SCP-1327-JP
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SCP-1327-JP

アイテム番号: SCP-1327-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-1327-JPはサイト-8181の標準ヒト型収容セルに収容して下さい。セル入り口には常時2名の警備員を配置し、SCP-1327-JPが自己終了を行わないかどうか関し、自己終了の徴候を見せた場合は阻止して下さい。また、SCP-1327-JPに対して、サイト-8181のカウンセラーによるカウンセリングを1日1回実施して下さい。

説明: SCP-1327-JPは全高30cm、体重3kg、主材質はポリエステルとウレタンで構成されているテディベアです。成分的には非異常性のものであるにも関わらず、SCP-1327-JPは標準的な成人の知能を持ち、既存のあらゆる言語を介してコミュニケーション可能です。また、筋肉や骨格などの駆動器官なしで四肢を自由に駆動させられます。これにより平均的5才児程度の運動能力を保持しています。SCP-1327-JPは通常に飲食可能ですが、存在維持に必要ではありません。SCP-1327-JPの口腔内にはポータルが存在し、嚥下された飲食物はそのポータルを通じて不明な地点に転移させられています。1SCP-1327-JPは重度の鬱病と思われる症状を発しており、財団の収容体制に対して消極的抵抗を見せています。

SCP-1327-JPは201█/██/██に、日本国東京六本木において開催されたマーシャル・カーター&ダーク株式会社のオークションで「お子様にピッタリの遊び相手、話し相手にも遊び相手にもなれるテディベア」として出品された所を、財団エージェントにより確保され、サイト-8181に収容されました。その後の異常性検査で前述の異常性が発覚し、正式にSCP-1327-JPのナンバーを付与され、現在の収容体制が確立されました。

以下はSCP-1327-JPの起源と確保までの経緯に至る証言記録です。

対象: SCP-1327-JP

インタビュアー: 賀茂川カウンセラー

付記: SCP-1327-JPは重度の鬱病と思われる症状を発しているため、カウンセリング専門家によるインタビューが行われました。

<録音開始, 20██/██/█>

賀茂川カウンセラー: 楽にしてください。貴方の名前を聞いてもいいですか?

SCP-1327-JP: [5秒沈黙]君は僕を、あのSCPナンバーで呼ばないのかい?

賀茂川カウンセラー: 貴方は私のクライアントも同様ですから。その辺りは気にせずにいてくださると助かります。

SCP-1327-JP: [5秒沈黙]僕の名前は[3秒沈黙]ないも同然なんだ。

賀茂川カウンセラー: 名前がない。[7秒沈黙]詳しく事情を聞かせて下さい。貴方の力添えになれるかもしれません。

SCP-1327-JP: [10秒沈黙]僕はこっちに来る前、永遠に夜が続き雪が降り積もる街にいた。それ以前、どこかにいた気がするけど、それは思い出せない。とにかく、その街で目覚めた時、周りを数人の大人が囲んで「新しい仲間が増えたのう」と喜びの表情を浮かべ、体に積もった雪を払ってくれて、大きな家の中へと連れて行ってくれた。その間、僕は名前を思い出そうとしたけど、思い出すことができなかった。でも、それはこの街ではごく当たり前のこと、ここは忘れ去られたモノが流れ着く先だと大人達が教えてくれた。

賀茂川カウンセラー: それで、貴方はその街で何をされていたのですか?

SCP-1327-JP: 僕の心中には、「子供達を笑顔にするのが僕の役割だ」という確信があった。だから、その街の、僕に似た境遇の子供達がいる孤児院で、遊び相手になってあげてた。その頃は幸せだったよ。[6秒沈黙]あの街の外に出る時までは。

賀茂川カウンセラー: どうして街を出る事になったんですか?

SCP-1327-JP: [8秒沈黙]僕は、自分探しがしたくなったんだ。本当の自分が何者で、何という名前で、何をしていたのか。過去を取り戻すための旅をしたくなったんだ。あの街は居心地がいいけど、ずっと停滞してて、そこで何をしていても本当の自分は見つからないと思ったんだ。[10秒沈黙]ひどい間違いだったよ。

賀茂川カウンセラー: どう、間違いだったのですか。

SCP-1327-JP: それについては、答えたくない。ごめん、少し1人にしてくれないか。

<録音終了, 20██/██/█>

終了報告書: SCP-1327-JPの起源については重要な情報が得られました。しかしその後の経緯については、未だ不明です。再度のインタビューを、SCP-1327-JPに行うには時間が必要でしょう。

この報告を受け、サイト-8181管理官はSCP-1327-JPの精神状態が回復してからのインタビューを試みました。以下がその報告書です。

対象: SCP-1327-JP

インタビュアー: 賀茂川カウンセラー

付記: 第1回同様、カウンセリング専門家によるインタビューが行われました。

<録音開始, 20██/██/██>

賀茂川カウンセラー: 貴方の方から話してくださる気になってくれて幸いです。

SCP-1327-JP: [5秒沈黙]自分だけで抱え込んでいても辛いだけだと思ったから。

賀茂川カウンセラー:たしかにそれはいい考えだと思います。話したいところだけ話して下さい。

SCP-1327-JP: [3秒沈黙]あの後、僕はあの街から出る方法を大人達から教えてもらって、こっちの世界に出てきた。青い昼空と温かい空気は、あの街とは全く違うものだけど、僕にはそっちがかえって普通に思えた。だけど僕は記憶がないから、あちこちを当てもなくさまよって、汚れて、ほつれて、力を失ってどこかの路地裏に倒れていた。その時、あの子と出会ったんだ。

賀茂川カウンセラー: あなたのこちら側での最初の友達ですか?

