クレジット
タイトル: SCP-1446-JP - インスタント・マインド
著者: ©︎MAKOdot-
作成年: 2024
アイテム番号: SCP-1446-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: 新たに発見されたSCP-1446-JPは回収部隊によってサイト-81██内の大型物品用収容室へ収容されます。
SCP-1446-JPによる影響を受けていると考えられる対象が発見された場合、対象はサイト-81██内で保護され、親族や知人へは状況に応じカバーストーリー「行方不明」「精神疾患」が流布されます。保護された対象は、異常性による自己認識と現実との齟齬や記憶障害が解消されたことが確認された場合に解放されます。
現在7基のSCP-1446-JPが財団による収容状態にあり、1人の対象が保護下に置かれています。
説明: SCP-1446-JPは日本国内の山中に出現する神明鳥居です。普遍的な石材で構成され、基本的な塗装や装飾はありませんが、特筆すべき点としてSCP-1446-JPの柱には2次元コードの刻印が確認されています。SCP-1446-JPの周囲に本宮等の建築物や参道は確認されていません。
SCP-1446-JPの異常性は、ヒトがSCP-1446-JP内を通過した場合に発現します。SCP-1446-JPを通過した人物(以下、対象)は、自らの意識内に独立した神格実体(以下、SCP-1446-JP-A)が滞在するようになります。その容姿は対応するSCP-1446-JPにより様々であり、生物から無生物までと共通項は確認されていません。現在まで財団により対象の意識外でSCP-1446-JP-A実例が観測された事はなく、全て対象からの証言に基づいたものであることに留意してください。
痕跡部門による調査の結果、一部のSCP-1446-JP-AはSCP-1446-JP出現地点付近で、過去に地域住民により祀られていた神格存在であると考えられる痕跡が僅かに発見されていますが、資料や記録にそもそも記述が存在しないか、保存状態が悪く認識が困難なほど損傷を受けている等の状況から詳細な情報は得られていません。
SCP-1446-JP-Aによる思考介入が原因であると考えられる対象への影響として、対象の願望や欲求を満たすように示す自己認識改変、記憶改竄、それに伴う対象の精神状態の安定、良好化、SCP-1446-JP-Aへの強い信仰心の獲得が確認されています。これら影響を記憶処理剤等で除去する試みは成功していませんが、対象は認識と現実の乖離に対して一時的に疑念や違和感を覚えます。これらに由来するSCP-1446-JP-Aへの不信感は、数時間後にSCP-1446-JP-Aにより再度払拭させられます。
SCP-1446-JPは具体的な期間は不明なものの、一定期間が経過すると異常性が喪失すると考えられており、初期発見時のSCP-1446-JPは既に無力化状態にありました。
発見記録: SCP-1446-JPの異常性は、真崎 貴之氏の自殺を発端として調査が開始されました。遺体はSCP-1446-JPの貫にロープを括り付け縊死した状態で発見されました。真崎氏は当事案以前から精神的疾患があるものとして現地病院や警察による注意を引いていましたが、異常が関連している可能性が低いと判断され調査は優先されませんでした。しかしながら、今回その発症の要因の一切が不明であったことなどの多数の不審点が再注目されたことにより、精神影響を有する異常オブジェクトの関与が疑われ、痕跡部門による調査が開始されました。
補遺1: 親族へのインタビュー記録
インタビュー記録1446-JP
日付: 2021/7/9
対象: 真崎 宏
インタビュアー: ██研究員
付記: 真崎 貴之氏と真崎 宏氏は同棲しており、その両親は真崎氏の自殺より約1ヶ月前に交通事故により死亡している。
<録音開始>
[省略]
██研究員: では早速ですが、亡くなったあなたの弟である、真崎 貴之さんについてお話を伺えますでしょうか。自殺の原因等お心当たりはありますか?
真崎 宏: ああ、実のところ、俺も最後まであいつの事はよく分からなかった。というよりも、ある日から突然明確におかしくなったんだよ。
██研究員: 具体的にはいつ頃からでしょうか。
真崎 宏: あいつが死ぬ1週間前だったかな。それまであいつは大学出て就職活動に失敗してから、親とか俺の脛をかじりながら暮らしてたんだけど、最近どこかで働き始めたらしくて。それで自信をつけたのか、前はどれだけ時間があっても家にこもっていたのが、子供の頃よく遊んでいた近くの小さな山まで散歩に行ってくるとか言い出して。感情の起伏が激しかったり、思いつきで行動するのは昔からだったんですが、そのあとから、おかしくなっていたと思います。
██研究員: どのようにおかしくなったのでしょうか。
真崎 宏: どのように…..えっと、まずは、普段よりも数倍明るく、元気のある雰囲気を纏ってました。声の大きさとか、考え方とか、良い事なんですが、平常時のテンションが上がってて。トイレの中で歌い出したり、なんて前は絶対にしなかったです。
██研究員: なるほど、他にはありましたか?
