20██/6/██の出現イベント後に発生した土砂をカートで移送している様子
アイテム番号: SCP-190-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-190-JPの周囲にはサイト-81██が設置され、SCP-190-JPは外観を電波塔に偽装した鉄筋コンクリートの塔内の縦16 m×横6 m×奥行8 mの収容室に収容されます。収容室の壁面及び内装は内部の音を遮断する構造とし、死角の無いように監視カメラが配置されます。土砂・その他のオブジェクトが落下によって損傷する事を防ぐために収容室中段にはネット、底面には緩衝材が設置されます。
塔に隣接する管理施設にはオブジェクトの出現に備えて研究員及び回収を担当するDクラス職員が常時配置されます。オブジェクトは発生後直ちに回収され研究員が分析を行い、異常性のない物品は1年の保存期間がすぎれば破棄し、SCP-190-JP-1以外の生体は疫学的検査を経てから各々を必要に応じた容器に隔離し、それまでに生存していれば三ヶ月後に終了して焼却処分されます。異常な性質を示す物品が出現した場合は回収の後、詳細に記録を行い、オブジェクトとしての分類を受けた後に適切に収容される必要があります。SCP-190-JP-1が出現した際はセキュリティ要員により拘束し、直ちに各検査を行って異常性の有無を確認する事になっています。その後、可能であれば尋問を行なってから、標準人型収容房に収容します。
説明: SCP-190-JPは三重県███市内の山中に存在する音のみの存在であり、滝が流れ落ちるような水音として知覚されます。音の大きさは最大でも90 dB程度で、周辺地域の雨量の多寡によりこの数値は微妙に前後します。水音に異常な特性は今のところ確認されていません。この音の始点は地表から12 m上の空中で、終点は地表の1.6 m下の地中でした。終点については主塔の建設時に掘り下げられ、収容室内に露出させています。
またSCP-190-JPの始点を中心とした直径3 mの範囲には不定期に最大500 kg程度の土砂や、生体を含む複数の物品が出現する場合があります。この出現イベントは2~3年間隔で発生しますが、先述の水音とは直接の相関性はなく、出現イベント中も水音は止まりませんし、音量を変えずに継続します。出現イベントを出現地点に物を置くことで妨害しようとすると、それがどのような素材であれ、物品の出現範囲を塞ぐように置いた構造物の部材が全て1 cm角程のチップに分解されて妨害に失敗します。一度、始点から終点までの間を今のような中空ではないコンクリートの塔で覆い、イベントを妨害しようという試みがありましたが、イベント時に塔全体が分解して失敗に終わりました。現状ではイベントの妨害は不可能であると考えられています。出現する土砂の全ては、それに含まれる植物の痕跡の調査によって、北アメリカ、グレートプレーンズ北部の湿地帯の表土由来であることが確認されています。
イベント時には人間も出現する場合があり、これらはSCP-190-JP-1として指定されています。SCP-190-JP-1は性別・人種・文化・年齢に統一性のない人間(Homo sapiens)であり、SCP-190-JPが収容下に入ってから4例が確認されています。SCP-190-JP-1-cの証言の分析から、これら4例は過去に起きた何らかの生贄を伴う儀式の犠牲者が未知の手段によりテレポートされてきたものではないかという仮説が財団の民俗学者によって提示されています。SCP-190-JP-1達の証言を検証した結果、少なくともSCP-190-JP-1-cは犠牲者本人ではなく、他のSCP-190-JP-1も本人ではない可能性が高いことが判明しました。詳しくは補遺2を参照してください。
