アイテム番号: SCP-260-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-260-JPは標準人型オブジェクト収容室にて収容されます。木本植物を使用した製品(木、天然樹脂を原材料とした物品、顔料、樹皮を用いた繊維や染料が使用された衣類、リグニンを使用した接着剤、紙製品)は絶対に収容室内に持ち込まないでください。担当職員とSCP-260-JPには下着から靴下まで、化学繊維100%の専用ウェアを貸与します。施設内で主に使用される野菜、木の実類、茸類は安全であることが確認されているため、SCP-260-JPの食事に加えても構いません。
収容室への入室前には私物をロッカーに預け、入浴と、専用ウェアへの着替え、エアシャワールームの通過が義務付けられます。SCP-260-JPには毎日の日本語教育と、毎月1回の健康診断を行ってください。
実験などで発生したSCP-260-JP-αは、研究の必要がある個体は、大きさや性質に応じてハイドロカルチャーやプランター、または十分な強度を持った特別収容ケースに保管し、その他の個体は焼却処分してください。
事件-260-JPを受け、収容プロトコルが改訂されました。収容室へ入室する職員は、72時間前から特定の食品の摂取の制限を受けます。SCP-260-JPの精神的なケアのため、SCP-260-JPが不安感を示したら、速やかにカウンセラーと専門医を派遣するようにしてください。
説明: SCP-260-JPは、少なくとも日本には出生の記録がない詳細不明の人物で、20██年の時点で15歳程度の女性の外見をしています。SCP-260-JPは言語を習得していないことに加え、収容以前の記憶がなく、本名や両親、国籍は不明ですが、容姿に欧州人の特徴が見られ、現在本部と欧州の支部にてSCP-260-JPの出生について調査されています。(なお、現在のSCP-260-JPは財団職員による教育によって一般的な小学生低学年程度の知識を習得しており、簡単な日本語での意思疎通が可能です)
SCP-260-JPの特異性は、SCP-260-JPの半径およそ1mの距離に、木本植物の幹や枝といった木質化した部位や、木材を使用した製品(以降、対象と呼称)を近づけた際に見られます。SCP-260-JPに近づけられた、またはSCP-260-JPが近づいた対象からは、季節や温度を問わず様々な植物型の実体(以降SCP-260-JP-αと呼称)が新しく繁茂します。SCP-260-JPの影響下にあるSCP-260-JP-αの生長の速度は一般的な植物よりも遥かに速く、木本のSCP-260-JP-αであれば24時間で3~4mほどの高さにまで生長することが確認されています。SCP-260-JP-αの生長はある一定の時点で停止し、無限に生長し続けることはないようですが、木本SCP-260-JP-αの木質化した部位は新たなSCP-260-JP-αの“苗床”の対象となります。
SCP-260-JP-αの“苗床”の役割を果たしている対象をSCP-260-JPから遠ざける、またはSCP-260-JPが遠ざかると、SCP-260-JP-αは生長を停止し、その後放置した場合、養分不足により枯死します。SCP-260-JPの影響下にある間、SCP-260-JP-αがどのような方法で養分を得て生長しているかは不明です。
“苗床”が十分にある場合、ほとんどのSCP-260-JP-αはSCP-260-JPの周囲を筒状に包み込むように生長することから、SCP-260-JP-αはSCP-260-JPを閉じ込める目的があるように見えます。SCP-260-JPがSCP-260-JP-α群に閉じ込められた場合、外部からSCP-260-JP-α群内部の様子を確認することは不可能ですが、SCP-260-JPはSCP-260-JP-αを切り開くことで回収できるため、その後インタビューによりSCP-260-JP-α群の内部にいた間のことを聞き出そうと試みましたが、全ての1度を除いた全てのインタビューにおいて「眠っていた」という回答しか得られませんでした。また、最長3日に渡る閉じ込め実験の後もSCP-260-JPの健康状態には全く異常がなく、SCP-260-JP-α群の内部にいる間はSCP-260-JP-αと同様、不明な方法により栄養を得ていると考えられます。追記: 条件が確定していませんが、SCP-260-JPを閉じ込めたSCP-260-JP-α群が自ら道を開け、職員を内部へ招き入れることがあることが判明しました。現在この現象が発生しても内部へ侵入することは許可されていません。(詳細は補遺3を参照してください)
