SCP-1184
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アイテム番号: SCP-1184

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: 現在、SCP-1184はサイト██のセキュリティロッカーに保管されています。SCP-1184へのアクセスを希望する研究者は、詳細な実験予定表を提出した上でレベル4レベル5のアクセス承認を申請してください。SCP-1184を用いた実験は、最低二名の武装した警備員の監視の下、予定表に厳密に従って実施することが義務付けられています。なお、防音ヘッドギアと外部音声自動録音再生システムを組み合わせた特殊装備がSCP-1184の警備のために開発されており、警備員はこれを装着して監視にあたるため、監視の最中に警備員がSCP-1184の影響を受けてしまう可能性を考慮する必要はありません。実験中に予定表の工程からの逸脱行為が確認された場合、実験担当者は拘留処分または終了処分の対象となります。

説明: SCP-1184は、内側に"Veritas"(ラテン語で「真実」の意)という言葉が彫刻された金の指輪です。デザインは結婚指輪風の簡素なものですが、密度は21.2g/cm3という異常に高い数値を示しています。この密度は地球上に存在するほとんどの物質を上回る1ものであることから、表面の金は鍍金処理されたものであり、内部は別の(恐らくは未知の)物質で構成されていることが窺われますが、破壊検査の実施許可は出ておらず、正確な組成はいまだ不明です。

SCP-1184を着用している人物(以降「発言者」と呼称します)が何かを発言すると、それを聞き取って意味を理解した人物(以降「聴取者」と呼称します)は、発言の内容を真実であると思い込みます。シンプルで理解しやすい発言、例えばDクラス職員に対して「月末に恩赦を与える」と伝えるといったものであれば、聴取者は聞いたことをそのまま信用し、特段の驚きも示しません。対して、「これは普通のボールペンに見えるが、実は原子力空母U.S.S.エンタープライズである」といった明らかに異様で理解しがたい発言は、激しい認知的不協和を引き起こす可能性があります。その種の非現実的な発言に対して聴取者が示す反応は、大別して以下の三通りです。

1) 発言の内容がどれほど信じがたいものであっても、それが事実であると思い込む。このタイプの聴取者は、「これはボールペンではなく空母である」と聞かされればその通りの認識を持つようになり、それが不自然なことであるとは全く考えません。これは現在までの実験で最も多く確認されている反応であり、大半の聴取者は、どれほど非現実的な内容であっても、「真実」に一切の疑問を感じている様子を見せませんでした。

2) 「真実」に説得力を持たせるための論理を作話する。この論理は往々にして非常に複雑なものとなり、空母がボールペンのような外観を有していることを説明するために「縮小光線」や「偽装装置」なる概念を用いて奇想天外なストーリーを創造した聴取者も存在します。

3) 現実を正しく認識できない自分の側に問題があると考える。このタイプの聴取者はごく稀な存在であり、「真実」を受け入れられないことに困惑した結果、自分が幻覚を見ている、またはその他の精神的問題を抱えているという結論に達します。これは「真実」の内容によっては重大なストレスや不安感を生じさせる恐れのある反応であり、結果として実際に聴取者の精神の健康を損なう可能性を含むものです。

誤った認識を植えつけられていることに聴取者が気づいたケースは、これまで一例も確認されていません。「真実」の内容が明らかに誤っているものであったとしても、あるいはSCP-1184の性質について詳細な説明を受けたとしても、聴取者は自分の認識が不自然に改竄されているということを理解できず、「真実」を疑うことなく信じ込みます。この認識改竄効果は非常に強力であり、SCP-1184自身によっても上書きすることは不可能です。たとえ相互に矛盾する二つの「真実」を聞かされた場合であっても、聴取者はどちらかまたは両方が虚偽であるとは決して考えず、両方を「真実」として認識します。このように矛盾する「真実」を信じさせる行為は、通常の認識改竄以上に聴取者の精神に重大な損傷を与える可能性が高いと考えられていますが、定量的な評価はなされていません。

なお、SCP-1184の影響下で聞かされた「真実」を聴取者が疑うことは不可能であるものの、発言の内容が将来的に事実ではなくなる可能性があるということは理解され得ます。例として、実際には開いているドアについて「このドアは閉まっている」と教えられた聴取者は、現在そのドアが閉まっていると思い込むだけであり、今後もずっと開くことがないと思い込むわけではありません。この場合、聴取者は開いている(聴取者自身は閉まっていると思っている)ドアの前に進み、ドアを開けるような仕草をしてからドアをくぐり、以降はそのドアに正常に対応することができるようになります。

以上のようなSCP-1184の効果は、発言に用いられる言語を発言者と聴取者の両方が理解しており、かつ発言者の肉声を聴取者が直接聞いた場合でなければ発揮されることはありません。以下のようなケースでは、認識改竄の発生は確認されませんでした。

  • ある言語を解さない発言者が、当該言語のネイティブスピーカーである聴取者に対して、当該言語のフレーズを(意味を理解しないまま)読み上げて聞かせる。
  • ある手話を解する発言者が、聴覚を失っているが当該手話を解することができる聴取者に対して、当該手話でメッセージを伝える。
  • 聴覚を失っている聴取者が、読唇術によって発言者の話している内容を読み取る。
  • 発言者の直接的な肉声ではなく、電子的手段によって再生された声(録音・リアルタイム問わず)を聴取者が聞く。

また、SCP-1184は聴取者だけではなく発言者にも同様に影響を与え、発言の内容を信じ込ませる性質を持っています。このため、SCP-1184を有効活用することは容易ではありません。聴覚を失っている発言者がSCP-1184の影響を受けたケースがあることから、聴取者の場合とは異なり、発言者は自身の発言内容を聞き取る必要はないようです。

