SCP-1734-JP
評価: +22+x
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アイテム番号: SCP-1734-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-1734-JPはセクター-8105の標準的人型収容室に収容されます。SCP-1734-JPを使用して実験を行う場合、レベル3以上の職員の許可が必要です。

SCP-1734-JPとの会話が必要な場合は、10m以上の距離を取り、電子機器を介して行なってください。食事の支給等でSCP-1734-JPと接触する職員 (Dクラス職員を含む) には、耳栓を装備させ、接触時間を最低限に抑えてください。

特別廃棄プロトコルBではSCP-1734-JPの自発的な協力を必要としているため、良好な関係を維持するように努めてください1

説明: SCP-1734-JPは収容以前までは日奉櫓(Isanagi Yagura)として知られていた日本人男性です。年齢は収容当時(2022/7/14)で21歳だったと記録されています。SCP-1734-JPは収容以前は██大学に学生として所属していました。親戚や交友関係等の調査では、SCP-1734-JPの異常性は家族を除いて認識されていなかったことがわかっています。調査対象の過半数の証言で、「口から先に生まれたような」「よく口の回る」「理屈屋」「チャット弁慶」等の形容が多用されていました。

SCP-1734-JPの異常性は、半径5.6m以内にいる他者を説得した時に発現します。SCP-1734-JPに説得された人間 (以下、被説得者) が、その主張に納得すると、説得対象の眼球表面に半透明の硬質な膜状の物質 (以下、SCP-1734-JP-A) が生成されます。特筆すべき点として、SCP-1734-JPの発言自体にはミーム的・認識災害的効果は検出されていません。

SCP-1734-JP-Aの外見は魚類の鱗に似ていますが、成分分析の結果は既知の異常性または非異常性のどの魚類の鱗とも一致していません。SCP-1734-JP-Aは不明な作用により暴露対象の眼球を傷つけることなく、眼球表面から脱落します。

SCP-1734-JP-Aは、被説得者が説得される以前に持っていた信念・概念に関する精神影響作用と、自身の異常性質の転写性を有します。SCP-1734-JP-Aの異常性は、焼却処理または生成した被説得者の眼球表面や口内などの粘膜から吸収されることによって消失します。SCP-1734-JP-AまたはSCP-1734-JP-Aの異常性 (精神影響作用・異常性質の転写性) が転写された物体(以下、被影響物)を生成元となった暴露者以外が摂取すると信念が転移し、その蓄積によって信念が現実性を獲得します。この性質により、SCP-1734-JP-Aおよび被影響物は精神影響性廃棄物・異常転写性廃棄物に指定されています (補遺1734-JP-3を参照)。

補遺1734-JP-1: 以下に示すのは、収容直後にSCP-1734-JP自身に行われたインタビューの記録です。意図しない異常性の発現を防止するため、インタビューは財団のネットワークから切り離されたオフラインのAIC2によって行われました。このインタビューは、異常物体・現象の存在および、財団の理念の説明をし、対象が理解・納得を示した後に行われました。SCP-1734-JPには財団職員との遠隔通信によるものであると説明されています。以下は提供した電子機器を用いて行われたLotus.aicとの文字通信記録の抜粋です。

通信記録1734-JP-2 (抜粋) - 日付2022/7/17

対象: SCP-1734-JP
インタビュアー: 汎用知能 Lotus.aic


(前略)

インタビュアー: あなたの異常性について説明してください。

SCP-1734-JP: 念の為に聞いておきますが、この質問ではどこまでを異常性と言ってるんですか? 「顔覚えが良い」とか「暗算が苦手」とかADHDとかも含めて?

インタビュアー: 一般的に、超常現象に類されるようなものを指しています。例えば、発火能力や読心能力等ですね。ですが、もし、あなたの超常的な能力と「顔覚えの良さ」に何らかの関連があると考えているならば、そちらの自己申告もしてください。

SCP-1734-JP: 了解です。自分自身では、この異常性のことを「目から鱗が落ちる現象」と呼んでいます。大体あのことわざの通りのものなので。

SCP-1734-JP: 俺が誰かを説得すると、相手の目から物理的に鱗が落ちます。些細なこと、例えば「今日の夕食のメニュー」について俺の意見が通った時でも鱗が落ちてしまいます。

インタビュアー: その能力に条件等はありますか?

SCP-1734-JP: メールやチャットでは鱗が落ちないらしいです。あと、電話でも。

インタビュアー: あなたはその能力を隠して生活していましたか?

SCP-1734-JP: もちろん。

インタビュアー: 異常性を自覚したきっかけと、今までにその異常性を発現した機会のことについて、思い出せる限り書いてください。

SCP-1734-JP: 了解です。

SCP-1734-JP: 最初に鱗が落ちたのは幼稚園の時です。家に招いた友達と、玩具の取り合いになった時に、言い合いをしていたら、相手の目から鱗が落ちました。でもほら、小さい子供って、何が変なことで、何が変じゃないのか、よくわからないじゃないですか。だから、まあちょっと妙なことが起こったな、ってぐらいで、特に騒いだりもしませんでした。

インタビュアー: その時に落ちた鱗3はどうしましたか? 目の前で消えるなどの現象は起こりましたか?

SCP-1734-JP: いえ、鱗が目の前で消えたことはありません。その時は、鱗だとは認識していませんでしたが、透明で珍しくて綺麗なものに思えたので、親からもらっていた小物入れの中にしまいました。

SCP-1734-JP: その後も何度か鱗が落ちる現象が起こって、幼稚園か小学校低学年ぐらいの時には、「言い合いをした時」に鱗が落ちるらしいと、ぼんやりと法則をつかむようになりました。

インタビュアー: その後も鱗を集めましたか? それとも捨てていましたか?

SCP-1734-JP: 親に捨てられるまでは集めていました。落ちた鱗は毎度、ポケットに入れて持って帰って、小物入れの中に収集していました。多分、戦利品みたいな気分で集めてたような気がします。でも、小さい子供でしたから、家まで持って帰るまでに無くしたことも多かったかもしれません。

SCP-1734-JP: でも、小さい子供にプライバシーなんてないものでしょう。小物入れの中を見られて、「これは何?」と聞かれて、正直に話したら、「もうやるな」って言われました。今から考えると、あんな小さな子供の言葉をよく信じてくれたものだと思います。

SCP-1734-JP: ともかく、「研究所行きになるぞ」って脅しようが、今までにも見たことがないぐらい真剣だったので、子供ながらに「これはまずいらしい」と理解して、鱗を落とさないように気を付けるようになりました。鱗は小物入れごと親に捨てられたはずです。

SCP-1734-JP: 結局、こうして捕まったあたり、ちゃんと言うことを聞いておくべきだったんですけどね。

インタビュアー: 鱗を落とさないように気をつけなくなったのはいつからですか?

