SCP-197-JP
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収容室の空中にいると推測されるSCP-197-JP。拡大するとわずかに空気の揺らぎを観測できる。

アイテム番号: SCP-197-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-197-JPは、3mx3mx3m以上の完全な防音を施した収容室に収容してください。SCP-197-JPは、コンクリートであればおよそ5cmまで透過できるため、壁は10cm以上の厚みが必要です。収容室の入退室は、同様の防音設備を施した気密室を通過し、音圧計による検査を受けてください。収容室への入室許可はクリアランスLevel3以上の職員が行ってください。SCP-197-JPおよびSCP-197-JP-1の、収容施設外への移動が発生した場合、特別捜索チームが編成されます。新たに発見されたSCP-197-JP-1には、収容施設内でSCP-197-JPの音を聞かせ、経過観察のために収容を継続します。

説明: SCP-197-JPは不可視の存在です。収容時の状況から、少なくとも3mx3mx3m以下の体積であることは確認されています。

SCP-197-JPは、可視光や電波など、あらゆる電磁波の影響を受けず、観測することができません。SCP-197-JPの挙動のうち、電荷に因らないごく弱い分子間力(おそらくファンデルワールス力)は、唯一物質的な影響を与えると見られ、それは主にSCP-197-JPの存在する空気分子に及びます。SCP-197-JPの物質的影響は振動として現れ、振動数は18,000Hzから20,000Hzの間で変動しており、生物的な揺らぎを示しています。この振動は、人間の可聴域でもあり、非常に甲高い音(被験者が総じて蚊の羽音と表現する音)として認識できます。この音が聞こえる領域は、半径15cm程度の球状の領域であり、絶えず収容室内の空中を移動しています。その中心にSCP-197-JPがいると考えられますが、何らかの中型~大型生物の、発声器官が音の中心ではないかとの仮説もあります。

SCP-197-JPの出す音を、10分以上聞いた人間(以降SCP-197-JP-1と呼称)は、異常な体質を獲得します。10分以下の聴取、録音機器などの再生ではこの異常性は発現しません。

SCP-197-JP-1になった人間は、心肺停止状態もしくは、心理的に多大な負荷がかかると、SCP-197-JPの音を聴いたことのある場所へ瞬間的に"移動"します。その際、身体の状態もSCP-197-JPの音を聴いた時の状態へ瞬間的に移行します。SCP-197-JP-1の"移動"と同時に、SCP-197-JPも、SCP-197-JP-1のごく近く(1.0m以内)に移動します。この性質のため、予期せぬ収容違反が起こる可能性があります。

SCP-197-JP-1は"移動"後も、"移動"前の記憶は保持しており、"移動"前後で精神または身体的不一致は確認されていません。

"移動"から1時間以内に、SCP-197-JP-1は体の一部が腐食し始めます。腐食は、表皮の一点から発生していると見られ、病変は直径10cmほどまで次第に拡大します。この腐食部分は、治療を施しても、同じ箇所が同様に腐食し始めるため、完全に除去することはできません。腐食部分は通常の病変と同様に、対象者に恒常的な激しい痛みをもたらします。また、この腐食箇所は"移動"の度に、増加または拡大します。腐食による死亡までの"移動"回数は、最短で3回、最長で22回が記録されています。

SCP-197-JP-1は、"移動"を繰り返すたびに精神を消耗していきます。この症状は投薬でも抑制できないものと見られ、対象者は次第に理性的な思考ができなくなります。

19██/07/13 ██の███総合病院にて、最初のSCP-197-JP-1(以降SCP-197-JP-1-001と呼称)が収容されました。"移動"から数日だったため、同時に、SCP-197-JP-1-001の自宅でSCP-197-JPが発見されました。SCP-197-JP-1-001は、55年間に7回の"移動"を行っており、恒常的な鎮痛剤の服用を行っていました。総合病院の関係者には記憶処置が施されました。SCP-197-JP-1-001の関係者は、近親者を含めほぼ全員がすでに他界しています。

SCP-197-JP-1-001は6回目の"移動"を行うまで消防士として働いていました。肉体的な年齢は24歳と見られますが、戸籍上は███歳とされ、従軍記録もあります。7回目の"移動"で腐食部分が中枢神経の一部に到達し、歩行が困難な状態にあります。

聴取記録197-A001-005からの抜粋:

