回答者: D-77-9275。美術史家であり、█████出身の政治的反体制派。
質問者: チェン博士、レベル2研究員。
序: インターコムを介して実施されたインタビュー。チェン博士は以前にSCP-2515-AやSCP-2515-B実例を見たことは無い。
<記録開始>
チェン博士: D-77-9275、君の正面の壁には何が見える?
D-77-9275: (口頭での返答無し。)
チェン博士: D-77-9275、繰り返しになるが、君の正面の壁には何が見える?
D-77-9275: (ゆっくりと) 私の目が確かなら、これは“ウラル山脈を越えるナポレオン”の原画です。
チェン博士: その通りだ。D-77-9275、この絵画を手掛けた芸術家は誰かね?
D-77-9275: “ウラル山脈を越えるナポレオン”はジャック=ルイ・ダヴィッドの最後の傑作ですよ。1822年、彼がナポレオンの宮廷画家を務めた最後の年に描かれました。
チェン博士: D-77-9275、絵画の歴史的背景について詳しく説明してもらえるか? これは何を描いているのだ?
D-77-9275: シベリア戦役の一場面 ― ナポレオン峠を越えている様子です。ご想像のとおり、この事件にちなんで峠にナポレオンの名が付きました。
チェン博士: D-77-9275、その“シベリア戦役”について詳しく教えてほしい。
D-77-9275: ええ。貴方もきっとご存知でしょうが、バス-
チェン博士: (D-77-9275を遮る) いや、知らん。
D-77-9275: [編集済]
チェン博士: では絵に話を戻そう。ナポレオンが持っているランタンについて何か私に言えることはあるかな?
D-77-9275: ランタンに“lumen fidei”という銘がありますね、これは“信仰の光”を意味するラテン語です。このランタンが絵画全体で唯一の光源だという点には気付きましたか? ダヴィッドは私たち鑑賞者に、███████への信仰だけが世界を照らし、啓発できるのだと語っているんです。遠くに描かれた█████を見てください ― 彼らの残忍な要塞は闇に包まれています。███████の光さえも彼らを啓発できない。つまり、ダヴィッドは武力を以て彼らを照らし出さねばならないと表している。
チェン博士: エウロパの像は███████を表現しているのか?
D-77-9275: そういう訳でもないんです。“ウラル山脈を越えるナポレオン”ではエウロパの像に2種類の解釈があります。大衆にとっては、エウロパはヨーロッパの神格 ― 勿論、欧州諸国のキリスト教の神を表します。でもナポレオンやダヴィッドのようなネオ=グノーシス主義のエリートには違いました。彼らにとって、エウロパは論理・理性・欧州の神聖なる啓発を具現化した存在だったんです。確かにエウロパは███████の寓意像ですが、███████自体を描写してはいない。実際のところ、ダヴィッドもネオ=グノーシス派も███████について語ったことは決して無いでしょうね。彼らは名前を知らなかったはずですから。
チェン博士: だとしたら、彼らはどうやって███████を知ったのだ?
D-77-9275: 科学革命の影響は、科学の領域を遥かに超えて広がったんです。ニュートンの“プリンキピア”が広範に普及したことで、ヨーロッパの文人の間では“時計仕掛けの宇宙”という概念がますます身近になりました。当初は自然哲学の一形態でしたが、これが徐々に宗教教義の問題に変化して、時計仕掛けの宇宙が生まれた最初の要因は何だったかを巡る激しい議論が巻き起こりました。議論の勝者となったのは、我々が███████と呼ぶ存在を時計仕掛けの宇宙の始まりとして支持する者たちであり、自覚が無いままに███████信仰を復古した形になります。彼らはナポレオンとダヴィッドの時代におけるネオ=グノーシス主義運動の基礎を築き、ウラル山脈に根を張るデミウルゴスであるとネオ=グノーシス派が見做した者たちとの抗争を生んだわけですね。
チェン博士: では今日は次の質問で最後にしよう。先ほど背景の要塞について簡単に言及したが、より詳細に説明してもらえるかね?
D-77-9275: 分かりました。█████帝国はヨーロッパから星形要塞を採用し、自己流の修正を加えました。要塞の周囲に積み上げられた死体と、中央部の血液のプールを見てください ― 戦闘と略奪の後、彼らは捕虜を要塞へと連れ帰り、そこで古代の放血の儀式を行ったんです。一滴ずつ、彼らは犠牲者の血を凝固した血液溜まりへと加え、将来的な儀式の燃料として保存しました。死体もまた貴重な資源です。█████要塞の周りに積み上げられた死体は、接近する軍の士気を挫き、病を広めました。さらに、もし敵がすぐ近くまで来た場合には消費の儀式を行うこともできます ― この儀式に何が伴ったかはまだ憶測の域を出ませんが、その結果についての記述がシベリア戦役に参加したミシェル・ネイの日誌にありますね。“百の滴に、一千が立つ。一千が立ち、一万が斃れる”。言うまでもなく、█████要塞を攻撃することはナポレオンの大陸軍を以てしても容易い事ではありませんでした。
チェン博士: (間を置いた後) 今日はこのあたりで十分だろう。君の房へ帰るための誘導を待ってくれたまえ。
<記録終了>
結: インタビューの終了後、チェン博士はSCP-2515の今後の実験のためにD-77-9275のスケジュール予約要請を提出した。要請は現職サイト管理者によって承認された。