SCP-1734-JP: いつから、と言えるような明確なきっかけがあったわけではないです。少しずつ、ルールに対して緩くなることってあるでしょう。真夜中、誰もいない赤信号を渡ってしまう時とか。加えて、あの時の自分は「言い合い」がトリガーになることしかわかっていなかったから、意図せずに鱗を落としてしまうことも多々ありました。

SCP-1734-JP: 流石に「一切誰とも会話しない」まで徹底してしまえば、学校生活もままなりません。だから、「鱗が落ちる」法則の境界を知るために、自分から危険を犯すこともありました。例えば、携帯電話は中学の時にもらったんですけれど、友達との会話やメールで試してみて、電子機器越しならば鱗は落ちないらしいと確認してみたりだとか。

SCP-1734-JP: そうやって安全な線引きを見つけて、それを踏み越えないように話し方に気をつけて、それでもたまにうっかり鱗を落としてしまって、というような生活を続けました。「目にゴミが入っただけだろ」って誤魔化して、また鱗が落ちて焦ったり、なんてこともありました。「説得」がダメなら、「相手が自発的に思いついた」ような形にすればいいと、誘導するような会話運びにしてみたり、それでもダメなら電話やメール越しに説得したり、とやっていくうちに、会話が得意になったり、友人からは「チャット弁慶」なんて呼ばれるようになったりしました。

SCP-1734-JP: すみません、話が逸れ過ぎましたね。気が緩み始めた時期、でしたっけ。

インタビュアー: 多少の脱線は大丈夫ですよ。こちらとしても、できるだけ多くの情報がある方が助かりますので。

SCP-1734-JP: ありがとうございます。さっき書いた通り、段階を踏んで気が緩んでいったんですけれど、大学入学の境目は少し大きかったような気もします。大学は学生の数が高校と桁違いですし、バイトを始めてからは電車で遠出をすることも増えたので、「その場限りの相手」と話す機会が増えたんです。何度も同じ相手の鱗を落とせば、当然怪しまれますが、一度ぐらいならば誤魔化しも効きます。それで、そういう相手ならば、鱗を落としてしまっても良いかな、と、言葉遣いにあまり気を使わずに話していて、それで何度か。

SCP-1734-JP: 他には、看過できない詐欺を見てしまった時もあり、その時はリスク覚悟で、最初から鱗を落とすつもりで説得しました。一応、先ほど書いた通り、話術には多少の自信があったので、多少の使命感もあって。俺の婆ちゃんも一人暮らしだったから、高齢者を狙った詐欺が許せなかったんです。

(後略)

このインタビューの後に、汎用知能 Lotus.aicの精査が行われました。AICへの異常な影響は検出されませんでした。

補遺1734-JP-2: SCP-1734-JPおよびSCP-1734-JP-Aの性質を確認するための実験が行われました。SCP-1734-JPは実験に協力的な態度を示し、実験協力への対価として数冊の書籍および雑誌が提供されました。以下は初期の実験からの抜粋です。

実験記録1734-JP-1 - 日付2022/8/3

対象: 実験担当: 橋田研究員、被説得者: D-3891。被説得者は自由民主党支持者、SCP-1734-JPは立憲民主党支持者である。

実施方法: SCP-1734-JPとDクラス職員に、どちらの政党を支持するべきか討論させる。実験の進行・監視はAICによって行われた4

結果: D-3891は最終的にSCP-1734-JPの主張に賛同し、SCP-1734-JP-Aを生成した。SCP-1734-JPの発言自体にはミーム的・認識災害的効果は検出されなかった。実験を監視していたAICからは、SCP-1734-JPは豊富な知識とチェリーピッキングによる優れた話術を示したと報告された。

分析: SCP-1734-JP自身が主張していた「相手の目から鱗を落とす」能力が確認できた。

補遺: 生成されたSCP-1734-JP-AにSCP-1734-JP-A-1のナンバーを割り当て、セクター-8105の小型ロッカーに保管した。

実験記録1734-JP-2-B - 日付2022/8/35

対象: 実験担当: 橋田研究員、被説得者: D-3892。


実施方法-1: SCP-1734-JP (実験前の質問で阪神タイガース6のファンであると回答) とDクラス職員 (実験前の質問で読売ジャイアンツ7のファンであると回答) に、読売ジャイアンツと阪神タイガースのどちらの球団を応援すべきか討論させる。

結果-1: D-3892は最終的にSCP-1734-JPの主張に賛同し、SCP-1734-JP-Aを生成した。


実施方法-2: SCP-1734-JP (実験前の質問でコーヒー派であると回答) とDクラス職員 (実験前の質問で紅茶派であると回答) に、紅茶とコーヒーのどちらの方が美味しいか・健康に良いかを討論させる。

結果-2: D-3892は最終的にSCP-1734-JPの主張に賛同し、SCP-1734-JP-Aを生成した。実験後に紅茶のティーバッグとフリーズドライコーヒーを提供したが、双方がコーヒーしか飲まなかった。


分析: 趣味嗜好に関するものもSCP-1734-JPの異常性の範疇であることが確認できた。また、説得内容が異なる場合、同じ被説得者から複数回SCP-1734-JP-Aを生成可能であることが確認できた。

補遺: 生成されたSCP-1734-JP-AにSCP-1734-JP-A-2、3のナンバーを割り当て、セクター-8105の小型ロッカーに保管した。

実験記録1734-JP-3-A,B,C,D,E - 日付2022/8/5

対象: 実験担当: 橋田研究員、被説得者: D-3891、D-3892、D-3893、D-3894、D-3895。

実地方法: SCP-1734-JPに説得すべき主張を指示し、Dクラス職員を説得させる。説得させる主張はSCP-1734-JP自身の信念と異なるものを選択する。


主張-A: 「財団という組織は存在しておらず、自分たちは心理学実験に参加させられているだけである」

結果-A: D-3891は最終的にSCP-1734-JPの主張に賛同し、SCP-1734-JP-Aを生成した。SCP-1734-JPの主張に不自然な点はなく、政治的・倫理的・歴史的・科学的根拠をもとに妥当な推論を主張していた。


