SCP-1933-JP
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アイテム番号: SCP-1933-JP

オブジェクトクラス: Keter (Safeへの変更を協議中)

特別収容プロトコル: SCP-1933-JP-60は現在、ニューヨーク州バタビアの地下100メートルに位置する特殊収容施設に保管されています。現在の特別収容室内部には、タイムラプス式の空の映像がデジタルに描画されます。SCP-1933-JP-aの排出が確認された場合、機動部隊ガンマ-10(“バルムンク”)によりSCP-1933-JP-60およびSCP-1933-JP-aの無力化が行われ、攻撃性を見せないSCP-1933-JP-a個体が新たなSCP-1933-JPとして収容されます。その後、SCP-1933-JPがどのような願望に基づいているかが判明次第、特別収容室の内装は変更されます。

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2018/03/04 SCP-1933-JP-60。

説明: SCP-1933-JPは単為生殖を行う不定形の生物種です。遺伝子検査によるとヒト(Homo sapiens)の近似種であると判明しており、人類に類似した知性を持ちます。形状は概ね哺乳類に類似しますが、複数の既存の生物種が融合した形状か伝説上の生物を彷彿とさせる形状に変化します。現在収容されているSCP-1933-JP-60は全身に黒く固い体毛の生えた全長3メートルの類人猿に似た形をとり、英語による会話が可能です。

SCP-1933-JPは生命的な危機を感知すると急速に複数の子実体(SCP-1933-JP-a)を生成し、排出します。一度に排出するSCP-1933-JP-aは最大30体で、SCP-1933-JPのおかれた状況の打開に適した様々な特徴を有します。SCP-1933-JP-aはSCP-1933-JPを殺害、捕食することで急激に成長し、新たなSCP-1933-JPとして状況下からの脱出を試みます。現時点で確認されている環境適応範囲には限界が確認されず、特徴は牙や爪の発達、飛行能力、呼吸法の変化、物理的耐久力、薬物耐性、認識災害の保持など多岐に渡ります。この性質を利用し、SCP-1933-JPは現在に至るまで計52回の収容違反、███名の死傷者をもたらしました。

SCP-1933-JPは1917年7月、アイスランドの████████村民42名と家畜が全滅した事件で発見されました。当初は大陸由来のオオカミやクマによる獣害と思われましたが、現地の呪術師団体によって存在が発覚しました。発見された個体はその場で殺処分されましたが、発生した多数のSCP-1933-JP-aが拡散される結果となり、ノルウェー、イギリス、アイルランドの██ヶ所の町村で合計████人の死者をもたらしました。当該事件は第一次世界大戦の混乱の最中のため各国により隠蔽され、各所で発見されたSCP-1933-JP個体は現場で破壊、もしくは収容されました。その後、収容された個体群は財団へと引き渡されました。

SCP-1933-JP-58は1958年6月のSCP-1933-JP-57収容違反事案で誕生した個体です。当事案時、母体であるSCP-1933-JP-57はSCP-1933-JP-aを30体排出し、機動部隊ガンマ-10(“バルムンク”)によりSCP-1933-JP-57およびSCP-1933-JP-a破壊後、隊員γ-10デルタが液状のSCP-1933-JP-a生存個体に拘束されました。収容室は即座に閉鎖され、取り残されたγ-10デルタは通信が途絶えKIAとされましたが、10時間後に確認された音声通信から生存が確認されました。この後、γ-10デルタによりSCP-1933-JPの生態や性質の多くが解明され、特別収容プロトコルの変更が行われました。

音声記録書き起こし-01

日付: 1958/06/11

<記録開始>

γ-10デルタ(以下「デルタ」): こちら、こちら機動部隊ガンマ-10(“バルムンク”)デルタ。誰か私の声が聞こえないか。

[この時、機動部隊ガンマ-10(“バルムンク”)隊長がデルタに対し応答を実施しているが、反応はなかった。のちにデルタの受信機が故障をしていたことが判明した。]

