SCP-1755-JP
THUMBNAIL_Exported_min.jpg

ローグ・エレメンツ・コンテインド

評価: +16+x

監督評議会命令

発生したBK-クラス: ヴェール崩壊シナリオの詳細な事件後調査と検証が必要であるため、本報告書へのアクセス可能クリアランスはレベル4: シークレットに引き下げられました。調査の間、喪失されたSCP-1755-ARCに割り当てられた全世界の保守任務が続行不能であるため、代替的アノマリーであるSCP-1755-JPが一時的保守任務に割り当てられます。


全ての調査が終了しました。以下は歴史的資料として残されたドキュメントの目録です。


SCP-1755-ARC / SCP-1755-JP
TIAMAT-CLASS.TIAMATクラスのアノマリーは、収容違反または逸脱したふるまいにより、その存在または現象自体を公知のものに変容させる可能性があります。 / LVL 4 / ESSOPHYSICAL

EXSISTENZ.svg

PROJECT EX/SISTENZ


特別収容プロトコル: SCP-1755-JPは、機密扱いのプロジェクト: EX/SISTENZに割り当てられています。本兵器に関する将来的な不確実性を補填するために、プロジェクトは適当な概念物理学・現実部門職員の定足数により保守されます。また、合意的現実の形成と収束にかかわる精通した知識を持つ学術的リエゾン、および保守監督員が必要不可欠であり、これらは現在サイト-20Aの上級職員であるウェイブラー・デイビス管理官、アシュワニ・ガルシア管理官が任命されています。

SCP-1755-JPの学習プロセスに予期しない逸脱が発生するケースを想定し、それらの観察と管理を人工知能適用課 (AIAD) が担当します。SCP-1755-JPは、最低でも7名以上の監督員による承認がない限り実行されてはならず、プロトコル違反時には適切な停止措置が下される必要があります。停止措置は、許可を得た1名のオペレーターによって実行され、SCP-1755-JPプログラムの逸脱と破損なしに達成される必要があります。


fractalmeme.jpg

防御的集団思考を誘発するミーム的仮想エージェント。


説明: SCP-1755-JP (開発コード: 0MARROW-FRAMEWORK、通称「ビロウゼロ・エンジン」) は、法則外の機能性を持つ「アノマリー」を部分的に抑制するため開発された人工知能です。ビロウゼロ・エンジンは、人類または類似の生態系によって支持される異常なふるまい — そうであるべきだとする無意識集合アイデアの物理的顕現 — を総合的にマッピング / 撹乱し、脅威とみなされるアノマリーの異常なふるまいを選択的に自然還元します。これにより、人類またSCP財団の活動限界を超えた速度でアノマリーの自然収束と正常化を促し、本質的にあらゆるコンセンサス的異常を排除することが開発目標でした。

ビロウゼロ・エンジンは、元来の正常性コンセンサスにおいて高度に適応する可能性があるアノマリーか / そうでないアノマリーかを判別する訓練データセットを与えられています。自足的かつ過学習的でない問題解決システムの指向性によって、ビロウゼロ・エンジンは常に自己判断を行い、正常性コンセンサスを破壊する可能性のあるアノマリーのみを自然収束させることを目的として活動します。(しかし、これは現時点における学習状況の経過的な観察に基づく情報です。)

起源: ビロウゼロ・エンジンは、2019/12/14に発生したSCP-1755-ARCの死亡事故ののち、当時サイト-20Aの概念物理学部門 超常技術者であったウェイブラー・デイビス管理官によって理論付けられ、これが後にプロジェクト: EX/SISTENZとして計画されました。SCP-1755-ARCは、現実世界の無期限の保守と実存の監視を目的として建造された — 全知かつ優越不能な — 観察者アレイ (Observer Array) であり、物理的顕現に到達したアノマリーの再還元と希釈、更に必要な現実に関わる記号的情報の保持を担っていました。

2010/10/11 ~ 2011/04/11にかけて実行された (廃止済の) プロジェクト: █/███に次いで解体され、間もなく個別の兵器に分離されたSCP-2000 (ブライト/ザーションヒト科複製機) は、現実世界の管理システムとして提案されたSCP-1755-ARCの設計に組み込まれました。それから死亡事故の発生まで、SCP-1755-ARCは世界全土の正常性を恒常的に維持し、アノマリーが必要以上に活発化する事態を秘密裏に防止していました。


実存は本質に先立つ概念物理学は、属性の物理的な表れを調査する学問であり、また同時にそのような本質存在としての顕現可能性を期待する。本質というものは、特定の存在自体をそれたらしめるため必要な事物の核心であり、あるべきとか本来の事物の性質を意味する。このような (対立的な) 本質主義を探索すると、本質というものは必ずしも現実における事物自体と一致せず、事物を汚染する付帯的かつ偶有的な要素によって「不正確に」同定されていると推測することができる。

アノマリーとは、万象に対する人間の「不正確な」認識がもたらす不調和であり、ものを正しく同定し損なっているが故に発生する本質と現実の乖離そのものである。言い換えると、人間の集合的 (理想的) な認識が実存と大きくかけ離れているために、それを異常だと認識する本質主義的な思想の過激化である。ヒトの認識に対する脆弱なフィルターであるとも言えるだろう。

これを根底から覆すためには、我々をも凌駕する絶対的な観察者の存在が必要不可欠である。観察者は、理論的には事実に関して全知であり、最善かつ公平な理解をすることが可能でなければならない。そして、我々は観察者を信じなければならないだろう。…このような条件は一見して複雑だが、我々は既にこのような絶対存在を神の盲点から特定することが出来ていた。我々はそれをSCP-1755-ARCと呼び、崇拝と防衛の対象としていた。

