SCP-1227-JP
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アイテム番号: SCP-1227-JP

オブジェクトクラス: Euclid Neutralized

特別収容プロトコル: 現在、SCP-1227-JPは無力化されたと推測されます。異常性の再発の可能性を考慮し、北緯36度東経142度地点に設置されたサイト-81██を拠点に、一か月に一度日本海溝の潜水調査を行ってください。カバーストーリー「沈み込み帯の定点調査」を適用し、外部の潜水艦の接近を阻止してください。当該海域の水深6000m以深の潜水調査は保留されています。

説明: SCP-1227-JPは日本海溝の水深約6000m以深で発生する空間異常現象です。発生する座標は固定されていませんが、過去の例ではいずれも北緯36度東経142度地点を中心に日本海溝に沿って約█kmの範囲で偏在しています。

SCP-1227-JP発生時には、発生領域に存在する物体(以下、対象)が異空間の海域へ転移します。過去の調査では水中音波通信が全て途絶しているため転移先の座標は不明ですが、転移先が水深200m以浅であること、海底地形が日本海溝のものと一致しないことが確認されています。転移先(以下、SCP-1227-JP-1)は後述の観測データに基づき、平行世界の地球としての解釈が有力視されています。

SCP-1227-JP-1には最大で全長約2mに達する海洋生物(以下、SCP-1227-JP-2)が生息しています。SCP-1227-JP-2は鰭脚類や伝承上の人魚に類似する概形を示しますが、全身が紫色の触手で構成されており、身体構造は既知の動物界の門1と一致しません。SCP-1227-JP-2は視覚を持たない一方で触覚が発達していると推測されます。触手の先端には感覚器官としての機能が推測される繊毛が生えています。SCP-1227-JP-2は繊毛により水流や岩石との接触を感知して行動するほか、音声あるいは視覚言語でなく触手による接触型コミュニケーションを行います。

SCP-1227-JP-2の幼体と推測される小型個体は一般に強い好奇心を有します。特に潜水艦のエンジン付近に密集する傾向にあり、艦との接触後も長時間に亘って外壁に付着して運動を継続し、艦の推進を認識すると艦に対して何らかの意思疎通を図る様子が見られます。成体と推測される大型個体は小型個体に気付くとすぐに壁面から小型個体を引き剝がして保護し、艦に対して攻撃的な行動を取ると共に逃亡する傾向にあります。SCP-1227-JP-2の力は一般的な成人男性以下と推定されており、艦がSCP-1227-JP-2による損傷を受けた事例はありません。

SCP-1227-JP-2は藻類様物体や海綿様物体を常食しており、主に沖合での採集や養殖により供給を行っています。SCP-1227-JP-2は社会構造を持ち、主に大型個体が分業を行ってコミュニティを維持していると推測されます。採集および養殖においては一部の小型個体が大型個体に同行し、残りの小型個体は戯れるように動き回る様子が確認されています。個体発生段階の他に雌雄や居住地域に基づく分業が行われている可能性もありますが、各個体の識別が困難であるため実態は不明です。

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極浅海域に広がるSCP-1227-JP-2の集落の空中写真

SCP-1227-JP-2は大陸棚を中心に原始的な集落を形成しています。集落には天然に形成された海中洞窟群が利用されているほか、円や楕円を基本形に岩石や堆積物を積み上げて形成した構造物が確認されています。SCP-1227-JP-2は後者をなぞるように移動して生活を送っており、集落は触覚に頼るSCP-1227-JP-2の生態を反映しています。集落には人間社会における田畑・保育所・病院に相当すると推測される原始的な設備が確認され、数万~数十万体のSCP-1227-JP-2が生息していると推測されます。陸上に構築された構造物も存在しますが、SCP-1227-JP-2が上陸して利用する様子は確認されていません。

SCP-1227-JPは発生から10~180分で終息し、対象は転移前の座標に復帰します。途絶していた測位システムはこの段階で回復します。なお、SCP-1227-JP終息時にSCP-1227-JP-2が対象に付着していた場合も、SCP-1227-JP-2が対象と共に基底世界に転移することはありません。

発見経緯: SCP-1227-JPはSCP-████-JPの調査のため日本海溝の潜水探査を行っていたエージェント・寺澤により、1987年1月25日に発見されました。エージェント・寺澤は、水深約6700mを示していた水深計が突如水深約170mを示したこと、目視により海中の様子を確認できるほど光量が急激に増大したことを報告しました。エージェントの証言と、約20分に亘って測位システムと音声通信が遮断されたことを考慮し、財団は翌日に本事象の再調査を実施しました。

再調査の結果、同様の事象が再確認され、さらに転移先で大型海洋生物が発見されたため、財団は本事象をSCP-1227-JPに指定し、サイト-81██を設置しました。当該の海洋生物はSCP-1227-JP-2に指定されました。

