SCP-1092-JP
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SCP-1092-JP

異常形質発現のないSCP-1092-JPの液浸標本

アイテム番号: SCP-1092-JP

オブジェクトクラス: Euclid Safe

特別収容プロトコル: 全てのSCP-1092-JPはサイト-8102の水槽に収容されます。飼育は通常の陸封型ベニザケに準じた方法で行われ、繁殖によって適切な個体数が保たれます。

毎年の産卵期が終わり、SCP-1092-JPの稚魚が生後2ヶ月を迎える時期に、全ての稚魚の遺伝子が検査されます。SCP-1092-JP-(+)と判定された個体は、変異段階ごとにサンプルとして適切な数が標本へと加工され、それ以外の個体は焼却処分されます。SCP-1092-JP-(-)と判定された個体は、別紙の放流プロトコルの規定に従って収容から解放されます。どちらの判定も受けなかった個体は引き続き収容されます。

説明: SCP-1092-JPはベニザケの亜種とされる魚類1であり、収容以前は一般に「クニマス(Onchorhynchus nerka kawamurae)」として広く知られていました。一生を通した基本的な生態は陸封型のベニザケ2と大きな差異はありません。

SCP-1092-JPの重要な特徴として、ほとんどの個体が複数の異常な遺伝子変異を有していることが挙げられます。常染色体の█箇所に存在する遺伝子の変異は、いずれも常染色体劣性3の遺伝形式を示します。これらの遺伝子変異はいずれも本来であれば発生段階で死に至るはずの重篤なものであり、SCP-1092-JPがなぜ正常に発育可能なのかは判明していません4

遺伝子変異の全箇所を同時に保有して誕生したSCP-1092-JP個体(以下、SCP-1092-JP-(+)とする)は、生後6ヶ月が経過した時点で尾側から異常な変異を開始し、10日ほどで全ての体組織がアサ(Cannabis sativa)で作成された棒へと置換されます。当該個体は変異が完了するまでは通常個体と変わらない生命活動を示しますが、変異が完了した時点で死亡します。死体は特殊な油脂に覆われており、pH4.0以下の酸性度の高い溶液に浸されると爆発することが知られています。油脂成分に含まれる高濃度の酸素を含む泡状の構造体が、この爆発反応に関与しているものと見られます。また、高熱による着火を行なった場合は爆発は発生せず、穏やかに長時間の燃焼を行うことが確認されています。

遺伝子変異箇所候補のうち1箇所でも正常遺伝子が混ざっているSCP-1092-JP個体は異常形質を発現することはなく、正常な魚類と全く変わらない一生を送ることが可能です。しかし、SCP-1092-JP同士の交雑が繰り返される限り、SCP-1092-JP-(+)が新たに誕生する可能性が常に存在します。

補遺1: SCP-1092-JPはかつて秋田県の田沢湖に生息する固有種でした。1800年代初頭に蒐集院によってその異常性が確認され、初期収容がなされました。当時の蒐集院はSCP-1092-JP-(+)のみを異常存在だと認識していたため、田沢湖周辺の村落を定期的に監視し、変異途上・変異後のSCP-1092-JP-(+)を発見次第回収して処分していました。一方で、SCP-1092-JP-(+)出現条件を探るため、SCP-1092-JPの飼育も少数ながら行われていました。

また、SCP-1092-JPに関するカバーストーリーとして、「辰子伝説」という伝承が蒐集院によって作成・流布されました。「辰子という女性が田沢湖の水を飲んで龍となり、湖の主となった。辰子の身を案じて悲しむ母が別れの時に投げた木の尻(薪)が、水に入ると魚の姿をとり、それが木の尻鱒(=SCP-1092-JP)となった」という内容です5。この伝承により、蒐集院はSCP-1092-JP-(+)に発生する変異を「先祖返り」だとして田沢湖近隣の住民に理解させ、異常性発現による騒動の発生を抑制していたものと考えられます。

補遺2: 1940年、国営開墾事業と水力発電所開発を表向きの目的とした「玉川河水統制計画」が旧日本軍によって実行され、玉川から田沢湖へと水が引き込まれました。玉川の強酸性の河水の流入によって田沢湖の水質は急激に悪化し、田沢湖に生息していたSCP-1092-JPは絶滅しました。

蒐集院から引き継がれた資料の中にこの「玉川河水統制計画」について言及した文章があります。

 昭和十五年一月八日

計画に反抗する住民の鎮圧には、帝国異常事例調査局の特殊部隊と五行結社の私兵とが加担していた。つい去年までは田沢湖の龍6を巡って争っていたはずなのに、今は敵同士とはとても思えない連携で反対派の住民を排除しにかかって居る。我々は反対派に加勢したものの、軍備に勝る相手側の活動を止めることはできず、押し切られる形で反対派団体の解散を許してしまった。

田沢湖に毒水が流し込まれるのを止めることは終に叶わず、木の尻鱒が全滅してしまうのは最早避けられない。あれは百年以上前から代々受け継がれ、湖から失われてはならないものだったのだが。我々の施設に匿われている生き残りたちを後代に託すしか道は残されていないだろう。

大口上級研儀官

補遺3: 第二次世界大戦後に蒐集院が財団へと吸収された際、蒐集院の施設で飼育されていたSCP-1092-JPも財団に接収されました。

SCP-1092-JPの持つ異常性が遺伝子変異に由来するものだと判明したのは1980年代に入ってからです。1989年に財団遺伝子工学部門によってSCP-1092-JPの全ゲノムが解読され7、SCP-1092-JP-(+)の変異に関与する全ての遺伝子変異の同定が完了しました。これにより、SCP-1092-JP-(+)の個体を変異開始前に判別可能になったため、SCP-1092-JPのオブジェクトクラスがEuclidからSafeへと再分類されました。

補遺4: 金釣博士の提言

全ての遺伝子変異を同時に有したSCP-1092-JPはSCP-1092-JP-(+)となり、遺伝子変異を部分的に有するSCP-1092-JPは交配によって新たなSCP-1092-JP-(+)を含む子孫を産みます。しかしながら、この子孫の中には、SCP-1092-JP-(+)とは正反対の、遺伝子変異を全く持たない個体、SCP-1092-JP-(-)もまた存在します。彼ら同士の交配においては、子孫も全てがSCP-1092-JP-(-)となるため、もはや異常性が発現する危険は存在しないことが確認されています。

SCP-1092-JP-(-)は、異常性を保有していない「正常なクニマス」に過ぎません。その上、彼らは50年前までは数少ないながらも一般社会で確かに見られていた存在です。正常である以上は、もはや我々で管理する必要性に乏しいのではないでしょうか。闇の中に暮らす我々には、正常な存在を光の下に帰す責務があるはずです。

金釣博士の提言を受けて、異常な遺伝子変異を一切保有していないSCP-1092-JP(以下、SCP-1092-JP-(-)とする)の収容を打ち切ることが1993年に決定されました。田沢湖の水質はSCP-1092-JPが生息可能な水準に未だ達していなかったため、放流先には山梨県の本栖湖と西湖が選ばれました。一般社会に対しては「田沢湖における絶滅以前の1935年に卵の放流が行われていた」というカバーストーリーが適用され、合わせて過去の記録改変が行われました。その後、2010年に西湖にてSCP-1092-JP-(-)が一般社会に「再発見」されたことが確認されています。


《以降の文章は近年の研究で新たに判明した内容であり、未確定の情報が含まれています。セキュリティクリアランスレベル2/1092-JP以上を持つ職員によって追記および編集が随時行われています。》





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