SCP-1764-JP
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E号一万円紙幣の間に出現したSCP-1764-JP-4

アイテム番号: SCP-1764-JP

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: SCP-1764-JPの発生を抑制するため、財務省に新紙幣の早期の発行を働きかけます。新紙幣が発行され次第、世界に存在するE号一万円紙幣1を段階的に回収し新紙幣に置き換えます。SCP-1764-JPが回収された場合、ナンバリングを行った上で低脅威度物品収容ロッカーに収容します。

説明: SCP-1764-JPはE号一万円紙幣に関連して出現する異常な紙であり、二つ折りされた状態でE号一万円紙幣2枚の間に出現します。SCP-1764-JPは特定の条件下でE号一万円紙幣を人間から人間に手渡した際に発生し、手渡された人間は後述する異常性の影響を受けます(以下、対象と記載)。

SCP-1764-JPの出現には様々な条件が存在すると考えられおり、最低でも対象が以下の条件を満たす必要があると思われます。
・独身である、あるいはパートナーが居ない。
・少なくとも15歳以前に生物学上の両親を亡くしている。
・主観として生活に困窮している、あるいは債務がある。
・定職に就いていない。
財団による再現実験はごく少数のみの成功に留まっており、より詳細な条件の特定には至っていません。

SCP-1764-JPは白紙であるように観察されます。ただし対象はSCP-1764-JPの中身を読むことが可能であると述べます。対象にSCP-1764-JPの中身の詳細を説明させる、あるいは朗読させる試みは失敗していますが、「両親が自分を見ている」と主張し、そう確信する根拠が書かれていると説明することは一貫しています。対象の観察結果から、この「両親が自分を見ている」という主張については実際に視線を感じていると考えられています。また、対象はSCP-1764-JPを手放すことに否定的な態度をとります。これらの影響は記憶処理によって除去可能です。

対象に限らず、SCP-1764-JPを視認した人間はSCP-1764-JPに関する言及を避けます。ただしこの影響の強度は、財団職員であれば最低限度の忠誠度スコアを有するだけの意思力があれば言及が可能な程度であり、非財団職員の場合も通常の説得や強要によって言及が可能です。しかしながら一般人の間でSCP-1764-JPが発生した場合はSCP-1764-JPに関する言及は発生しないと考えられています。実際に財団WebクローラーによるSCP-1764-JP発生事例の発見は一切成功しておらず、一般社会で発生したSCP-1764-JPの回収は困難です。

発見ログ: SCP-1764-JPは警察機関に潜入中の財団エージェント・門木によって発見されました(以下、このSCP-1764-JPをSCP-1764-JP-1と記載)。この際の対象は日本人男性、宇津井 ██氏(当時34歳)です。宇津井氏は拾得した財布を届け出るために警察署を訪れたところ、遺失物の問い合わせを行っていた持ち主と遭遇し謝礼を受け取りました。エージェント・門木は警察官としてこの受け渡しに立ち会い、この際のSCP-1764-JP-1の発生を目撃しました。財団はこの際両名を回収していますが、重要度の高い宇津井氏のインタビュー記録のみを抜粋します。

インタビュアー: 若葉博士

インタビュー対象: 宇津井氏

序: インタビュー開始前、宇津井氏はSCP-1764-JP-1を財団に引き渡すことを拒否しました。この時点でエージェント・門木より視認による影響が報告されていたため、若葉博士の暴露を防止しつつ円滑なインタビューを行うためにSCP-1764-JP-1は宇津井氏の財布に収められています。


<ログ開始>

若葉博士: 宇津井さん、よろしくお願いします。私はあなたの身に起きたような事柄を研究している、若葉というものです。

宇津井氏: あ。あ、若葉先生、その、よろしくお願いします。

若葉博士: 早速お話を聞かせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?

[宇津井氏が黙り込んだため、若葉博士によって約10分程説得が行われる]

宇津井氏: 分かりました、僕、話します。

若葉博士: ありがとうございます、まず今どのように感じているか説明して頂けますか?

宇津井氏: 見てくれているんです、両親が、僕を。

若葉博士: なるほど。あなたを見ている両親があなたに見えているのですか? それとも見られているという感覚があるのですか?

宇津井氏: えっと、僕には見えないです。でも見ていてくれることが分かるんです。褒めてくれているような気がするんです。

若葉博士: ふむ。見られているというのを認識できるのですね。褒めてくれているという気がするというのも、同じように認識できるものですか?

宇津井氏: あ、違います。褒めてくれているのは、そんな気がするって感じです。良い事した後だからかな、そう思います。

若葉博士: 報告によると、あなたは落ちていた財布を届けたそうですね。詳しく説明していただけますか?

宇津井氏: 高そうな財布を拾って、20万くらい入ってて、盗ろうかどうか迷ったんです。俺、僕、3カ月前にバイト切られて、家賃も払えなくて飯もロクに食えなくて、頼れる友達も家族も居なくて。あ、僕の両親死んでるんです本当は。中学の時に二人とも死んじゃって。

若葉博士: あなた自身が非常に苦しい状況にありながら、そのお金を自分のものにせずに警察に届けたのですね。素晴らしい事です。

宇津井氏: [鼻を啜る音]ありがとう、ございます。持ち主の人も凄い喜んでくれて、両親もそれを見ていてくれたんです。

若葉博士: ふむ、謝礼の二万円に挟まっていたあの紙を開いた後から視線を感じるという訳ではないのですか?