主張-B: 「紅茶の方が美味しく、また健康に良い」

結果-B: D-3892は最終的にSCP-1734-JPの主張に賛同し、SCP-1734-JP-Aを生成した。実験後に紅茶のティーバッグとフリーズドライコーヒーを提供したが、D-3892は紅茶を選んだ。

(後略)


結果-全体: SCP-1734-JPは指示された10件の主張のうち、9件の説得に成功した。説得に成功した9件のみでSCP-1734-JP-Aが生成された。

分析: SCP-1734-JPは本人が信じていない主張であっても、相手を言いくるめる能力を持っている。これは高い話術に由来するものであり、SCP-1734-JPの異常性は説得の可否とは無関係である。

実験記録1734-JP-4-A,B,C,D,E - 日付2022/8/6, 2022/8/7

対象: 実験担当: 橋田研究員、被説得者: D-3891、D-3892、D-3893、D-3894、D-3895。

実験目的: SCP-1734-JP-Aが生成されなくなる条件の調査。
仮説1: 電子端末越しか否か
仮説2: 物理的な距離に依存している

実施方法: SCP-1734-JPと被説得者役のDクラス職員に電子端末を与え、チャット上で討論をさせる。会話毎に、SCP-1734-JPとDクラス職員の物理的な距離を0.5mずつ変更する。SCP-1734-JP-Aが生成されるようになった/生成されなくなった場合、その間の距離をさらに20cm刻みで実験を行い、SCP-1734-JPの有する影響距離を測定する。

結果: Dクラス職員が半径5.6m以内にいる場合はSCP-1734-JP-Aが生成され、それよりも遠い場所にいた場合はSCP-1734-JP-Aが生成されなくなった。

分析: SCP-1734-JP-Aが生成される条件が物理的な距離に依存していることがわかった。SCP-1734-JPの有する異常性の影響距離は約5.6mである。

以上は各実験記録の抜粋です。本実験では、SCP-1734-JPの性質の検証項目毎に、最大5名のDクラス職員を用いて同様の手法で様々な概念に対する追加実験が行われました。実験の対象になった議題は、「信仰している宗教」「天動説・地動説のどちらを信じているか」から、「今日の夕食に何を食べるべきか」まで、多岐に渡りましたが、全ての実験で同様の結果が得られました。

説得されたDクラス職員の検査からは、どのDクラス職員も精神影響は受けておらず、SCP-1734-JPの説得に異常性がないことがわかりました。また、生成されたSCP-1734-JP-Aの分析からは、既知の異常性または非異常性のどの魚類の鱗とも一致していないことがわかりました。

事案1734-JP-1: サイト-8105の備品保管室の折りたたみ式テーブルが周囲の人間に精神影響8を与える異常性を有していることが確認されました。調査の結果、SCP-1734-JPを用いた実験との類似性が指摘され、実験で生成されたSCP-1734-JP-Aが保管されていたロッカーが、壁越しに備品保管室のテーブルと至近距離に位置していたことが報告されました。異常性を獲得した折りたたみ式テーブルは暫定的にアノマリーとして登録されました。

補遺1734-JP-3: SCP-1734-JP-Aの異常性の調査

事案1734-JP-1を受けて、SCP-1734-JP-Aに異常性質の転写性が示唆されたことから、廃棄部門管轄の案件である可能性が高いと認識され、追加実験の担当は廃棄部門に委譲されました。廃棄部門は財団内の廃棄物の処理を担う部門であり、アノマリー副産物の無害化、異常性の除去の知見を豊富に有しています。異常転写性廃棄物 (後述) は、場合により極めて緊急度・危険度の高い廃棄物であるため、その関連案件には、迅速な処理を行うことを目的として廃棄部門に多くの権限が認められています。

この追加実験によって、SCP-1734-JP-Aが有する異常性が初めて認識されました。以下はSCP-1734-JP-Aおよび被影響物に関する全実験記録からの抜粋です。下線付き青字で強調されているのは、重要度の高い情報と、連続する類似実験との差異部分です。

実験記録1734-JP-12 - 日付2022/9/16

実験担当: 小嶋研究員 (廃棄部門)

対象:

  • SCP-1734-JP-A-2 (実験記録1734-JP-2で生成されたもの)
  • D-3744、 D-3852、D-3861(事前の聞き取り調査で「プロ野球への興味はない」と回答したDクラス職員)

実施方法: SCP-1734-JP-A-2にDクラス職員を接触させる。

結果: 対象がSCP-1734-JP-A-2から半径0.8m以内に入ると精神影響を受け、支持球団に関する質問に対して読売ジャイアンツファンであると答えるようになった。また、実験前には答えられなかったプロ野球に関する質問に対して、正しい知識を述べた。選手に関する質問への返答は、SCP-1734-JP-A-2の生成者であるD-3892の実験前の回答と酷似していた。SCP-1734-JP-A-2から離れると対象への精神影響が消失し、SCP-1734-JP-A-2の影響で得たと見られる知識も喪失した。

分析: SCP-1734-JP-Aの精神影響異常性が実験下で初めて確認された。

実験記録1734-JP-13 - 日付2022/9/16

実験担当: 小嶋研究員

対象:

  • 事案1734-JP-1で異常性を獲得した折りたたみ式テーブル
  • D-3744、 D-3852、D-3861。

実施方法: 事案1734-JP-1で異常性を獲得した折りたたみ式テーブルを解体し、Dクラス職員を各部品に順に接触させる。

結果: 木製の天板部分にのみ精神影響作用が確認された。プロ野球に関する質問では、実験記録1734-JP-12と同一の結果となった。

分析: 精神影響作用がSCP-1734-JP-Aと同一であることから、SCP-1734-JP-Aが自身の異常性を周囲の物体に転写する性質を有している可能性が強く示唆された。

実験記録1734-JP-15 - 日付2022/9/22-25

実験担当: 小嶋研究員

実験目的: 異常性質の転写性の検証 (材質依存性・転写に要する時間)

実験場所: セクター-8105 地下隔離実験施設 (B254号室)

