SCP-1684-JP
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SCP-1684-JP

アイテム番号: SCP-1684-JP

オブジェクトクラス: Safe Euclid

特別収容プロトコル: SCP-1684-JPは低危険度生物収容ユニットへ収容されます。SCP-1684-JPに与えられる餌はカルシウム量が制限され、分泌物は1日ごとの清掃により除去されます。SCP-1684-JPの情報が学術界および一般社会に流出しないよう、蛛形類を扱う研究機関は検閲を受けます。

秋吉台一帯はカバーストーリー「安全上の懸念」を適用して民間人による立ち入りを一部制限し、調査を行ってください。

説明: SCP-1684-JPはサソリモドキ目に最も近縁な節足動物です。概形の観察では非異常のサソリモドキとの区別は困難ですが、体内器官や外骨格の細部は有意な差異が確認されています。ミトコンドリアゲノムを用いた分子系統解析からは、約2億6000万年前に既知のサソリモドキ目から派生した系統群であることが示唆されます。SCP-1684-JPは熱帯・亜熱帯地域に生息しており、日本では奄美群島・伊豆諸島・沖縄諸島での少数個体の自然分布が確認されています。

SCP-1684-JPは質量保存則およびエネルギー保存則を無視した炭酸カルシウムCaCO3の分泌を行います。SCP-1684-JPは非異常のサソリモドキ目と同様に肛門付近に体液の分泌機構を有し、炭酸カルシウムをやや粘性の高いゾル状の石灰質溶液として分泌します。分泌量はSCP-1684-JPの体重や摂食量に基づく推定値を大いに上回るほか、長期に亘ってカルシウムを摂取しない場合にも分泌可能であることが確かめられており、産生機序や発生上の過程は判明していません。進化学的要因の説明としては、酢酸の中和に石灰を用いていた祖先種の酢酸産生に関与する遺伝子領域が失われた結果、石灰自体を分泌物として利用する個体が子孫を残したとする仮説が提唱されています。

SCP-1684-JPの分泌液は、非異常個体と同様の天敵に対する防衛のほか、獲物の狩りにも積極的に用いられます。分泌腺は腹部の尾側に位置するにも拘わらず、非異常のサソリモドキと同様に、腹部を背側へ逸らせることにより頭側への分泌液噴射が可能になります。SCP-1684-JPは粘性の高い分泌液を用いて獲物の運動を止め、捕食行動の効率化を図っていることが示唆されます。ただし、防衛・狩りに該当しない状況下での分泌も多く見られており、異性への求愛、あるいは老廃物としての排泄などの可能性も指摘されています。

石灰岩と共に産出するSCP-1684-JP様節足動物の化石記録は中生代・前期三畳紀まで遡ることができ、ミトコンドリアゲノムから示唆される分岐年代と一致します。化石は前期ジュラ紀から前期白亜紀にかけて微増しており、これは炭酸カルシウムの殻に覆われた卵を産む爬虫類や、その中でも大型の骨格を持つ竜脚類の恐竜などの分類群との共生関係にあったためと考えられます。また古生代・石炭紀頃から出現していた陸棲巻貝との間には、SCP-1684-JPが巻貝を捕食し、巻貝がSCP-1684-JPの分泌物を摂食するという、カルシウムの物質循環が生じていたと考えられます。

発見経緯: SCP-1684-JPは奄美大島を視察していた寺澤研究員により発見されました。当初は非異常の新種個体と解釈され、研究員により個人的に飼育されていましたが、異常な量の石灰分泌が見られることからSafeクラスのオブジェクトに指定されました。現地では個体の希少性ゆえに異常性は認識されていなかったものの、一部の島を除く沖縄諸島や奄美群島において、SCP-1684-JPに由来する石灰質土壌は古来耕作に用いられたことが文献から示唆されています。



追記1: 山口県美祢市にて野生化したSCP-1684-JPが確認されました。当該地方はSCP-1684-JPおよび既知のサソリモドキ目の分布北限よりも有意に北方であることから人為的な移入が推測されますが、本州への侵入経路は判明していません。カルシウム循環の担い手となりうる新たなカタツムリとの遭遇、および非異常のサソリモドキの不在が個体数増加に寄与した可能性があります。本州での分布拡大の懸念を受け、オブジェクトクラスはEuclidへ変更されました。

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秋吉台の石灰岩群

追記2: 同地の秋吉台にてSCP-1684-JPが確認されました。秋吉台の地表に露出した石灰岩およびSCP-1684-JPの分泌物から試料を採取してSEM-EDS1を用いて組成を分析したところ、両試料は誤差の範囲内での一致を示しました。このことから、SCP-1684-JPは本州へ移入したのでなく、当初から本州の一部に生息していた可能性が浮上しました。秋吉台石灰岩がSCP-1684-JPにより形成された可能性、そして南方の島嶼の個体数を遥かに上回る規模の個体群が当該地域に生息する可能性を鑑み、秋芳洞をはじめとする鍾乳洞の調査が実施されます。

探査記録: 2004年7月17日、長淵2の下流部を出発点として秋芳洞の探査が行われました。民間人の立ち入りが許可されている区域にSCP-1684-JPは確認されませんでしたが、石灰岩の組成はSCP-1684-JPの分泌液と一致しました。また、長淵の最上流部付近に学術的研究が進められていない複数の縦穴の存在が確認されました。

縦穴には人間の通過できる空隙が存在しないため、気圧計および精密音響測距装置などを内蔵した多機能型遠隔操作カメラを投入した探査が実行されました。探査の結果、縦穴は連続する4つの広大な空洞部を伴うことが判明しています。以下は探査記録の要約です。

