SCP-2084 Eメール通信
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オーティス・H・L・アンバー退役大佐とエージェント・プリシラ・ロックの間のEメール通信。SCP-2084内の無傷のコンピュータハードドライブより回収

注: オーティス・H・L・アンバーという名で知られる個人は、1937年から2006年にかけて、どの米軍の部門にも一切勤めていなかったことが判明しています。

ミスター・アンバー
06/1/1
新年おめでとう。西文省曰くオーストラリアの1/3が無くなったそうだ。

'無くなった'とはどういう意味かと私は訊いた。

無い。

何が起きたか省が認めるのにすら11時間かかった。6時間後、皆がアナバシスの話をしていた。

公式な話では清がインドシナに押し入り、レジスタンスがある種の変異した合成疫病をまき散らす爆弾を落とし、八旗を大虐殺しつつ自爆したんだそうだ。部品が我々の売ったものだと分かると大わらわだろう。「我々は亜人の雑種とは取引しない」大統領は昨年言った、延々"亜人の雑種"を相手に貿易し、支援しながら。

アナバシスはフェイルセーフだ。生物兵器が制御を失った時のための。

06/1/4
誰かが中国人に生物兵器について漏らして、今や連中はご機嫌斜めだ。細菌戦は彼らの流儀じゃないが、軍の1/8が感染している時には彼らもそういう方向でやってみるしかない。

ロック、多分君は若いから知らないだろう: 1937年、日本が清王朝を侵略した。これは"西洋文明党"が米国で人気を得る前のことだった。その頃我々はまだ民主主義国だった。彼らはカイザーを連れ込み、清は英国とフランスを巻き込み、第二次世界大戦がはじまった。

人々をアジアから追い払ったのは戦争ではない; それは占領だった。ほぼ10億が住む国が安定するまでに何年占領すればいい? ひっかけ問題だ; しない。

敵が君を10対1で上回る場合、彼らには損失を受け入れる余裕がある。1人1殺の場合、彼らは多くの男を失い、回復に1、2世代かかるだろう; 我々は国全てを失う。

そしてこれは男だけの話だ―彼らには女と子供の兵士もいる。彼らは日本兵や芸者や慰安婦を装い、町や村に紛れ込み、爆弾を残していく。あまりにも泥沼だったので我々は日本に撤退を呑ませようとしたよ、ただ我々円い目の者が反乱兵を特定して、楽を出来るようにね。

日本人がノーと言うと停滞がその後に続いた。彼らが考えているのは力のことだけだ; 獲得した土地、そしていかなる代償を払ってでもそれを守ること。ルーズベルトは見て見ぬふりをし、西文党が彼を貪った。プロパガンダキャンペーンは筆舌に尽くしがたかったよ。起きた反乱は素晴らしかった; クラン(Klan)のメンバーと共産主義者と反ユダヤ主義者、南部の民主党員と北部の連邦主義者が全て中国人への嫌悪と日本人への恐れで、あるいは別の理由で団結した。違いは長いこと意味をなさなかった。

英国とドイツは日本についており、もし彼らと仲違いすることになれば、貿易における欧州市場の大半を失っただろう。そして一旦彼らが中国への掌握を強めれば、我々は世界の舞台から長いこと締め出されたままになる。それで西文党が権力を握り、すぐに憲法から"贅肉"を落とし始めた。アメリカをより世界の舞台で"流線型で競争力のある"国にするために。つまり、より"多から一にE Pluribus Unum"でなく、もっと"一つにUnum"だ。

ロック、西文以前のアメリカは君の好みではないだろう。君たちがいかに典型的優越主義者であるかを知っているからな。当時はもし政治家がクランと関係していたら、どんなものであれ悍ましい秘密だった。今やそれは義務だ。ロック、君は今おそらく頭に血が上って、私が"反白人"だという上手い言い返しとあてこすりを思いついてにやにやしていることだろう。少なくともこれを訊かせてくれ: 歴史上、排他的で保守的であることにより力を得て、勢力を広げ、繁栄し、そして生き残った文明を1つでも挙げられるか?

