アイテム番号: SCP-194-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-194-JPを、完全に収容することはできないため、職員は指定エリアでの、SCP-194-JP-1の発見に努めてください。晴天時は4名、雨天時と降雨後24時間は20名以上の警備職員が、指定エリアを巡回し、SCP-194-JP-1およびSCP-194-JP-3を捜索します。SCP-194-JP-1が発見された場合は、雨水の浸入を防ぐためにテントを設置し、最低3時間その状態で待機してください。待機後、熱風を照射することで乾燥させます。SCP-194-JP-3は確保した後、人型オブジェクト用の収容施設に収容します。収容後7~30日の経過観察をし、担当研究員の要請がなければ終了処置をとり処分してください。対象者がSCP-194-JP-1へ転落する瞬間を、目撃した人間、および生還した対象者には、事情聴取後に記憶処置を施し帰宅させます。
SCP-194-JP-1発生の指定エリアには、国土交通省の協力を得て、『この水溜りは深くなっているので注意してください』と書かれた看板を、不自然でない間隔をおいて可能な限り多く設置します。すでに舗装された道路を、完全な排水構造にする改修工事および、舗装されていない山間部の歩道についての整備予算については審議中です。
説明: SCP-194-JPは████地方で発生する異常な性質を持った水溜りとその内部空間です。
SCP-194-JPは、主に████地方で発見される水溜り(以降SCP-194-JP-1と呼称)で起こる異常現象です。SCP-194-JP-1に足を踏み入れた人間は、SCP-194-JP-2と呼ばれる異常空間へ引きずりこまれます。SCP-194-JP-1の出現する場所など、詳細な条件は判明していませんが、通常の水溜りと同じく降雨後に出現します。また、山間部などの人目に付かない場所で発生する傾向があります。SCP-194-JP-1は、通常の水溜りとほとんど見分けがつきませんが、通常の水溜りと違い、どの角度から覗いても鏡のように光を反射し、また深さを測ることができません。多くの場合、水溜りと勘違いした対象が、SCP-194-JP-2へ転落します。
SCP-194-JP-2は、SCP-194-JP-1を通過した先にある異常空間です。SCP-194-JP-2では、対象者が生まれてから最初に住んでいた街が再現されています。街は半径10kmほどに渡って再現されており、街の外にはSCP-194-JP-1と同じ水でできた海が広がっています。この海の広さはわかっていません。
SCP-194-JP-2に転落した対象は、再現された街のどこかへ着地しますが、着地場所の周囲にSCP-194-JP-1、それに類する出入り口らしきものは見当たりません。そのため、入り口となったSCP-194-JP-1から戻ることはできません。生還者の証言では、その場所から"生まれ育った家"に戻ることができれば、入り口となったSCP-194-JP-1から出ることができるとされています。SCP-194-JP-2内の街は、対象が"生まれたとき"の街であるため、対象者が年長であるほど生還は困難となります。
SCP-194-JP-2内では、SCP-194-JP-3と呼ばれる人型の存在が対象者をSCP-194-JP-2内にとどめようと接触してきます。現れるときは、複数であったり単体であったりしますが、おおむね対象者の知らない人間の姿をしています。対象者が、SCP-194-JP-2に転落してからおよそ3時間ほどで、SCP-194-JP-2内にある太陽が沈みます。それまでに対象が脱出できない場合、SCP-194-JP-3の一体がSCP-194-JP-1から出現します。SCP-194-JP-3の出現にともないSCP-194-JP-1は蒸発します。SCP-194-JP-1が蒸発する前なら、別の対象者がSCP-194-JP-1内へ進入可能ですが、その場合、別のSCP-194-JP-2が生成され、SCP-194-JP-2内で対象者同士が接触することはできません。
出現したSCP-194-JP-3は、おおむね成人の人間ではあるものの、全ての臓器が1歳児ほどの大きさしかなく、知能も非常に低くほとんど意思疎通ができません。
確保されたSCP-194-JP-3に対する質疑: 20██/05/27 識別番号SCP-194-JP-3-006。巡回中の警備員が道路を這って移動していたSCP-194-JP-3を確保した。
研究員T: あなたのお名前を聞かせてもらえますか?
