ポイデビン博士: フィオナ、私たちが行っているインタビューは、ここに君が収監されていることについて、状況の理解の一助になることだ。もっとも、君は今のところとても協力的で助かっているけれどね。どうかな、スタッフたちとは良い関係を築けているかい?
SCP-2368: ええ、そうですね。刑務官にあなたと同じくらい話したことはありませんでしたわ。彼らとは、話すだけでも大変でしたから。
ポイデビン博士: そうかい。さて、もう既に気付いているかも知れないけど、この施設は一般の刑務所とは違う。
SCP-2368: そうですね、あそこよりかは随分快適です。……もちろん、刑務所であることに変わりはないみたいだけど。
ポイデビン博士: そうかもね。だけどここは、リハビリテーションやケアも兼ねているから、出来る限り多くのことを話してもらえると助かるな。
SCP-2368: 了解です。何から訊きたいですか?
ポイデビン博士: それじゃ早速。君の旦那さんについて聞かせてもらえるかな?
SCP-2368: 随分遡るんですね?そうですねえ……まず、ジャックは革なめし職人でした。もうご存じだったかしら。最後の仕事の時、彼は一人で、町の外に出ていました。樫と革の、ツンとすえた匂いがするあの強い手を、今でも思い出します。
ポイデビン博士: 彼との馴れ初めは?
SCP-2368: まずですね、私がオークニーにやって来た時、私はまるで青くて、世間知らずでした。それはもう。それまで全然人と馴れ合ったことがなくて、完全によそ者だったんです。ジャックは私より随分年上で、最初はちょっかいを出したり、彼の周りで踊ってみせたり、彼が湾に出て泳がないのを笑ったりしていたけど……その実、彼に惹かれていたんです。彼のことを――本当に心から知りたいと思って、私のこと好きにして良いわよ、って言って。ある日、彼にキスをしたら、彼も返してくれて、その夜、私の――。彼は私の大切なものを奪って――もう結婚するほかないってくらいに、取り上げてしまったんです。でもまさか、彼を毒殺するだなんて、絶対にありえません!
ポイデビン博士: オッケー、フィオナ。大丈夫。私は審判しに来たんじゃあない。……そうだな、ジャックとの結婚生活についても聞かせてもらえるかい?
SCP-2368: 結婚生活、ですか?ねえ先生、あなたはご結婚なさってて?
ポイデビン博士: ん、うん。しているよ。
SCP-2368: でしたらご存じでしょう。それは――ささやかながら満ち足りたようで、ちょっと爽快なようで、――少し胸に穴が空くようで――。ジャックといて、愛することを学び、幸せを知りました。私は彼の一部で、彼もまた、私の一部でした。ただ、――自由はありませんでした。私の身はもはや私の物ではなく、望むままにあちこち行ったりということは出来ませんでした。
ポイデビン博士: ふむ?ジャックから離れたかったのかい?
SCP-2368: そういう訳じゃなくて……私は常にジャックと共にありましたし、そうあるよう望んできました。むしろ私のが、彼が家を長く空けないようにしていました――嫉妬深いんでしょうね(苦笑を漏らす)。ただ、家から海岸を眺めていると、ああ、あれが私の世界との境界なんだな――って気がして。私が育った世界に背を向けて、彼は私に共にあるよう強い、私は彼から離れられませんでした。結婚したときからではありません。彼に心を奪われたときからです。
ポイデビン博士: ……ジャックがなぜ――どのように亡くなったのか、何が起こったのか。アリソン嬢になぜ同じようなことが起こったのか、わかるかい?
SCP-2368: 私は――あなたを信用してもいいものでしょうか、先生。
ポイデビン博士: 私は君の助けになれればと思っているよ。君が彼らを殺したんじゃないと言うなら、私は真実を確かめなきゃいけない。
SCP-2368: 私はやっていません。つまりその、アリーだって友達で、――彼女を傷付けるようなことは絶対にありません!でもきっと信じてもらえないわ。今だって、イカれてるって思ってるでしょう。
ポイデビン博士: 言ったろう、フィオナ。それを断じるのは私じゃない。
SCP-2368: ……それはまるで……いえ。誰も理解し得ないわ。というか、私もなんと言っていいかわからないの。堂々巡りで――。(固まる)私は躍り手でした。ええそうです。育った場所に立ち返って、皆して――絶えることなく踊るんです。
ポイデビン博士: フィオナ?何を言って――
SCP-2368: ええ、つがいになって踊るとき、世界の全ては消え去って。躍りはつまり一つの世界を作り上げて、どんどん共に進化して、変化して。ああでもオークニーじゃ、ここじゃ、誰も私の躍りが分からなくって、ジャックを愛してて、彼にも教えようとしましたが――ええ、覚えるだけの時間は十分にあったんです。望まなくても躍りは進んでいって、どんどん速くなっていって。(くぐもる)……私は何も知らない、とんだ青二才だった。
ポイデビン博士: オーケー、もういいよフィオナ。ティッシュ使うかい。水も飲むといい。うん。オーケーだ。多分だけど、段々分かってきた気がする。
SCP-2368: ねえ――ねえ、ここは、本当に他の刑務所とは違うんですよね?
ポイデビン博士: そうとも。でも、もしもうこれ以上話したくないのなら止めても結構だよ。君が望むなら、すぐさま私は引き上げよう。また何日かしたら来るとは思うけど――
SCP-2368: 待って、先生。
ポイデビン博士: 何かな?フィオナ。
SCP-2368: お訊きしないといけないことがあります。私たちの家に――私とジャックにまつわる――何か見つけましたか?
ポイデビン博士: どういう意味かな?何かあるのかい?
SCP-2368: 彼が私から取り上げて、隠したものなんですけど、彼は私がそれを探してるのを知っていて、それがあれば私が自由の身に――自由に足を伸ばして、家族のところ、子供たちのところまで帰れるのも知ってたはずです。
ポイデビン博士: ちょっと待った、フィオナ。――君、子供いたのかい?
SCP-2368: 海の向こうで、きっと私を待っています。私は片時もジャックの傍を、――ええ、ご存知の通り、ジャックの傍を離れた事はありませんでした。でも今やジャックは逝ってしまいました。私は彼が「アレ」をどこに隠したのか知らなくって――ねえ、先生。私のために、「ソレ」を探してきてくれませんか?
ポイデビン博士: 何を見つけてきてほしいんだい?
SCP-2368: それは言えません――駄目なんです。でも、見付けられたら、きっと先生にも解ると思います。――どうかお願いします。
ポイデビン博士: わかったよ、フィオナ。私に出来る限りのことはやってみよう。君は、今はゆっくり休みたまえ。
SCP-2368: ありがとうございます、先生。私の話を聞いてくださって……本当に、ありがとうございます。