真崎 宏: はい。常にどこか浮ついていて、記憶が混乱してるような感じでした。例えば、俺のこととか 、家や職場の場所が分からなくなっていたり、しまいには、女性と付き合ったこともないのに「早く俺の妻と子供に会いに行きたい。」なんて言い出したりしていました。それで俺がそんなのいないだろって言うと、急にキレたりするから、3日位経つともう、どうしても気持ち悪くて関わらないようになっていました。
██研究員: なるほど。それで、気づけば亡くなっていたと。
真崎 宏: はい……。正直、もっと面倒見てやっておいた方が良かったのか、今でも分かりません。
██研究員: あなたが自分を責める必要はないと思いますよ。話を戻してしまい申し訳ないのですが、10年以上空白の期間があったにもかかわらず、突然働き始めたきっかけは何かあったのでしょうか?
真崎 宏: 働き始めたとは言ったんですが、実は俺も、どこで働いてるとかなんの仕事をしてるかとか一切分からなかったんですよ。でも毎朝決まった時間に起きて家を出ていくし、あいつは大学で働いてるとか言ってたんで、警備員かなと、勝手に思っていました。俺にも仕事はあるんで、あまり詳しく調べたりは出来ませんでしたし、あいつに嘘をつかれてもあまり分からなかったと思います。きっかけは、そうだ、なんか働き始めたのと同時に、宗教みたいなのにはまっちゃって。多分、親父達が死んだのがきっかけだと思います。
██研究員: 宗教?
真崎 宏: はい。ナントカ様のおかげで俺は〜って自慢げに話してました。でも、聞いたことない名前だったので、相当胡散臭ものだろうとは思います。ひとりで会話したり、あいつにはそのナントカ様が見えてるらしくて、その時点で俺はちょっとやばいなって思ったので一応精神科に連れて行ったりはしました。でも効果は見られなかったので、そのあたりから距離を置き始めたんです。どうなんでしょうか。実際、宗教があいつに与えた影響は、良い面もあったと思います。
██研究員: なるほど、ありがとうございます。一応お話をまとめますと、弟さんは大学を出て無職の期間を経て、両親の自殺をきっかけになんらかの宗教に入り込み、明るくなり活動的になるとともに記憶の混濁が見られるようになった。その頃から宏さんは距離を置き、就職はしていると話されたものの実態は不明で、そのまま知らぬ間に自殺に至った、という認識で大丈夫でしょうか。
真崎 宏: 合っています。あいつがこんなことをした具体的な原因については、わからないですね。ただ、親の事故とか、仕事が無かったこととか、以前から精神的な負担は大きかったんでしょう。でも、最近になって明るくなって、もう大丈夫なのかなって思った途端に……。お力になれずすみません。
██研究員: 大丈夫ですよ。本日はご協力頂きありがとうございました。
<録音終了>
終了報告書: 真崎氏が働いていたという事実は確認されませんでした。また、真崎 宏氏によって供述された宗教に関する調査が進行中です。
補遺2: 以下は真崎氏のスマートフォンデバイス内に録音されていた、真崎氏への職務質問と思われる音声記録の転写です。
音声記録1446-JP
日付: 2021/6/11
付記: 登場する音声のうち真崎氏でない方は、██県██市に所在する██警察署の██氏である確認が取れています。
<録音開始>
真崎氏: ろ、録音してますからね。変なことはしないでください。まず職務質問は任意じゃ─
警察官: はいはい、大丈夫ですからね。ご協力感謝します。じゃあまず免許証とか持ってます?
真崎氏: ……持ってないです。
警察官: じゃあ、名前と生年月日、住所、あと職業教えてください。
真崎氏: 真崎貴之、19██年5月7日、住所は、██市██町██-██です。仕事は、大学の教師です。
警察官: オッケー。大学の教師ってあそこの?嘘ついちゃダメだよ。ご近所さんから通報があって来たんだけど、平日の昼間に、なんでこんな山の中来てるの?ここ入っちゃダメなところだよ。
真崎氏: えっと…..。
警察官: はぁ。じゃあまず後ろのリュック見せてください。
[リュックを下ろしファスナーを開ける。]
警察官: これ何?ロープとハシゴだね。なんのために持ってるの?
真崎氏: そう、ですね。すみません、わからないです。
警察官: どういうこと?これ君のじゃないの。
真崎氏: いえ、私が持ってきて、自殺を、しようと。今思うと馬鹿な話ですが。
警察官: なんで自殺なんかしようとしてたの。
真崎氏: ……わかりません。
警察官: わからない?
真崎氏: だって、みんなから尊敬されて、家族も居る。最近では研究も成功して……初めは全然ダメだったけど、私の人生はこれからなんだ。それに、今ここで死んだらミズカミ様にも示しがつかない。本当に、何故自殺なんて考えていたんでしょう。すみません、わからなくなって来ました……。
警察官: あー、とりあえず、今はもう大丈夫そうかな。よく分からないけど、死のうとする前に他の人に相談することも大事だよ。とりあえず今日は僕が送って行くから。ご家族は?
