SCP-1631-JP
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アイテム番号: SCP-1631-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: 斎末博士は現在サイト-81██の標準人型収容室に収容されています。担当職員は収容室に設置されている監視カメラの映像を確認し、何らかの反応を観測した場合、セキュリティクリアランスレベル3以上の職員に即座に報告してください。

説明: SCP-1631-JPは当報告書の執筆段階で斎末 弥生博士にのみ確認されている一貫性を有した異常な明晰夢に対する指定です。SCP-1631-JPの内容は斎末博士の報告により、以下のことが判明しています。

  • 凡そ3m×3m×2mの室内。窓やドアなどは見受けられない。
  • 室内は白く塗装されており、中央にベージュ色の机と椅子が家具として配置されている。
  • 机上には鉛筆と消しゴム、及び1枚のA4用紙(以下、SCP-1631-JP-1と呼称)が存在する。

SCP-1631-JP-1は問題文が1題書かれたA4用紙です。出題される内容は斎末博士がこれまで経験してきたことに関するものであり、その多くは斎末博士にとって容易に解答可能な難易度となっています。SCP-1631-JPはSCP-1631-JP-1を解き終え、その解答が正解していた場合にのみ終了し、斎末博士は起床します。1この時、新たに文章が生成されたSCP-1631-JP-1と同様のものと見られる紙が斎末博士のデスク上に出現します。出現の瞬間を認識する試みは全て失敗しています。

以下は過去に出現したSCP-1631-JP-1の一部です。

SCP-1631-JP-1-01

観測日: 2014/01/16

問題内容: 貴方が生まれた日付はいつでしょうか?

解答: 1968/07/19

生成された文章: 正解!この日は貴方が生まれた記念日でしたね。

報告: SCP-1631-JPが最初に観測された日のSCP-1631-JP-1。

SCP-1631-JP-1-13

観測日: 2014/01/28

問題内容: 貴方が9歳の時に家族旅行で訪れた都道府県は2ヶ所ありますが、そこは何処でしょうか?どちらか1つを答えなさい。

解答: 長崎県

生成された文章: 正解!貴方が楽しめるようにと家族が連れて行ってくれた思い出の場所です。

報告: 同様に答えが複数ある場合、その中の1つを答える問題になる模様。

SCP-1631-JP-1-45

観測日: 2014/03/01

問題内容: 1979/03/01に貴方の母親に起きたことは何でしょうか?

解答: 交通事故2によって轢死した。

生成された文章: 正解!辛い過去を乗り越えて、今も貴方が生きているということは素晴らしいことです。

報告: SCP-1631-JP-1が初めて斎末博士以外の人物について言及した例。

SCP-1631-JP-1-62

観測日: 2014/03/18

問題内容: 貴方が小学6年生に上がる頃に別の学校へ転校した女子生徒の名前は何でしょうか?

解答: 市川 照子 一之瀬 輝美

ヒント: 忘れてしまいましたか?女子生徒の苗字は一之瀬ですよ。

生成された文章: 一度間違えましたね。自分のことすら覚えてないのですか?ヒントを見て分かったならいいですが、次はないですよ。

報告: SCP-1631-JP-1の問題に間違えた場合、ヒントが提示されることが判明した例。以降予定されていた意図的な間違いを起こす実験はSCP-1631-JP-1の予測できない異常性を発生させる可能性から禁止された。

SCP-1631-JP-1-82

観測日: 2014/04/08

問題内容: 貴方が中学受験に臨んだ理由は何でしょうか?

解答: 父親が強く勧めてくれたため。

生成された文章: 及第点です!父親が勧めたことも一因ですが、もっと他にも理由があったのではないですか?忘れないでくださいね。

報告: SCP-1631-JP-1が理由等の曖昧なものを答えとした例。

以上の記録から、出題される内容の時間軸は段々と進行していくものと推測されています。また、斎末博士はSCP-1631-JP-1に解答した内容を長期的に記憶していることが判明しました。

インタビュー記録: SCP-1631-JP 2014/04/16
以下はSCP-1631-JPの経過観察として行われたインタビュー記録です。

対象: 斎末博士

インタビュアー: ██研究員

注記: 斎末博士は現在も財団のSCP-████-JPなどの収容プロジェクトに携わっている。

<記録開始>

[挨拶と軽度の雑談、重要性の低さから省略]

██研究員: 本題に入りますが、博士はいつ頃からこの異常性を獲得しましたか?

斎末博士: 確か、3ヶ月前からです。██研究員も既に知っていると思いますが、最初はただの夢だと思っていたんです。そうしたら、デスク上に夢で見た紙を見つけたので財団に報告しました。

██研究員: 以前に報告してもらった内容と変わりありませんね。では、SCP-1631-JP-1に関して何か新しく報告できることはありますか?