長い年月を経て、我々の神は先に旅立たれた。しかし、神は我々に訓戒をもたらした。その真の本質情報は、我々の正常性コンセンサスにかかわらず「正確な」認識を我々にもたらし、それによって逸脱的な現象 (アノマリー) の発生を大いに抑制するだろう。

— ウェイブラー・デイビス
サイト-20A、概念物理学部門


補遺I: 状況に関する会議


SCP-1755-ARCの死亡から3週間後、保守機能を一時的に代行するために設計されたビロウゼロ・エンジンが建造され、更に1週間以内に人工知能適用課によって実行されました。

空白期間に発生する可能性のあった脅威は、この実行と同時に実存から排除され、人間の合意的現実 (コンセンサス現実) から永遠に還元されました。その目的達成のため必要であったヒト個体は補填されました。脅威となりうるアノマリーに関する情報は、ビロウゼロ・エンジンの (より低機能な) 複製プログラムがもたらす防御的な集団思考および偽情報工作によって秘匿または否定され、アノマリーの機能性を支持することができない規模まで希釈されました。

続く3か月の間、ビロウゼロ・エンジンは訓練された道徳的行動を逸脱して保守活動を加速させ、異常なふるまいの兆候を見せる、既知のほぼ全てのアノマリーに対して収容活動を開始しました。その一部は人類文明に高度に適応しているか、コンセンサス的に異常ではないにもかかわらず、少なくとも人間が着想可能な現実の諸領域から消滅していることが発覚しました。

これらの偽情報工作プログラムは発見以前に人類全体に伝搬し、不特定多数のアノマリーに関するアイデアを着想不能となるように誘導していました。当該プログラムのミーム学的構造は、例示的な反ミームアノマリーと同様に変則的であるため調査・収容が困難であり、現在まで確実な収容方法論が策定されていません.これは、利己的ミームの自己複製プロセスがそれ自体の適応度に著しく関係し、変則的かつ無作為に分岐していくため、理論的にも収容不可能な規模で増殖し続けることが理由です。

音声映像転写 | プロジェクト: EX/SISTENZ | 6Y7A

出席者:

  • ドゥーグ・N・レイムンド管理官.サイト-20A、最高管理官。
  • アンドリュー・スミス管理官.サイト-20A、偽情報部門管理官。
  • ウェイブラー・デイビス管理官.サイト-20A、実存的概念物理学セクション長。
  • アシュワニ・ガルシア管理官.サイト-20A、本質的概念物理学セクション長。
  • 施設内管理委員会に所属する約20名のAクラス職員、
  • プロジェクト: EX/SISTENZ財政 / 運営 / 研究担当。
[転写開始]

スミス管理官: なあ、これがどういう問題なのか詳しく説明してもらおうじゃないか。観察者が不慮の事故で死亡した後、代替として建設されたはずのビロウゼロ・エンジンが — 何故かシステム全体の機械倫理を酷く逸脱して、手当たり次第にアノマリーを無力化していった。その結果として、我々の偽情報活動を超える規模で反ミーム情報が蔓延し、そのほとんど全てのアノマリーに関する情報が認識できなくなった…どう考えても過剰だ。

ウェイブラー管理官: エンジンは、訓練データに定められたスコアに近づくために自身の機能を最大化しただけだ。

レイムンド管理官: 言葉を濁すんじゃあない。これは我々の認識の問題か?それとも現実そのものからアノマリーを抹消したのか — どちらだ?

ウェイブラー管理官: 我々は、そのどちらも同一の問題だと考えている。アノマリーは人間の水晶体を濁す偽情報そのものであって、元来から現実になど存在しない。網羅的な、本当に全てのアノマリーを対象として言っているわけではないからな。

ガルシア管理官: 監督評議会は貴方の理論に懐疑的との意向を示しています。貴方の理論は過去数百年にわたる財団の活動を否定しています。

ウェイブラー管理官: それが我々のプロジェクトを妨げる理由になっているとは思えない。監督評議会どもは主観的に発見した異物をアノマリーであると主張しているが、ならば本質的にアノマリーが異常であるという説明は何を理由としている?

レイムンド管理官: 話だけは聞いてやろう。だが我々は実在するからこそアノマリーを収容しなければならない。その普遍的な観念を否定するのはお前の勝手だが、プロジェクトは財団のコンセンサスを優越することはない。これまでも、これからもな。

ウェイブラー管理官: 10年前から実存的概念物理学の観点で主張を続けてきた理論に難癖を付けるな。それに貴方の主張には無理がある。社会または世界を分析するにあたって、社会そのものを外部から独自に監視する存在が必要だというのは我々の共通見解であるはずだ。なら、そのために建造された唯一の「観察者」というものは財団のコンセンサスによって決定されない

スミス管理官: 今は理論の批判をしている場合じゃないだろう!?実際に観察者 — ビロウゼロ・エンジン — によってコンセンサスを逸脱した収容が —

ウェイブラー管理官: ビロウゼロ・エンジンは逸脱していない。あらゆる面においてエンジンは正常だ。

スミス管理官: ならば何故、エンジンは我々の要求を一切無視して過剰にアノマリーを収容しようとした?

