SCP-1762-JP
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アイテム番号: SCP-1762-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-1762-JPは取り外した状態で専用収容ユニットに収容してください。SCP-1762-JPを取り付けた部屋の内部探索は禁止されています。SCP-1762-JP-Aが出現した場合、過度の干渉は禁止されます。"石榴倶楽部"及び"如月工務店"の関与に対する調査は継続中です。詳細は担当研究員に許可を受けたうえで調査アーカイブを参照してください。

説明: SCP-1762-JPは木製の引き戸です。SCP-1762-JPの異常性はSCP-1762-JPが家屋に取り付けられた状態で開くことによって発生します。

SCP-1762-JPを開くことで接続した部屋には、部屋の用途にかかわらず激しく損壊した複数の死体が出現します。損壊により、死体の性別を含めた身体情報の判別は困難であり、現在まで同定には至っていません。これらの死体の死亡時期は一定しません。最も新しいもので死後数分、古いもので死後数百年が経過していると推測されています。また、内部の死体には特定の部位が欠損したものが存在しており、不明な人物が何らかの意図をもって損壊を行った可能性が示唆されます。

財団における調査によって、内部の死体は経年による変化が発生していないことが確認されています。ここから、SCP-1762-JPに接続した部屋は時間異常が発生していると推測されます。

SCP-1762-JPの周囲には稀にクラスⅢ神格実体(以下、SCP-1762-JP-A)が出現します。SCP-1762-JP-Aは女性の姿を取り、古典能における"深井1"の面を装備しており、温厚な性格を持ちます。SCP-1762-JP-AはSCP-1762-JPに接近する人物に対してのみ、強い拒絶及び制止を行います。

SCP-1762-JP-Aの制止を無視し、SCP-1762-JPを開き内部を確認した場合、即座にSCP-1762-JP-Aの能面は"般若2"に変化し、容姿も老女のものへと変貌したうえで内部を確認した対象に対し攻撃を行います。この攻撃は物理的なものに加えPSIエネルギー放射を伴っており、現在時点で対象は全員死亡しています。

これらの特徴からSCP-1762-JP-Aは謡曲『黒塚』及び黒塚伝説に存在する鬼女に由来する存在であると推察されています。

SCP-1762-JPは安倍 ██氏の自宅において発見されました。発見時、安倍氏はSCP-1762-JP付近において全身を激しく損壊したうえで死亡していました。また、現場には安倍氏以外の人物が存在していた痕跡が残されていますが同定には至っていません。後のインタビューによりSCP-1762-JP-Aによって殺害されたことが確認されています。

氏の近辺に対する調査から氏は要注意団体"石榴倶楽部"の一員である"宇宿"と関係を持ったうえで、邸宅及び所有する不動産を提供していたと推測されます。SCP-1762-JPは"石榴倶楽部"との関係が始まった時期と同時期に設置されていることが確認されています。また、SCP-1762-JP-Aの出現は氏の死亡以前に確認されていないため、SCP-1762-JP-Aの出現は氏の予想していないものであったと推測されます。

以下は氏の自宅において発見されたパソコンから復元されたメールの書き起こしです。

関連文書1762-JP-01(抜粋)

Title:先日のお礼


安倍さん

以前の会において、素晴らしい場所を提供していただきありがとうございます。

また、同様に提供していただいた福島の年代物柘榴も非常に滋味深いものでした。ねっとりとした味わいながらも奥深い、山の獣に近い味がすると全員から好評です。浮田さんなどは長患いだった風邪が治ったといたく気に入られた様子でした。やはり孕み女の肝は薬になるのでしょうか。

本来柘榴は新鮮が命であり、熟成するにしても方法は限られるものですが、どのような方法であのような千年物の柘榴を入手されたのか非常に興味深いところです。聞けば近頃、人の理外のモノともコネクションをお造りになられたとか。その方々も関係しているのでしょうかね。機会があれば是非秘密を教えていただきたいものです。

今回の代金は指定の方法で振り込んでおきましたので、是非また我々にお力添えをお願いいたします。そのときは安倍さんも是非一緒にお食事を、と思います。もちろん、柘榴以外の料理も特別に作らせますので。


このメール文書から、安倍氏は"石榴倶楽部"に内部の死体を提供する目的でSCP-1762-JPを設置したと推測されます。また、文中に示唆された存在について調査を行ったところ、氏の会計名簿から"如月工務店"の関与が判明しました。これを受けた調査によりSCP-1762-JPは"如月工務店"により作成された物品であることが判明しました。

以下はこれらの情報を得たうえでSCP-1762-JP-Aに対し行われたインタビューです。

インタビュー記録-01 - 日付 20██/██/██

担当者: 護良研究員

対象: SCP-1762-JP-A

«再生開始»

(事実確認の為省略)

護良研究員: まず、貴女について確認したいのですが、よろしいですか?