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穴の奥の空間。窪地に水が溜まっている。

第一の空間

深度: 約18m(遠隔カメラ投入地点からの深度。以下同様。)

特徴: カタツムリおよび菌類の生息

説明: 穴は数m~十数mほど続いて行き止まりになるものが大多数を占めるが、一部にはより広い未発見の空洞に接続するものが確認された。奥の空間内には長淵に端を発すると推測される河川や小規模な水溜りが存在し、菌類やカタツムリが生息する。菌はカタツムリに摂食され、空洞内の生態ピラミッドの下層を支持すると思われる。

空洞内の大気の組成比は地上の大気組成と差が見られなかった一方、気温は想定よりも温暖であった。水面には時折気泡が出現と消失を繰り返しており、水底には粘性を持つ桃色かつ不透明のバクテリアマット3が厚く形成されている。光に依存しない未発見の酸素発生型化学合成細菌が生息していると推測される。

事案: カタツムリの残した粘膜を踏んでキャタピラが滑り、カメラが一部浸水した。直後に自力で水から脱出したため機能に問題は見られず、水深の深い領域を迂回して次の空間へ向かった。以降の操縦は速度の抑制が重視された。

第二の空間

深度: 約42m

特徴: SCP-1684-JPを含む大規模な生物群集

説明: 深部へ進むとカタツムリは壁面を埋めるほどに個体数を増し、発光器官を有する分類群未定の昆虫群、またSCP-1684-JPも少数確認された。当該の空洞は、太陽に由来する光エネルギーでなく、SCP-1684-JPの化学エネルギーの下に成り立つ生態系の成立が示唆される。SCP-1684-JPは石灰資源を形成する生産者としての生態的地位と、カタツムリや発光性昆虫を捕食する最高次消費者としての生態的地位を兼ねていると推測される。

事案: SCP-1684-JPが鋏角と尾節を動かしながら接近。威嚇行動の後、噴射された分泌液がカメラに付着した。縄張りの侵入者として認識されたと推測される。2分間にわたる膠着が続いた後、継続的に発した警告音によりSCP-1684-JPを退却させ、距離を取ることに成功。自動洗浄を行って探査を続行した。

第三の空間

深度: 約88m

特徴: 脊椎動物骨格

説明: さらに深部では上述の生物群のほか、石灰岩に埋没した複数種の脊椎動物の骨格らしき構造が確認された。石灰岩から露出した部分は方解石4に薄く被覆され、内部も方解石による置換を受けている。埋没と菌による石灰岩の被覆ゆえに詳細な分析は不可能であったが、これらの骨格群は側頭窓5が1つしか存在しない点と、骨盤の付近にも肋骨が発達する点から、未発見の単弓類6と推測される。化石種とのより詳細な形態比較から、これらの動物群は後期ペルム紀7(約2億6000万~2億5200万年前)の動物であることが示唆される。

事案: 急勾配の地形とバクテリアマットにキャタピラを取られ、自重により沈み込んだ状態でカメラが約70分間立ち往生した。操縦する研究員に適宜飲料が振舞われながら、複数の交代を挟んだ長丁場となった。やがて自力での脱出に成功するが、脱出時には電池残量は10%を下回っており、縦穴からの復帰の困難性から探査続行が直ちに決定された。

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既知のディイクトドン(Diictodon)の雌雄

第四の空間

深度: 約106m

特徴: 巣穴状の構造

説明: 最深部では、モグラやアリなど地中棲の動物の巣穴に類似する、コロニー状の地形の痕跡が確認された。コロニーの大部分はSCP-1684-JPに由来する石灰岩で形成されている一方、石炭紀~前期ペルム紀のコケムシ・石灰藻類・有孔虫・ウミユリなど生物遺骸片に起源を持つ石灰岩も一部で確認されている。このため、石灰岩は主に後期ペルム紀のSCP-1684-JPに、基底部はより古い造礁生物に由来すると推測される。

コロニーは外敵の侵入防止機構やおそらく用途に応じて異なる内装を示した。コロニー内ではSCP-1684-JPや非造礁生物の遺骸の集積が確認されており、これは何らかの生物が意図的に遺骸を収集した跡であると推測される。脊椎動物の遺骸のうち最も多くを占めていたのは小型単弓類のディイクトドン(Diictodon)に類似する動物の骨格であり、産出状況には一部の化石人類に見られる埋葬と同様の特徴が認められた。

なお、産出化石と既知のディイクトドンとの間には以下の相違点が確認されている。

  • 角質の嘴が臼歯や門歯の形状を兼ねるように複雑化している。より多様な食性への適応を示唆すると推測される。
  • 眼窩が吻側へ移動かつ縮小し、頭頂部が背側に膨張し丸みを帯びる。結果、脳容積が顕著に拡大している。
  • 第I指が対向性を示す。前肢の機能向上に寄与したことが確実視される。

上記観察結果より、秋芳洞の化石動物群は既知のペルム紀の動物群から派生した進化を遂げていることが示唆される。ペルム紀末のSCP-1684-JP生息域は大量絶滅期における待避地であった可能性がある。

事案: 遠隔カメラが電池切れを起こし機能停止。石灰岩やバクテリアマットなどのサンプルは回収に失敗したものの、映像自体は絶えず秋吉洞内部の調査チームに送信されていたため完全に記録されており、十分な収穫が得られたと判断された。カメラ本体の回収は今後の調査の際に実施される予定。

今後は秋芳洞への民間人の立ち入りを制限した上で、継続的な地下空洞調査が予定されています。

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