SCP-1686-JP
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脳外科患者のMRI画像に写り込んだSCP-1686-JPの一部分

アイテム番号: SCP-1686-JP

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: 現時点において、SCP-1686-JPの完全な収容手法及び除去技術は確立されていません。財団による研究調査以外の活動は、その存在を公から隠蔽し、集団的な活性化現象を抑制することのみに注力されます。

SCP-1686-JPに関連する研究活動や発見報告は事前に抑制されるか、意図的な虚偽情報の拡散を目的とした流布活動に利用されます。医書出版業界に潜入している財団エージェントも同様に、SCP-1686-JPに関する誤った脳医学知識の周知促進を行います。

説明: SCP-1686-JPは二次元平面的な形状を有すると推定される、全人類の脳内に寄生する未知の生物種です。その全長は8~15mm程度であり、外見的には完全変態を行うチョウ、ハチ、ハエ等の昆虫種の蛹化形態と類似性が確認できます。一方で、その外見は通常、如何なる視野角から視認・撮影された場合であっても、観察者の視野に対して垂直、つまりは細い線状の姿として観測されます。そのため、正確な形状は、CTやMRIによる連続撮影で検出された像を繋げ合わせる等の手段によってのみ確認可能です。

上記形状や後述する性質のため、如何なる脳外科手術によってもSCP-1686-JPの摘出は困難であり、施術が実施された全てのケースで宿主の死を引き起こしました。仮にその摘出に成功した場合でも、SCP-1686-JPは数十秒程度で一切の活動を停止し、縮小するようにその場から消失します。この要因により、SCP-1686-JPに対する外部環境での実験・解析の試みは成功しません。

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活性化状態のSCP-1686-JPを再現したイメージの1例

また、SCP-1686-JPは極稀に、未解明な要因によって前兆なく活性化状態へと移行します。この活性化要因としては、"宿主の脳内から摘出される直前"、"宿主が致命的な重症を負った場合"、"宿主の周辺環境が著しく悪化し続けた場合"、"宿主の老死前後"等のケースが確認されているものの、いずれも活性化との直接的な因果関係は解明されていません。

活性化現象の開始に伴い、宿主はその場で即座に昏倒し、その身体は十数分程度掛けて徐々に透過し始めます。更に開始から数分以内に、脳内のSCP-1686-JPは高次元図形を三次元空間に投影したような不規則な形状へと、30~90秒程度の時間を掛けて変形/展開します。その後、SCP-1686-JPは未知の原理による飛行能力を獲得し、宿主の頭部を透過する形で脱出して、数秒程度で観測不能となります。この状態のSCP-1686-JPは直接的な目視以外の方法では一切観測できず、映像・画像の記録にも成功しません。また、一部の観察者には、一時的な眩暈と立体感の喪失の症状が引き起こされる可能性があります。

平常時、SCP-1686-JPは宿主の脳機能に一切の悪影響を及ぼすことなく、脳内を自由に移動する性質を有します。この移動性には宿主の状態との関連が見られ、覚醒中の移動距離は1時間に数mm程度と緩慢なものですが、睡眠中に限れば、より活発な活動の様子を観察できます。一方、SCP-1686-JPが脳内で完全に静止し、活動の兆候を一切示さなくなったケースも確認されています。

SCP-1686-JPの活動停止が宿主に及ぼす唯一の影響として、睡眠時のREM睡眠時間の減少と"夢の経験の喪失"が挙げられます。この症状に関して、SCP-1686-JP活動停止前後を比較した際の脳機能及び神経伝達物質量には、有意な差が確認されています。その一方で、人間の夢の経験とSCP-1686-JPの因果関係の存在自体は、現在も完全には証明されていません。

しかしながら、近年の研究成果において、宿主が睡眠時に経験する夢の内容と、その際に観察されるSCP-1686-JPの活動の様子に、関連性を示唆するデータも得られています。簡易的な例では、宿主がポジティブな内容の夢を経験した場合にはより活発な活動性を、反対にネガティブな内容を経験した場合にはより不活発な活動性を示すことが証明されました。また、一部ではSCP-1686-JPが自身の活動の前後に際し、脳内の神経伝達物質の生成を促進/抑制する説も挙がっており、関連研究が継続されています。

SCP-1686-JPは19██年代の生体内部撮影技術の向上に伴い、その存在が財団へと認識されました。しかし、発見時点で既にほぼ全ての人類がSCP-1686-JPの寄生を受けていたことが判明し、現在の特別収容プロトコルが確立されました。なお、現在までに自然界でのSCP-1686-JP発見例は存在せず、母子感染以外の寄生経路も確認されていません。

付記: 現行研究では、人間の睡眠時の夢とSCP-1686-JPの因果関係について、"人間の夢の経験自体がSCP-1686-JPによる産物である"とする説を主題の1つとした議論が行われています。この説は上述されたSCP-1686-JPによる神経伝達物質の生成促進/抑制説から派生しており、睡眠時に生じる夢の経験は、寄生環境を最適な状態に維持することを目的とした、宿主に対しての報酬的作用及び環境改善行為であるとする説を部分的に含むものです。より詳細な研究報告に関しては、資料1686-04を参照ください。