デルタ: あー、とりあえず状況の経緯は説明しておくことにする。私はSCP-███の収容違反阻止に備えて駆り出され、排出されたSCP-███-aの処分を行なっていた。ほぼ沈静化したと見られ、私は、その、あー、迂闊にも近づいてしまった。倒れた隊員らの無事を確認しに歩み寄って、まずは肉を踏んづけたと思ったが、天地がひっくり返って頭が床に落ちた。視界が裏返ったみたいで、気がついたら誰もいなくなっていた。何時間経ったかもわからないが──どうやら、この通り、私は生きているらしい。肝心なSCP-███は、ええっと。

[5秒の沈黙]

デルタ: まあ目の前にいる。私に見えるのは、透明なスライムが隊員や親兄弟の死体を包み込んで食ってる光景だ。少なくとも、すぐさま頭からむしゃぶりつかれることは無いようだ。私が幽霊でなければだが。助けてほしいのが正直なところだが、望めないと思う。誰かがこの通信を聞いていることを願う。以上だ。

<記録終了>

以上の通信に基づき、証言上のスライム状のSCP-███-a個体はSCP-███-58に分類されました。デルタの救出作戦が機動部隊と担当職員から提示され財団倫理委員会で協議がなされましたが、SCP-███-58の形状から収容違反の危険性が高いこと、確認されたデルタがSCP-███-58の未知の影響下にある可能性が考慮され、7日間の経過観察ののちに決定されることとなりました。

音声記録書き起こし-02

日付: 1958/06/16

付記: 14日にデルタはSCP-███-58が死骸を完食し、接近を開始したと報告していた。SCP-███-58と接触しないように定期報告を行なっていたが、携帯食糧と飲料の枯渇、精神的および肉体的限界により移動を止める宣言をしていた。

<記録開始>

デルタ: こちらデルタ。たぶん5日は過ぎたが、救助は来ず、腹も減り、逃げ回るのにも疲れてしまった。これからSCP-███-aと接触する。変化があったらこのまま報告する。

[1分20秒経過、高音域の音声が記録される。]

デルタ: 吟味をしているのか、私の周りをうろついている。

[3分経過]

デルタ: まだ生きている。

[30秒経過]

デルタ: 手を掴まれた。

[1時間経過]

デルタ: [喘鳴]なあ、外で聞いている誰か。

デルタ: 絵本をくれないか?

<記録終了>

担当職員間の協議の結果、給餌口を通してSCP-███収容室に児童用絵本"The Cow Who Fell in the Canal"が投入されました。その後も絵本の継続投入の要望があったことからデルタの生命維持を決定し、7日分の栄養剤と飲用水、替えの無線機、35mmフィルムカメラ、児童用絵本(“Petunia” “The Book About Moomin, Mymble and Little My.”等の計10冊)が投入されました。以降、デルタとの通信は担当職員のサルトル博士が行うこととなりました。カメラで撮影された写真は、収容室の廃棄口に投入することで外部に提供するよう指示されました。

音声記録書き起こし-03

日付: 1958/08/09

付記: この音声記録はサルトル博士の指示で行われたものである。この時、SCP-███-58は人間の10歳前後の児童と同等の知能を持っていた。また、デルタの声を模倣して発声が可能になったと報告されている。

<記録開始>

デルタ: 君が母の腹のなかにいた時のことを、覚えている限りで教えて欲しい。

SCP-███-58: 私が母の体にいた時、私は母と1つだった。母のお腹の中は忙しかった。たくさんの光や火が食い合っていた。私もその中の1つであり、食われないよう逃げてばかりいた。

デルタ: なぜ食い合っていたんだ?

SCP-███-58: 死にたくなかったから。私たちはみんな、死にたくないから食い合った。生きたい、でも生きるためには生きる強さを持つものしか出られない。だから食い合った。それはときどき激しくなって、ときどきとんと落ち着いて、それを繰り返した。それはきっと、その時に母の感じていたことのせいだ。

デルタ: 外の出来事を、君は察知していたということか?

SCP-███-58: 生まれた時のことを思うに、そうだろう。どうして私が外に出られたのかは、よくわからない。私はあの中で、一番生き残れなかった。兄弟たちが先に死んだから、私は生きている。

デルタ: 出られなかった彼らは、今どうしている?

