SCP-180-JP
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SCP-180-JP

アイテム番号: SCP-180-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-180-JP生息エリア周辺の土地は財団フロント企業によって購入され、私有地として一般人の立ち入りが制限されます。侵入者に対しては標準的な手順によってAクラス記憶処理等の措置がとられます。写真等によるSCP-180-JPの存在の漏洩に関しては、非認識災害オブジェクト情報保護手順を参考に最低限の偽装措置が取られます。

生息エリア内のSCP-180-JPは担当職員によって管理されます。担当職員は安定した個体数維持の観点から過去に園芸植物を育成した経験のある者が望ましいですが、人員の調達が困難である場合はSCP-180-JP取り扱い講習を受講した職員を配置してください。SCP-180-JPのサンプルはサイト-81KAにて分析され、生息エリア外での収容手順確立が目指されます。

説明: SCP-180-JPは██県██町の、かつて宇藤氏(詳しくは後述)が所有していた小規模な山林の一部に生息する多年生植物です。

SCP-180-JPはDNA上ヒマワリ(学名: Helianthus annuus)の近縁種に当たると考えられており、実際にその基本的な構造はヒマワリに極めて類似しています。ただし、以下の部分はヒマワリと大きく異なっています。

  1. 大きさ: SCP-180-JPは最高で40 cm(地表からの高さ)ほどまでしか成長しません。
  2. 花弁: SCP-180-JPには花弁が存在しません。
  3. 中心部: ヒマワリであれば管状花が集合している中心部には、管状花の代わりにSCP-180-JPの果実が存在します。(この果実を以下SCP-180-JP-1と呼称。詳しくは後述。)
  4. 生命力: SCP-180-JPはヒマワリと異なり多年草で5年程度の寿命を持ちます。温度変化には比較的強い耐性を持ちますが、栄養素不足と水不足に非常に弱く、生命力の強い他の草本(いわゆる雑草)の侵入によって容易に駆逐されます。また、SCP-180-JPは現在の生息エリア外では不明な原因により半年以内に枯死します。

SCP-180-JPの果実であるSCP-180-JP-1は外見上月のように見えますが、実際の内部構造と構成物質はクルミ科の植物が生成する核果に酷似します。SCP-180-JP-1は受粉によって生成されるものではなく、SCP-180-JPの発生直後に外殻が生成され、その後徐々に熟していきます。これはSCP-180-JPが単為生殖によって増殖するためです。完全に熟したSCP-180-JP-1は自然にSCP-180-JPから脱落します。SCP-180-JP-1を失ったSCP-180-JPはまた最初からSCP-180-JP-1の生成を開始します。自然に脱落する以外の要因でSCP-180-JP-1が脱落した場合、SCP-180-JPは枯死します。また、SCP-180-JP-1は夜間に青白く発光します。これは種子の生成を助ける未知のバクテリアによるものです。

SCP-180-JP-1の外殻は厚さ1 mm程度で密度も低く、内部のバクテリアが発した光を透過させますが、その特殊な構造により同様の厚さのアクリルガラスの6倍ほどの耐久性を有します。現在、このように高耐久・低重量である外殻を財団の有する設備へ何らかの形で応用できないかが議論されています。

SCP-180-JP-1内部に存在する種子は他のクルミ科の植物の種子と同様高い栄養価を持つほか、ヒトの体内に入ることで短期間の幻覚症状を引き起こす物質を有しています。この幻覚物質の生成に未知の発光するバクテリアが関与していると考えられています。種子の摂食によって引き起こされる幻覚は多くの場合摂食した者が幸福感を覚えるような内容であり、ストレスの軽減などをもたらします。ただしこの幻覚物質の一部には非常に高い発がん性をもつ物質が含まれており、現在幻覚物質から発がん性を取り除く研究が行われています。

SCP-180-JPは自然調査のため生息エリアを訪れた学生が小屋の中にあった宇藤氏の遺体を発見、通報したことにより発見されました。関係者は記憶処理のうえ解放されています。発見当初、SCP-180-JPは生息エリアの手入れが行われていなかったためにほとんどが枯死し絶滅の寸前でしたが、その後財団の管理下に置かれたことで個体数は徐々に回復しています。