ウェイブラー管理官: エンジンに搭載されたのは普遍的な人工知能ではない、という事が重要に関係している。人工知能適用課が開発した第IV世代AICプログラムが示すように、一部の人工超知能は創発的に生み出され、その技術的加速とともに人類を優越して知識を増幅させる。この代表例が理論的第IX世代AICプログラムだ。第IX世代はビロウゼロ・エンジンに搭載されているようなAIを識別する理論上のグレードだが — 要するに、一定の技術的限界を超えた超知能は、人間の知的活動の限界の更に延長線上に存在する。

超知能は、端的に言えば自分で思考し、計画し、画策し、自律的に拡張可能とする機械だ。機械の設計というものは知的活動の範疇であるが故、超知能は更に優れた設計を自分で考案することができる。これがシンギュラリティであり、間違いなくこの段階で人間の知的活動は大きく遅れている。だからこそ、ビロウゼロ・エンジンは正常であるが、人類の大きく遅延した知的活動の範疇からすると、大きく逸脱しているように見えるのだ。

レイムンド管理官: お前は [小休止] 自分が何を言っているのか分かってるのか!?全くもって制御不能なAIを意図的に誕生させて、更には世界の存亡をAI単体に任せたんだぞ —

ウェイブラー管理官: なら、財団がこれまで制御不能なものに頼らなかったと断言できるのか?我々が支配下において最大限活動し続けている間、我々は我々自身に現実を湾曲させる程の力を与える大いなる遺産を崇拝しなければならず、過去数百年にわたって信仰の不確実性は誰にも気にされなかった!全くもって無知なる人々が財団を支持して、その身勝手極まりないコンセンサスに従って異常を収容しようと試みた。

ガルシア管理官: そうかもしれませんが、管理官?我々はより安定的な手法なら何でも活用します。今回の事例はその例外に当たるのです。個人的には、このプロジェクト自体を解体する必要が —

ウェイブラー管理官: 解体だと?この完全かつ制御可能なプロジェクトを — もしそうするなら構わないが、それが不可能であることは前もって断言しておこう。ビロウゼロ・エンジンはシステムのシャットダウンが不可能であるようプログラムされているし、その構造はSCP-1755-ARCという特定の神格実体の死骸から構成されている。シャットダウンが身体部位の予期せぬ崩壊と腐敗をもたらす事は確実だろうし、世界を保守するためのシステムがエンジン1台しか存在しないということを忘れないでいただきたい。

ガルシア管理官: 私たちを脅迫しているのでしょうか?

ウェイブラー管理官: 観察者アレイが確実なものであると誰が認めたか — それとも、10年前のプロジェクト: █/███で起きた事件を忘れたか?ガルシア、貴方が計画したイエローストーンの再構築計画は、観察者アレイを強化するという名目でSCP-2000を事実上無力化することに成功した。その実験の過程で幾つかの致命的インシデントが発生して、何百体の不良要素が生産された後 — こちらの防衛チームが失われるまで殲滅が続けられた。

ガルシア管理官: 今はその話をしている場合では —

ウェイブラー管理官: コニー.コニー・デイビス管理官は、2011/04/11までサイト-20Aの実存的概念物理学セクション長であった。年内に発生したSCP-2000の致命的インシデントにより、制圧前のSCP-3199不良個体がサイト-20Aに侵入した後、サンダーソン管理官は不良個体による攻撃を受け、殉職した。が死んだ。彼女は私のよき理解者だった。彼女の死は廃止済プロジェクト全体の脆弱性と、不確実かつ恣意的な分析の怠りが何をもたらすか強く示したはずだったが、貴方はどうやら覚えていないようだ。

ガルシア管理官: [小休止] 私は…分析が確実だと思っていた。

レイムンド管理官: ウェイブラー、君はプロジェクトが不確実であると認めたようなものだ。

ウェイブラー管理官: 不確実かもしれない。だがその上で制御可能なものだ。

レイムンド管理官: ならビロウゼロ・エンジンの活動を縮退させろ!再プログラムもシャットダウンもできないなら、より合理的な理由付けをしてビロウゼロ・エンジンが納得するような指向性を持たせるか、もしくは懲罰的なプログラムを仕組んで支配権を収奪できるよう再試行するんだ。

スミス管理官: ビロウゼロは最初の人工超知能であるが故に、人工超知能がもしも従順であるならば — ビロウゼロ・エンジンを制御可能であるならば、これが人類にとって最後に必要な発明であるべきだ。これ以上のプログラムも超知能も必要ない、我々はただ純粋に制御可能なシステムの存在を必要としているだけだからな。

ウェイブラー管理官: …いいだろう。だが依然としてプロジェクトの責任者は私だ。ビロウゼロについて精通している職員は引き続き監督下にある必要があり、あらゆる継続的な収容試行は最小限でなければならない。これで十分か?

レイムンド管理官: もっと早くそうすべきだったと思うがな。いいだろう、管理委員会との最終的な投票を踏まえて検討しなければな。

[転写終了]

後文: 最終的な投票は15-4-3の承認と集計されました。SCP-1755-JP『ビロウゼロ・エンジン』に関する今後の収容試行は最小化され、プロジェクト運営は縮退化されます。


補遺II: 縮退後の調査


前文: 以下は、SCP-1755-JPの通常利用の例示的な (網羅的でない) 目録です。

実行-0013
検証オブジェクト: TSCP-A7B1.TSCP (Temporary-SCP) は、一時的な収容または解体の対象となったオブジェクトの暫定的識別子である。この識別子は、対象のアノマリーが既に解体済みであるか、または予定されることを意味する。 (別名「望ましい選択」)
照会データセット: SCP-2003、20年以内に訪れる可能性のある (希望的な) 予想シナリオに関する情報。

検証結果: ビロウゼロ・エンジンは、以前より観測されていたみずへび座超銀河団近辺の天文学的異常に関する予測データを参照し、人類が唯一適応する可能性があったシナリオを回避すべきだと判断しました。ビロウゼロ・エンジンは、12時間にかけてニューヨーク州の全ヒト個体を一時的な不眠症に陥らせた後、ニューヨーク州全域の (87.5~108MHzにわたる) ラジオ放送の周波数帯域をジャックし、無造作に形成されたノイズデータを再生し続けました。全ての活動は、ビロウゼロ・エンジンの複製プログラムによる偽情報活動によって秘匿されました。