SCP-190-JPは山むかいの集落である██████の住人達によって、雨・水に関連する民間信仰の聖地あるいは祭祀場として維持・管理されており、SCP-190-JP-1を古くからコミュニティに迎え入れていた事が元住民からの聞き取りで明らかになっています。しかし██████がダム建設のために水没し住民が散り散りになったことで19██年頃には管理されなくなっていたようです。そしてSCP-190-JPが放置された結果として、物品・土砂が堆積し小山となり(その下には██体のSCP-190-JP-1と見られる墜死体が埋もれていました)それを民間人が目撃し、不法投棄として通報したのを財団が傍受しました。その後の財団による調査で特異性が認められたことから、SCP-190-JPは財団の収容下に入りました。
所在の確認された██████の元住人、通報を行なった民間人にはAクラス記憶処理が施されましたが、未収容のSCP-190-JP-1やその混血、処理に漏れた██████の元住人が相当数存在するものと思われるため、これらに対する適切な処置が進められています。
以下は出現イベント後に発見された物品の中でも顕著な異常性を示したものの目録です。
出現日時 |
物品の外観 |
特殊な性質 |
オブジェクト分類 |
19██/8/██ |
目の荒い麻袋に入った稲種 |
育てると米の原種の八倍もの収穫効率を得られ、現代の改良後の品種に匹敵する栄養価がある。 |
Anomalousアイテムに指定。収容外に出た場合の、他のイネ科植物に対する遺伝子汚染の懸念から3粒のサンプル以外は焼却処分 |
19██/9/██ |
メノウに似た外見で直径30 cmの赤い球体 |
傷つけることができない。水に入れると、徐々に人間にとって有害な物質を除去する。三日で600 tの水を浄化できると推定される。 |
SCP-███-JPに指定。 |
19██/6/██ |
3 kgほどの白いスポンジ状の柔らかい塊 |
分析の結果、カイメンの仲間の新種の死骸だった。甘い香りがし、食べたいという弱い欲求を催させる。試験的にDクラスに摂食させると消化器を中心に内臓機能が改善された。 |
Anomalousアイテムに指定。残り300 g程 |
20██/6/██ |
黒っぽい花崗岩製の石棒 |
手に持つと極度の性的興奮を覚え、[削除済] |
SCP-███-JPに指定。 |
以下は、SCP-190-JP-1のリストです。
出現例 |
出現日時 |
出現イベント時の状況 |
SCP-190-JP-1-a |
19██/6/██ |
財団収容下での最初のSCP-190-JP-1出現例。二十代後半と見られるコーカソイド女性。簡素な衣類を身につけており全身が濡れていた。M██████ H██████を自称している。初期新高ドイツ語話者で、知識は元の居住地であると主張するドイツのケルン市のものに限定される。 |
SCP-190-JP-1-b |
19██/7/██ |
年少のモンゴロイド女性。出現時、白い貫頭衣と翡翠・貝からなる首飾りを身につけていた。不明な言語を話すが、現代のケクチマヤ語と近縁の言語と推定される。 |
SCP-190-JP-1-c |
20██/9/██ |
壮年のマレー人男性。現代的服装をしている。所持品は無し。出現直後に英語で自分はマレーシア人のH███ G███であると自称した。出現イベントを「財団による拉致」であると認識している。 |
SCP-190-JP-1-d |
20██/10/██ |
青年のコーカソイド男性。出現時は極度の興奮状態で、全裸であった。当初は職員からの英語での問いかけにわずかに反応したが、三十分程で極度の緊張状態に陥り会話が不能となった。 |
補遺1:以下は各対象のインタビューログです。英語による意思疎通が可能な場合は、高宮上級研究員が単独でインタビューを行っています。SCP-190-JP-1-aについては同時通訳者を使い、SCP-190-JP-1-bとは日本語でインタビューを行いました。可読性のため、内容は全て日本語で記載しています。
対象: SCP-190-JP-1-a
インタビュアー: 高宮上級研究員
付記: 本インタビューは対象の背景の調査が目的。これは収容後三ヶ月経過後に実施した。対象は職員に対しておおむね協力的である。
<録音開始,(19██/9/██)>
高宮上級研究員:ごきげんよう、SCP-190-JP-1-a。その後はいかがですか?