SCP-███-58: ここにいる。[ポンポンと叩く音]でも、今は食い合っていない。食い合うと痛いから、しないでいるといいと思う。

<記録終了>

この報告結果により、SCP-███-58には収容違反の意思がないとされ、特別収容プロトコルにSCP-███-58の一般的な知育が導入されました。

音声記録書き起こし-04

日付: 1959/05/02

付記: この記録はデルタからの定期通信である。

<記録開始>

サルトル博士: こちらサルトル博士。デルタ、報告を。

デルタ: こちらデルタ。サルトル博士、これまでの生活で、SCP-███-58について確信したことを話します。SCP-███-58の精神は人間と似ています。教育すれば倫理や道徳、人間の価値観を理解してくれますし、知能面では人間よりも成長が速いです。

サルトル博士: 続けてくれ。

デルタ: ただ、どうにも共感の面では弱いようです。おそらくはSCP-███の種としての本能です。彼らは生まれる時に共食いを行うし、事実SCP-███-58も母兄弟を捕食しました。共感など行なっていれば生存行為にすら躊躇うことになる。いずれにしろ、従来のSCP-███の凶暴性はこの性質が大きく影響していると考えます。幸いSCP-███-58は現時点で攻撃性を見せません。理知的な性質を利用して教育を続ければ、収容がより安定するかもしれません。

サルトル博士: わかった、ありがとうデルタ。すまないが、引き続きSCP-███-58の世話を続けて欲しい。君の救出について現在も協議を続けているが、明らかな人格や意思があるのならば、今後行動の変化も出てくるだろう。どうか継続してくれ。

デルタ: [ため息]はい。きっとこれも、神の与えたもうた試練でしょう。Keterクラスオブジェクトによる被害を食い止めることがこの身の罪の贖いとなるならば、付き合います。

<記録終了>

音声記録書き起こし-05

日付: 1962/12/15

付記: この時、SCP-███-58はデルタの応答に対して反応せず、収容室の壁を何度も徘徊していたとのこと。メンタルテストスコアの低下が見られ、軽度の人間不信の傾向があった。

<記録開始>

デルタ: よし、SCP-███-58。どうしたのか聞かせてくれ。

SCP-███-58: [深いため息]ガードナー2、私は君たちに嫌われていると思っている。

デルタ: 誤解があるよ。私は決して君を嫌っていない。現にこうして私は君の世話を続けている。

SCP-███-58: 君は必ずそう言う。申し訳ないが、信用できない。

デルタ: どうしてだ?

[ページがめくれるような音が記録され、25秒ほど沈黙]

SCP-███-58: 君たちの目には、私がこう映っているんだろう。だとしたら、君たちは私の事が嫌いなんだと思う。

デルタ: すまない。しかし君はこの怪物とは違う。私たちが断じて君を嫌悪や憎悪でここにいさせているのではないと理解してくれ。

SCP-███-58: そこはわかっている。私はたぶん、ここに安心している。私はきっとここで育つように生まれた。しかしそれは私が何も知らなかったからだ。今の私が、君たちを疑う頃になっている事だけは伝わってほしい。

デルタ: わかった。君の率直な気持ちを伝えてくれてありがとう。

SCP-███-58: なあガードナー、私は君たちの敵じゃないよ。

<記録終了>

終了報告: 翌日の定期報告によると、この時SCP-███-58はギリシア神話児童書のミノタウロス3の挿絵を開いていたとのこと。

事案記録-193301: 1963/11/29 18:25 SCP-███-58とデルタとの交戦が発生しました。デルタの報告によれば、SCP-███-58から1体のSCP-███-a個体が発生しました。デルタは支給された装備で無事SCP-███-aを無力化、SCP-███-58は捕食により負傷しましたが命に別条はありませんでした。以下の音声記録は、当事案の直後に記録されたものです。

音声記録書き起こし-06

日付: 1963/11/29

<記録開始>

デルタ: 話を聞かせてくれ。

[25秒の沈黙]

デルタ: どうか話してくれ。私は君が、今の状況の何に恐怖を感じたのかを知りたい。

[10秒の沈黙]

SCP-███-58: 母のことを考えた。

デルタ: 君の母のことか。彼女は、君が生まれた時に捕食しただろう。

SCP-███-58: そうだ。私は母を食べた。母がそう望んでいたから。でも私は考えていなかった。母がなぜ、そう望んだのかを、私は考えた。

デルタ: どう考えた。

[10秒の沈黙]

SCP-███-58: 外に出たい。

デルタ: それが、君の母の苦痛の理由か?それとも君の願望か?