SCP-1327-JP: [5秒沈黙]そう、だよ。あの子は当時5歳で、喋るテディベアがいることに疑念を持たなかった。だから僕は拾われて、恩義を返すためにも、「子供たちを笑顔にしたい」と思う気持ちを果たすためにも、あの子の友達になったんだ。

賀茂川カウンセラー: そのままでしたら、幸せに過ごせたでしょうに。なにかトラブルでもあったのですか?

SCP-1327-JP: [10秒沈黙]僕はこっちの世界の子供がすぐに大人になるのを忘れていたんだ。彼女が中学に入るころには、彼女には僕より大切な人ができていた。彼女は僕に飽きて、よりにもよって壊そうとしたんだよ。僕は抵抗したけど、彼女は必死だった。「あんたがいると私が大人になれないの! あの人に子供っぽいと思われるのは嫌なの!」って、鬼のような形相で叫んで僕を振り回して壊そうとするんだ。

賀茂川カウンセラー: それは[3秒沈黙]貴方にとっては大きな痛手だったでしょうね。

SCP-1327-JP うん。だけど仮にも何年も友達だった彼女の事を傷つけたくなかったから、僕は自分から逃げ出して、また路頭に迷って、また別の女の子に拾われて。そしてまた捨てられて。そんな事を繰り返しているうちに、だんだん心が摩耗して、自分が何者なのか、子供を笑顔にすることに本当に意味はあるのかって考え始めた。そして何回目だか捨てられそうになってた時に「貴方を本当に必要とする人がいます」って黒服の男に出会ったんだ。

賀茂川カウンセラー: その人はどのような人でしたか?

SCP-1327-JP 確か「マナによる慈善財団」とかいう団体に入ってる人だったよ。「貴方の存在自体を喜び、救いとする子供たちがいます。その力になってくれませんか」と丁寧に頼まれた。だから、最後にもう一回、「子供達を笑顔にする」ことに賭けたんだ。[10秒沈黙]でも、それは僕にとって一番の痛手だった。

賀茂川カウンセラー: 辛いでしょうが、詳しく説明して下さい。

SCP-1327-JP 僕は「マナによる慈善財団」の手で東アフリカの紛争地帯に送られた。そこの難民キャンプでは子供達は本当に傷ついて悲しそうな眼をしていた。だから僕は子供達を心底から笑顔にしようとして精一杯頑張った。はじめは無反応だったけど、だんだん子供達にも僕の気持ちがわかったのかふれあい、遊ぶ機会が増えていった。子供達は僕に心を許してくれた。だけど[嗚咽]それも[嗚咽]束の間だった。

賀茂川カウンセラー: 何が起こったのです? 気分が悪いようならインタビューはここで中断しますが。

SCP-1327-JP: [嗚咽]いや、いい。[嗚咽]話させてほしい。[10秒沈黙]ある日、難民キャンプを武器を持った大人たちが襲撃したんだ。子供達は銃を突きつけられ、ナタで自分の家族を殺すよう命令された。子供達は目に涙を浮かべながら云われるとおりに家族を殺していった。そうしなければ子供達は殺されてたから。家族を殺した子供達は絶望に淀んだ眼をして武器を持った大人たちに連れられていった。あの顔は僕が存在し続けている限り忘れようがないよ。その時、彼らの1人が僕を見つけて「噂に聞いてたアノマリーだな。オークションに出せば高く売れる」ってつぶやいた。

賀茂川カウンセラー: [5秒沈黙]それで、貴方はオークション会場に連れ出されたのですね。

SCP-1327-JP: そうだよ。そのときにはもうヤケになってた。自分が何者かどうでも良かったし、子供達を笑顔にすることもどうでもよくなっていた。ただ、彼らからすれば異常である僕の特性を見世物にすることでしか存在し続けることができないこともわかっていた。でも存在し続けることにも疲れ果てていた。そこに君達が押し込んで、僕を確保したわけだ。

賀茂川カウンセラー: 自分のルーツを探すことは決して間違いなのではありませんよ。子供達を笑顔にすることも。その結果傷ついたことも、時間を掛けて癒やせばいいと思います。

SCP-1327-JP: [4秒沈黙]そうかもしれない。でも僕は自分が癒やされるとは感じられない。こっちで僕のやってきたことは全部間違いだったんだ。あの街に帰りたい。

<録音終了, 20██/██/██>

終了報告書: SCP-1327-JPは少なくとも自身にとっての主観的真実を語っていると考えられます。鬱病と思われる症状の原因はこの体験と見てほぼ間違いないものでしょう。引き続きカウンセリングを行い、SCP-1327-JPの自己終了などの危険性を減少させる予定です。

補遺: 20██/10/27、サイト-8181の中央門前に1枚の書状が突如出現しました。回収した所、要注意団体「酩酊街」の名が記されており、書かれた内容がSCP-1327-JPに関わると判断されたことにより、本報告書の補遺として内容を記録します。

常冬の街、忘却の街より、お伝えします。
あの子は元気にしているでしょうか? 自分を探し、子供達を笑顔にする事を誓って街を出たあの子は。
あの子は忘却の定めを否定して、永劫不変のこの街を出て、千変万化する貴方達の世界に戻りました。そこでどんな苦難が待ち受けているか、容易に想像がつきます。
願わくば、貴方達があの子の受けた傷を労り、癒やしてくださることを望むばかりです――いえ、貴方達の目的はそこにないにせよ、それは貴方達にとってもメリットがあるはずです。
どうかあの子を、よろしくお願いいたします。子供を笑顔にする事を純真に望んでいた頃には永遠に帰れないにせよ、せめて、自責の念を取り払っていただければ、それに過ぎたる幸いはありません。

酩酊街より 愛を込めて

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