SCP-1776-JP
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修復後のSCP-1776-JP内部概観

アイテム番号: SCP-1776-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-1776-JP上部に位置する住居跡および土地は財団によって買収され、偽装サイト-81██が建造されています。実験試行時、もしくは修復作業時を除き、SCP-1776-JP内部への立ち入りは禁止されています。

実験時、被験者には適量の睡眠剤/安定剤を投与することが推奨されます。また、連続的な実験試行の後で担当者が必要と判断した場合のみ、被験者に対するカウンセリング、もしくは投薬が許可されます。

説明: SCP-1776-JPは京都府██郡███に位置する、火災によって倒壊した住居の地下2階に設けられていた一室です。

室内の中央には、改造された診察台(以下、SCP-1776-JP-α)が1台設置/固定されており、天井裏・壁面内・床下の各箇所には配線が無数に張り巡らされています。これら配線の数本は床下部を通ってSCP-1776-JP-αへと接続されていますが、配線の接続の有無は後述する異常性に一切寄与しておらず、その目的/用途は不明です。

地下階へと電力供給が行われている状態で、被験者がSCP-1776-JP-α上へと仰向けの姿勢で横たわった場合、SCP-1776-JPは活性化します。この活性化に伴って室内照明の一部が暗転するとともに、被験者は一種の"金縛り"状態に陥ります。この状態は30分程度の時間経過か、被験者をSCP-1776-JP-α上から降ろすことで解除され、それと同時にSCP-1776-JPも不活性化します。

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電気信号モニタリングにより、睡眠中の被験者より抽出された図形のイメージ例。クリックにより拡大。

その一方で、"金縛り"状態中に睡眠を行った約70%の被験者は、睡眠開始から70~110分後に正常なレム睡眠段階ではなく、未知の異常な睡眠段階へと移行します。この間、全ての被験者は共通して断続的なフラッシュバックと、高次元図形の不鮮明な三次元投影イメージの想起を経験します。フラッシュバックの主な内容は、被験者と親しい間柄にあったすでに死亡している人物とのエピソード記憶が大半を占め、時間経過に伴ってその人物との初対面の場面から死の場面へと段階的に切り換わっていきます。なお、フラッシュバックに登場する人物は常に1人だけであり、複数の人物が登場したケースは確認されていません。また、フラッシュバックを経験している際、睡眠中の被験者の身体は軽度の痙攣を示し、場合によってはそのフラッシュバック内に登場した人物の名前を"寝言"として発するケースも確認されています。

60~150分後、被験者は上記の睡眠段階から、本来の正常なレム睡眠段階へと移行します。このレム睡眠中、被験者は共通して「出入り口のない隔離/保護室(Rubber room1の様子を、固定された俯瞰視点から観測し続ける」という内容の夢を経験します。また、この隔離/保護室内には、常に1体の人型幽体(以下、SCP-1776-JP-β)が拘束衣を身に着けた状態で存在し、その外見は上記のフラッシュバックに登場した人物の容姿と一致します。

各被験者の報告より、大半のSCP-1776-JP-βは自らの状況に対し、明らかな困惑と動揺の反応を示していることが判明しています。また、老化の兆候および食事や排泄行為を必要とする様子が確認できない一方、SCP-1776-JP-βの精神状態は現実での時間経過2に伴って徐々に悪化し続け、次第に長期的な監禁被害者に見られる幻覚症状や絶叫、自傷などの行為が目立つようになります。長期的な実験試行を実施したケースでは、SCP-1776-JP-βは重篤なアルツハイマー病の兆候を示し、最終的には一切の情動反応を示さなくなるという結果に終わりました。

なお、上記の夢を見始めてから60分が経過した時点で、SCP-1776-JP-αは底部より大音量のビープ音を発します。この後でSCP-1776-JPは即座に不活性化し、被験者も強制的に覚醒します。それに加え、過去一度でも上記の夢を経験した被験者が再びSCP-1776-JPの影響下で睡眠を行った場合、被験者は未知の異常な睡眠段階へと移行せず、正常なレム睡眠段階において隔離/保護室の夢の「続き」を経験することになります。

SCP-1776-JPは、197█/08/28に発生した住宅火災の調査中に発見されました。住宅の所有者は臨床心理学者であった███氏(男性、当時4█歳)であり、倒壊した住居跡から同氏の遺体が発見されています。身辺調査の結果、14年前に妻である███夫人が他界して以降、同氏には身寄りや親交のあった人物が確認できず、火災による物証の焼失もあり、ここ数年間の詳細な足取りは判明しませんでした。なお、消防の調査より、火元は火の気のないリビングであったことが判明しており、遺体の状態から同氏が焼身自殺を図った可能性も示唆されています。