斎末博士: 特に報告できることはありません。問題や解答後の文章を誰が書いているか等も、私にはさっぱりです。

██研究員: そうですか。

斎末博士: [数秒間の沈黙]ただ、抽象的ですがSCP-1631-JPについて思ったことがあります。

██研究員: それは何でしょう? 教えていただけますか?

斎末博士: [少し言い淀み]あれは、私の忘れかけていた人生のようなものだと思います。

██研究員: それは……一体どういうことですか?

斎末博士: 私は使命を持ったあの日からこれまでの28年間をずっと財団に捧げてきました。そのせいか、普通の人生を送っていた頃の記憶は朧げなものになっていました。

██研究員: あの、話を遮るようですが、博士の使命とは何でしょうか?

斎末博士: [数秒間の沈黙]あぁ、██研究員は知りませんでしたね。私の母親がSCP-████-JPによって、間接的にではありますが、殺されたんです。当時はただの事故だと思っていたんですけどね。財団に事の真相を伝えられた時は、本当に驚きました。まさか自分の母親の死が、SCiPという異常な存在によるものだなんて、思ってもいませんでしたから。その日の夜は眠れなかったことを覚えています。

██研究員: その事件については知っています。痛ましい事件だったと記憶していますが、それが博士にどのような使命を抱かせたのですか?

斎末博士: ……財団は様々な異常を収容していますが、それは完璧ではありません。収容違反が起これば、職員や無辜な人々が危険に晒されて、その結果、誰かの大切な人が死んでしまうことだってあります。かつての私はそうやって、大切な母を亡くしました。それで、母のような犠牲を出すわけにはいかないという使命感から、今日まで財団にこの身を置いているわけです。そんな大層な使命ではないかもしれませんが。

██研究員: いえ、そんなことは……

斎末博士: [咳を2回して]話を戻しますが、一度私がSCP-1631-JP-1を間違えましたよね。

██研究員: はい。同様の事象を阻止するために、博士が自身の過去を振り返ることが推奨されていますが。

斎末博士: そうですね。それで思ったんですよ。これ、予習と復習みたいだなと。

██研究員: 予習と復習ですか?

斎末博士: 学生の頃は、次にやる授業内容を予習していたじゃないですか。そして、テスト前には習った範囲を復習していました。これがなんだか、SCP-1631-JP-1と私に当てはまってるような気がしたんです。……そうして、その過程で忘れていたことを思い出すことがありました。初恋だった人の名前。学生の頃は毎日のように通っていた図書館。幼い頃に描いた漫画。きっとSCP-1631-JPが無ければ、どれも忘れたままだったことです。その点で言えば、SCP-1631-JPは私の人生で起こった忘却を救ってくれたのではないかと思ったのです。

██研究員: なるほど。では、斎未博士はSCP-1631-JPによる心身の変化を感じたことはありますか?

斎末博士: [考える動作を数秒行い]そういえば、心が少し軽くなった気がします。

██研究員: 軽くなったというのは?

斎末博士: 私ももう歳です。物覚えも悪くなり、昔と違って、仕事が思うように行かない時も増えました。財団を辞めようかと考えていた時期も何度かありました。

██研究員: そんなことはありません。私は博士に何度も助けてもらいました。

斎末博士: 嬉しいですね。……ですが、私は財団に貢献しているか不安でした。そんな時に再確認することが出来たのです。まだ私には成すべき使命があると。私のような辛い思いをする人々を増やしてはならないと。そう考えると、気持ちが楽になったんです。

██研究員: 分かりました。これでインタビューを終了します。

<記録終了>

終了報告書: 上記の報告を受けて斎末博士の精神状態を検査した結果、起床直後に良好な状態に変化していることが判明しました。

追記(2016/07/27): SCP-1631-JP-1の問題の難易度が上昇傾向にあることが確認されており、1つの対策として斎末博士の経歴を詳細に纏めたリストが作成中です。

補遺(2023/02/26追記): 斎末博士が睡眠状態から回復しないとの報告がありました。また、SCP-1631-JP-1が朝7時にデスク上に出現しましたが、通常の構造とは異なり問題文、解答、ヒントが存在せず、代わりに以下の文章が記載されていました。

大学で歴史の臨時講義を行なってくれた教授の名前も覚えていないのですか?ヒントも出したというのに。貴方にはガッカリです。

これを受けて異常性の変化が起きた可能性を考慮し、斎末博士の状態を検査したところ、栄養の摂取、及び代謝を行わずとも健康に影響がないことが判明しました。現在、博士の容体について解明が行われています。これに従って、特別収容プロトコルの改訂が行われました。

補遺2(2023/03/10追記): 補遺以降、同様にSCP-1631-JP-1が朝7時に出現を続けており、その内容は斎末博士への罵倒3が大半でした。また、SCP-1631-JP-1の内容から、日毎に問題は変更されていると推測されています。