対象:

  • 感染源: SCP-1734-JP-A-2、折りたたみ式テーブルの天板 (事案1734-JP-1で異常性を獲得したもの)
  • 被影響物(二次): 木材、金属、プラスチック、紙などの素材35品目。
  • 異常性獲得の確認: D-3744、 D-3852、D-3861。

実施方法: 感染源の付近に各種の素材を設置する。1時間後、2時間後、3時間後、5時間後、12時間後、1日後、3日後、1週間後にDクラス職員を接触させ、異常性を獲得した時点で実験を終了する。実験時間の短縮のため、実験A、Bは十分な距離を保った上で並行して行う。

  • 実験A: 感染源としてSCP-1734-JP-A-2を使用。
  • 実験B: 感染源として被影響物 (異常性を獲得した折りたたみ式テーブルの天板) を使用。

結果: 実験Aおよび実験Bのどちらの素材群でも、3日後に異常性の転写が確認された。有機物に分類される素材のみがSCP-1734-JP-A-2と同一の精神影響作用を獲得した。

分析: SCP-1734-JP-Aと被影響物はどちらも異常性質の転写性を有している。

実験記録1734-JP-17 - 日付2022/9/27-30

実験担当: 小嶋研究員

実験目的: 転写性の検証 (距離依存性)

実験場所: セクター-8105 地下隔離実験施設 (B254号室)

対象:

  • 感染源: SCP-1734-JP-A-2、折りたたみ式テーブルの天板(一次被影響物)、実験記録1734-JP-15で異常性を獲得したプラスチック (二次被影響物)
  • 被影響物: 各20個のプラスチック・木材・メモ用紙束・アルミのブロック(10cm x 10cm x 10cm) x 3セット(実験A・B・Cの同時進行のため)。
  • 異常性獲得の確認: D-3753、D-3821、D-3833 (実験記録1734-JP-16と同一)。

実施方法: 感染源からの距離が0.5m - 10mの地点に、0.5m毎に放射状に各素材のブロックを設置する。1日後、3日後、1週間後にDクラス職員を接触させ、異常性を獲得した時点で実験を終了する。実験A、B、Cは並行して行う。

  • 実験A: 感染源としてSCP-1734-JP-A-2を使用。
  • 実験B: 感染源として一次被影響物 (折りたたみ式テーブルの天板)を使用。
  • 実験C: 感染源として二次被影響物 (実験記録1734-JP-15で異常性を獲得したプラスチック) を使用。

結果: 3日後に異常性の転写が確認された。異常性が転写されたのは実験A、B、Cともに0.5m地点に設置されたプラスチック・木材・メモ用紙束のブロックのみだった。

分析: SCP-1734-JPの有する異常影響範囲 (半径5.6m) よりも小さい。

仮説: SCP-1734-JP-Aおよび被影響物の有する精神影響作用の範囲 (半径0.8m) との相関があるのではないか。

実験記録1734-JP-23 - 日付2022/10/1-39

実験担当: 小嶋研究員

実験目的: 転写性の検証 (距離依存性-第2回実験)

実験場所: セクター-8105 地下隔離実験施設 (B254号室)

対象:

  • 感染源: SCP-1734-JP-A-2、折りたたみ式テーブルの天板(一次被影響物)、実験記録1734-JP-15で異常性を獲得したプラスチック (二次被影響物)
  • 被影響物: 各30個のプラスチック・木材・メモ用紙束・アルミのブロック(5cm x 5cm x 5cm) x 3セット(実験A・B・Cの同時のため)。
  • 異常性獲得の確認: D-3753、D-3821、D-3833 (実験記録1734-JP-16と同一)。

実施方法: 被影響物からの距離が10cm - 3mの地点に、10cm毎にプラスチックのブロックを設置する。放射状に各素材のブロックを設置する。1日後、3日後、1週間後にDクラス職員を接触させ、異常性を獲得した時点で実験を終了する。実験A、B、Cは並行して行う。

  • 実験A: 感染源としてSCP-1734-JP-A-2を使用。
  • 実験B: 感染源として一次被影響物 (折りたたみ式テーブルの天板)を使用。
  • 実験C: 感染源として二次被影響物 (実験記録1734-JP-15で異常性を獲得したプラスチック) を使用。

結果: 3日後に異常性の転写が確認された。実験A、B、Cともに、0.8m以内に設置されたブロックのみに異常性が転写された。

分析: 異常性の転写が生じる距離は精神影響が及ぶ距離と一致している。SCP-1734-JP-Aと被影響物が有する異常性質の転写性は同一である。本実験の精度においては、転写の回数による異常性の減衰は見られなかった。

実験記録1734-JP-20 - 日付2022/9/28-30

実験担当: 小嶋研究員

実験目的: SCP-1734-JP-A・被影響物の人体への影響の検証


実施方法-A: 生成者である被説得者にSCP-1734-JP-Aまたは被影響物を摂取させる。Dクラス職員1名につき1枚のSCP-1734-JP-Aを生成させ、職員毎に異なる方法で摂取させた。

対象-A:

  • 被説得者・摂取者: D-3891、D-3892、D-3893、D-3894、D-3895
  • 異常性獲得の確認: D-3901、D-3902、D-3903、D-3904、D-3905

実施方法-B: SCP-1734-JP-Aを、それを生成した被説得者以外の人間に摂取させる。Dクラス職員1名につき1枚のSCP-1734-JP-Aを割り当て、職員毎に異なる方法で摂取させた。

対象-B:

  • 被説得者: D-3891、D-3892、D-3893、D-3894、D-3895
  • 摂取者: D-3896、D-3897、D-3898、D-3899、D-3900
  • 異常性獲得の確認: D-3901、D-3902、D-3903、D-3904、D-3905

結果-共通:
「眼球表面への再接触」・「口腔内の粘膜との接触」・「食材に混ぜて調理した上での摂取」・「分割して半量での摂取」・「被影響物となった食品の摂取」の全ての摂取方法で同じ結果となった。

結果-A: 生成者に摂取させた場合

  • SCP-1734-JP-Aを摂取したDクラス職員全てが、説得以前の意見に戻った。
  • 摂取したDクラス職員は周囲の人間への精神影響作用・異常性質の転写性を有していなかった。