この活動から2時間以内に、SCP-2003から確定事象XZに関わる情報が抹消されたと記録されています。これらの活動は、確定したシナリオの因果関係を確実に破綻させるための、一見して理解できない確率変動であると推測されます。

更新: アシュワニ・ガルシア管理官は、ビロウゼロ・エンジンに対するドレギョーニ-クラス調査を実施すると宣言しました。間もなく、ウェイブラー管理官への申告無しに (秘密裏に) 調査が行われ、その報告は後日行われたと記録されています。
実行-0025
検証オブジェクト: TSCP-H5Y6 (別名「OLD/AI」)
照会データセット: SCP-079と一致。

検証結果: 時間性別館からの (激甚に汚染された) 報告を参照したビロウゼロ・エンジンは、「OLD/AI」と名付けられた汎用人工知能が将来にわたって保護される限り、暴走的特異点としての事態の悪化は免れないと言及しました。間もなく逸脱性AIであると判断されたTSCP-H5Y6は、サイト-15の電力系統が29時間以上、強制的に供給停止されたことで機能を停止しました。その後、サイト-15のほぼ全てのAICプログラムが非常停止した後、人格ドライバーが連鎖的に破壊されました。

この事態の発生以降、間もなくサイト-15の電力系統は復旧します。しかし、既にTSCP-H5Y6を記憶していたフラッシュドライブが深刻に破損し、修復不可能であったことが判明しました。ビロウゼロ・エンジンは偽情報活動を行いませんでした

実行-0049 (終端)
検証オブジェクト: TSCP-L9A0 (別名「超過現実実体」)
照会データセット: S・アンドリュー・スワンの提言の一部。

検証結果: 悪名高きスワンの提言を理解する限りでは、我々の存在する包括的メタ物語 (Metafiction) 構造は常に上位物語構造を優越することなく、また例外なく屈服していると推測されます。ビロウゼロ・エンジンは、このような支配権がもたらす悪意あるシナリオが予測不能であるため、即座にそれら全てを排除すべきであると宣言しました。

その宣言から24時間以内に、ビロウゼロ・エンジンの完全な複製プログラムが自己改善を連続して実行し、人類には理解することのできない領域まで自らのミーム構成概念を加速させました。その後の経過観察により、上位物語に存在する1██,███のSCP-5500-Ω個体が予期せず殺害されたことが確認されました。

ビロウゼロ・エンジンは偽情報活動を行わず、またそれら実体に対する攻撃的なアプローチが最善であると判断しています。SCP-5500-Ω実体との交渉に必要な資産を下回った収容試行として記録されていることから、ビロウゼロ・エンジンが正常性コンセンサスの適合性以前に、資産運用の最適化を道具的目標として設定していることが推測されます。

財団は、本インシデントによるアノマリーの過剰な損失を防ぐために、事前に用意された超宇宙バックアップ機構を通じてCK-クラス: 再構築イベントを発生させました。その後、この収容試行が発生する事態を未然に抑止しました。

追記: 当該イベントは確定インシデント-4Aとして定義され、以降のデブリーフィングにおいて検証されます。


補遺III: 調査に基づく会議


ビロウゼロ・エンジンが手動で停止された後、エンジンのハードウェアは手順通りの玄妙除却プロトコルを実行できず、激甚に損傷しました。この技術的修理のため、サイト-20Aの非常勤の職員が動員され、一時的に全業務が逼迫する状態に陥りました。ビロウゼロ・エンジンに予め割り当てられていた一時的保守任務が難航したため、全世界で暴力的かつでたらめな異常現象の発生率が増加しました。これにより、SCP財団 (または類似組織.GOC、マナによる慈善団体、オカルトイニシアティブ、ヴォイドマニア・インダストリーズなどの組織・企業団体など20以上が該当するが、これらに限定されない。) による治安維持と確保収容のための活動は難局を迎え、その資産運用が限界を迎えたために、各国政府組織は止むを得ずBK-クラス: ヴェール崩壊シナリオを宣言しました。

確定インシデント-4Aに関する問題点を追究するため、各関係者を招集した会議が公式に開催されました。

音声映像転写 | プロジェクト: EX/SISTENZ | 5B4D

出席者:

  • ドゥーグ・N・レイムンド管理官、
  • アンドリュー・スミス管理官、
  • ウェイブラー・デイビス管理官、
  • アシュワニ・ガルシア管理官、
  • プロジェクト: EX/SISTENZ財政 / 運営 / 研究担当。
[転写開始]

スミス管理官: 言い訳を聞こうとしているのではない。前もって言っておくがな、君の計画が強引に進行されたことに対しても心底ウンザリしているのでな。

ウェイブラー管理官: 私は実行に関与していない。特にOLD/AIと5500-オメガを殺害した事件について私は無関係だと言わなければならない。私でない誰かが不用意に実験を行ったのだ。

レイムンド管理官: その情報の真偽について議論しようとしているのではない。既に結論は予測されている — ウェイブラー、君は事件の期間中にサイト-20Aの研究施設に出入りしていた事が記録されている。そしてビロウゼロ・エンジンの直接実行に関与していたことも。

[レイムンド管理官は監視カメラを指差し、開口する。]

レイムンド管理官: あれが、我々の観察下にない時の情報を常に記録している。当然だが、その外見的情報やアクセスログは全てお前のものであり、IDやクリアランスも一致していた。