SCP-260-JP-αは“苗床”の在り処によって、形態や生態の特徴が分かれるようです。苗床となる対象がSCP-260-JPに近いほど、発生するSCP-260-JP-αは柔らかく、鮮やかで、よい香りのする既知の草本、特に花を咲かせる形態・生態を持った個体である割合が高く、対照的に、SCP-260-JPから遠い、または閉塞された空間にある、他者が所持しているといった苗床からは、高確率で屈強で生命力の高い既知の木本の形態・生態を持った個体、有毒な個体が発生するほか、稀に未知の形態・生態を持った個体が発生することも確認されています。未知の形態・生態を持った個体は、いずれも人体に対して非常に有害な成分を有し、明確な敵意を持って攻撃行動を取る場合もありますが、SCP-260-JPに対しては決して攻撃を行いません。
SCP-260-JPはSCP-260-JP-αの発生に戸惑う様子はなく、SCP-260-JP-αはSCP-260-JPの意志で発生しているものと考えられていましたが、その後の実験によって発生したいくつかの凶暴なSCP-260-JP-αに対して恐怖の反応を示したほか、事件-260-JPの際に錯乱状態に陥ったことから、現在SCP-260-JP-αはSCP-260-JPの意志で発生していないか、意志によって発生しているが発生する個体は指定できないものと考えられています。
補遺1: これまでに確認・収容された未知の形態・生態を持つSCP-260-JP-αの記録文書
SCP-260-JP-α-1: 全長129cm、葉にあたる部分の幅は70cm、黒褐色のハエトリグサのような外見。非常に攻撃的。茎と葉は活発に行動し、特に葉は硬度が高く、攻撃対象の肉や骨を噛み千切ろうとする。苗床ごと鉄製のケージに収容し、鼠肉の給餌と給水により延命を図ったが、3日で枯死。葉や茎に未知の成分が含まれており、現在死骸を研究中。
SCP-260-JP-α-2: 半透明でゴム質の2本の長い草。全長約80cm。触れたものに積極的に絡みつき、葉から塩酸を出して捕食する性質を持つ。植え替えと給水による延命を図ったが失敗。溶けるように消失したため研究も不可能となった。
SCP-260-JP-α-3: 全長35cmの白み掛かった草。頂点にふいご状の部位を持ち、その下に鉄と同程度の強度を持った棘のある葉を多数備えている。ふいご状の部位と葉は活発に行動する。生物に向かってふいごからメタンガスを放出し、葉を打ち鳴らして火花を散らすことで引火させて攻撃する。植え替えと給水による延命に成功。SCP-260-JPから遠ざけたためか、攻撃性もほとんどなくなっているため、現在生態を研究中。
SCP-260-JP-α-4: 全長不明。本体は非常に細い蔓。人体に寄生し、操ることで移動などを行う。攻撃的。不明の方法で索敵を行い、SCP-260-JPの付近にいる人物に格闘による攻撃を仕掛ける。鎮圧部隊による銃撃を受け寄生対象は無力化、SCP-260-JP-α-4も枯死した。
補遺2: SCP-260-JP-α発生要因についての実験記録(この実験は事件-260-JPの発生を受けて実施されました)
実験概要: SCP-260-JP-αは木本植物の木質化した部位から発生し、そのことからリグニンがその発生要因であると仮定。木材を用いず、リグニンを含む製品を用いた実験を行う。
リグニンを原料とした接着剤: 発生する
リグノバニリン: 発生する
ココア: 発生しない
アルファルファ: 発生しない