SCP-1762-JP-A: はい、どうぞ

護良研究員: 貴女はあの扉を開け、内部を確認した時点で変化しますね。これは多くの伝承に見られるものです。私たちは貴女をそういった伝承、特に能における黒塚の鬼女に由来する存在であると推測していますが、その認識に間違いはありませんか?

SCP-1762-JP-A: どうなのでしょう、私はあくまでここで糸繰る女でございます。岩手と名付けられるもいつのころからか、恋衣愛しと嘆くもまた夢幻のよう。ここにあるのは名もなき、帰る場所もなき、過去でございます

護良研究員: なるほど、意味のないことだということでしょうか。では、安倍 ██氏、もしくは橘 ██氏3を御存知でしょうか?

[写真を提示する。同時に深井の面が般若に変化するが攻撃は行われず]

SCP-1762-JP-A: あな憎しや、我が閨を見られ生かしてはおけぬ

[激しいPSIエネルギー放射が瞬間的に確認されるも、般若の面が深井へと変化し、収束する]

SCP-1762-JP-A: 見苦しいものをお見せいたしました。ええ、存じております。閨に押し入り、我が物顔で荒らし回った輩にて

護良研究員: ではやはり、安倍氏はあの内部空間から死体を奪っていたということですね

SCP-1762-JP-A: そのようですね。あの扉は開けてはならないのですよ。貴女方はそれをおそらく分かっていただけると思っていますが

護良研究員: ええ、私たちもこれ以上の損失は避けたいので。では、如月工務店という言葉にお心当たりは?

SCP-1762-JP-A: 如月、ありませぬ

護良研究員: では、その扉がどうやって作られたかはご存じですか?

SCP-1762-JP-A: さて、これはただの閨の扉にございます。安達ケ原の一ツ家にぽつりと佇む岩屋にて、鬼の籠れる閨の扉

護良研究員: そうですか。…では、貴女の元に訪れた人物はいませんでしたか?

SCP-1762-JP-A: ほほほ、御坊の名をご存じない? 阿闍梨祐慶殿の名を? いえ、人ではなく鬼ならば。ああ、思い出した、月炯々とした夜のこと、一ツ家訪れた鬼のこと。彼らは私に共に行こうと囁きました。隠から出て光の中へと

護良研究員: 貴女はそれに答えなかったのでしょうか?

SCP-1762-JP-A: ええ、私は賤しき身の上で、とてもとてもたいそれたことなどできはしませぬ。それに彼ら鬼と私は違う

護良研究員: 違うとは?

[深井の面が般若に変化する]

SCP-1762-JP-A: 私は真蛇ではなく生成りにございます。扉が開かれぬ限りは過去であり、扉の中に今を閉じ込める。浅ましくも人を殺し食らう鬼を閉じ込める。彼らの言葉に頷くのは裏切りでございましょうや。ええ、この扉を作ったのは彼らなのでしょう、私に次を作りたいと。しかし、私の今は悍ましく、そうであるならば浅ましく過去に縋り付きまする。だからこそ、あれらは許しておけぬ。閨に押し入った奸物共は

[面が深井に変化する]

SCP-1762-JP-A: 食うという欲をもって人の閨に踏み入った。喰らうという業をもって我が心を千々に踏み荒らした。私の恥じたる今を貪り潰した。あの鬼が私に残した扉を開こうとした。あれらは鬼よりも醜い畜生にございます。人を食うことを恥とも思わず、自らの行いに耽溺している。そんなものは

[SCP-1762-JP-Aの手に"顰4"の面が出現する]

SCP-1762-JP-A: いずれ、鬼一口にて食いつぶされましょうや

«再生終了»

補遺: 前述の安倍氏の自宅において周辺機器から削除されたメールが復元されました。以下はその書き起こしです。

Title:新規取引お申し込みの件について


石榴倶楽部
椎名様

謹啓、貴団体ますますご清栄の段、お喜び申し上げます。

このたび弊社との新規取引のお申込みをいただき、誠に有難く、心よりお礼申し上げます。
さて、折角のお申込みですが、弊社として検討させていただきましたところ誠に残念ではございますが、このたびはご辞退させていただく所存です。

