のEuclidクラスオブジェクトが収容違反を起こし、SCP-1028-JPの実験場に殺到。同実体を破壊すると同時に、2名のDクラス職員を巻き添えとして殺害しました。
このインシデントによって、ある程度の知性を有する実体であれば人間でなくとも強制力の影響を受けることが判明しました。