SCP-███-58: 私も、母も、そう願った。ここは、苦しい。私はずっとここにいたから、そんなに苦しくない。母は違う。彼女は、私よりも外に出ることを願った。母はたくさん願った。腹が減った、肉が食べたい、生き物を殺したい、血を吸いたい、外に出たい、空を見たい、暗く冷たい洞窟の中でただ眠りたい。母はそういう人だった。私は母の、外に出たい気持ちから生まれた。

SCP-███-58: 母は、外に出たかった。私は、外に出たい。

デルタ: そうか──そうか。すまない。

<記録終了>

終了報告書: 以降、SCP-███-58用の図書に脱出や逃亡の表現を含む書籍の投入は禁止された。

音声記録書き起こし-07

日付: 1964/04/24

付記: 前回の定期通信にて、デルタは収容室からの救助を要請している。直前のメンタルテストではスコアの低下が見られた。

<記録開始>

サルトル博士: デルタ、君の救出について倫理委員会の協議の結果が出たので報告だ。

デルタ: はい。

サルトル博士: 結果で言えば、やはり救出はできない。

デルタ: できない?

サルトル博士: 我々としても、君を助けたいのは山々だ。確かにSCP-███-58は理性的であり、手当たり次第人を襲うようなものではないだろう。しかし、我々からは、SCP-███-58を君の言葉でしか知ることができない。もしも何か問題が発生した時、我々がそのオブジェクトを問題なく収容できるかの確証がないのだ。

デルタ: しかし博士、SCP-███-58は懸念されるほどの凶暴性がありません。事実、私は6年近く、彼のそばで生きてきました。確かに先代のSCP-███-57は凶暴な怪物でしたが、彼は違います。彼は一度も人を殺さず、そのような欲求を見せず、我々との対話の意思もあります。彼はコントロールされています。

サルトル博士: それも我々からするとわからない。倫理委員会を動かすには、単純に口頭だけでなく、その存在を実証するだけの情報が必要なんだ。

デルタ: 私だってそうしたいです、しかしその手段がありません。無駄な人員消費を避けたいからなのはわかります。しかし、誰も送られてこない以上、目撃者も増やせません。これじゃあどうしようもない。だから私はこうして訴えているんです!

サルトル博士: わかっている。

デルタ: わかっているじゃありません!それとも私がSCP-███-58と閉じ込められているだなんて壮大な自作自演をしているから信じられないとでも言うんですか!

サルトル博士: [咳払い]デルタ、そのことだが──倫理委員会は、SCP-███-58が君の自作自演ではないかと懸念している。

デルタ: [5秒の沈黙]待ってください。本当にそんな事を?おかしいですよ!私は、そうだ、写真を送った!フィルムを廃棄口に落として送った筈です!

サルトル博士: ああ、受け取って現像した。しかし、それらの写真には、君と壁しか映っていなかったんだ。

サルトル博士: 君は過去に精神障害を診断されたことがあるね。倫理委員会はこのことを知り、君の証言に疑念を持っている。今まで記録された君とSCP-███-58の音声を、何度か照合を行なった。しかし、何度聞いても、君とSCP-███-58の区別がつかない。君たちは常に交互に喋っている。それにSCP-███-58が理知的すぎると倫理委員会は感じている。その結果、君は良くて発狂しているか、認識災害を受けているか、最悪SCP-███-58の擬態である可能性があると話が出た。よって、収容違反防止のために現状維持で結論づけられた。

サルトル博士: すまない。

サルトル博士: デルタ?

[以降、デルタからの応答なし]

<記録終了>

終了報告: この日、サルトル博士から何度か通信の試みがなされたが、デルタは応答しなかった。

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デルタの証言によると、1964/03/29にSCP-███-58を撮影した写真とされる。

音声記録書き起こし-08

日付: 1964/04/25

付記: この通信は00:15開始時点から常時送信状態となっていた。この通信はSCP-███-58が行なったものと思われる。

<記録開始>

SCP-███-58: ガードナー。

SCP-███-58: いつまでそんな隅に座っているんだ。

SCP-███-58: ガードナー。君はどうしてそうも傷ついている?