また、現時点において、複数の歴史的文書からSCP-1686-JPと性質・外見の関連性が見受けられる、"脳の中の蛹/虫"に関する描写・記録が発見されています。その一方で、いずれも如何なる手段でその存在が知覚されたのかは不明です。仮に人間の夢がSCP-1686-JP由来の現象である場合、夢に関する文献が紀元前から存在している点を踏まえると、少なくとも紀元前████年代時点にはSCP-1686-JPが存在していた可能性が示唆されています。一方で、厳密にはどの段階から人類史とSCP-1686-JPが接点を持ったのかは判明していません。

事案報告: 20██/██/██、メキシコ███州████にてSCP-1686-JPの集団的な活性化現象が発生しました。この事案により、██人以上の宿主の消失に加え、活性化事案を目撃した多数の民間人が眩暈や幻覚の症状を訴えて病院へと搬送される事態となりました。当時、現地では大規模な抗議デモが実施されており、それに伴いデモ隊と警官隊との致死的な内容を含む衝突が度々報告されていました。集団的な活性化現象の要因については、怪我人の多発、集団的な恐慌や興奮、周囲環境の著しい悪化、ストレスレベルの急激な上昇等、複数の要素が重なったことに関係しているとする意見が挙がっています。

また、近年の調査において、かつて異常な集団失踪現象として超常現象記録に指定されていた複数の事案の内、少なくとも██件がSCP-1686-JPの集団的な活性化現象に由来する失踪事案であったことが判明しています。更なる調査の結果では、いずれの事案においても、組織内における集団的な恐慌や飢餓、貧困、混乱、暴動、支配等といった、集団を取り巻く環境の著しい悪化や滅亡という背景が存在したという点でのみ関連性が示されました。

それに加え、上記のような活性化現象に関する研究では、活性化現象の目撃は、同じ環境下に曝されている宿主の活性化リスクを極低確率ながらも上昇させるというデータが得られています。更に、閉鎖的な集団・組織内で発生した活性化現象は他のSCP-1686-JP活性化の誘発率とリスクを引き上げ、結果として連鎖的な活性化現象を引き起こす可能性があると推測されています。

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    付録: 以下の文書は、集団的な活性化現象の背景状況について詳細に記された、数少ない歴史的資料の1つです。その内容は、16世紀に現アメリカ合衆国ノースカロライナ州█████で発生した集団失踪事案に関連する資料の1つであり、海を漂流していた失踪事案関係者の男性の様子を、████号の乗組員であった[編集済]修道士が記録した報告書からの抜粋となっています。

    なお、SCP-1686-JPに関する未確認/未判明/未解明な性質が多数描写されている可能性があることから、不要な混乱を避けるため、専任の研究スタッフ及び一部職員を除き、下記の回収資料閲覧には暫時的に制限が設けられています。それに加え、文章内には部分的に、内容の修正・検閲・省略が含まれている点にも留意してください。

    今日の夕暮れ時、漂流していた件のロングボートから、1人のイングランド人の男性が保護された。服装は非常に粗末なものであり、身体は痩せ衰えて、まるで骨と皮だけのようだ。年齢は若く見ても30歳程度、多数の古い傷が身体にあったことを踏まえると元兵士か、植民地の開拓者だろうか。彼は飢餓のため、まともに立って歩くことも出来ないほどに衰弱していた。

    身元が分かるような持ち物は見つかっていない。名前、出身地、家族、漂流していた理由などについての質問を何度か行ったが、漂流中に気をやられたのか、要領を得ない返答を繰り返すばかりで埒が明かなかった。今、先生が男性の様子を診てくれている。かなり運が良ければだが、明日になれば、少しはマシになるかもしれない。



    朝になって改めて先生に様子を診てもらったが、男性は昨日よりはまともに喋れるまで回復していた。[編集済]。以上の話を大まかにまとめると、彼はイングランドから来た開拓者で、[編集済]の島で開拓任務に就いていたが、物資不足や不作から島全体が飢饉に陥っていた。そして数日前、その島で何かの騒ぎが起き、一人で海へとボートで海漕ぎ出したという顛末らしい。

    だが、少しまともに話せていたかと思えば、やはり、奇妙な発言を繰り返している。他の島民たちは飢餓の苦しみの中で、次々と天の御使いへと姿を作り変えて昇天してしまっただとか。自分も他の島民たちと同じように、近いうちに肉体から解き放たれてしまうのだとか。いずれも、そう言った旨の内容だ。

    飢饉に陥った植民地で暴動や略奪が起きた、なんてことは、悲しいことだが最近では良く聞く話だ。そのせいで、精神が参ってしまうのも無理はないだろう。あるいは、島で何かが起こったというのも怪しいかもしれない。もしかしたら、島から逃げ出して来たという話すら、彼が漂流中に見た幻覚なのかもしれない。どちらにせよ、気の毒に。