SCP-1184を直接的な方法で使用し、かつその影響を免れる手段はいまだ発見されていません。現在の規定では、SCP-1184を用いた実験は必ず以下の手続に従って実施するよう定められています。

実験手続1184-Σ
1) 被験者をSCP-1184用実験室の内部に隔離する。
2) SCP-1184を所持した(この段階ではまだ着用はしないこと)実験担当者が、実験室に入室する。
3) 実験担当者がSCP-1184を着用し、以下の言葉を正確に発言する。
「私が別途指示した場合を除き、あなたは決して自発的に何らかの行為を行ったり、何らかの発言をしたりしてはならない。特に、私からの指示がない限りは、私が今身につけている指輪に決して触れてはならない」
4) 実験担当者がSCP-1184を指から外して室内のテーブルに置き、実験室から退出する。
5) 事前に録音しておいたメッセージ(実験担当者自身の声で録音すること。以降の手順においても同様とする)によって、被験者に指輪の着用を命じる。
6) 録音メッセージによって、続く言葉を正確に復唱するよう被験者に命じる。さらに録音メッセージによって、被験者に発言させたい言葉(明瞭かつゆっくりとした発音で録音すること)を伝える。
7) 録音メッセージによって、指輪を外してテーブルの上に置いてからテーブルのそばを離れるよう、被験者に命じる。
8) 実験担当者が実験室に入室し、SCP-1184を回収する。
9) 実験担当者が実験室から退出し、インターカムを用いて、普通に発言および行動することを許可すると被験者に伝える。

この手続に適切に従うことで、財団職員がSCP-1184の影響を被ることなく、被験者に様々な認識を植え付けることが可能です。実験にあたっては、定められた手順から逸脱することのないよう細心の注意を払ってください。手続が遵守されなかったために人命の損失やセキュリティ事故の発生につながった事例が、過去複数件存在しています。これについて特筆すべき事項は以下の通りです。

  • 手順2における「自発的に」という文言は、「何らかの行為を行ったり、何らかの発言をしたりしてはならない」と命令された被験者が呼吸さえも行わなくなったことを受け、後から追加されたものです。
  • 当初は録音ではなく口頭による指示が行われていましたが、実験担当者が発言すべき内容を言い間違えるという事例が複数発生したため、以降は事前に録音したメッセージを再生する形が取られることになりました。なお、言い間違いによって生じた問題は概ね軽微なものでしたが、これまでの最悪のケースでは[データ削除済]。
  • 最初に実験担当者が行う指示だけは、SCP-1184の認識改竄効果を発生させる必要上、録音を利用することができません。そのため、言い間違いが起こりにくいよう簡潔な内容に留められています。
  • 実験手続に正確に従っていても、SCP-1184を着用中の被験者が録音されたメッセージの意味を誤解したり、復唱の際に言い間違えたりする可能性は排除できません。そうした非常事態への対処のため、SCP-1184用の実験室には、気密式ドア・独立型換気システム・青酸ガス発生装置が備えられています。
  • インシデント1184-7においては、当時SCP-1184の研究主任であったDr. ██████が故意に実験手続を無視してDクラス職員に[データ削除済]を命じ、さらに周囲の人物にも次々と命令を行って自己の計画のために利用しようと試みました。脱走の過程でDr. ██████がSCP-1184を着用して行った発言は、内容が判明しているだけで47件に及び、これに加えて内容が不明な(監視システムの記録からは判別できなかった)発言が少なくとも██件あったことも確認されています。職務上、Dr. ██████はSCP-1184の実験手続を熟知しており、自分が誤まった認識を植え付けられることのないよう慎重に言葉を選んで発言していましたが、施設外への脱出に成功した直後に不注意に行った[データ削除済]という発言を自ら信じ込んでしまい、無力化したDr. ██████は身柄を確保された後に終了処分を受けました。最後の発言は監視システムに録音されておらず、その正確な内容は判明していませんが、Dr. ██████はサイト全体が緊急閉鎖されたことに気づいて[データ削除済]という趣旨の発言を行ったのであろう、という見方が有力です。

インシデント1184-7によってSCP-1184の影響を受けた財団職員は、入念な心理検査と監視システムの記録の精査を経て、多くが職務に復帰しました。また、同時にSCP-1184の影響を受けたDクラス職員は[編集済]。現在のSCP-1184の取扱方において、レベル5のアクセス承認や武装した警備員による実験の監視が求められているのは、インシデント1184-7の発生を受けて収容プロトコルが改定されたことによるものです。

歴史: SCP-1184が回収された場所は、████████████、██の精神病院です。当地で異常な出来事が起こっているとの報告を受けて財団が派遣した調査チームは、病院内で「██████の王」を自称する身元不明の入院患者を発見しました。この患者はSCP-1184を身につけ、医師やナース、さらには他の患者たちを召使いのように従えており、調査チームのメンバーも即座にこの患者を「██████の王」として認識するに至りました。衣服のネームプレート、病室に掲示された患者名、病院に残されていた医療記録のいずれにおいても、この患者は「██████の王」とのみ称されていたため、本名を初めとする身元に繋がる情報は一切不明です。その後、防音用ヘッドギアを装着したバックアップチームによって病院内の全関係者の制圧が行われ、「██████の王」が指にはめていた金の指輪が異常事態の原因であることが判明しました。SCP-1184を濫用した結果、「██████の王」は自身の経歴や居場所さえも正確に把握できなくなっており、尋問によってSCP-1184に関する有用な情報を引き出すことはできていません。

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