SCP-190-JP-1-a:なんというか、今までと比べたらお姫様みたいな境遇だから満足はしてるけど。
高宮上級研究員:それは結構ですね。では、あなたが役人に捕縛されてからの話をもう一度聞きたいのですが。
SCP-190-JP-1-a:ああ、またその話?[罵倒]のエーファのせいでケルン司教庁の[罵倒]どもが来やがったのよ。私が黒魔術を使ってるってね。
高宮上級研究員:はあ、黒魔術ですか。
SCP-190-JP-1-a:見当違い、というかエーファが私をハメたのよ。あれの旦那と話してるのを見られて……。
SCP-190-JP-1-a:私がやってるのはただの占いよ!嵐や火事を起こせるなんて、なんでそんな恐ろしいことを……。
高宮上級研究員:すみません、本筋に戻っていただきたいんですが。
SCP-190-JP-1-a:あらごめんなさい。思い出したら興奮しちゃって。でも、わたしは魔女じゃない。本当よ。
高宮上級研究員:まあ、本物の魔女なら……いや、やめておきましょう。では続けてください。
SCP-190-JP-1-a:うん……私の母も私が小さな頃に魔女として捕まって、役人の責めでありもしないことを白状してさ。
SCP-190-JP-1-a:同じことが私にも起こったのよ。アソコの毛まで剃られて、指を万力で絞められて……。
高宮上級研究員:……。
SCP-190-JP-1-a:挙句の果てに川で水責めさ。魔女でなければ沈み続け、魔女なら浮かんでくる。どちらにしろ、死ぬには変わりないのよ。溺れるか、火で焼かれてね。
SCP-190-JP-1-a:私は、溺れる方だったわ。
高宮上級研究員:では、あなたはなぜ生きているのでしょうね?
SCP-190-JP-1-a:……よく分からないけど、私が溺れててもう死ぬってなった時に、来たのよ。黒い……ナニが。
高宮上級研究員:ナニ、とは?
SCP-190-JP-1-a:どうしても、言わなきゃ駄目なの?
高宮上級研究員:お願いします。
SCP-190-JP-1-a:はあ……[新高ドイツ語での男性器の俗語]よ。
高宮上級研究員:え、[男性器の俗語]が来た?翻訳は間違ってませんか?いや、それはどういう……。
SCP-190-JP-1-a:ホントよ!真っ黒で、子供の腕みたいに太くて、それが私の腕に巻きついて引っ張ったの。それから目の前が真っ暗になって。
高宮上級研究員:ええと、それからは?
SCP-190-JP-1-a:気がついたら暗くて濡れた小部屋みたいなところにいたのよ。それからまた手を掴まれて急に空を飛んでるような感じになって、ここに。
高宮上級研究員:小部屋について詳しくお願いします。
SCP-190-JP-1-a:あまり覚えてないんだけど……石壁で、ヌルヌルして、ぎりぎり座れるかどうかの広さだった。このぐらいしか……。
高宮上級研究員:……ありがとうございます。では今日のインタビューは終了します。
<録音終了>
対象: SCP-190-JP-1-b
インタビュアー: 高宮上級研究員
付記: インタビューは装飾品の分析による「SCP-190-JP-1-bの起源はマヤ文明古典期後期である」という、██████博士の仮説を検証することが目的で実施されました。この記録はSCP-190-JP-1-bが高宮上級研究員から一年三ヶ月の日本語教育を受けた後、収容房内で行われました。
<録音開始,(19██/9/██)>
高宮上級研究員:こんにちは、SCP-190-JP-1-b。これから前に話した神様についてお話したいんだけど。
SCP-190-JP-1-b:はい、ちょと説明するの難しいですけど。
高宮上級研究員:うん?ああ、気にしなくても大丈夫ですよ。あとで検証、ええと、勉強して分かるようにするから。
SCP-190-JP-1-b:分かりました。えと、わたし、白くてつるつるの石の町に住んでいました。
SCP-190-JP-1-b:それで、雨が足りないと王様が神様に雨を降らせてくださいとお願いします。人とか、トラさんを石のお山の上で殺します。
高宮上級研究員:それは前のインタビューでも教えてくれましたね。それで、今日はあなたがお山の上に行った時の話を聞きたいんだけど……。
SCP-190-JP-1-b:[ここでSCP-190-JP-1-bの声が上ずり始める]うう、はい。
高宮上級研究員:落ち着いて頂戴……ほら、私の目を見て、目をそらしちゃ駄目。それで、ゆっくり息をして。そう……。
[ここで、対象を落ち着かせるために五分間の小休止がとられる]
高宮上級研究員:もう大丈夫かしら?もし駄目なら、また明日でも大丈夫よ?
