対象: SCP-1241-JP-1
インタビュアー: 藪研究員
付記: 本インタビューはSCP-1241-JPから実験記録1241-43,44に関する情報を得る目的で行われた。円滑なインタビューを行うため、藪研究員はSCP-1241-JP-1を本名である██と呼称することが認められている。
<記録開始>
藪研究員: それではインタビューを開始します。██さん、よろしくお願いいたします。
SCP-1241-JP-1: えぇ、はい、いつもお世話になっております。
藪研究員: さて、先ほどの実験についてですが……
SCP-1241-JP-1: [遮って]あぁ、いや本当に申し訳ないです。年甲斐もなくはしゃいでしまいまして……。
藪研究員: いえ、問題ありませんよ。しかし何故、今回は自ら追加の実験を希望したのでしょうか。
SCP-1241-JP-1: いやね、そうめんが他の……えー……"うどん群"でしたっけ?に比べてそんなに抵抗しない方だったというのは先生たちもご存じだと思うんですけども。
藪研究員: はい。
SCP-1241-JP-1: 今回のそうめんの箸のかわし方がなんというか、水の流れありきというか、水の流れに逆らわないような動きだったんです。例えば水の流れに逆らって上に逃げたり、樋の外に出たりはしなかった。だから逆に水の流れを利用してやれば、その勢いから逃げられないんじゃないかと思ったんです。
藪研究員: それで追加の実験の希望を。
SCP-1241-JP-1: えぇ、まさか向こうも下で待ち構えているとは思っていないでしょうから。水の流れに乗って気が付いたら私の口の目の前というわけです。まぁそれでも一筋縄ではいきませんでしたが。
藪研究員: ですが、結果的に摂食に成功したと。
SCP-1241-JP-1: えぇ、えぇ……。[微笑む]まぁそれでもほんの少しだけで、まだ完全に、とはいきませんでしたけれども……。人生40余年にして、ようやく何かを掴めた気がします。
藪研究員: 他の"うどん群"についてはどうでしょうか?
SCP-1241-JP-1: うーん……難しいですね、どれも一筋縄じゃあいかない奴らばかりですから。次に可能性があるとすれば……うーん、冷麺辺りでしょうか?でもやっぱり一番難しいのはうどんじゃないでしょうかねぇ、あの野郎は別格ですよ。
藪研究員: 次回の実験時の参考にさせていただきます。しかし、何故うどんだけ別格だと思うのでしょうか。
SCP-1241-JP-1: あれがね、全ての始まりなんですよ。
藪研究員: と、いうと?
SCP-1241-JP-1: ここに来た時に私の生まれについてはお話ししたと思うんですけども。
藪研究員: 父親もうどん屋の店主だったそうですね。
SCP-1241-JP-1: えぇ。それで、父の職が職なもんですから、家庭にもうどんが出てくることが多かったわけです。最初のうちはそりゃあうまいうまいと食ってたもんですが、まぁ当然と言うべきか途中から飽き飽きしましてね、中学に入ってから大学卒業まではもううどんなんて見たくもなかったんですよ。
藪研究員: 続けてください。
SCP-1241-JP-1: それでまぁ……仕事をするようになってから2、3年経ってからですかね、ふと昔食べたうどんのことを思い出しまして。ホラ、思い出すと無性にそれが食べたくなることってあるじゃないですか。それで久々にうどんを食べようと思ったわけです。それでいざ食べるぞっ!て時にうどんが暴れだしまして。
藪研究員: SCP-1241-JPが発生したと。
SCP-1241-JP-1: えぇ。最初はそりゃもうおったまげましたよ。なにせ食べようとしたらうどんが動いて、しかも自分から逃げていくってんですから。……まぁ最初こそビックリしましたけども、だんだん欲求不満になりましてね。だって食べたいと思ったものが食べようと思っても食べられないんですから。
藪研究員: はぁ。
SCP-1241-JP-1: それで辛抱たまらず実家に戻って、父に事の顛末を話したわけです。最初こそ信じませんでしたけども、実際に目の前で食べようとして見せたらまぁ……嫌でも信じざるを得ないわけでして、お前うどんに嫌われてるんじゃないかって神妙な面持ちで言われましたよ。ですが私もどうしてもうどんを諦められないもんですから、もういっそのこと作る側になってみようと。幸いうどん作りに必要な環境は一通り揃っていましたから。
藪研究員: しかし食べられないものを具体的にどうやって?
SCP-1241-JP-1: そりゃあもう積み重ねですよ。幸いつゆだけなら飲めるもんですから自分で飲んでは改良したり、麺の打ち方や感触を手に叩き込んだり、それで完成したら父に食べてもらってアドバイスを貰ったり。それを繰り返しているうちに気が付いたらここまで来ていたわけです。
藪研究員: なるほど。しかし何故そこまでうどんに固執するのでしょうか?
SCP-1241-JP-1: えーっと、さっき父に「うどんに嫌われてるんじゃないか」と言われたって話をしたじゃないですか、でも私はそうは思わないんですよ。
藪研究員: というと?
SCP-1241-JP-1: だって本当に嫌いだったら、そもそも私がうどんを作ることができているのがおかしいんです。それこそ材料の時からでも、私が見たり触ろうとした瞬間にすぐ逃げればいいじゃないですか。でもそれをしないってことは……なんというか、小学生が好きな子をいじめるアレに近いと思うんですよ。構って欲しいんだけども素直になれなくて……みたいな。そう考えるとなんだか可愛く思えてきて。
藪研究員: はぁ、そういうものですか。
SCP-1241-JP-1: それに……もう1度うどんを食べたいと思っているのは当然なんですけども、それと同時にいつか本当に食べられる時が来たら……そう考えると怖いとも思うんです。
藪研究員: 何故でしょうか。
SCP-1241-JP-1: 正確には、もし食べた時に満足できなかったら……と思うと怖いんです。だって、たぶん、私がうどんを食べることができたら……そこで終わりなんですよ。人生を賭けた目標が達成されるわけです。その時に「あ、こんなものなのか……」って思ってしまったら、それまでの自分の人生を否定することになるじゃないですか。
藪研究員: ……そうかもしれませんね。
SCP-1241-JP-1: だから、これは私の都合のいい妄想かもしれないですけど……うどん達は私が食べようとする度に必死に抵抗してくれているんじゃないかって思うんです。「お前が満足できるうどんはこんなものじゃない」、「まだまだおいしく作れるはずだ」と。だから私はその期待に応えるために最高のうどんを追い求め続けるんです。もしもう一度食べることが叶うなら、それを最高の一口にするために。
<記録終了>