宇藤綾子氏は、生息エリア中心に位置する小屋で生活していたとみられる女性です。SCP-180-JPの発見時に小屋のベッドで白骨化している状態で発見されました。宇藤氏は一般的な日本人で特に異常性を有しませんが、2003/2/9に行われたSCP-███-JPの収容作戦時に周辺に居合わせたため、エージェント・戸高によって救出された経歴を持ちます。宇藤氏はSCP-███-JPの存在について把握していなかったため、カバーストーリーの伝達後解放されています。解放後も宇藤氏とエージェント・戸高の間には交流があったことが小屋に残されていた日記から推測されていますが、エージェント・戸高による機密情報等の漏洩はなく、あくまでプライベートな交流であったと考えられています。なおエージェント・戸高は2005/5/2の収容作戦時に空間歪曲に巻き込まれMIA1に指定され、2006年には遺体未発見のままKIA2に指定されています。

以下は小屋で発見された宇藤氏による日記の抜粋です。

日付: 2005年5月3日

今日は戸高さんからの連絡がありませんでした。危険なお仕事をしていると聞いているので少し心配です。ただ連絡がこないのは初めてではないですし、きっと今回も帰ってきてくれるはずです。明日返信が来ることを祈って寝ます。おやすみなさい。

日付: 2005年5月10日

連絡が途絶えてもう1週間が経ちました。以前2週間も連絡がこなかったときのことを思い出し、あの時と同じ気持ちで夜の空を見上げています。月を見ると初めて戸高さんと会ったときの風景が目の前に浮かぶのです。森で迷い泣きそうな私を、戸高さんは月明りを頼りに導いてくれました。きっと大丈夫ですよね。今日は満月ですし、きっと帰ってきてくれますよね。

日付: 2005年6月2日

もう1か月が経ちました。まだ返信はありません。最後に送ったメールを何度も見返してしまいます。そんなことをしても、寂しくなるだけなのに。

そういえば、町に新しくお花屋さんができました。確か名前は"夜宵園芸"といったはずです。初めてお茶をしたとき、戸高さんは「花が好きだ」と半分照れながらお話してくれましたね。今度、下見をしてくることにします。戸高さんが帰ってきたとき、一緒に行くために。

日付: 2005年6月7日

今日は夜宵園芸に行ってきました。たくさんのお花があって、とても楽しいお店でした。きっと戸高さんも喜んでくれると思います。そういえば、お店には不思議な写真がありました。月のお花の写真です。とてもきれいな写真で、とても印象に残っています。あんなお花はこの世にはないと思いますが、合成でしょうか? 今度、店員さんにお話を聞いてみたいと思います。

今日は新月です。どうしてでしょうか、胸が鉛になったように重たいです。

日付: 2005年6月10日

この前書いた月のお花の写真ですが、店員さんのお話によると実在するらしいのです。ただこのことはあまり口外して欲しくないそうなので、こうして日記に驚きをぶつけています。月の花は希少なうえ育てるのがとても難しく、育つ土地が限られるせいで、購入して育てるにはとてもお金がかかるそうです。具体的な金額を尋ねたのですが、その高さに驚きすぎて心臓が止まるかと思いました。私にはとても払えそうにはありません。

今日は曇り。月は見えません。

日付: 2005年8月31日

いつも月の花の写真を眺める私に、店員さんが声をかけてくださいました。私が事情を話すと、店員さんは月の花の値引きを提案してくださいました。値引きがあっても私が今持っているお金ではとてもとても足りませんが、店員さんのご厚意で月の花と必要な土地を確保しておいてくださるそうです。月の花を買うために、仕事を増やすことに決めました。

今日も曇りですが、私が必ず戸高さんを照らす月を手に入れて見せます。待っていてください。

日付: 2006年5月16日

最近は日記をつけられていませんでしたね。仕事が少し忙しかったのです。でも頑張ったおかげでもう少しで目標金額に届きそうです。あともうちょっと。頑張ります。

日付: 2006年7月19日

遂に月の花を購入することができました! 土地の場所がここと離れすぎていないかと心配していましたが、意外と近いところで安心しています。夜宵園芸さんは、ご厚意で小屋まで用意してくださりました。本当にありがたくて、少し涙が出てしまいました。土地にはすでに月のお花が植えられていて、夜宵園芸の方が育て方を丁寧に教えてくださいました。すこし育てるのが難しそうですが、かならずこの土地をお花畑にして見せます! そうしたら、きっと戸高さんも帰ってくる場所を見つけられるはずです。

日付: 2007年5月2日

戸高さんと連絡が付かなくなってもう2年が経ちました。まだまだお花畑とは言えませんが、月の花は順調に増えています。夜宵園芸のお店はいつの間にかなくなっていました。戸高さんと行きたかったのですが、残念です。