SCP-190-JP-1-b:……だいじょぶです。
高宮上級研究員:……では、お願いします。ゆっくりで結構ですからね。
SCP-190-JP-1-b:……みんなの家の下の飲む水が無くなりそうになって、イライラしてました。
SCP-190-JP-1-b:だから王様がトラさんを殺したりそれで……。えっと王様の[削除済]をちょと切って血をあげたんだけど、それでも雨が降らなかったです。
高宮上級研究員:それであなたがお山の上に行ったんですね?
SCP-190-JP-1-b:はい、つかまえた敵の王様の[削除済]とわたしの[削除済]を神様にあげれば、雨を降らせてくれるってお父さんが言いました。
高宮上級研究員:……続けてください
SCP-190-JP-1-b:それでお父さんとお酒を飲んだ後、階段を登ってお山の一番上に行って、石の上に寝ました。
SCP-190-JP-1-b:それで王様が来て、となりに寝てた敵の王様の[削除済]をえっと、変な形の包丁で切って殺しました。すぐに王様が私も殺そうとしました。
高宮上級研究員:それで、何があったんですか?
SCP-190-JP-1-b:はい、わたしも刺されて、痛くて血が出て、死んじゃった?でもそう思ったら、誰かに手をすごく強く引っ張られてせまくて暗い所に入れられました。
SCP-190-JP-1-b:その後、神様が来て体を投げられました。わたしは森の上、海の上を飛んでこっちに来ました。
高宮上級研究員:あなたは刺されたの?でもあなたに傷はなかったじゃない。それに、どうして神様があなたを引っ張ったと思ったの?
SCP-190-JP-1-b:傷、うー、分からない、です。でも、神様は見たから分かりました。
高宮上級研究員:神様はどんな姿をしているのですか?
SCP-190-JP-1-b:ヘビさんです、少ししか見てないけど黒い大きなヘビさんの神様がしっぽでつかんで投げた、と思います。
高宮上級研究員:……分かりました。今日のインタビューは以上です。
<録音終了>
ううむ、降雨量の減少と放血儀礼、神殿ピラミッドでの生贄を用いた祭祀というのを考え合わせると古典期後期というより特徴的には終末期が近いように思える……。ともなると儀式の記録が何処かにあるやもしれん。中米にあるマヤ関係の専門家のいるサイトに問い合わせてみるか。──███博士
対象: SCP-190-JP-1-c
インタビュアー: 高宮上級研究員
付記: このインタビューは収容の一ヶ月後に実施されました。これは対象の背景の調査が目的でした。対象は非協力的態度ですが、財団職員や施設の規模を見て萎縮しており、要請には大抵応じます。
<録音開始,(20██/10/██)>
SCP-190-JP-1-c:今日は一体何の用だ?また、血を取るのか?おかげであれから貧血気味で……。
高宮上級研究員:ご心配なく、あなたは今健康そのものですよ。ではお話を伺いましょうか。
SCP-190-JP-1-c:いけ好かねえなぁ……何の話だよ?