06/1/20
ならば戦争だ。長くはもつまい; 今や中国の半分は感染している。

財団は君にアナバシスが何か伝えていないのか?私は今日省から来た何人かが話しているのを聞いた。彼らが知っているかどうかも分からない。

今日若い娘と会った。名前はマーロウと言った。愛らしい子だった。ある種君に似ている、ロック。アナバシスと問題の生物兵器について参謀本部から報告を受けた。あるいは報告しようとしていたと言うべきか。

出回る話によればアナバシスは、量子について知っている者だけが理解できるある種の量子兵器なのだそうだ。量子量子、質量密度等々、光子球、何かの崩壊、そして真新しい何かが時空に生まれる。「ブラックホールではありません」、彼女は言い続けた。兵器だった、しかし彼らはどこか他の次元か宇宙へ避難する緊急時対応計画の話をしていた。純然たるサイエンスフィクションが現実になっていた。私とモアランド以外は皆が理解していた。彼らはアナバシスがどこから来たか知りたがった。彼女は微笑んでその情報は機密だと言った、あの輝く青い瞳に白い肌、入ってきたときにはあんなに美しく思えたのに今やどうだ、吐き気がするほど汚らしく癪に障る。彼女からは何も得ることが出来なかった。

君には我々がどのように中国の反乱兵と戦っているのか話していないと思う。通常の戦争は戦闘で決した; 占領は残虐行為によって決した。敵が唯一理解する武器であり、一日の終わりに兵士を無傷で兵舎に返す唯一のものだ。

平均的な占領下の中国での一日はこのように過ぎていく: 敵の攻撃、退却、村へ追跡、敵は兵器を隠し民間人の衣服を着る。どの村人も何も知らない。チョコレート、酒、宝飾品、西洋のぜいたく品をいくらでも差し出せる。彼らは微笑み、それを自分のものにして"ノウ・ナッシング"という、まるでそれが唯一知っている英語であるかのように。

隊員たちがガードを緩めて優しい老人に話しかけたり、はにかみ屋の若い娘といちゃつきはじめたりすると誰かが銃かグレネードを取り出し、6秒で君の分隊の誰かが死ぬ。

そして君は村人全員を一列に並ばせる。彼らがすすり泣いて"ノット・キル、ノット・キル。イノセント!"と乞う中、君は処刑を命じる。ある時我々の分隊の上等兵の1人が、女性らを見逃すよう軍曹を説き伏せた。我々は彼女らの縛を解き始めた。1人が前腕の半分もある長さの刃物を取り出し、骨に当たるほど上等兵の喉に突き刺した。他の者たちは叫び始めた。我々は全員を殺したよ。

「一人が武装していれば全員が武装しているようなもんだ」村を一掃する最中に軍曹は言った。

反乱兵? 我々が知る限り、米兵が到着すると村人は皆殺しだ。POWの1人から聞いたものだ、「やつらをおねんねさせる前に有効活用する」と。協力的な民間人についての話だ。彼らはこれを知らない; なんとかして生き延びられると思っている。

こうして我々は中国を失った: 我々は優れた兵士で、連中は優れた人殺しだったのだ。忘れたが、西文党は我々を負けさせたものを何だと言っていたっけか? どうせいつものあれだろう―情熱の欠如、真心の欠如、種への忠誠心が足りない、扇動活動。東南アジアのジャングルを一度も見たことのない男たちの言うことだ、そこでは傷ついた男が後で同僚が掘り返して使えるようにと弾丸を呑む。それか満州のステップ、そこでは首都への道は40マイル近くも死体で敷き詰められていた、まるで木板のように。

そうして我々は去り、大清帝国が日本人を負かしてインドシナを再獲得するままにした。そしてそのために"西洋文明の優越のための党"は我々退役軍人の面子をつぶした。中国から足を洗うには安い代償だ。

06/2/13
本屋ではクセノポンは売り切れだ。彼の"アナバシス"が我々のそれにどう関係あるのかは分からない。それはそうとして老いぼれの思い出話につきあってくれてありがとう、苦痛と死の悲惨な昔話にはもううんざりしていることだと思うよ。

北ジョージアの若者とはどうなった? 私が思うに君達は駆け落ちして、そのせいでおばあさんと私はあれから連絡をもらってないのだろうが。私に隠し事はしなくていい。そう遠くない昔に、私も同じ立場にいた; 連邦政府で働くのも財団とそう変わらないんじゃないかと思う、君が言うには―あるいは、君の言葉少なさが語るには。

そのうちそちらに行きたいものだ。君の方が訪ねたいとは思うが、たまには本物の暑さの中で夏を過ごすのもいいだろう。

06/2/15
アナバシスが我々によって作られたのではないという噂を聞いた。ウェブは"古代のエイリアン"技術だとか、ある種の極秘の新世界秩序関連だとかいったことを言う愚か者で溢れそうだ。この体制がアフリカやアジアや、ヨーロッパとまで協働するなんて考えはお笑い草だ。しばらく前の長官の質問に対するマーロウ博士の答えを思い出している; 彼女は我々に知られることなくどうやってアナバシスが存在することになったかについてはあらゆる回答を拒んだ。我々がこんな状態でなければ、生首が転がっていたことだろう。万が一のために用心せよということだ。