また、住居の地下からは複数の物品が回収されています。以下はその中でも特筆すべき回収物の一例です。

回収物: 複数の改造が施された診察台

回収場所: SCP-1776-JPの隣室

概要: 見た目上はSCP-1776-JP-αと酷似しているが、四肢部には拘束器具が設けられており、頭部位置にはヘッドギアに似た未知の機構が連結されている。また、SCP-1776-JP-αと床下から接続されている配線で繋がっているが、この接続の有無によるSCP-1776-JPへの影響は確認できなかった。

回収物: 女性の遺体

回収場所: 地下3階の施錠された部屋

概要: 各検査の結果、上記火災の約1ヶ月前に行方不明者として捜索願が出されていた██ ██氏(女性、当時3█歳)であることが判明。死因は脱水症状によるものであり、死亡推定時刻は火災翌日の08/29と診断されている。また、目立った外傷は見受けられなかったものの、四肢に残されていた痣が上記の診察台に設けられた拘束器具と一致した点には留意する必要あり。


付録1776-JP: 以下の文書は、███氏が不明な個人へ宛てて送ったとみられる手紙5通です。なお、これら手紙の内、1通が上記住居の屋外に設置された郵便受け内から、残り4通が地元郵便局の返還郵便用保管庫から回収されました。調査より、宛先住所の「京都府尾根山郡敷氏村」は現在まで使用された記録のない地名であることが確認されています。そのため、各手紙も「宛先不完全による未配達物」として処理されており、配達順に差出人である███氏へと返還される予定でした。

消印日付: 197█/08/19

拝啓

緊急を要する事態のため、お教えいただいた宛先へとこうして手紙を送らせていただきました。

本日、件の装置の運転を実施したのですが、プロセスIIの最中に不明な装置異常が検出され、運転がプロセスIIIへと移行する前に強制終了する事態が発生しました。また、再起動を行った場合、プロセスIが飛ばされ、プロセスIIから開始される状態が続いています。

更にマズイことに、現状ではプロセスIにて降下させた幽体が夢界に固定化される事態となっており、高次体へと再変換される兆候は見られません。このままでは、幽体への多大な精神影響も懸念されます。どうか、再びご教示いただけますようお願いいたします。

敬具

消印日付: 197█/08/21

拝啓

お早いお返事をありがとうございました。

現状ですが、ご指摘いただきました箇所の見直しを実施したものの、装置異常の原因となる不具合は確認できませんでした。更に、現実素体の選定および出力側機器にも問題点は見受けられず、同様に幽体から高次体へと再変換する試みも依然として成功には至っていません。また、幽体からは明らかに精神摩耗の様子が窺え、予断を許さぬ状態が続いています。どうか、改めて再検討をお願いいたします。

敬具

消印日付: 197█/08/23

拝啓

お返事をありがとうございました。

ご提案いただきました機構の増設を行ったところ、プロセスIIが中断されるまでの時間が5分から60分へと増加しました。しかし、依然として装置異常を取り除くことは出来ておらず、夢界に固定化されたままの幽体も限界に近い状態であり、いずれ自傷行為すら行いかねません。このままでは、プロセスIIIにて現実素体への定着化に成功したとしても、重篤な精神疾患が生じる可能性も考えられます。何か、幽体の精神摩耗を軽減する手段はありませんでしょうか。

また、直接装置を見て確認していただくことは叶わないでしょうか。無理な申し出であることは私も重々承知しております。ですが、どうかご検討の方をお願いいたします。

敬具

消印日付: 197█/08/25

拝啓

貴方が寄こした増設部品のおかげさまで、確かに幽体が危険な行為を取るような事態は避けられました。しかし、あれは何かの悪い冗談でしょうか? ただでさえ疲弊した彼女にあんな仕打ちを、あれでは、まるでイカれた病人扱いと大差ないではありませんか。また、前向きに検討するとお返事にありましたが、それはいつでしょうか? もはや、時間がないことくらいお分かりのはずです。

現状では依然として解決の目途は立たず、私は窶れていく彼女の姿をただ眺めていることしかできません。思えば、私が馬鹿だったのでしょう。再び彼女をこの身で抱きしめたいなどと高望みさえしなければ、私は今でも夢の中で彼女のあの日の笑顔を見続けることができたはずです。しかし、今となってはもう夢の中で彼女の笑顔を見ることは叶いません。だから、せめて彼女の魂を天国へと戻す方法だけを教えてください。もはや私は、それ以上の何も望みません。

敬具

消印日付: 197█/08/27

拝啓

お返事をありがとうございました。

先日の手紙では、大変な無礼を誠に申し訳ありませんでした。

本来ならば不可能であるにも関わらず、こちらへお越しいただけることとなり、感謝の言葉もありません。

それでは明日、お待ちしております。

敬具


これら手紙に対する返信内容の文書は現在まで発見されておらず、火災にて焼失したのか、もしくは返信文書自体が元々存在していなかったのかは不明です。また、回収された際、各手紙は未開封の状態であったことに留意してください。

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