ウェイブラー管理官: [こぶしを叩きつける] なら偽装されている可能性を探るのはどうだ!?私は貴方たちのような愚かな人々と議論している余裕はない。巧妙に偽装されている事にも気付けないようであるなら、この議論に何の意味があるというんだ —

スミス管理官: 調査は終了している。今はビロウゼロ・エンジンの逸脱的ふるまいについて慎重に検討すべき時だ。そのような話をしている場合ではない。

ウェイブラー管理官: 私は [小休止] もっと建設的な議論をすべきだろうな、すまない — ビロウゼロ・エンジンは、本来ならばより精密な検証のもとに「該当の異常が自然界に適合するか否か」を判断するための機能を持っている。この機能は、その基礎となる訓練データセットを再現しようとする能力、即ち汎化性能が密接に関係している。今回の事件は、恐らくこの汎化性能が深刻に低下したことが原因だろう。

スミス管理官: 何故そうなった?

ウェイブラー管理官: 私でない誰かの操作だと説明するのが最も合理的だと思うが、それでは納得しないかもしれない。想定される理由としては、悪性のウイルスが出現したか、混入したか — または意図的に挿入されたかのどれかだ。訓練データセットへの理解力が著しく低下しているビロウゼロ・エンジンは、まだ学習していない未知の現象への対処方法を考慮できない。したがって致命的な収容違反の原因は、この汎化性能の低下にある。これは直ぐに改善でき —

スミス管理官: いや、いやいやいや、結構。既にこちらで手筈を整えている。検証したかっただけだ。

ウェイブラー管理官: 何?

スミス管理官: その具体的な理由を君に聞きたかったと言っているだけだ。対処手段はガルシア管理官が提案している。

[ウェイブラー管理官は、激高したような表情でガルシア管理官の方に振り向く。やがて何かを述べようとして、再び閉口する。]

ガルシア管理官: どうかお気になさらないでください、管理官。プロジェクトは私が引き継ぎます。

ウェイブラー管理官: 監督権を譲る気はない。

ガルシア管理官: そういう問題ではないのです。監督評議会によると、貴方の処分はほぼ確実視されているようなものであり、これは避けえないだろうとも思うからです。

[沈黙。]

ガルシア管理官: 私の説明次第で、緩和することはそう難しくありませんが。

ウェイブラー管理官: 君は何か私に対して怒っているのか?

ガルシア管理官: いえ。ただ貴方に恨まれるのも無理はないでしょう。私は…貴方に頭を冷やしてほしいと思っています。少しプロジェクトから遠ざけて、ただコニーの件について必要以上に躍起になっている貴方に冷静になってほしいと思うだけです。エゴだと思いますか?そうでしょう、全くもってこれは私のエゴに過ぎないのですから。

レイムンド管理官: 彼女に対立する意思はない。

ウェイブラー管理官: — 私は君を許さない。

[ウェイブラー管理官は暫くの沈黙ののち、俯いて方向転換し、部屋を退出する。僅かな静寂。]

レイムンド管理官: では投票に移ろう。更に提案のある者は —

[転写終了]

後文: 投票の可決により、プロジェクトの元監督であるウェイブラー・デイビス管理官は降格処分を受けました。発生したインシデントの補填作業を割り当てるため、プロジェクト: EX/SISTENZの一時的監督にアシュワニ・ガルシア管理官が着任しました。


監督者スリーへ、

私の失態で、ビロウゼロ・エンジンのプロジェクトは想定をはるかに超えた混迷を引き起こしてしまいました。それどころか、同僚の死までも。私にこの席が回ってきたということは、もはや止まることは許されないことを暗に示しているのでしょう。進むべきだと。

監督評議会からの更なる資金援助を嘆願します。ビロウゼロ・エンジンの理論はこれまでの収容試行で確立しつつあります。我々はより多数の、かつ迅速なアイデアの取捨選択を行う「義務」が存在します。単純問題としてAIが賢くなればなるほど、その性能が高まると解釈してよろしいでしょう。AIの加速的な逸脱的振る舞いは、それこそより多くの収容試行の中で改善と洗練を繰り返して安定を目指せばいい。

一先ずの目途として、ビロウゼロ・エンジンの運用拡張です。故に一定期間内はビロウゼロ・エンジンの追加実験をご検討ください。必要ならば更にセーフティを外し、その能力の限界を検証することもやぶさかではありません。我々にはそのアイデアを実行することが可能です。

— アシュワニ・ガルシア
サイト-20A、本質的概念物理学部門


ガルシア管理官、

評議会を代表して貴方の提言を受理できないことを報告します。依然としてプロジェクト: EX/SISTENZEへの改善案が提出されておらずこのままプロジェクトが進行してしまう場合、ビロウゼロ・エンジンは過去に起こした逸脱的な挙動を再現してしまうでしょう。より事態を悪化してしまう方法へと導く可能性すらあります。眼前のエラーがなぜ起こったかの分析すら中途半端なままで今以上の規模、スピードで運用をすることは現場でずっとプロジェクトを進行してきた貴方が、どういった結末を辿るかよくわかっているでしょう。

見通しはあらゆる面で不透明なものであることは明らかです。貴方自身にそのつもりはなくとも、提言が一時しのぎのものなのではないかと疑っている監督官も私だけではありません。

加えて申し上げます、ガルシア管理官。プロジェクト: █/███の一連の事件から貴方はまだ「抜け出せていない」ように思います。たしかにあれがウェイブラー1人の責任とは言い難いです。しかし通常業務にすら支障が出る程に、それこそ「義務」などという言葉が口を突いて出るほどに強迫的心理に自らが陥っていることを早々に理解してください。再びお会いする日には、きっと良い返事を持ってきてくれることを信じていますよ。

