SCP-1251-JP
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ナガスクジラ(Balaenoptera physalus)の骨格に固着するSCP-1251-JP群。胴体とその先端の冠部が揺れる様子を確認できる。

アイテム番号: SCP-1251-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: 回収の費用と既存の海洋生態系への悪影響、ならびに現代におけるSCP-1251-JPによる影響が限定されていることを鑑み、財団施設への全個体の無条件かつ画一的収容は実施されません。

抽出された海水より検出されたSCP-1251-JPは幼生段階を維持したまま10m×10m×10mの水槽に収容されます。水槽中には生存に必要な栄養分が投与されますが、脊椎動物あるいはその遺骸の投与は認められていません。SCP-1251-JPが成体に成長した場合、筋弛緩剤の水中投与を実行してください。活動の程度に応じて終了が許可されます。

ヨーロッパ・北アフリカの漁港・海水浴場等の臨海施設には財団が指定する方法による水質調査を義務付け、各国政府機関を通して1日2回の実施と結果の提出を求めてください。結果に応じ、施設の行動指針レベルが適宜変更されます。

説明: SCP-1251-JPは環形動物門多毛綱に分類される動物の1種です。SCP-1251-JPの形態形質・分子データは、現在の海底における大型脊椎動物の遺骸周辺の特異的生態系たる鯨骨群集を構成するホネクイハナムシ属(Osedax)のものと一致しており、同属に属する未定種(Osedax sp.)として同定されています。ただし、同属内の種間の類縁関係は不明です。SCP-1251-JPの分布はヨーロッパ地中海および北大西洋東部海域のみに確認されています。SCP-1251-JPはホネクイハナムシ属の中では比較的浅海域に生息しており、本稿執筆次点で確認されている生息水深の下限は水深約200mです。SCP-1251-JPは極浅海域でも報告されることがあり、最浅生息水深が約21mとされる非異常の種と比べ浅海環境への適応が強く示唆されます。

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SCP-1251-JP。根状器官(右下)・胴体(中央)・冠部(左上)で構成される。

SCP-1251-JPは同属他種と同様にジェネラリストとして骨を分解しますが、骨格に限らず脊椎動物の体と接触した時点で固着する点で生態を異とします。生物体の非骨性構造に固着したSCP-1251-JPは未知の原理により直径10mm前後の孔を開け、█.█cm/sという高速で軟組織を掘り進み内骨格に到達します。このため、SCP-1251-JPに攻撃された脊椎動物は極めて短時間で致命的な穿孔を負い、一般的に死に至ります。死亡した脊椎動物の軟体部は非異常のサメや甲殻類などの動物食性動物、骨格はSCP-1251-JPを含む従属栄養生物群により分解されます。このため、堆積から約1年が経過すると、非異常の死因による遺骸との区別は困難と考えられています。

かつてテチス海に生息したSCP-1251-JPの祖先種は、約3,400万年前ごろからアフロユーラシア大陸の成立に伴ってテチス海が孤立するにつれ、後の地中海に隔離されたと考えられます。SCP-1251-JPは地中海を経由して北大西洋に分布を拡大した後、約600万年前に発生したメッシニアン塩分危機の後、ジブラルタル海峡を経由して回復後の地中海に再進出したと推測されます。ヨーロッパ南部およびアフリカ北部周辺地域の新第三紀中新世から第四紀完新世にかけての堆積層からは、巨視的な生物侵食を受けたウシ(Bos taurus)など陸上哺乳類の化石あるいは非化石骨格が産出しています。これらの骨格は、死亡した陸上哺乳類が河川水により地中海へ運搬され、当時のSCP-1251-JPあるいは非異常のホネクイハナムシ属による生物浸食を受けたものと推測されます。

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産出した霊長類化石。前頭部が当時の海底に埋没していたため、海水に晒されていた後頭部がOsedax様生物による生物侵食を受けている。

収集された骨格において特筆すべき点として、生物侵食を受けた類人猿の化石断片が多産する点が挙げられます。産出した当該骨格の解剖学的特徴はプロコンスル属(Proconsul)との類似性を示します。プロコンスルに代表される基盤的ヒト上科の哺乳類は約3,000万年前に出現したと推測されており、他の動物種への生物侵食が新第三系中新統とその上部層で確認されることと整合的です。当該の霊長類化石の産出量は、当時の陸上生態系における推定個体数から導かれる予測を上回ります。ヒト上科に属する霊長類化石が海成層から多産することから、従来想定されていたよりも化石類人猿と水圏との強い関連が示唆されています。

なお、ヨーロッパ地中海における海棲動物骨格群集数は他の海域を上回る一方、SCP-1251-JPの個体数から予測される数を下回ります。当該の事実から、現在地中海に生息する海棲動物は進化の過程でSCP-1251-JPに対する生体防御機構を確立し、SCP-1251-JPによる生体への固着・侵入を阻害していると推測されました。調査の結果、SCP-1251-JP出現以降の地中海動物群は、チチュウカイモンクアザラシ(Monachus monachus)に認められるMHC領域の遺伝子変異をはじめとする免疫系などの進化や、ハワイモンクアザラシ(Neomonachus schauinslandi)に代表される生息域・生息環境の移動といった過程を経て、SCP-1251-JPによる影響を軽減・回避していると考えられます。

発見経緯: 201█年██月、地中海████島沖にてボートの海難事故が発生しました。事故自体の原因は過積載・エンジントラブルなどSCP-1251-JPと関連しない非異常のものでしたが、ボートより転落した███名の水死体には複数の重篤な穿孔が確認されました。このことから、当時の寒波により表層水が冷却され海水の成層構造が弱化したため、水面まで浮上したSCP-1251-JPが事故に乗じて大規模な狩猟行動を行ったことが示唆されます。鑑識課による当該の調査記録は財団による検閲を受け、その後の調査によりSCP-1251-JPの生息が確認されました。

同事故の生還者らは、事故発生時において強い恐怖心を抱いたがゆえに犠牲者の救出を行えなかった旨を供述しています。また生還者の約9█%は水辺や水塊に対する心的外傷が確認されています。これらの反応がSCP-1251-JPの未知の異常性によるものか非異常のものであるかは不明です。



追記: イヴ・オーブリー研究員により、SCP-1251-JPに関連する以下の紀要論文が財団データベース上で公開されました。

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