真崎氏: はい。すみません。今連絡します。
警察官: ……大丈夫?
真崎氏: おかしいな、妻の連絡先が分からなくなっちゃって……とりあえず兄に伝えておきます。
警察官: ところで、さっきのミズカミ様?について詳しく教えてくれないかな。
真崎氏: あ、えっとミズカミ様は、私の救世主で、この方のおかげで私の今があるんです。えっと、今日も朝はそっちに参拝しに行ってて。あっちの方に祀られてるんですよ。実は今もここにいてくださるんですけど。
警察官: つまり神様みたいな?この辺りにそんな話聞いたことないけどな。
真崎氏: 私も詳しいことは分かりませんが、1度仕事を無くしたりしたこともあったけど、ミズカミ様のおかげで、こうして満ち足りた人生を送れています。私、昔から多くの人に囲まれるような人になりたいって思ってたんです。あ、あなたも1度行ってみますか?ミズカミ様のところに。
警察官: ……ご案内お願いします。ところで、ミズカミ様については誰かからご紹介されたんですか?
真崎氏: 覚えてないですね……物心ついた時から、という感じでしょうか。
警察官: じゃあ両親から?
真崎氏: そうかもしれません。あっ、録音切っておきますね。すみませんでした。
<録音終了>
補遺3: ██警察署の協力により、SCP-1446-JPの発見・収容が行われました。調査の結果、SCP-1446-JPは少なくとも1980年以降に出現したものであり、人為的な設置の記録は残っていませんでした。柱の根元部分に2次元コードが刻印されており、真崎氏が死亡の直前に読み取っていたことが、現場から回収されたスマートフォンにより判明しています。
以下はその表示された内容です。
信仰を求めるあなたへ
誰かに認められたい。尊敬されたい。崇められたい。信仰されたい。そう思う方は多いでしょう。しかしながら、そうした願いを叶えるためには、まずは自らが誰かに何かを十分に与えたり、何か他人には出来ないことを成し遂げる必要があります。そして、それを何十年、何百年と続けなければなりません。
あなたは奇跡を起こせますか?人に信頼されるほど完璧ですか?仏のように広い心を持っていますか?それとも、畏れられる力を持っていますか?
実際に信仰を得るためにはこうした能力は欠かせません。
しかし、そうした特別なものを持たずして信仰を得る方法があります。それが、心に入り込むことです。人間が望むことを、人間の望む通りに意識を変えてあげるだけで、人々は勝手に信仰を始めます。信仰は精神から来るものです。現実を変える力はなくとも、勘違いをさせておけば良いのです。
この商品を購入すれば、自分の持つ敷地内に設置しておくだけで、人が勝手にやってきて、勝手に望みを叶え、勝手に信仰を始めます。お求めは██石材店まで。
Q&A
Q: 既にほとんどの人々から忘れられてしまい、もうあまり力を持たない私でも効果はありますか?
A: はい!むしろこの商品はそういった信仰を新たに得ることが難しい方向けの商品です。
Q: 神様以外も使えるの?例えば動物とか。
A: はい!強い意志を持っている方であれば、どんな姿でも大丈夫です。
Q: どこに設置するのが良いのでしょうか?
A: 私は山の中をおすすめいたします。その理由は、
- 街中に置くと不審に思われ、逆に効果が薄れてしまう可能性があるため。人間達は山には神聖なイメージを持っているため、疑いなく自ら寄ってきてくれます。
- 1とは反対に、もし多すぎる人が来た場合に、高レベルの神格存在でないと対応しきれないため。今回のような商品を購入する方はあまり信仰されることに慣れていない方が多いと思います。そのため、まずは山の中で厳選された少人数から確実な信頼を得ることから初めましょう。
Q: 一度の設置で何年くらい持つの?また、どれくらいの信仰が期待できるの?
A: どの程度持つかは購入者によりけりですが、平均50~70年、私の知っている方では200年以上続いている方もいます。信仰量は、あなたの気持ち次第で、主神になれる可能性すらも秘めています。
██石材店の存在は確認できておらず、現在調査が進行中です。
追記: 2022/1/12、██県██市██山にて新たに発見されたSCP-1446-JPを用いた実験の結果、対象となったDクラス職員から報告されたSCP-1446-JP-Aの容姿が、真崎氏と一致することが確認されました。またその実験において、別基を用いた実験と比較して、SCP-1446-JP-Aへの信仰心や対象の認識改変等の影響が小さく、実験から17日後に異常性の喪失が確認されました。喪失後、対象となったDクラス職員からは、「マザキ様は嘘つきだ。」「今の俺がこんな場所にいるはずがない。」といった発言を繰り返しており、以降実験への参加を強く拒否し始めました。