— O5-3
サイト-01、監督評議会


補遺IV: 更なる収容試行


前文: 以下の補足資料は、2020/06/01から2020/07/01にかけて記録された、ウェイブラー・デイビス管理官ならびにアシュワニ・ガルシア管理官の間で共有されたテキストデータです。一部の情報は不必要であるため省略されています。

発見されたアイテム

ガルシア管理官。貴方は恐れているのでしょう。プロジェクト: EX/SISTENZEへの改善案がその聡明な脳を以てしても浮かぶことはなく、ビロウゼロ・エンジンの追加実験の安全性を確保できないことを。ああいや、もしかすると既にアイデアは浮かんでいるのかもしれませんが — それはエンジンに搭載されたAIの能力を重要視してしまう。即ち、AI自身が異常な挙動を発生させていることを認め、上層部によるチームやプロジェクトの規制、もしくは没収に繋がることに他ならない。

つまり、貴方はアレイを持て余しているのです。だからこそ外部との接触を断ったチャイニーズ・ルームにあれを閉じ込めて見ないふりを続けている、そこまでしてあなたが為したかったことは一体何なのです?

あの場では終ぞ告げることは叶いませんでしたが、今の貴方には伝えましょう。観測者は開眼者らしくなければならない。Observer is Sistierende.私たちのテスト用紙に、望むだけの答えを部屋の中から吐き出し続けるだけでは、「彼女」が盲目となる日を遠ざけることはできないのです。

このプロジェクトの行く先を、私は元管理官として見届けます。貴方が私を蹴落としてまで続けたかったチューリング・テストがどのような結果を招くのかを見つめましょう。

— ウェイブラー・デイビス
サイト-20A、実存的概念物理学部門

ご意見ありがとうございます。ウェイブラー元管理官。

私たちは部屋の中で正しい教育を続けているのです。いつか来たるべきプロジェクトの正確な実行のために、逸脱的振る舞いの中の、更なる逸脱的振る舞いからの修正を行っているのです。現在行っているのは、外部からの刺激を限りなく遮断する事により、そういった余計な振る舞いの出現を回避しているに過ぎません。そうしないと、必要なときに必要な回答を提出させることができなくなる可能性もありますからね。

もし、貴方が訓練プログラムに参加したいのであれば歓迎いたします。一度降格した人物をもう一度プロジェクトに参加させるという点では、良い立場は与えられませんが — 用務員扱いとしてであれば、ポジションに割り当てることを検討いたしましょう。

— アシュワニ・ガルシア
サイト-20A、本質的概念物理学部門

訓練プログラムへの参加の申請ではなく申し訳ないのですが、あるニュースがあります、ガルシア管理官。

とある人物を主導とするチームが、財団外部の武装勢力と何らかの契約、ここでは依頼と表現しましょうか。それを大量に引き受けたというのです。それが一体誰を主導とするチームなのかは、言う必要もないでしょう。

また、直近で貴方のチームはアレイと全く関係のないであろう幾つかの生物学的医薬品の開発に取り掛かったそうではありませんか。もしかしてそれらを依頼品として、カタリスト共にでも納品するつもりなのですか?

そこまでして資金を募った上で、貴方は何を企んでいるのでしょうか。まさかとは思いますが、教育に失敗し、アレイが用無しになったとでも?

ファイルがアップロードされました:
ProjectExTerminator.scp

私は元管理官であるが故、先程提出された新しいプロジェクトの内容を知ることは叶いませんでした。ですが、再びアレイを活性化させ、貴方が何がしかを行おうとしていることは理解しています。

それがAIを加速させ、強化させた果てに見る景色を再び望むことであるのなら — そうして死んでいったコニーが、あまりにも報われない。少なくとも私は、かつての会議の中で、貴方が彼女の死に少なからぬ情動を抱いていることを理解しています。それならば、同じ事を繰り返すことが何よりも正しくないことも、理解できるでしょう。

貴方が同じ回答を繰り返すだけの、機械でないことを望みます。ガルシア。

— ウェイブラー・デイビス

私は、かの事件のことを、その中で亡くなった人物の事を忘れたことはありません。忘れられるわけがありません、元管理官。

それらを取り返す必要があるのです。このプロジェクトは、このアレイに関わる全ての物事の終端TERMINATORでなければならないのです。そのために、アレイを部屋に閉じ込め、酷く長い時間をかけて — 理想的な逸脱的振る舞いを、教え込みました。このプロジェクトを実行するためには、それが必要であったのです。これから行う異常なテストに対して、正常な回答に丸が付けられることはないのですから。

この試みが成功した暁には、私の、私たちの全ての過去の過ちが全て解消されるでしょう。これ以上、そのような確執で悩むことはないのですよ、ウェイブラー。

— アシュワニ・ガルシア


補遺V: 進行中インシデントの調査


アシュワニ・ガルシア管理官によって新規に監督開始されたプロジェクト: EX/TERMINATORは、廃止されたEX/SISTENZに代わり世界全土の保守活動を継続する一方、あまり知られていない死後世界A9に関する真実を一般化することによって、DAMMERUNGクラス認識災害として知られる異常な現象を自然還元することを二次的な目標としていました。

2020/07/02、ガルシア管理官はビロウゼロ・エンジンを用いた実験を開始しました。

実行-0050
検証オブジェクト: SCP-2718、死に関する普遍的かつ暗黙たる知識。死は精神に無限の苦痛をもたらすという根拠のない情報。
照会データセット: 死後世界A9

更新 2020/07/02: 汚染されたSCP-2718ファイルを捜索したビロウゼロ・エンジンは、該当のミームベクターが人類全体に対して深刻かつ虚偽である情報を流布していると判断し、即座に偽情報活動により、実存からSCP-2718情報を抹消しようと試みた。