高宮上級研究員:あなたがここに来る直前の話ですね。
SCP-190-JP-1-c:ああ、俺があの[罵倒]みてえなヒッピー野郎にとっ捕まった時の話か。あれは10月末で仕事も忙しかった時で、帰りがえらく遅くなったんだ。
SCP-190-JP-1-c:で、夜道を歩いてたら、頭をごっつい何かでぶん殴られて車に押し込まれたんだよ。おまけに財布やら携帯やら全部盗られちまった。
高宮上級研究員:目的は金銭でしょうか?
SCP-190-JP-1-c:いや違うね。あいつらはイカれてるのさ。
高宮上級研究員:イカれている、とは?
SCP-190-JP-1-c:あいつらは、多分タミル人どもだった。妙ちきりんな覆面をしてたから良くは見えなかったが……。あいつらの訛りでなんとなくわかった。
SCP-190-JP-1-c:車にいる間中、俺に供犠になれだの、喜べだの、ぐちゃぐちゃとほざきやがったんだよ。体中からハッパの匂いをプンプンさせてな。
高宮上級研究員:その後は?
SCP-190-JP-1-c:どうしたもこうしたも、何時間も車で走って誰も居ないような沼地に連れて来られたんだよ。
SCP-190-JP-1-c:それから沼に向かって跪かされて、首を……。いや……。
高宮上級研究員:どうしたんです?
SCP-190-JP-1-c:そんなわきゃあないんだが、首元をばっさりナイフで切られたと思うんだ。血でシャツがびしゃびしゃになって……。
高宮上級研究員:……。
SCP-190-JP-1-c:だが現に俺はこうしてピンピンしてるし、幻覚を見てたんだろうな。いつの間にか変な薬でも打たれてたのかもしれん。その後気が遠くなった。
高宮上級研究員:薬……そうかもしれませんね。それで何か、その後に見ましたか?
SCP-190-JP-1-c:気が遠くなったって言っただろう?……で、気を失ってる間にお前らにここに連れて来られた。以上だな。
高宮上級研究員:それは事実と異なりますね。それはともかく、本当に何も見ていないのですか?
SCP-190-JP-1-c:いやまあ、 夢みたいなものなら見たが。
高宮上級研究員:それを詳しく教えてください。
SCP-190-JP-1-c:……俺がなんか暗いところにいて、ぼーっと突っ立ってるんだよ。そしたら、ぼんやり光る何かが近づいてくるんだ。
SCP-190-JP-1-c:なんだと思って見てたら、つやつやした黒い石の柱が浮いてるみたいな動きでこっちに来たんだよ。で、俺もそれに近づいて……。
[SCP-190-JP-1-cは三十秒間沈黙]
高宮上級研究員:……どうしましたか?
SCP-190-JP-1-c:いやこれ、夢の話だぞ?そんなに聞きたいのか?
高宮上級研究員:ええ、是非に。
SCP-190-JP-1-c:……柱の真ん中あたりがばっくり割れて、濡れた紐みたいなものが飛び出してきたんだ、と思う。それで俺に紐が巻き付いて、すごい勢いで柱の中に引っ張り込まれた。それ以上は覚えてない。
高宮上級研究員:……今日はここまでにしましょう。
<録音終了>
補遺2:20██/10/██にSCP-190-JP-1-dの収容房の照明に使われていた蛍光灯が不明な原因で故障し、興奮したSCP-190-JP-1-dが房内で暴れたためセキュリティ要員がこれを制圧し、木村次席研究員がSCP-190-JP-1-dに鎮静剤を投与しました。そして、ただちに収容房の蛍光灯が交換されることになりましたが、そもそも蛍光灯は故障していませんでした。
しかし、当時の監視映像には、確かに蛍光灯が破裂する様子が記録されていました。SCP-190-JP-1-dはそれまで統合失調症の緊張病型のような症状を呈しており、高い位置にあるケース内の蛍光灯を割ることも、ましてや交換することなど到底出来ない状態であり、そのような行動も監視映像には残されていません。