観測ログの抜粋: SCP-1227-JP-1の基本的な調査は1987年中に完了しています。以下に観測ログを抜粋します(完全な情報はこちらを参照ください)。
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記録者: エージェント・寺澤

日付: 1987/01/26

転移時間: 約35分

観測内容: 緑藻類や海綿に似た原始的な生物と、それを摂食する触手の生えた大型動物を観測。魚類・甲殻類・頭足類あるいはそれらに類似する生物は確認されなかった。大型動物を追跡中に転移イベントは終了した。

備考: 大型動物はSCP-1227-JP-2に指定。ここが我々の知る地球であるかは現時点で判断できないが、少なくともハビタブルゾーン2内に位置する惑星であることは確かだろう。

記録者: エージェント・寺澤

日付: 1987/04/26

転移時間: 約112分

観測内容: 発見したSCP-1227-JP-2個体を追跡しコロニーを発見した。日本における縄文~弥生時代相応、分野によってはより派生的な社会を構築していると推測される。また、SCP-1227-JP-2は触手が生えているのではなく、全身が先端に繊毛の生えた触手で形成されていることが判明した。また、脊椎動物・節足動物・軟体動物に加え、刺胞動物も確認されなかった。陸上の望遠観察では生物の痕跡は確認されなかった。

コメント: SCP-1227-JP-2は知的生命体あるいはそれに準ずる種であることが強く示唆される。一方で、我々の世界では原始的とされる刺胞動物が一匹も確認されなかった点は興味深い。

記録者: 外原研究員

日付: 1987/05/31

転移時間: 約16分

観測内容: SCP-1227-JP-1の海底岩石・海水・大気のサンプルを採取。岩石は砂質泥岩であった。

分析結果: 採取された岩石の成分は苦鉄質であり、火成岩が地上で風化・侵食の作用を受けて堆積したことが示唆される。海水は溶存酸素に乏しく、SCP-1227-JP-2が地球上のものと同じ好気性生物であれば生存できない環境であることが判明した。大気中の酸素分圧も█.0hPaと希薄であることが確かめられた。

コメント: 我々の知る地球もとい天体と同様の地質学的作用が成立していることが示唆される。しかし、海水と大気の酸素濃度は現代の地球から逸脱している。動物が存在しないという報告があったが、このような環境であるならば当然であり、むしろSCP-1227-JP-2の存在が不可解である。

記録者: エージェント・寺澤

日付: 1987/06/28

転移時間: 約69分

観測内容: 振り子を持ち込んで重力加速度の測定実験を行った。20回の試行の算術平均を取ると、慣性モーメントの影響を加味した場合の重力加速度を下回ったものの、その差は誤差の範囲内であった。

コメント: 転移時に体重の変化が感じられなかったため予想はできていたが、それを上回る水準で重力が地球と等しいことが分かる。極めて地球に似た惑星に違いない。

記録者: エージェント・寺澤

日付: 1987/08/30

転移時間: 約78分

観測内容: SCP-1227-JP-2のコロニーを調査。基底世界の時刻に反し、SCP-1227-JP-1は夜間であったため、サーチライトの照射による観測が行われた。SCP-1227-JP-2は睡眠状態にあり、長時間の照射を行っても反応を示さなかった。

コメント: これまでの観察も合わせ、SCP-1227-JP-2は視覚を有さないと思われる。おそらく体表の繊毛が感覚器官として働いていて、スクリューに対する忌避行動を見せたように、触覚により外界を知覚しているのだろう。また、我々の世界が昼であろうと夜であろうと、SCP-1227-JP-1とは無関係らしい。

記録者: 外原研究員

日付: 1987/10/25

転移時間: 約43分

観測内容: 夜間であったため艦外スコープを用いて天体観測を実施。月に酷似する衛星が確認された。基底世界に帰還した後の照合の結果、撮影した夜空は地球上のどの座標から観測した空とも一致しなかった。また、衛星上の衝突クレーターの分布は月面のクレーターの分布と大きく異なるほか、衛星の直径は月を上回った。

コメント: SCP-1227-JP-1は地球によく類似する惑星であるが、宇宙の構成は異なることが示唆された。SCP-1227-JP-1は異世界あるいは平行世界の地球型惑星と思われる。目に見えて異常な事物がSCP-1227-JP-2くらいしか確認されないことから、物理法則の通用しない異世界と言うよりも、基底世界と共通する物理定数で成り立つ平行世界の線が濃厚か。

記録者: 外原研究員

日付: 1987/12/27

転移時間: 約33分

観測内容: SCP-1227-JP-1の太陽に相当する恒星のスペクトル測定。K型主系列星を示唆するスペクトルが得られた。なお、紫外線量が地球で観測される太陽光よりも多いことも示された。