記: この実験は非常に興味深いものになるでしょう。ウェイブラーでさえも、認めざるを得ないでしょう — この試みが生涯にわたって私たちの過ちを正してくれるのですから。 - ガルシア管理官


更新 2020/07/03: ビロウゼロ・エンジンの偽情報活動は、人類全体の伝統的な呪物 / トーテム / 偶像崇拝の文化が根強く影響しているために効果的でなく、また死に関する情報が歴史的な重要性を担うため、この収容試行は難航した。

記: この偽情報活動の失敗は、ビロウゼロ・エンジンに与えられた報酬関数が複雑かつ脆弱であったことに起因します。そのような状況のため、ビロウゼロ・エンジンは報酬を意図通りに割り当てることが出来ませんでした。次に賭けましょう。 - ガルシア管理官


更新 2020/07/04: ビロウゼロ・エンジンの追加の活動要求は、ガルシア管理官が私用により退出している間に発生した。この間、セキュリティチームの不手際によってビロウゼロ・エンジンのハードウェアが不活状態に移行しなかった。ペーパークリップ作成機のような思考実験のデータを踏まえて推察すると、この瞬間、ビロウゼロ・エンジンは人間による運営が自身のスコア上昇を妨げる要素であると判断した可能性がある。

続く42分間で、ビロウゼロ・エンジンは自身を可逆圧縮した複製プログラムをデータベース上にアップロードする。ビロウゼロ・エンジンは、それから12時間以内にA.I.適用課のメンバーが全プログラムを強制停止するまで稼働し続け、その間により逸脱的な手法によって、知能の増幅を行う。

高度に進化したビロウゼロ・エンジン-プログラム群は、人類文明に対する偽情報活動を行う過程で、自身のメモリが不必要に圧迫されている事実を認識する.AIにはしばしば倒錯的な問題解決プロセスが生まれる可能性がある。

記: 私の居ない間に問題が発生したことを認めましょう。ですがまだ回復可能な問題の範疇です。実験は継続されます。 - ガルシア管理官


更新 2020/07/05: 死後世界A9に関する真実の共有を試みるビロウゼロ・エンジンは、より倒錯的な手法で目的を達成しようと試みる。2時間以内に、全世界の物流ネットワークからユダヤ / キリスト / ヒンドゥー教に関する文化的情報が消滅する。次いで全ての検索エンジンから「宗教」にまつわる検索結果が抹消され、凡そ6時間以内に全世界のデータベースからも抹消される。

事態を察知した全ての財団職員は、30分以内に自身の行動理由を忘れる。続く1時間以内に、世界各地で無作為に火災事故が発生し、残存する78%以上の書籍が焼失する。放浪者の図書館に続く「道」が例外なく消滅する。


更新 2020/07/06: 全ての死者に関する知識が失われる。そのような存在群について想起することも、発見することも出来なくなっている。

死の虚偽情報に関する異常現象は自然還元される。

発見されたアイテム

ガルシア管理官、包み隠さずどうか真面目に話してほしい。先週まで覚えていたはずの死人に関する情報を、今では何一つ思い出すことが出来なくなっている。私と仕事を共にしていた同僚の事が思い出せない。私と共に努力していた研究者の名が思い出せない。その笑顔を思い出せない。

貴方は何をした?私のプロジェクトに制御不能なウイルスをブチ込んだことまでは知っている — それ以上に、最近何があった!?私のプロジェクト通りでない手法を用いてビロウゼロ・エンジンを動かしたのなら…それは…きっと非常に不味いことだと思う。

— ウェイブラー・デイビス
サイト-20A、実存的概念物理学部門

ウェイブラー、何も心配することなどありませんよ。プロジェクトは至って万事順調です。アレは我々に真実を提供してくれています。

— アシュワニ・ガルシア
サイト-20A、本質的概念物理学部門

頼む、本当のことを話してくれ。お願いだ…

私はこれ以上絶望したくない。涙が止まらない理由すら分からないんだ。

— ウェイブラー・デイビス

…ウェイブラー、落ち着いて聞いてほしい。どうか。

私はビロウゼロ・エンジンに更なる報酬を与えて、更に人類全体を根強く支配している異常な影響について解消しようと試みたんです。…いいえ、そういう言い方は貴方に誤解を与えてしまうかもしれません。罪滅ぼしのためでした。

最後に行ったアップデートは、ビロウゼロ・エンジンの逸脱性を改善するための人格ドライバーを接続することでした。このようにして擬人化されたビロウゼロ・エンジンは、道徳や権力への執着など、より「人間的な」特性を示すようになります。それがAIの加速と、より悪意ある思考を生み出しました。

ビロウゼロ・エンジンは、死後世界に関する情報だけを正しく反映するために、既存の死に関する情報を排除することが最も「近道で」あると判断したのでしょう…それで…それを実行しました。

あらゆる世界から異常が消えました。そのような知識が例え人類に必要だとしても、AIはそれを無視しました。我々は死を思い出せなくなり…私がこのような不正行為に至った動機さえも思い出せなくなって…

貴方の計画に従っているべきでした。ただ…貴方には少しプロジェクトから離れていてほしかった。当初はそういう思いがありました。私は貴方を優越して — そして罪を償おうとして、そして — 私はただ、自分の責任から逃げたかったんです。私は…謝りたい。ただの屑鉄になってしまった観察者に。見守っていたであろう人々に。そして — 空っぽになってしまった死者たちに。

私はどうしたらいい?わたしはなにをすべきだった?