結果-B: 生成者以外に摂取させた場合

  • 摂取したDクラス職員は精神影響を受け、説得以前の被説得者と同じ意見・知識・信念を持つようになった。1日後・3日後・1週間後の質問でも同じ意見を保持したままだった。
  • 摂取したDクラス職員は被影響物としての性質10を獲得した。

分析:

  • 生成者が摂取した場合、説得以前の状態に戻り、異常性は消失する。
  • 生成者以外が摂取した場合、摂取者は被影響物となる。

上述の実験記録を含む廃棄部門による追加実験で理解された以下の性質を根拠に、SCP-1734-JP-Aおよび被影響物は精神影響性廃棄物・異常転写性廃棄物に指定されています。

◇注◇

精神影響性廃棄物 / 異常転写性廃棄物


精神影響性廃棄物: 周囲の人間、あるいはオブジェクトとの接触を持った人間に対する精神影響作用を有する異常廃棄物の分類です。

異常転写性廃棄物: 自身の持つ異常性を他の非異常性の物質に複製・転写する性質11を持つ異常廃棄物の分類です。時間と共に異常性廃棄物が増大する12ため、早急な異常性除去が求められます。

以下はこの追加実験により判明した異常性のリストです。SCP-1734-JP-Aと被影響物が有する異常性は同一です。

  • 精神影響性
    • SCP-1734-JP-Aおよび被影響物は、SCP-1734-JP-Aの生成元となった被説得者が説得前に有していた信念・概念に関する精神影響作用を有します。影響を受けた人間は、その概念に対して被説得者が説得される前に有していた知識および感情を獲得します。影響が及ぶ距離の外に出ると、獲得した知識および感情は失われます。
  • 異常性の転写作用
    • SCP-1734-JP-Aの精神影響作用の有効範囲内に60時間以上存在していた有機物は被影響物となり、SCP-1734-JP-Aと同等の異常性を有するようになります。被影響物も異常性の転写作用を有します。SCP-1734-JP-Aまたは被影響物となった食品を摂取した人間は被影響物となります。
  • 集積による異常性の強化
    • SCP-1734-JP-Aおよび被影響物が集積すると、精神影響作用と異常性の転写作用が指数関数的に強化されます。
  • 異常性の除去方法
    • 完全燃焼により異常性が消失します。
    • 生成者である被説得者が摂取した場合は、異常性は転写されずに消失します。摂取した被説得者はSCP-1734-JPに説得される前の状態に戻ります13
  • 異常性の相殺
    • 対立概念のSCP-1734-JP-Aおよび被影響物同士では、お互いの異常性を相殺する方向に効果が働きます。この効果は、対立概念の被影響物を両方摂取した人間や、被影響物を接近して置いた時に確認されました。

この結果を受けて、SCP-1734-JPに対し、収容前に生成したSCP-1734-JP-Aの所在に関するインタビューが行われました。SCP-1734-JPは「覚えている限りのほとんどは一般ゴミとして捨てた」と回答し、SCP-1734-JP自身の手で収容前の行動範囲・旅行先のリストが作成・提出されました。本リストは、古いものから順にフィールドエージェントによって調査されることが決定しました。

収容前のSCP-1734-JPによって生成されたSCP-1734-JP-Aのうち、一般ゴミとして焼却処理されずに残っているものがある可能性があるため、廃棄部門から異常発見部門へ情報の共有が行われました。

特別廃棄プロトコル-1734-JP


プロトコルA: SCP-1734-JP-Aおよび被影響物の焼却処理

SCP-1734-JP-Aおよび被影響物は、財団保有の焼却施設にて焼却処理してください。焼却前の保管時は金属製容器に入れ、有機物を含有する他の廃棄物から隔離してください。焼却処理後の残渣は非異常性廃棄物と同一の最終処分場に廃棄してください。

プロトコルB: 人間が被影響物となった場合

SCP-1734-JPとDクラス職員を用いて対立概念の被影響物を作成し、これを摂取させることによって異常性の相殺を行ってください。異常性の喪失を確認できた場合、記憶処理の後に解放してください。


事案1734-JP-2: 以下は2023年7月から8月にかけて起こった、SCP-1734-JP-A由来の異常領域の発見・対応の記録です。この事案の記録は、異常転写性廃棄物による廃棄物による典型的な事案として、多くの研修生に公開されています。SCP-1734-JPを担当する職員は必ず熟読してください。

事案1734-JP-2-1: ██村における被影響物の発見

2023/7/14に、██県の██清掃工場から「一般ゴミの中に燃えない植物が混じっている」との通報を受け、財団から調査員が派遣されました。工場から提出された焼却灰には人の手で刈り取られたと見られる複数の葛 (Pueraria lobata Ohwi) が残っており、焼却の影響を受けずに原型を保っていました。解析チームの初期調査により、葛からは以下の異常性が確認されました。

  • 焼却・冷凍に対するほぼ完全な耐性 (焼却・冷凍試験の前後で、損傷・変色等は確認されませんでした。また、十分な水分が存在する環境に放置すると、成長を再開しました。)
  • 精神影響作用 (半径約6m以内の人間に対して、特定の意見を保持させるもの。異常性の及ぶ範囲外に出た場合、影響は消失しました。)

フィールドエージェントにより██清掃工場が担うエリア内の葛の調査が行われ、調査開始から7日後に同じ異常性を有する葛が██村で発見されました。葛は██村のほぼ全域に繁茂しており、住民は葛による精神影響を受けていました。

以下はフィールドエージェントによる初期調査で作成された、葛が有する精神影響作用のリストの抜粋です。██村に派遣されたエージェントから、以下の概念を支持・信頼させられる精神影響を受けたと報告されました。

葛が有する精神影響性のリスト (抜粋)

  • 水素水
  • ゲルマニウム (ブレスレットなど外用製品による健康効果言説)
  • マイナスイオン (大気中に浮遊する微粒子における、マイナスの電気を帯びた大気イオンの健康効果の言説)
  • ブランド葛「永寿葛」およびその成分を利用したサプリメント
  • 特定のシール製品による電磁波防止効果
  • 量子力学のスピリチュアル的解釈
  • クォンタムシンクロ症候群14