SCP-194-JP-3-006: いたい…
研究員T: あなたはどこから来ましたか?
SCP-194-JP-3-006: おかあさん…
財団では過去██件のSCP-194-JP-1の発生を把握していますが実際の発生回数はこれよりも多いものと予想されます。そのうち3名の生還者に対しては記憶処置を施し、そして██体のSCP-194-JP-3を収容しています。残りの標本は終了されました。
Dクラス職員によるSCP-194-JP-2の探索記録:
20██/06/10 巡回中の警備員がSCP-194-JP-1を発見。Dクラス職員による探索の許可が下りました。探索にあたる職員には通信装置とGPS送信機を装着。SCP-194-JP-2侵入後はカメラの映像はノイズがひどく不鮮明でしたが、その他の機能は正常に作動。事前の調査で職員の生まれた街の生まれた当時の地図を入手しました。
20██/06/10 09:17:45
SCP-194-JP-D001: おう。せんせ。入ったぜ。ほんとにワープしたみたいに上に何もないな。
研究員T: いまどこにいますか?
SCP-194-JP-D001: 神社に続く山道の途中だな。こっから家までどれくらいだったかなあ。しかしほんとにここは異空間ってやつなのか?見た目は現実そのものだ。太陽のぐあいからすると午後3時くらいか?虫も鳥も人間もいねえこと以外…いや、においもないな。
研究員T: におい?
SCP-194-JP-D001: ふるさとに帰ると懐かしいにおいってするもんだろ?なんもにおわない。15年ぶりだからかな?それにしては他の匂いも無いが。気味悪いな。風もない音もない。すごく小さく波の音がするな。
研究員T: その山道を降りて、左に曲がってください。まず橋についたら教えてください。また案内します。
20██/06/10 09:29:33
SCP-194-JP-D001: はあ、橋についたぜ。なつかしいな、こんな小さい橋だったんだな。下を見るのが怖かったもんだ。
研究員T: 橋を渡ったら右にまっすぐ行って下さい。10分くらい歩くと酒屋があるはずです。
20██/06/10 09:32:17
SCP-194-JP-D001: おい、せんせ。酒屋なんてないぜ。
研究員T: おかしいですね。地図ではそうなってるんですが…隣の駐車場は確認できますか?
SCP-194-JP-D001: 更地っぽいもんならあるけど、あれが駐車場でいいのか?
研究員T: わかりません…とにかく、そこを左にまがって突き当りまで歩いてください。
20██/06/10 10:07:24
SCP-194-JP-D001: おい、せんせ。なんか曲がった道を進んでるんだけど、いいのかい?
研究員T: そんな…地図ではまっすぐのはずですが…
SCP-194-JP-D001: いやでも山から家まではこういう道を通った気はするんだ、たぶん地図が古すぎるか新しすぎるんだ。
研究員T: 急いで図書館へ問い合わせてみます。太陽はまだ昇っていますか?そこで待機していてください。
SCP-194-JP-D001: せんせ!まってくれ!近くの家の窓から誰か呼んでるんだ!マイクを向けてみるよ。
(非常に聞き取りづらいが、『こっちにきて』と聞き取れる)
SCP-194-JP-D001: せんせ。どうしよう。入ってみるか?