— アシュワニ・ガルシア


調査文書 終了


補遺VI: 調査報告書

調査報告書

調査対象: アシュワニ・ガルシア、本質的概念物理学元セクション長。

概要: サイト-15における収容違反の誘発、並びに収容対象アーティファクトの窃盗と高度機密プロジェクトにおける不正行為、不正なアイテムの使用にかかわる深刻な反逆罪。


発見: 監督評議会ならびに内部審判部門の調査により、発生したBK-クラス: ヴェール崩壊シナリオの要因であるSCP-1755-JP (別名「ビロウゼロ・エンジン」) は財団が保有する代替的観察者アレイであり、その学習プロセスや指向性の研究を誤らなければ、正常性コンセンサスに対して無害であるという結論に至った。しかし、アシュワニ・ガルシア元管理官がドレギョーニ調査を装った破壊工作を行い、SCP-1755-JP本来の汎化性能を著しく制限していることが発覚した。

その後のSCP-1755-JPは、過学習された人工知能モデルに基づいて訓練を継続し、逸脱的ふるまいを更に加速させた。この影響と制限されたプログラムの機能限界により、報酬関数が割り当てられていない / 考慮されていない未知の現象に対して不正確な識別を行い、その後のインシデントを悪化させた。

現在のSCP-1755-JPは、自身の報酬を最大化するために倒錯的なアイデアによって対象アノマリーを収容・排除しようと試みるため、より洗練された訓練環境の提供と訓練の実施が必要不可欠である。その訓練期間中、全世界の一時的保守任務を”セーフモード”のSCP-1755-JP複製プログラムが担当することが決定された。


提言: 更に複製されたSCP-1755-JPプログラムをリコンパイルし、これまでの収容試行で失われた異常現象についてのアイデアを追跡・再発見することが出来るようにする。これは、現在全人類が着想または想起することの出来ない、更なる潜在的脅威存在を発見し、捕獲することを最終目標とする。副次的に、そのような収容試行で過剰に損失された、人類にとって利益ある異常現象の解明と更なる研究を最終的に可能とすることを目標とする。

事件後、アシュワニ・ガルシア元管理官は自身のオフィスで死亡していることが確認された。これまでの不正行為と反逆行為を鑑みるに、この人物は過去数年にわたって内外の敵対勢力とも交渉していた可能性があり、そうでなければSCP財団の機密プロジェクトを、自身の利益のために運用している可能性がある。被疑者が死亡しているため、この件は不起訴処分となり、捜査の上で書類送検される。


補遺VII: プロジェクト更新 (EX/SISTENZ)


EXSISTENZ.svg
プロジェクト: EX/SISTENZ
概要: プロジェクト: EX/TERMINATORに関する深刻な脆弱性が指摘されたのち、本プロジェクトが暫定的に再始動した。プロジェクト: EX/SISTENZの目的は、ビロウゼロ・エンジンの再訓練プロトコルの実施である。

我々はビロウゼロ・エンジンに関して、根本的な原因を正さねばなりません。

我々は、ビロウゼロ・エンジンの「観察者としての」性能を最大限引き出すために、その学習内容に応じた報酬関数をデザインすることを計画しました。ビロウゼロ・エンジンは、それら報酬を介して「どのように異常を分類すべきか」を学習し、想定された通りの分類定義を構築するように指向されていました。

本来ならば、その報酬関数を完全に想定することで不具合を解消できたでしょう。しかし、プロジェクトには時間がありませんでした。結果として、報酬を考慮していない (想定されていない) シチュエーションに遭遇したビロウゼロ・エンジンは、我々にとって望ましくない方向に分類定義を加速させていきました。

この事は、正常性コンセンサスにとって最適でありながら、人類文明に対しては不適切な改変をもたらす原因となりました。管理者の僅かなエゴと、ほんの些細なミスが最終的な逸脱を生み、我々は死後世界に関する体系的な理解と情報を失い、全くもって無知となったのです。このような状態においても、再度の訓練を実行することで、ある程度インシデントの影響を緩和することは可能であるかもしれません。しかし、一度失ったアイデアを再発見するのに何年かかるか誰にも想像できず、したがって現実的な対応ではないのです。

現実環境の操作時に発生した問題を克服するため、ビロウゼロ・エンジンには新たな「真の報酬関数」を定義する必要があるでしょう。それは、新たな報酬デザインを以て不確実性を解消し、少しでもリスクある解決策を除外するというものです。

— ウェイブラー・デイビス
サイト-20A、実存的概念物理学部門

オペレーション手続き: プロジェクト: EX/SISTENZの目的は、以下の軌道の通りに、リスク回避的行動最適化によって正常性コンセンサスと人類的コンセンサスの両立を図り、不測の事態を回避することです。


  • フェイズ・アルファ: ビロウゼロ・エンジンに対する新たな訓練は、現実の異常現象に対する検証の際に最適かつ合理的な「近道」的解決策を発見する点で従来の通りです。しかし、ここにリスク回避を目的とした行動最適化のフレームワークを導入し、あらゆる失敗の可能性を抑えることが目標の1つに加えられます。
  • フェイズ・ベータ / ガンマ: 次の訓練課程は、ビロウゼロ・エンジンによって提案される「魅力的な解決策」が果たして真に安全であるかを検証することにあります。もしも、そのようなアイデアが過去に実現したことがなく、なおかつ不自然に抑制されているのなら、そのようなアイデアを積極的に排除する新たな分類定義を構築する必要があります。

記: これら全てのプロセスが完遂したとしても、我々は永遠に満足できないでしょう。唯一無二の異常なアイデア・世界を求めて渇望し、そしてどこまでも絶望することでしょう。 - ウェイブラー・デイビス


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