事案1734-JP-2-2: 廃棄部門の参入と第二次調査

██村がSCP-1734-JPから提出された滞在・旅行先リストの項目のうちに含まれていたことと、葛が精神影響作用を有していることから、SCP-1734-JP-Aの被影響物である可能性が指摘されました。サイト内での追加実験により、工場から提出された葛と██村で採取された葛の双方に異常性質の転写性が認められ、SCP-1734-JP-Aの被影響物であると同定されました。これを受けて、██村における異常性の葛繁茂地域が異常領域-1734-JP-1に指定されました。

██村における被影響物の葛が焼却耐性を有していることから、焼却処理により異常性を除去する既存の特別廃棄プロトコルが適用不可能であることが問題視され、この問題に焦点を当てた調査がなされることとなりました。また、異常領域-1734-JP-1が複数の独立な概念の重ね合わせで生じていることから、「対立概念の被影響物による効果の相殺」も同様に困難であると理解されました。

廃棄部門の研究員がSCP-1734-JP-Aの実験に携わっていたこと、同部門が異常性の除去の知見を豊富に有していることから、以後の調査は廃棄部門の主導の元に行われることになりました。対策チームの研究班は二班に分かれ、異常領域-1734-JP-1の調査をする現地班、サイト内で生成したSCP-1734-Aおよび被影響物を使用して異常性除染方法・廃棄方法を研究する実験室班の二方向から本事案への対応策を探ることが決定しました。

より広域の調査のため、現地班による第二次調査には複数機のドローンが使用されました。調査範囲は██村および周辺の山間部であり、広範囲に渡る葛の繁茂が確認されました。本調査では視認可能な異常現象は確認されませんでした。ドローンの一機が仮設拠点への帰還中に██村住宅地にて通信途絶しました。

事案1734-JP-2-3: 第三次調査と現実改変効果の発覚

ドローンの通信途絶を受けて、最後に映像が送信された地点に少数のエージェントが派遣されました。ドローンには墜落以外の損傷は見受けられませんでした。後の検証では、仮設拠点からの操作を受け付けなくなったためにその場で停止して対空、のちに電池切れで墜落したものと推測されています。

ドローンが墜落した地点は住宅の直上だったため、同エージェント (複数名) により該当住居の訪問調査が行われました。エージェントが装備した擬態型カメラにより住居内部の映像記録が撮影され、当該住宅内に大量の電磁波防止シールが貼られていることが確認されました。加えて、派遣されたエージェントのうち2名が持病の快復・古傷の消失を報告しました。住宅内の特定の物品 (ゲルマニウムを使用した健康器具) に接近した際の現象であることがエージェント両名からの報告で共通していました。本案件を受けて、異常領域-1734-JP-1が有する現実改変効果が認知されました。

また、本調査で異常領域内で採取されたサンプルからは、有機物全般におけるSCP-1734-JP-Aの被影響物としての性質 (葛と同じ精神影響性・異常性の転写作用)と、一部の昆虫15の破壊耐性・焼却耐性が確認されました。葛が焼却耐性を有していること、精神影響効果の中に"ブランド葛「永寿葛」およびその成分を利用したサプリメント"に関するものがあることから、本異常領域内の現実改変効果は精神影響を起点とするものであると推測されました。

以下はSCP-1734-JP-Aを発端とする現実改変効果の発現プロセスの仮説です。検証実験は危険性と経費を理由に行わないことが決定されています。

SCP-1734-JP-Aを発端とする現実改変効果の発現プロセスの仮説

実験事実として、SCP-1734-JP-Aまたは被影響物を生成元となった暴露者以外が摂取すると信念が転移し、摂取者自身が被影響物となることがわかっています。また、一般的に、多くの異常物体には周囲のヒューム値に影響を与える性質が確認されています。この二つの事実から、多量の被影響物によりヒューム値が不安定化した環境と、集積により強化された精神影響を受けた大人数の人間の相乗効果によって信念が現実性を獲得したのだと考えられています。

事案1734-JP-2-4: 住民の避難

住民の安全とより円滑な異常性の検証・除染のため、カバーストーリー「集団感染」を流布した上で██村の住民全員を隔離しました。住民の保護・誘導には機動部隊・フィールドエージェント38名が緊急動員され、精神影響緩和機能のあるヘルメット型の頭部装備が利用されました。本対応により同装備の有用性が確認されたため、以降の異常領域内活動には本防護装備の着用が義務付けられることになりました16

事案1734-JP-2-5: 第四次調査 (異常領域の外縁調査)

ドローン及びDクラス職員を使用したおおまかな境界調査が行われました。██村の住宅地・農地のみならず、道路整備が行われていない山間部まで含まれていたため、全ての境界部分を確認することはできませんでした。確認された境界が全て同一の中心を示す円弧状であったことから、異常領域-1734-JP-1は半径4kmの円形の領域であると推測されました。サンプルとして異常領域-1734-JP-1から持ち帰られた植物は、第三次調査と同様に、全て被影響物となっていることが確認されました。

異常領域-1734-JP-1は緊急閉鎖区域に指定され、異常領域の辺縁から十分な距離をとった上で防護柵および常駐職員のための簡易設備が設置されました。現実改変効果による調査員への影響を考慮し、本調査から異常領域内の滞在時間制限 (1日あたり最大3時間、1週間あたり最大10時間) が設けられました。

事案1734-JP-2-6: 領域内調査・各種実験結果を受けての対策会議

実験室班によるSCP-1734-JP-Aを用いた精密測定及び、異常領域-1734-JP-1の半径が一日あたり約60m拡大している観測事実から、十分な量の有機物に囲まれた状態にある異常領域-1734-JP-1の拡大率は1.014程度であると見積もられました。この値は、約50日ごとに半径が2倍になることを意味しており、約一年で日本列島全域、約二年で地球全土が異常領域化することを示唆します。この事実から本事案はAK-クラス世界終焉シナリオ17進行事案として登録されました。

実験室班の見立てでは、焼却以外の手法による大量の被影響物の異常性除染方法の確立には、研究環境が万全な状態18において、最短で約一年、最長で五年を要すると見積もられました。この見立てにより、実験室班での異常性除染方法の研究開発と並行して、現地班による異常領域-1734-JP-1拡大の遅延・封じ込めを行う方針が決定されました。この決定を受けて、廃棄部門は遅延・封じ込めのために以下の対策を提案しました。

廃棄部門による提案 (概要)