[遠くから嗚咽の音声]

SCP-███-58: 君は何も悪いことをしていない。君がそんな苦しい思いを強いられる謂れはないはずだ。

デルタ: [嗚咽]わからない。神よ、貴方はどこまで私に試練を与えたもうか。私はまだ許されないのか。それとも私は本当にただ夢を見ているのか。私はおかしくなってしまったのか。それとも、私の罪のためか。

SCP-███-58: 気が済んだら眠るといいさ。

[デルタの泣き声が38分に渡って記録される。]

<記録終了>

終了報告: この後、デルタからの通信が68日間途絶した。サルトル博士の通信に対する応答も確認されなかった。

音声記録書き起こし-09

日付: 1964/12/27

付記: 当音声記録は、SCP-███-58とデルタの会話内容の抜粋である。当時の収容室からは、デルタがSCP-███と交戦していると思しき破壊音や戦闘音が確認されており、この会話はその音声が沈静してから常時送信状態で記録されたものである。

<記録開始>

デルタ: 私は子供の頃に、弟を殺した。

SCP-███-58: 君は彼を恨んでいたのか?

デルタ: 違う。愛していた。彼は幼かった私の宝の1つだった。あれは──私は父の手伝いで、トラクターを動かしていた。弟と妹と一緒にいた。家に帰るところだったんだ。でも途中でガスが切れて、トラクターが揺れて、小さな弟はカルチパッカ4の下に落ちた。あれは事故だ。

SCP-███-58: 事故だったのだな。

デルタ: そう──違う。殺したんだ。私は弟を助けられるはずだった!しかし[嗚咽]ブレーキに手を伸ばさなかった。間に合わなかったから、いや違う、間に合った筈だ。なのに私はブレーキを掴まなかった。私はあの時、まだ幼い弟が今後、ひしゃげた体で生きるなんて、そんな残酷な生き方をさせるくらいならと。そうだ、私は、意図的に弟を殺したんだ。

SCP-███-58: 君は家族殺しだったんだな。

デルタ: そうだ。私は人殺しだ。鬼畜で、悪魔で、嘘つきで──怪物だ。

SCP-███-58: [小さな笑い声]君は人間のくせに、自分を怪物と評するのだな。怪物は家族を殺すのか、家族を殺すのが怪物になるのか。

デルタ: 家族を殺すような奴は怪物に決まっている。

SCP-███-58: 私は母と兄弟を食べたよ、ガードナー。

[13秒の沈黙]

デルタ: すまない。

[小さな笑い声]

<記録終了>

終了報告: この後、デルタからの通信が25日間途絶した。音声中、壁を引っ掻くような音が断続的に記録されており、これが事案記録-193302の前触れであったと考えられる。デルタはこの時の記憶が曖昧であり、SCP-███-58の行為を阻止しなかった理由は依然不明である。

音声記録書き起こし-10

日付: 1965/01/21

<記録開始>

SCP-███-58: なあガードナー、私は君と6年以上を過ごして来た。君は君自身を怪物と呼ぶ。私は君とよく似ていると思うし、そうならばきっと私は怪物だ。

SCP-███-58: だってほら、君と私は同じじゃないか。 こうして檻に閉じ込められて、寄り添いながら、同じ無線機で、彼らと話をしている。

デルタ: そう──そうだな。

SCP-███-58: なあガードナー、君はいつか話してくれたな。アングロサクソンの怪物、悪魔、竜殺し。いろんな伝説を聞かせてくれた。もしその中で私と君を何かに喩えるなら、人から生まれた君はミノタウロスで、怪物から生まれた私はグレンデル5だろう。しかし君はミノタウロスではない。君には退治する英雄などいない。

[何かを叩く音]

SCP-███-58: 覚えているか?怪物は何故、怪物なのかと、私が聞いて、君はなんと答えた?

デルタ: 怪物は人を殺し、脅かし、生まれながらにして醜悪で、罪深い。ゆえに、英雄の華として退治される。

[笑い声]

SCP-███-58: なあ、ガードナー。

[この時、外部では収容室の軋む音が確認されている。]

SCP-███-58: 私は、怪物か?