研究員T: ダメです。今回は生還する方法を探るテストです。家を目指してください。
SCP-194-JP-D001: ああ…でも、昔はどこの家も自分の家だったような気がする…そんな時代もあったな。いい時代だったよな。せんせ。
研究員T: ええ。今は関係ありません。その家には入らず、待機していてください。
(さきほど聞こえた声がまた聞こえるが、さきほどより少し大きく、音もひずんでいる)
SCP-194-JP-D001: あのひと知ってるヒトだったような…そうだ知ってるヒトだ。ああそうだよ…思い出した。
研究員T: 聞こえていますか?引き返してください。応答してください。
20██/06/10 10:10:42
不鮮明ながら、カメラはSCP-194-JP-D001が一軒の民家の玄関ドアの前に立つところを映し出す。それから、3秒ほどしてドアが開くが、屋内はまったく光がなく内部の様子が確認できない。その中にSCP-194-JP-D001が踏み入り、画面が真っ黒になったところで映像は通信不能になる。音声通信はしばらく正常に作動し続ける。楽しそうなSCP-194-JP-D001の声と、正体不明の女性とも男性とも人間とも判断できない声が、会話を始める。正体不明の存在はSCP-194-JP-D001を居間に案内していると思われる。
20██/06/10 10:12:10
おそらく居間か客間に座る音が聞こえる。SCP-194-JP-D001と、SCP-194-JP-3と思われる声との楽しそうな会話は続くが、時折何かを引きずるような音と、詳細不明の湿った水の音が混ざり始める。
20██/06/10 10:21:56
楽しそうな会話は続くが、時折固いものを噛み砕く音が混ざり始め、SCP-194-JP-D001の声が途切れがちになる。この間研究員はSCP-194-JP-D001に語りかけ続けるが応答はなく、SCP-194-JP-D001は咳き込み何かを吐き出しながら会話を続けた。
20██/06/10 11:32:50
何か重たいものが床に落ちる音を最後に無音になる。それ以上の変化は見られなかった。
備考: 探索の間、GPSは正常に作動しており、位置情報はDクラス職員の生まれた街を示し続けていました。通信途絶後、GPSの反応のあった場所へ行くとそこは空き家となっており、荒れ果てた室内から職員の服や装備が全て見つかりました。SCP-194-JP-1から出現したSCP-194-JP-3は問題なく処理されました。
補遺001: 実例は非常に少ないですが生還者の情報を併記します。
対象者 |
生還までの状況 |
一般市民 45歳男性 |
協力的なSCP-194-JP-3が出現したため。調査報告書194-001を参照してください。 |
一般市民 78歳女性 |
SCP-194-JP-2内部が空襲直後の平坦な街になっていたため目標の扉のみが目立っていた。 |
Dクラス職員 36歳男性 |
担当職員による案内に全て従ったため。入手した地図が正確だったため。 |
聴取記録194-SV001: この生還者において現在唯一の協力的なSCP-194-JP-3が出現しました。以下は対象者の証言です。
あれは祖母でした。10年前に亡くなった祖母でした。ええわかっています。もしかしたらおぞましい存在が祖母を模した存在だったかもしれません。しかし、私はこうしてあの地獄から生還しました。地獄…あそこは地獄だったのでしょうか。
(中略)
家に帰るまでの間、ずっと祖母と会話を続けていました。そしてその間、祖母は他の人間と遭遇しないように道を選んでいるようでした。あなたたちがSCP-194-JP-2と呼ぶあの街は、ところどころ私の知っている街で、ほとんど知らない街でした。たぶん私が生まれた時の状態なんでしょう。
(中略)
祖母は道すがら見かける家を指して、あそこの家のヒトはスイカを育ててて時々もらってたとか、あなたはあそこのお姉さんとよく遊んでたとか、楽しそうに話してくれました。あそこは本当に地獄だったのでしょうか。なにもかもが懐かしく、そしてここにずっといたいと思わせる場所でした。そう話すと祖母は怒り、絶対に元の家に帰りなさいと私をしかりました。
(中略)
そして無事に生まれた家の前までくると、扉を開ける前に祖母が娘に…つまり私の母にと伝言を頼みました。あなたが最初に踊りを見せてくれたとき、下手くそだと叱ってしまったけど、ほんとはとてもうれしかった、いまでもずっとその日のことを思い出してる。ほんとはほめてあげたかった…そう言っていました。扉を開けてからはあなたがたの知るところですね。