  1. 周辺の未感染地域を焼却処理することで、異常性の感染の拡大を防ぎつつ、転写対象となる有機物の減少と拡大速度の低減を図る。
  2. 異常領域-1734-JP-1の性質に関連する概念のリストを完成させることで、対立概念の被影響物を用いた効果の相殺・抑制を行い、焼却耐性の除去または焼却以外の手法による異常性除染手法の確立までの封じ込めを行う。

提案は承認され、本提案に基づいて以降の領域内実験が計画されました。

事案1734-JP-2-7: 「永寿葛」に関する情報収集

疑似科学商品の概念が被影響物の焼却耐性の起源と推測されたため、██村で疑似科学商品を取り扱っていた業者の調査が行われました。██村で「永寿葛」のサプリメントを販売していた元個人事業者である水原正敏氏が発見されたため、詐欺商法を題材にした小説の取材の体でインタビューが行われました。

音声記録1734-JP-027 書き起こし抜粋(2023/8/5)

対象: 水原正敏
インタビュアー: エージェント・鈴木


水原: 僕の話を聞いても、参考になるかわかりませんよ。多分、詐欺やる人ってもっと別のバックグラウンドの人が多いんじゃないかと思います。

インタビュアー: と、いいますと?

水原: ええとですね、僕の場合は、食事を切り詰めて肋骨が洗濯板になるぐらいの極貧ポスドク生活で、「で、その研究って何の役に立つの?」って言われ続けて逆ギレして始めたみたいなものなので……。

水原: 予算足りなくて研究費に自腹切ったり、遠心分離機買えなくて調理用の回転式水切りで代用したり、とんでもなく高い論文掲載費払ったり、あの時は本当に金がカツカツで。

水原: 研究者になってわかったことなんですけどね、結局、偉い人々や世の中の人々が欲しいのは「役に立つもの」なんですよ。地道な実験の積み重ねになんて興味はないし、金にならないもの、どう役に立つのかわからないものにお金を落とす気にはならないし、世の景気が良くなければ、尚更利益の出そうな研究ばかりが優遇される。

インタビュアー: 世知辛いですね。

水原: ええ、本当に。……それで、夜にスーパーの値引き食品を漁りに行っていた時、山のように積まれた人気商品の水素水を見て、こう、頭の中で何かが切れてしまいまして。それならあんたらが欲しがる夢の方を売ってやろうじゃないかって、……今から思い返せば、馬鹿な決心をしてしまいました。

インタビュアー: それで、葛の商品を売ることにしたんですか?

水原: はい、すぐに葛に行き着いたわけではありませんけれど。最近までただのポスドクだった自分に、擬似科学で詐欺ができるような発想力も話術もありません。血液クレンジングやら、小さなシールで電磁波を防止できるやらのトンチキは、そう簡単に思いつけるものではなくて、だいぶ頭を捻りました。

水原: 疑似科学の詐欺をやるにあたり、大事なことはいくつかありますが、そのうちの二つが「原価の安さ」と「安全性」です。効果がないならばまだしも、有害なものを売りつけるは支障がありますからね。簡単に言うなら、ブルーベリー19は良くても瀉血はダメってわけです。磁場かけたり水素を入れたり、水関係の疑似科学商品が多いのはそういうわけかと、やる側になって納得しました。

水原: と言うわけで、火山の力で細胞を活性化する深成岩足ツボ製品とか、高磁場をかけた「波動水」とか、まあ色々やってみたんです。結局、続いたのは「永寿葛」シリーズだけで、これがうちの主力商品になりました。

インタビュアー: 何故葛を選んだのですか?

水原: まず、漢方に使われているあたり、「効きそう」なイメージがあるからですね。この商売ではイメージとパッケージが大事なんです。ハッタリが説得力になります。あとは、同じ理由で、引用できる論文が沢山あったのも大きいです。論文があれば、それらしさが増しますが、掲載料や手間も馬鹿になりませんからね。……あれだけ頑張って博士号とったのは、詐欺商売の箔をつけるためなんかじゃなかったのに。

水原: あとは、育てやすさですね。葛はそもそも繁茂力がすごいので、勝手に育ちます20

インタビュアー: どのような効果があると宣伝していたんですか?

水原: ホームページやらパッケージやらには「免疫力が気になるあなたに」とか書きました。薬機法違反になるのでね。でも、接客ではついつい口が滑って、免疫をあげて万病に効くと謳ってしまっていました。治癒能力も高めて、怪我の治りも早くなるってね。

インタビュアー: 販売をやめたのは、薬機法違反で、ですか。

水原: はい。旅行だか何だかで村に来ていた大学生21に通報されて、警察にしょっ引かれて散々な目に遭って、足を洗いました。今は夢を諦めて、真面目に科学知識を使って働いていますよ。金になる技術のために、ですけど。

インタビュアー: 地域でいうと、どのあたりで活動されていたんですか?

水原: 当時住んでいた██県南部を中心に活動していました。

インタビュアー: 店もそこに開いていたり?

水原: いいえ、販売はオンラインのみです。駅前のショッピングモールや、駅前のバザーなどの、1日限りのイベントで顧客を獲得しました。ほら、当日契約限りの割引とかもつけて、判断力を鈍らせるアレです。

水原: あとは口コミも。利用者自身の評価なら、薬機法の対象外ですからね。

インタビュアー: ██県南部というと……██村あたりでも販売されていたんでしょうか。

水原: はい、そこが僕のメインの客層でした。ちょうどよく、お金を持て余している方々がいる場所だったので。僕が知っているだけでも、両手では足りない数の詐欺師たちが入り浸っていました。

インタビュアー: そんなにですか。

水原: はい、色々な好条件が重なっていた場所だったので。僕があそこで活動できたのは初期に入り込めたからだと思います。末期は完全にレッドオーシャン状態でしたから。

インタビュアー: 末期というと、他の詐欺師も水原さんと同じ時期に手を引いたんですか?

水原: ほぼ一斉に警察のお世話になりましたね。まあ、あの後の██村には行っていないので、他の詐欺師が今どうしているかは知りませんけれど。まだあそこで商売している人もいるかもしれません。

インタビュアー: 水原さんは██村では永寿葛だけを売っていたんですか?