直ちにSCP-190-JP-1-dは保安型の収容室へ移され、この現象の原因を突き止めるために精密検査が行われました。その過程で、SCP-190-JP-1-dの遺伝子パターンは[削除済]のパターンとよく似たものとなっている事が判明しました。しかし、これは収容当初のSCP-190-JP-1-dの遺伝子検査の結果とまったく矛盾するものです。今のところ、他のSCP-190-JP-1にはSCP-190-JP-1-dの示した変化は確認されていません。
以下は、この検査結果を受けて██████博士のチームがサイト管理者に提出した報告書の写しです。
現在、報告書内で██████博士の示した見解が財団内でのSCP-190-JPの収容指針に大きく影響を与えているため、財団職員一般にこの報告書が公開されています。
SCP-190-JP-1報告書
サイト-81██管理者宛
報告者:██████博士
各SCP-190-JP-1の証言の裏付けを取るために検証作業が行われてきましたが、結果から申し上げますと、唯一存在を確認できたSCP-190-JP-1-cの自称するH███ G███氏は、マレーシアの宗教団体██████によって20██/10/██に殺害されていました。この事件の後、団体の指導者の自白によって殺害現場の沼がすぐに調べられ、頚部を刃物で傷つけられたH███ G███の遺体が発見されました。また、この遺体とH███ G███氏の自宅に残っていた毛髪のDNAが一致しており、間違いなくこの遺体が本人のものであることが確認されています。そして、SCP-190-JP-1-cとマレーシアの司法当局から回収したこれらのDNAは全く一致しませんでした。ですが、H███ G███氏の外見的特徴はSCP-190-JP-1-cと酷似しています。こうしたことを勘案するに我々の「SCP-190-JPは儀式殺人の犠牲者をSCP-190-JPのところまでテレポートさせる」という仮説は全くの見当違いであった恐れがあります。
では、SCP-190-JPは様々なオブジェクトや人間を何の目的で出現させているのでしょうか?そして、どうやってそれを行なっているのか。SCP-190-JP-1達の証言を信用するなら、例の「黒いなにか」が深く関わっているのは間違いありませんが、SCP-190-JP-1の起源がなんなのか、本当に「人間」なのかさえ不明となった今、SCP-190-JP-1の証言に頼らない検証方法が模索されなくてはならないでしょう。彼らが嘘を言っていないのは自白剤や██████を使った尋問でほぼ確定しています。ですが「黒い何か」についての証言を含め、それが我々もよく利用する植え付けられた記憶だったとしたら?
そして問題は、SCP-190-JPが収容外にあった期間に発生した未収容のSCP-190-JP-1と、██████の元住人との混血達です。これは概算で████人以上は存在すると見られ、その子孫たちによって今なおその数は増加し続けています。彼らにSCP-190-JP-1-dのような異常は見られませんが、検査結果を考慮するとSCP-190-JPがなんらかの害意をもってSCP-190-JP-1を人間社会に放っている危険性も考えなければなりません。もしかすると、エサとして有用な物品をばらまき、SCP-190-JP-1と周辺住民との交配を促していたのではとさえ思えます。
私はこれを現在進行形の収容違反であると改めて強調します。これ以上のSCP-190-JP-1の拡散は阻止されなければなりません。現在収容外にある全ての対象の不妊化処置を含めた断固とした処置が必要であると、上記の通り報告致します。
君の指摘している通り、SCP-190-JP-1およびその遺伝的影響を受けている日本人は相当数存在していて、対処が必要なのは確かなことだ。しかし、それらに対する大規模な「断種」がその最適な対処であると拙速に判断すべきではない。
所在が確認されているSCP-190-JP-1については不妊処置も検討するべきだと考えるが、しかし、それ以外についてはこれからのSCP-190-JPの様態をより詳細に観察して、今後の対応を決定するべきだろう。ついては、本件は財団日本支部理事会に付託し、彼らの決定を待つこととする──サイト-81██管理者█████