宇津井氏: いえ、あの、そうなんですけど、そうじゃないんです。両親が見守ってくれていると気付いたのはあの紙を開いて読んでから、ですが、ずっと見守っていてくれたんです。誰も見てくれないような頑張りも、正しいことをした瞬間も、全部。

若葉博士: 私なら両親に見られていると委縮してしまいそうですが、あなたには前向きな影響を与えているのですね。

宇津井氏: 先生、なんていうか、子供の頃って、両親が全部見てくれて、全部褒めてくれたじゃないですか。

若葉博士: 全部というのは言いすぎかも知れませんが、概ねそうですね。

宇津井氏: 今、そんな気分です。自分でうんちするだけで褒めてくれるみたいな。多分今も、また褒めてくれます。

若葉博士: そ、そうなんですね。何にせよ、様々な事にそういった喜びを感じれるのは良い事ですね。

宇津井氏: はい。なんというか、これから色んな事を凄く頑張ろうと思います、頑張れると思うんです。

[以下、SCP-1764-JP-1の内容を朗読させる試み等が開始され、当報告書内の異常性の説明にて述べられた内容と重複するため省略]

<ログ終了>


付記: 宇津井氏は2週間財団の監視下に置かれ影響を観察されたのち、精神的影響に対する標準的な記憶処理が試行されました。この結果、宇津井氏の受けた影響は問題なく除去されたため、SCP-1764-JP-1は回収され宇津井氏は経過観察を経て解放されました。


インタビューログ: 財団は複数のDクラス職員を用いてSCP-1764-JP出現の再現を試みました。再現の試みの開始から2週間後、SCP-1764-JP-2が出現したため対象となったDクラス職員にインタビューが行われました。

インタビュアー: 若葉博士

インタビュー対象: D-9467

序: インタビュー開始前、D-9467はSCP-1764-JP-2を財団に引き渡すことを拒否したため、若葉博士の暴露を防止しつつ円滑なインタビューを行うためにD-9467に簡易金庫を与えSCP-1764-JP-2を収めさせました。


<ログ開始>

若葉博士: さて、気分はどうですかD-9467。SCP-1764-JP-2について話したくないという感覚はありますか?

D-9467: [溜息]その通りだよ、博士。

若葉博士: それがどのような感覚か説明できますか?

D-9467: あー、そうですね。大事な秘密みたいな感じですよ。ああもう、最悪だ。

若葉博士: なるほど。もしあなたが話さなければ、我々はあなたに対して処分を加える可能性があるということは理解していますか?

D-9467: 分かってる、分かってますよ。

若葉博士: では話していただけますか?

D-9467: [溜息の後、長い間]ええはい、話します。死んだ俺の親がずっと俺を見てるんですよ。

若葉博士: あなたを見ている両親があなたに見えているんですか?

D-9467: いや違います。視線を感じるんですよ、見張られてるような気分だ。

若葉博士: 見張られている? 前例ではそれよりもポジティブな、見守られているという印象だったのですが。

D-9467: 見守られてはないですね。これを見守られていると感じる奴はおかしいですよ。

若葉博士: なるほど。詳しく説明して頂けますか?

D-9467: 親が俺に失望してるみたいな、そんな感じです。ああ本当に最悪だ、ずっと見てたんだ。全部見られてた。

若葉博士: ふむ。[間]記録によると、あなたは強盗や殺人を繰り返したようですが、それに関しても見られていたという感覚がありますか?

D-9467: [深い溜息]ああ、そうだよ。一つ一つ一挙手一投足、盗むところも殴るところも刺すところも全部見られてたんだ。見てるだけで止めてくれなかったんだ。俺だって本当はしたくなかったのに。

若葉博士: D-9467、あなたの両親は他界しており、あなたの犯行を止めることが不可能なのは理解していますか?

D-9467: もちろん分かってますよ、でも見ていて止めてくれなかったんですよ。

若葉博士: D-9467、あなたは混乱しているようです。小休止をとりますか?

D-9467: [間]大丈夫です、博士、俺は止めて欲しかったんです、なんてことしようとしたんだって叱られて、家に連れ帰って欲しかった。金の心配をしなくて良かった子供の頃に戻りたいです。あの頃は諭吉一枚で最強だったのになんでこうなったんだ。

若葉博士: あなたが今犯行を悔やんでいることは私に十分伝わりましたし、あなたが追い詰められていたことも分かりましたよ。

D-9467: クソ、ごめんなさい。ありがとう博士。でも俺の親はそうは思ってくれてないみたいだ。ずっと冷たい目で、何も期待してないような目で俺を見てるんだ。

[以下、D-9467は混乱し感情的な言動が続くため省略]

<ログ終了>


付記: D-9467には財団カウンセラーによる診療を受けさせつつ、日を置いてインタビューを重ねました。最終的には個々の事例の綿密な調査よりも発生条件の調査が優先されることが決定されたため、D-9467は記憶処理を受け別の職務に割り当てられました。宇津井氏とD-9467のSCP-1764-JPに関する反応の差は、本人の精神状態や経歴に起因すると考えられています。

補遺: D-9467の観察記録や担当の財団カウンセラーの報告により、SCP-1764-JPによってネガティブな影響を受けた対象が多大な精神的ストレスから自傷行為や自殺を行う可能性が示唆されました。これを受け財団は新規自殺者の遺品調査を重点的に行うプロトコルを制定しました。調査の結果、大半は無関係な自殺者であったものの、ごく少数の事例からSCP-1764-JPが発見され複数のSCP-1764-JPの回収に成功しました。自殺したSCP-1764-JP所有者の多くは売春によって生計を立てていた女性であることが判明しています。

自殺したSCP-1764-JP所持者と同様のカテゴリに当てはまる人物に対しての総当たり的な接触、および回収の計画は現在立案中です。

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