<記録終了>

事案記録-193302: 1965/01/21 SCP-███収容室の壁に亀裂が発生し崩壊、内部から全長3メートルの類人猿の姿をしたSCP-███-58が出現しました。SCP-███-58は多数のSCP-███-aを排出しながらサイト内を移動し、サイト管理室前で機動部隊に無力化されるまで職員142名を殺傷しました。その後、残骸からは著しく衰弱したデルタが発見されました。デルタは治療により一命を取り留め、その後回復しました。

SCP-███-58から排出されたSCP-███-aのうち、攻撃性を一切見せなかった個体がSCP-███-59として選出され、残りの個体は無力化されました。

インタビュー記録

日付: 1965/08/08

対象: γ-10デルタ

インタビュアー: サルトル博士

<記録開始>

サルトル博士: まずは退院をおめでとう。ヒゲも髪もスッキリしたな。早速だが、あの収容室での出来事をいくつか聞かせてほしい。

デルタ: はい。

サルトル博士: まず、前回のインタビューと検査で、君がSCP-███-58の影響下ではないとは判断できた。幸いなことに。今回君に尋ねたいのは、SCP-███-58についてだ。

デルタ: 彼は私の自作自演だったのでしょう?

サルトル博士: デルタ、あの時の我々にはSCP-███-58の存在を証明する術がなかった。あくまでも君の口から語られただけであり、我々は一度たりとも、SCP-███-58の姿を見たことがなかったのだ。あの収容違反まではね。

デルタ: ええ、わかっています。

サルトル博士: 正直、今も信じられないよ。収容室内ははたから見たら、壁の亀裂を除けば君以外の生活の痕跡がみつからないんだ。SCP-███-58に食われたと言う死体も跡形もない。我々からすれば、君は6年間をあの部屋で1人で生き抜いたようにすら見える。

デルタ: そうでしょうね。

サルトル博士: 時にデルタ。君は今回の出来事をどう捉える?

デルタ: ええ。SCP-███は、もっと早い段階で、より上手く収容できた筈と思います。

サルトル博士: しかしデルタ、SCP-███は既に収容されている。次世代のSCP-███-59が今は対象だ。残りは全て破壊され、性質が解明した今は問題ない。

デルタ: わかっています。でもそうじゃありません。私たちはあのような存在を人々から遠ざけるために収容を行う。しかし──しかしだからこそ、私たちはオブジェクトを「ただ収容する」べきではないと思います。

サルトル博士: どういう事だ?

デルタ: SCP-███を収容した時、財団はそれを凶悪な怪物と判断して檻に閉じ込めました。強固な檻の中にしまいこみ、逃げられないようにしました。その結果、今まで何回の収容違反が起こりましたか?そしてその理由を我々は、「ただ凶暴な怪物が暴れ狂っている」以外での理解をしようとしましたか?そもそも今回、我々がSCP-███-58からその性質を理解できたのは、私が閉じ込められたという偶然の結果です。あの場でスライム状の彼が唯一生き残り、彼が暴力性を持たない性質で、そんな彼に私が躓き、1人で彼の側にいなければ、ここまで解明できなかった筈です。

サルトル博士: 結果論だ。

デルタ: 結果論です。しかし、博士、財団はアサイラムや動物園とは違う。物理的にイカれた連中を隔離し、ただ縛り付けるだけの場所じゃないんです。我々は科学の人であり、学問の人であり、何よりも、知性と人格を持つ生命です。SCP-███はただの分裂する凶悪なモンスターじゃありませんでした。ただの危険な生命体としてではなく、1つの理知的生命として触れたからこそ、私は6年もあの檻で生き延びました。我々がSCP-███というアノマリーをただの醜悪で邪悪な怪物などと断定せず、どういう精神構造であり、その行動原理を正しく理解していれば、より早く沈静化できたはずなんです。

サルトル博士: しかし、最終的にSCP-███-58は100余名の人員を殺害した。それはつまり、SCP-███-58も所詮は凶悪な怪物だったということにはならないか?

デルタ: 違います、博士。彼があの凶行に及んだのは、彼が凶悪だからではありません。

サルトル博士: では、何故だ?

デルタ: 我々がそうさせたんですよ。

<記録終了>

2018/08/30現在、SCP-1933-JPの野生個体が発見されないことや収容違反の可能性が低下していることから、オブジェクトクラスの見直しが検討されています。

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