SCP-197-JP-1-001: そうですね。この能力はある日突然、授かりました。誰が授けてくださったのかはわかりませんが、私はヒーローです。人々を危険から助けるために、この力に目覚めたのです。寒いですね。私にとって死は遠くにあるものです。つめたい。手の届かないほど遠くに。この崖は高いですね。

最初の収容以降、現在までに施設外へのSCP-197-JPの"移動"が13回発生し、そのたびに新たなSCP-197-JP-1が収容されています。

移動実験: Kクラスシナリオに満たない、単一サイトでの破滅的な収容違反において、貴重な人的資源の緊急回避手段として使用すべきかという議題が、定例会議にて上がりました。評議会の要請により、Dクラス職員を用いて、"移動"に対する影響を見るため実験を行いました。まず、SCP-197-JPの収容室にて被験者に音を聞かせ、その後、医務室に移動し投薬にて終了処置、SCP-197-JPの収容室に"移動"した被験者を回収という手順で行いました。

移動実験0017の記録映像からの抜粋: [20██/10/21 10:45:10]

(付記: 被験者197D-003は、すでに3回の"移動"を行っています。終了後の"移動"の過程は記憶されないため、被験者には睡眠導入剤の実験と説明しています。)

研究員T: では投薬を始めます。

被験者197D-003: せ、せんせい!この実験はいつまで続くんですか!?あ、足と手が動かないんですが、大丈夫なんですか!?

研究員T: 鎮痛剤の投与は問題ないですよ。末端神経の麻痺は一時的なものです。心配ありません。

被験者197D-003: 聞こえるんです!虫の音が!耳に残って、とっても、つめたくて…

研究員T: 目を閉じてください。針が刺さらないので暴れないでください。

被験者197D-003: も、もういやです…

<20██/10/21 10:47 投薬にて終了処置が行われ、対象者は"移動"しました。>

移動実験0018の記録映像からの抜粋: [20██/10/21 11:09:32]

(付記: 被験者197D-003は、今回の移動により左頬から左眼球にかけて腐食。左目の視力を失っています。)

被験者197D-003: せんせい。この薬って、幻覚を見る副作用のある薬なんですか?

研究員T: なぜです?

被験者197D-003: いつも崖にいます。崖です。まわりを崖に囲まれたところで…つめたくて、全部が青いんだ。ててる。つめたくて。

研究員T: そうですか。では投薬を始めます。

被験者197D-003: 草も山も、雲も、だんだあさな、青い…全部青くて、つめたい…

<20██/10/21 11:12 投薬にて終了処置が行われ、対象者は"移動"しました。>

移動実験0041の記録映像からの抜粋: [20██/10/24 16:22:35]

(付記: 被験者197D-003は、14回の"移動"を繰り返し、四肢の大部分と肺とすい臓の一部、頭部の一部にさらなる腐食が起こっています。)

被験者197D-003: せんせい。ぱらが!ぱらが!そこにいるのか。

研究員T: はい。なんでしょう。

被験者197D-003: あいす!あいす!るーぱ!あいすくりーむ!

研究員T: なにが見えているんですか?

被験者197D-003: あいすくりーむ!

研究員T: 聞こえてますか?

被験者197D-003: あいすくりーむ!

<20██/10/24 16:24 投薬にて終了処置が行われ、対象者は"移動"しました。>

移動実験0041の被験者は、17回目の"移動"から12分後に、呼吸器官の腐食により投薬前に終了しました。終了後、SCP-197-JPの収容室へ"移動"しましたが、その場で8分後に終了し、8分前の状態に戻るという繰り返しの状態に陥りました。繰り返しの間に、腐食箇所は増加するため、終了までの間隔は短くなり、移動実験0041から2時間32分後、原形をとどめない塵の状態になった被験者は"移動"を行わなくなりました。

補遺01: 1回から3回、"移動"させた後、長時間経過した被験者に大きな変化は見られませんでした。恒常的な腐食に対する処置、もしくは無機物による代替、四肢いずれかの切除を考慮するなら、破滅的状況に対する緊急回避手段として有効かもしれません。

補遺02: 収容室内の音圧計の記録を解析したところ、移動実験0041の被験者が最終段階に入っている間、SCP-197-JPの空中での動きが激しくなっていることが判明しました。

喜んでいるのか・・・? ――██博士

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