戸高さん、早く帰ってきて、一緒にお花畑を作りましょう。私はまだ待っていますよ。

日付: 2009年5月2日

あの日からもう4年です。お花畑はあと1年もすれば完成しそうです。私はいつまでも待っています。ただ、少し辛いです。信じ続けるということは、こんなにも難しいことなんですね。心のどこかで、戸高さんがもう帰ってこないのではないかと疑ってしまっています。ダメなやつですね、私。

日付: 2009年9月2日

興奮で手が震えています。
保管してあった月の花の実が割れて、なかからクルミのような種が出てきました。実はとても硬いのですが、どうやら縦にうまく力を入れると割れるようです。その種を好奇心から軽く炒って食べてみたところ、しばらくして目の前に戸高さんが現れたのです! それから戸高さんとお話をして、月の花を一緒に眺めて、それからハグをしました。もう、こんなに楽しいのは何年ぶりでしょうか。気付いたときには朝で、私は床に倒れていました。

あれは幻だったのでしょうか。幻だとしても、これ以上嬉しいことはなかなかありません。これだけ待って、やっと会えたのですから。

日付: 2010年2月28日

月の花の種を食べると戸高さんに会えると知った日から、とても幸せな日々が続いています。種の数は多くはないですが、新しく植える分をなくせば困ることはないでしょう。ただ、最近少し具合が悪いのです。あちこちが痛んだり、なんとなく怠かったり。風邪でしょうか。早く治したいところです。

日付: 2010年3月6日

先日仕事中に倒れて、近くの病院に入院していました。検査の結果だと悪性の腫瘍、つまりは癌が全身にあり、このままでは4ヵ月と持たないそうです。もしもっと大きい病院にいけば余命を伸ばせる可能性もあるらしく、先生も紹介状も書いてくださると言ってくださいました。ただ今日は、返事はとりあえず明日に持ち越しということにして帰ってきました。月の花が気になったのです。

案の定、いくつかの月の花は枯れてしまっていました。私は自分の間違いに気が付きました。戸高さんが帰ってこられるように、戸高さんのために始めた花畑だというのに、いつの間にか自分が戸高さんに会えればよいと目的がすり替わっていたのです。そして脆い幻覚に身を任せて、花畑すらおろそかにしてしまいました。私は最低な人間です。きっと、この癌も報いなのでしょう。

日付: 2010年3月7日

病院に行ってきました。先生には申し訳ないことをしましたが、紹介状の件と入院はお断りしました。私はもう諦めません。戸高さんは帰ってくる、そう信じます。戸高さんが帰ってこられるように、花畑の手入れは怠ることはできません。戸高さん、私は待っています。だから帰ってきてください。そうして、花畑で一緒に写真を撮りましょう。

日付: 2010年4月5日

世話を続けたおかげで、枯れかけていた花たちも元気を取り戻しました。お薬はどんどん増えますが、まだまだ頑張らねばなりません。立ち止まってしまった分を取り戻すのは難しいかもしれませんが、できるところまではやるつもりです。

日付: 2010年5月2日

最近は腰をかがめることが難しく、雑草抜きにとても時間がかかります。花の世話以外では、ほとんど横になって過ごすようになりました。ですが、月の花は活気にあふれています。大丈夫、きっとまた会えます。

日付: 2010年6月8日

歩くことがつらいです。なんとか水やりを続けていますが、とても丁寧とは言えません。文字を書くのもつらく、日記も徐々に短くなっています。

日付: 2010年6月27日

今日は少し調子が良かったので、月の花の実を植えてきました。今回植えた分が咲けば、土地は月の花でほぼいっぱいになるはずです。この目で見られないだろうことが、少し残念です。

今まで何度も、「私がやってきたことは無意味だったのか」と挫けそうになりました。本当に情けないですね。でも、今はもうそんなこと思いません。ここまでやってきてやっと、心の底からまた戸高さんに会えることを確信することができました。もちろん根拠なんてありませんが、根拠なんていらないのです。

今日は満月です。私はずっと、ここで待っています。

2010年6月27日以降、日記はつけられていません。

 
追記2014/4/3: SCP-180-JP生息エリア付近の森林で、エージェント・戸高の白骨化した遺体が発見されました。同地点は2006年にも探索が行われていましたが、当時遺体は存在していませんでした。遺体は検査の結果異常性を持たないことが判明しています。エージェント・戸高の遺体は保管されていた宇藤氏の遺体とともに、生息エリアの小屋の脇に埋葬されました。現在SCP-180-JPの個体数は大幅に回復し、生息エリア全域に渡って繁茂しています。

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