と申しますのも当社におきましては、食肉の生産は施工した商品による副次的なものであり、安定した供給が見込めるものではありません。
そのため、現在の事業計画として設定されておらず、今後とも事業として設定することは想定しておりません。

また、貴団体は弊社の企業理念と明確に反発するであろう理念を持ち、弊社の顧客様と弊社の商品を通じた問題が発生したことを確認しております。
弊社としては従業員一同の士気の維持及び、契約していただいた顧客の皆様の意向からも、貴団体とのお取引は今後一切行わないものとさせていただきます。

貴意に添いかねる事情をご賢察のうえ、何卒ご了承くださいますよう、お願い申し上げます。
とり急ぎメールにてご連絡いたします。

有限会社 如月工務店

補遺2: 上記情報から再度SCP-1762-JPの関連調査を行ったところ、SCP-031-JP内の過去調査においてSCP-031-JP-Cが関連すると推測される発言を行っていたことが確認されました。以下はその発言を一部編集した書き起こしです。

文書記録-01 - 日付 20██/██/██

ここがどういう場所や、て? いややわあ、そんな無粋なこと尋ねなはるん? まあ、古くは京伝はんもそういう話書いて成り上がりはったいうことやからねえ。ここは天神さんの梅の中…、大門超えたその先や。

ふふ、からこうたわけやあらへんのよ。そやなあ、どこから話しましょ。ここ、ほんまはお兄さんの来るようなとことちゃうんよ、ここは今を閉じ込めておく場所なんやさかい。

 

古く花街ちゅうんは四方を堀に囲まれてるいうことは知ってはる? そりゃまあ、大事な商品やもんね、指も切らんと逃げ出されたらかなわん。花街の外はお堀に囲まれ、中はまたお茶屋が娘らを囲うとる。その中で見るのは一夜の夢、今の楽しさ貪る紅葉山、…能楽なんて古いわなあ。

廓言うんは今を閉じ込める箱なんやと。閨もそうや、ただきらびやかに今という夢だけを見とればええ、うちらがどんな過去を持ってるかなんて気にせんでええんよ。

 

あら、上手く逸らされへんかってんねえ。といっても、今言うたことが全部。ここは今を永遠に閉じ込める箱、ここ作りはった人らは永遠を望んではった、うちはそれにちょっと乗らせてもろうただけ。前は"椎名"なんちゅう名も持っとってんけど、あん人らに鬼やいうて豆撒かれてもうたんやわ。まあ、うちはそれでええんよ、お上品なのは性に合わんでなあ。

…まあ、あの人らは少し驕りすぎやとうちは思うとうけどね、食べることを楽しむんやのうて、歴史あるセキリュウとして食べる自分を楽しんどる。味やのうてそこに乗った禁忌と過去にしがみついとったもの。ここ作りはった人らもそれには眉顰めてはったわ。…今はどこの誰が"椎名"になっとることやろか。うちの今はここやし、過去はきっと誰かが受け継いどんのやろね。

 

ああ、ここ作りはった人? あの人らはそうやな…、うちのことを良いとも悪いとも言わはらへん。最初は鬼として一緒に行こうか言ってくれてんけどなあ、うち、鬼やけど本心ではここに閉じ込められることを望んだんやもん、断ったわ。あの人らはそれもしゃあない言うてくれてな。ええ人らよ、うちのために怒ってくれるし、たまには顔も見せてくれる。

あの人らは…、そういう人の感情とは違うんかもしれんけど寂しいんやろうなあ。寄る辺もなくぽつんと飛び出しはったんやもん、だからこっちで仲間作りはろうとしとんのや、今度は宇治に、次は戸隠に、はたまた安達ケ原に…、何処でも断られる思うけど。鉄輪被った女は今を見たくないもんやから、でもきっと、その女のためにも怒ってくれるんやろ。

 

まだ聞きたいん? いややわあ、そない強く求めんといて。男と女、正直になった方が負けや。…仕方あらへんなあ、一つだけ、な? 確かにここは今を閉じ込めた場所や。でも、あの人らは扉を作ってくれた。閨の扉、うちらがいつか先に進みたいというときに開く扉。ええ人らやろ?

この調査結果を受け、再度SCP-1762-JPに接続した部屋内部を調査したところ、本来の部屋には存在しない扉が出現していることが判明しました。この扉への接触はSCP-1762-JP-Aによる妨害によりすべて失敗に終わっています。

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