    今日、部屋を訪れた時、彼は部屋の外へ出てみたいと頼んできた。私が理由を尋ねると、どうやら昨晩、自らの住んでいた島のことや、昇天したと主張する家族や友人の写し身を夢に見たらしい。それも、飢饉によって荒んでしまう前の輝かしい風景の中に。島からは遠く離れており、当然、外に出て見渡したところで見つけられはしないだろう。それに、船長が島へと寄ってくれることも無いに違いない。それでも、少しでも気が張れればと、私は彼に肩を貸して部屋から連れ出した。

    だが、甲板へ出て海を眺めるや否や、彼は頭を抱えて震え出すと、突然泣き崩れた。[編集済]。それからすぐ、彼は自らの神に対する罵倒の言葉を口にし始め、自らを欺き罠に嵌めたと、自らを操ろうとしたと、意味分からない憤怒の声を漏らす。私は何とか彼を落ち着かせ、嗜めようとしたが一向に止むことはない。彼は結局、他の船員たちによって無理矢理に船室へと連れ戻されてしまった。彼の身に、一体何が起こったのだろうか。しかし、改めて話を聞こうにも、彼は酷く錯乱しており、まともに話せそうにはない。

    船員たちは話し合いの結果、自分たちにとっての厄介者を使われていない倉庫へと押し込むことに決めたようだ。あの足では船内を自由に歩きまわることも難しいだろうし、別に船員たちは、彼が何かを仕出かせるとも思っていないはずだ。だが、明らかな揉め事の火種が自分たちと同じ船に乗り合わせているというのは、やはり誰しもが、あまり良い気がしないものなのだろう。きっと、そういうことだ。そうでなければ私自身、彼の幽閉に賛成するはずがなかったのだから。



    一体、何故こんな出来事が起こったのかは分からない。今朝、彼は倉庫をどうにかして抜け出して、見つかった時にはマストに自らの身体をロープで縛り付けている状態だった。[編集済]。船員たちはロープを解こうとしていたが、痩せ細った身体でありながらも激しく抵抗し、その結果、船員たちは非人道な手段を取らざるを得なくなっていた。何故、私はそれを止めようともしなかったのか?

    だが、抵抗する間も彼は奇妙な幻想を口走り続けていた。自らの人生は無意味なものであったと嘆いていたと思えば、消えたくない、昇天などしたくないと喚き散らす。仕舞いには、私たちの今までの人生すらも無意味なものだと叫んでいた。

    次第に船員たちの暴力が過激になっていく中、彼は一際大きな叫びを上げた。その時、私たちは何かの光を見た。彼の頭の中に、だ。[削除済]全ての船員がその場で固まり、私は眩暈を経験していた。そんな状況で、彼だけが言葉を発し続ける。

    彼は、消えていく家族の、友人の、同僚の中に御使いの姿を見たと語った。人間たちが歩む人生は御使いの一過程の出来事でしかなく、いずれ御使いが別の姿となって天へと帰る時、私たちの今まで為して来た現実は全て無に帰すのだと。そして、あれらは自身が目覚めた後、何も覚えてはいない。私たちが歩んできた人生の足跡も、記憶も、偉業も、あれらにとって単なる夢の中の出来事と変わりないのだと。彼は、自らが全てを悟り、御使いの真実を説いた者であると、愚かにも私たちに嘯いた。

    私たちは彼に枷を着け、口には布切れを噛ませ、倉庫へと閉じ込めた。やり過ぎだったかもしれないが、今となってはもう取り返しがつかない。彼の話すことは、何故だがあまりにも恐ろしく、耳触りが悪かった。無論、馬鹿げた話であるのは分かっているが、あの出来事が起きてから、不意に現実感が無くなって、自分という存在に不安を覚えることがある。そして、それは私だけではなく、他の何人かの船員たちも同じようを感じているようだった。私は、次の港で厄介者を降ろすように、船長へと進言するつもりでいる。そうでなければ、私の方が船を降りるしかない。



    今日、彼は倉庫から消えていた。服と枷だけが残されていたが、あの身体でどうやって逃げ出したのか見当も付かない。あるいは、誰かが彼を海へと投げ落としたか。昨日のことを思い返せば、船内の誰もがそれをやってのけることが出来た気すらしてしまう。もちろん、私を含めて。ああ、どうかお許しください。

    昨日の出来事もあってか、船員たちは酷く怯えている。中には、男は本当に肉体から解放されて高次の世界へと昇天したのだと信じる者もいるくらいだ。更に何人かは、男の肉体から何かが孵り、昇天する瞬間を見たと狂言を発した者もいる。

    私たちはただ、今日の出来事を忘れるべきだという考えに至った。この件については本国へと報告し、後の全ては専任に任せることにしよう。きっと、件の島へと派遣隊も送られ、彼が言っていったことが真実か幻覚だったのかもハッキリするだろう。

    だが、正直に言えば真実だろうと幻覚だろうと、どうでも良かった。ただただ、これ以上は関わり合いになりたくない、というのが本音だ。これが、恥ずべき振舞いであることは理解している。それでも、昨日の出来事、彼の発した言葉、私が見たものなど、もう何も関係ない。どうか願わくは、あの日の出来事を二度と夢に見ることのありませんように。そして、ああ、神よ。私たちの歩んで来た人生がこれからも、終える時まで変わることない確固たるものであり続けますように。

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