水原: はい。水系の商品はもう水素水が定着しちゃっていたので波動水は売れず、深成岩グッズも同じく、ゲルマニウム商品22と競合して。だから、「永寿葛」シリーズだけが続いたんです。

インタビュアー: 色々な好条件とおっしゃっていましたが、騙されやすい方々が多かったんでしょうか。

水原: それは……どうなんでしょう。あの人達がどこまで信じてくれていたのかはわかりません。あの村は、子供が上京して老夫婦ふたりきりだとか、連れ合いに先立たれて独り身だとか、そういう寂しい家の多いところでした。薬の効果なんて、きっと買っていた理由の半分ぐらいで、ただ話し相手が欲しかったのではないかと思います。あの時の僕は、売りつけるために熱心に話しかけていましたし、顧客の相談にも雑談にも、積極的に乗ってあげていましたから。……それで、僕を含む詐欺師たちにつけいられたのだと思います。

インタビュアー: あなたや他の方々が販売していた商品の効果に、「燃えない」、「火でも大丈夫」というようなものはありましたか?

水原: ええと……あまり他の商品には詳しいわけではありませんが、心当たりはないです。水も岩も金属も、元から燃えないものなので、そういう意味ならば「燃えない」と言えなくもないかもしれませんが。

インタビュアー: 「永寿葛」の方は?

水原: 敢えて言うならば、「死なない薬草」、「強靭な生命力の源を凝縮」の宣伝文句は、そう捉えられなくもないかもしれません。「火傷にも効く」と言ってしまったような気もしますが、辞めたのは2年近く前の話なので、記憶が少々曖昧です。

事案1734-JP-2-8: 第5回区域内実験の中止

現地班の研究員の一人である小野塚研究員からの精神影響症状の自己申告により、第5回領域内実験は予定時間より短い1時間で中止されました。

第5回領域内実験の記録映像より書き起こし抜粋 - 2023/8/7


[ペットボトルの蓋を開ける際、小嶋がペットボトルに対して「ありがとう」と言う]

朝倉: 今、何か言いましたか?

小嶋: [沈黙]

朝倉: 体調等に影響でもありましたか? 実験を中止するのでしたら──

小嶋: 「氷からの伝言」23まであるのか……。

朝倉: はい?

小嶋: 聞かなかったことに……してはいただけませんよね。

朝倉: ネガティブに作用する精神影響効果でしょうか。実験を中止して拠点に戻りましょう。体調の方はどうですか。

小嶋: いえ、大丈夫です。ちょっと、……ショックを受けてしまっただけですので。自分の行動に。

小嶋: ええとですね、異常領域の概念リストに「氷からの伝言」を追加する必要性が出てきました。水に良い言葉をかけたり悪い言葉をかけたりすると結晶の形が変わるとかいうアレです。

朝倉: ああ、それなら聞いたことがあります。一時期有名になってましたよね。でも、あれって小学校の先生まで騙されて授業に使っていたものでしょう。そんなに落ち込まなくても……。

小嶋: 工学部出身として、ちょっと自分が許せなくて。まるっきり専門外の分野のネタだったらまだ良かったんですけど……穴があったら入りたい……この動画消せません? いや、無理なのは知ってますが……

朝倉: そもそもオブジェクトの精神影響ですから、そんなに気落ちしなくても良いのでは? 我々エージェントはこのような状況も日常茶飯事ですし。

小嶋: ……そうですね、取り乱してしまってすみません。ありがとうございます。ともかくも、私の防護装備に不具合があるかもしれないので、あまり長居せずに戻った方が良さそうですね。今のところ、他に自覚症状はありませんけれど、何があるかわかりませんし。

小嶋: でも、せっかくですし、帰る前に一つだけ実験をさせてください。朝倉さんはそのペットボトル、まだ飲んでいませんよね? いただいても?

朝倉: 構いませんよ。どうぞ。

[朝倉が携帯していたペットボトルを手渡す。]

小嶋: ありがとうございます。

[小嶋が大きく息を吸い、大声でペットボトルを罵倒する。]

小嶋: 馬鹿! 阿呆! 間抜け! 不器用! 頭でっかち! 人の心がない! 屁理屈野郎! 机上の空論! 無鉄砲!  ……えーと、金食い虫!

[小嶋が雑草の上にペットボトルの水を注ぐ。雑草が直ちに枯れる。]

小嶋: 見ました?

朝倉: 枯れてますね。

[小嶋が実験用携帯型バーナーで雑草を炙る。雑草が直ちに炭化する。]

小嶋: 燃えてますよね?

朝倉: 燃えましたね。

小嶋: この性質、もしかしなくても収容作戦の糸口に──ともかく、至急報告しましょう! ……この動画、報告時は実験部分だけ切り取れませんかね?

朝倉: おそらく経緯として見せることになるのでは?

[小嶋が手で顔を覆う]

事案1734-JP-2-9: ミヅハノメ作戦

財団所有のヘリコプター3機による散水作戦が決行されました。散水にはDクラス職員により1時間以上罵倒された水24が使用されました。散水中から半日後まで、異常領域境界には、被影響物となった移動能力を持つ動物の脱走を防ぐために自衛隊に扮した機動部隊が展開しました。

散水直後から異常領域-1734-JP-1内の樹木の枯死が視認され、異常性の沈静化が確認されました。ミヅハノメ作戦の翌日に焼却作戦が行われ、こちらも予定通り完遂され、カバーストーリー「山火事」が流布されました。

事案1734-JP-2-9: 異常領域-1734-JP-1の鎮静状態の維持と今後

隔離された住民には、特別廃棄プロトコルBに則り、対立概念の被影響物 (食品) を摂取させることで異常性の相殺を行い、記憶処理の後に解放されました。

2023年9月、異常領域-1734-JP-1の完全除染技術開発までの臨時収容プロトコルとして、以下が決定されました (地表の動植物のみならず、地下の物質も被影響物となっていると推測されるため、焼却のみの手法で異常領域-1734-JP-1内の異常性の完全な除染を行うことは不可能であると考えられています) 。

臨時収容プロトコル-1734-JP


残留している異常性の抑制・鳥類・小動物を媒介した異常性拡大の防止を目的として、半年毎に後述の特殊処理を行った水の散水と領域内の植物の焼却作戦を行ってください。散水作戦にはDクラス職員による罵倒の録音データをスピーカーで24時間以上流し続けた水を使用してください25

廃棄部門による大規模異常性除染技術の開発研究も順調に進んでおり、2025年の夏には事態の収束に至ると見込まれています。

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