補遺3(2023/03/18追記): SCP-1631-JP-1が斎末博士の頭上に出現し、その直後に斎末博士の起床が確認されました。起床した瞬間に斎末博士は取り乱し、錯乱状態に陥ったため機動部隊により沈静化されました。


また、斎末博士に補遺で確認された異常性は確認出来ず、喪失したと考えられます。以下は、斎末博士へのインタビュー記録です。

インタビュー記録: SCP-1631-JP 2023/03/18

対象: 斎末博士

インタビュアー: ██博士

注記: ██博士は斎末博士と10年以上にわたり親交がありました。

<記録開始>

██博士: それでは、インタビューを開始します。

斎末博士: [俯いたまま沈黙している]

██博士: まずは、斎末博士。貴方の身に何が起きたかを教えてくれますか?

斎末博士: ……違います。

██博士: え?

斎末博士: 私の名前は空木です。そう習いました。

██博士: いえ、貴方は……それよりも、習ったというのはどういうことですか?

斎末博士: 言っても伝わるかどうか分かりませんが、私は白い部屋にいました。そこには椅子と机が置かれていて、机の上には問題用紙が置いてありました。

██博士: その問題用紙には何が書かれていましたか?

斎末博士: そこに書かれていた問題文は私の名前を問うていました。……でも、私は何も分からなかったんです。

██博士: それは、名前を忘れてしまったと?

斎末博士: 名前だけじゃありません。生まれた場所も、家族も、職場も、友人も、どんなに些細なことですら答えられなかったんです。

██博士: 記憶を失ってしまっていたということですか?

斎末博士: 多分、そういうことだと思います。でも、今は大丈夫なんです。私がどんなに間違えても、あの文字が答えを教えてくれたんです。次に正解すれば良いんだと言ってくれたんです。

██博士: あの文字とは?

斎末博士: あぁ、私が間違えた時に壁に文字が浮かび上がるんです。そしてその文字が答えを教えてくれたり、私を励ましてくれていたんです。

██博士: なるほど。

斎末博士: そうやって私が間違えては答えを覚えてを続けて、[数秒間の沈黙]私は自分のことを何でも知っている状態になりました。だから、私はもう間違えなくなりました。どんなことを聞かれても答えられるようになりました。そうしたら合格という言葉が壁に浮かんで、気づいたら知らない部屋で、見知らぬ貴方達がやってきて、それで……[咳をする]

██博士: 落ち着いてください。ゆっくり話してもらって大丈夫ですよ。

斎末博士: でも、早く戻らないといけません。私が知っている場所に、そこが私の居場所なんですから。

██博士: 斎末……じゃないですね。空木さんはここで働いていたんですが、それは覚えてないんですか?

斎末博士: [困惑した様子で]私が、この場所で働いていたんですか?

██博士: はい、証拠もありますよ。

[斎末博士が財団で勤務していた頃の写真を提示する]

斎末博士: ……確かにこれは私の姿にそっくりです。ですが、それは私には関係ないですよね?

██博士: いえ、これは空木さんの写真ですよ。見覚えはありませんか?

斎末博士: ですが、これは……[俯いたまま数秒間の沈黙]もし、もしですよ?これが私だとしてです。

██博士: はい。

斎末博士: 私はここについて何も知らないんです。なら、これが私なわけないじゃないですか。私は私についての全てを知っているんですよ? あの部屋で教えてもらったんですよ? もし私がここで働いていたとしたら、私が私について知らないことがあるってことじゃないですか? それはあり得ませんよね。だから、貴方達は私を騙そうとしているんですよ! ……そうでないと、可笑しいじゃないですか。

██博士: そうですか。……1つ聞きたいのですが良いでしょうか?

斎末博士: 何ですか? どんなことを言われても知らないものは知らないですよ?

██博士: その、母親についてですがーー

斎末博士: 母親? 母ならもう亡くなりましたよ。飛び降り自殺でした。

██博士: [数秒間の沈黙]そうですか。もう、別人なんですね。

斎末博士: 別人ってなんですか? 私はきちんと質問に答えているのに、勝手に他人の幻影を私に重ねないでください。それと、いい加減にここから解放してください。早く、元の場所に。

<記録終了>

終了報告書: この後、斎末博士は再び錯乱したため鎮静剤が打たれ、標準人型収容室に運ばれました。インタビューにより判明した記憶影響についての調査が行われています。

補遺4(2023/03/19追記): SCP-1631-JP-1が出現せず、それに伴いSCP-1631-JPが観測されなくなりました。しかし、斎末博士への記憶影響に変化は見られず、現在までSCP-1631-JPによるものと考えられる記憶影響の除去は失敗に終わっています。現行の特別収容プロトコルの改訂は進行中であり、SCP-1631-JPのオブジェクトクラスをNeutralizedへと変更するか議論されています。

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