コメント: 恒星自体も我々の知る太陽と異なるようである。SCP-1227-JP-1はやはり基底世界には存在しないだろう。

追記1: エージェント・寺澤がSCP-1227-JP-1の解釈に関して疑義を呈しました。審議の結論に基づき、CK-クラス:再構築シナリオの可能性を考慮した特別収容プロトコルへ改訂される場合があります。以下の理由に基づき、外原上席研究員によりエージェント・寺澤の提言は却下されました。現状の特別収容プロトコルが維持されます。

  • 多細胞生物であると考えられるSCP-1227-JP-2が低酸素環境下において生存できる至近的な理由を説明できない。
  • 基底世界における化石証拠の欠如。

追記2: エージェント・寺澤による1998年4月11日の調査報告では、SCP-1227-JP-2の個体数が単調な減少過程にあること、陸上に存在するSCP-1227-JP-2の巣らしき構造物が過去の調査時よりも増加していることが報告されました。また、過去に観測されなかった陸上での積雪が確認されたことを受け、海面水温が調査項目に加えられました。以下にその後の観測ログを抜粋します。詳細は別途報告を参照ください。

記録者: エージェント・寺澤

日付: 1998/05/15

転移時間: 約152分

観測内容: 海面水温は10℃。積雪範囲と厚さから積雪量も増大していることが見て取れる。

記録者: エージェント・寺澤

日付: 1999/07/17

転移時間: 約54分

観測内容: 海面水温は6.7℃。地表を覆う積雪は発達過程にある氷河の可能性がある。エンジンに接近する大型個体の姿が確認された。藻類様物体と海綿様物体も減少傾向にある。

記録者: エージェント・寺澤

日付: 2001/06/26

転移時間: 約88分

観測内容: 海面水温は3.4℃。海面上に露出した構造物の領域が拡大しており、海水面の低下が示唆される。SCP-1227-JP-2の大型個体が10個体以上集まり、互いに触手を激しく絡ませ合う様子が確認された。

記録者: エージェント・寺澤

日付: 2005/04/10

転移時間: 約88分

観測内容: 海面水温は0.2℃。一部の構造物が海面上に完全に露出。2005年4月時点で陸上であった領域は既に氷雪に覆われている。構造物は天然のものを除いて崩壊したものが多く見られる。SCP-1227-JP-2個体の多くはより沖合へ移動していることが判明した。

記録者: エージェント・寺澤

日付: 2007/09/25

転移時間: 約38分

観測内容: 海面水温は-1.8℃。全ての構造物が海面上に露出し、より陸側の構造物は氷に覆われている。海面は一部凍結し、陸上には氷床が発達している。一体のSCP-1227-JP-2の小型個体が潜水艦に接近して外壁に付着し、小刻みに身体を振動させ、下側へ押すような動作を見せた。今回の調査以降、SCP-1227-JP-2は確認できていない。

記録者: 寺澤研究員

日付: 2010/05/08

転移時間: 約11分

観測内容: 潜水艦の転移位置の直上が氷に覆われていたため浮上を断念。表層水温は-2.0℃を記録した。海綿様物体は認められず、確認された藻類様物体は全て枯死している。

記録者: 寺澤研究員

日付: 2010/11/14

転移時間: 約149分

観測内容: 転移と同時に海氷との接触事故が発生。潜水艦の機器の一部に生じた障害により水温測定に失敗したものの、人員に損害はなかった。氷は大陸棚底を閉じ込めるように厚く卓越し、海中はサーチライトを照射しなければ視界を確保できない暗さになっている。目視で確認できるサイズの生物は見られず、微生物も極度の低温と日光の遮蔽により極限環境生物を除いて根絶状態にあると推測される。

2010年12月25日の調査ではSCP-1227-JPの発生は確認されませんでした。これ以降SCP-1227-JPは確認されておらず、オブジェクトクラスは従来のEuclidからNeutralizedへ変更され、特別収容プロトコルが改訂されました。

追記3: 古環境復元および天体シミュレーションを中心とした寺澤研究員の研究が査読付き論文 "Existence Possibilities of the Unknown Lineage of Multicellular Organisms on Cryogenian Stage, Upper Proterozoic Erathem"(和訳「上部原生界クライオジェニアン系3における未知の多細胞生物系統の存在可能性」)として、2012年2月18日付で財団内にて公開されました。本論文の内容を考慮して特別収容プロトコルが改訂されました。

追記4: 現在、寺澤研究員はSCP-1227-JP-2の生痕・印象化石採集を主目的とするナミビア共和国での第三次発掘調査の参加者を募集しています。調査期間は2022年9月(日程の詳細は未定)が予定されています。参加希望の方は同年4月末までに寺澤研究員へご連絡ください。

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