06/3/3
フロリダへの旅行は待たねばならないだろう。このあたりでは報道規制がある。省曰く、南部では反乱軍がひっかきまわしているからだそうだ。君が何を知っているかは分からないが、このあたりでは去年の9月から、抗議とデモを企むネオリベラルグループの前兆がある。いずからともなく完全な反乱、しかしあまりにも大勢が環太平洋地域を壊滅させる生物兵器に注目しているので、こういうことは起こるのが定めだ。そちらでも気をつけて。

エージェント・ロック
06/4/5
何カ月も便りがありませんね。どうにかしてこれが届いていることを願います。最近省がどれだけ教えてたか分かりませんが、これはもはや反乱ではありません―マイアミ・デイドの全域がかなり確保され、キューバ系アメリカ人が支配しています。かなりの離反者がいます。私たちは前線から15、6マイルのところにいます。動けません。

現在までに疫病が中西部に到達していると聞きました。彼らが封じ込めについてどう言っているのかは詳しくありませんが、こちらでは野放しです。感染しました。生き残りました。通常の症候です。免疫がつきました。助けになるでしょう; 見込みのある抗体に目星を付けています、数週間以内に治療法が手に入りそうです。前線は動いています。

06/4/6
ワクチンは効いていません。人は死に続けています。私達は学校に潜伏しています―近くの建物は全部爆破されたか、資材のために解体されました。反逆者たちは校舎には手をつけないでしょう。でももし私たちがここに物資をため込んでいると知ったら、やつらは木っ端みじんにするでしょう。

06/4/7
メインとバーモントを失ったと聞いた気がします。望みは薄いけれど、ただの噂だと思いたいです。ワクチンに関しては進んでいます。これが十分上手くいったら、月末には便利な治療法が手に入ります。そうしたらアナバシスは必要ありません。あなたに私はアナバシスについて何も教えないと言ったことは覚えていますが、役人が言うような機械仕掛けの神ではありません。私の知る限りでは、我々にとって全くの最終手段です。不正確で、不安定で、我々には全く抑制も統制もできません。

06/4/9
現状報告。状況は予想通り顕著に悪化。被験者はワクチンに反応していない。最善のケースシナリオ、2-3分以内の窒息。ワーストケース……私にはどう恐怖を伝えたらいいか分からない。彼らは動き続けている。ひきつり、けいれん、何人かは倒れる前に一瞬直立しすらする。我々は彼らを燃やさなければ。灰になるまで止まらない。死体を見たなら、慈悲を施すことになる。

症候は東アジアで見たものと一貫している。内出血、嘔吐、下痢、異常高熱に繋がる発汗の欠如。より新しい症例には新しい症候が現れている。かゆみ。ただ掻きむしって終わりではない。それは持続し、灼熱感がある。子供たちの何人かはほんのわずかな接触にも耐えられず、丸裸で、出血するまで掻きむしる。その後さらにもっと掻く。

医療記録……ダンテはここまで地獄めいたものを何も想定できていなかった。難民から始まって、まず彼らの名前を見る。名前、年齢、性別、症候、処方、予後……生還者は青でチェックされる。50、60の名前にチェックがない。さらに下ると簡潔さがエントリーを特徴づけるようになる。名前なし、症候なし。筆跡が変わる。新入りはわざわざ言葉を選ばない。"女、31、死亡。男、13、死亡。"

こんな生物兵器で民間人を標的にしようと考える敵の非人道性はほとんど尊敬に値するほどだ。反乱軍がこれをひどくしくじったと知った時には……不憫だとすら思わなかった。ああいう人たち……やつらは動物であるにも卑しすぎ、怪物であるにも愚かすぎ、よりよいやり方を学ぶにはやりすぎた。

いや。これは上手く行きっこない。昨日はただの砲火のどんぱちだった。今日は敵と味方の叫びを聞き分けられる。やつらは日暮れまでには我々のところに到達するだろう。おそらくこの人たちのためには遅すぎる、しかし何でもこの状況から救いたければ避難を始めなければならない。運が良ければ、敵が蹂躙する前にアナバシスが火を噴く。そうでなくても、一体何が起きたかやつらが理解しようとしている間に我々が優位に立てる。もしかしたらやつらは向こう側で十分騒動を起こして、我々が対処しないで済むかもしれない。

これが効くことを願う。神よ我らの種を守りたまえ。

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