メモ: リグニンが発生要因だとするなら、ココアやアルファルファからSCP-260-JP-αが発生しないというのは不可解だ。SCP-260-JPに何か原因がわかるかと尋ねたが、「わからない」という回答しか得られなかった。
実験概要: 草本リグニンを持つイネ科植物を用いた場合、どのような反応が起きるか検証を行う。
タケ亜科(マダケ): 発生しない
エールハルタ亜科(イネ): 発生しない
イチゴツナギ亜科(イヌムギ): 発生しない
イチゴツナギ亜科(イチゴツナギ): 発生しない
イチゴツナギ亜科(クサヨシ): 発生しない
イチゴツナギ亜科(コムギ): 発生しない
ダンチク亜科(ヨシ): 発生しない
ラッパグサ亜科(ササクサ): 発生しない
ヒゲシバ亜科(オニシバ): 発生しない
キビ亜科(メリケンカルカヤ): 発生しない
キビ亜科(カモノハシ): 発生しない
キビ亜科(ススキ): 発生しない
キビ亜科(サトウキビ): 発生しない
キビ亜科(トウモロコシ): 発生しない
キビ亜科(キビ): 発生しない
キビ亜科(ヒエ): 発生しない
メモ: 全てのサンプルにおいてSCP-260-JP-αの発生は起こらなかった。草本リグニンは発生要因にはならない可能性が高い。念のため、SCP-260-JPに、これらのサンプルからSCP-260-JP-αを発生させられるかと尋ねたが「わからないが、出てこないので無理だと思う」との回答を得た。
実験概要: 紙製品がSCP-260-JP-αの発生要因となることから、リグニンがSCP-260-JP-αの苗床の対象になるという仮説が崩れたため、次に様々なパルプを用いて実験を行う。
木材パルプ(N材): 発生する
木材パルプ(L材): 発生する
非木材パルプ(ワラパルプ): 発生しない
非木材パルプ(バガスパルプ): 発生しない
非木材パルプ(ヨシパルプ): 発生しない
非木材パルプ(ケナフパルプ): 発生しない
非木材パルプ(クワパルプ): 発生する
古紙パルプ: 発生する
黒液: 発生する
メモ: クワ以外の非木材パルプを除いてSCP-260-JP-αが発生したことから、木本植物の繊維が関係しているのではないかと考えたが、予想外なことに黒液からもSCP-260-JP-αが発生した。実はSCP-260-JPはあらゆるもの、そうでなくとも、ほとんどの植物由来のものからSCP-260-JP-αを任意に発生させることができて、我々をからかっているのではないだろうか。尋ねてみたが、「本当にわからない」と怒って泣き出してしまった。
実験概要: リグニンや繊維とは関係のない木本の植物から得た素材を用いて実験を行う。
天然樹脂(松脂): 発生する
天然樹脂(漆): 発生する
琥珀: 発生する
天然ゴム: 発生する
精油(エレミ): 発生する
樹皮から単離されたフロログルシノール: 発生する
メモ: 現在のところ、SCP-260-JP-αの苗床となる対象の共通点といえば、“それが(膨大な加工過程を経ようとも)もとは木本植物の、木質化した部位の見た目をしていた”ということぐらいだ。
補遺3: SCP-260-JP-α群が職員を内部へ招き入れた事件の記録
概要: 20██/██/██、SCP-260-JP-αのサンプル採取を兼ね、SCP-260-JPの閉じ込め観察実験を行った際、当時の担当職員の玉那覇研究員が近づいたところ、SCP-260-JP-α群が玉那覇研究員の正面の道を開ける動作を見せる。これを受けて玉那覇研究員はオペレーター室の███博士に連絡を行った。
<記録開始>
███博士: ……では、状況の説明をお願いします。
玉那覇研究員: SCP-260-JP-αが動きました。
███博士: どのように動きましたか?
玉那覇研究員: 僕の正面にある草が、こう[自動ドアが開くような手振り]開くように。座り込んで目を閉じているSCP-260-JPの姿も確認できます。
███博士: SCP-260-JPに呼び掛けられますか?
玉那覇研究員: SCP-260-JP、聞こえたら返事して!……反応ありませんね。
[玉那覇研究員がSCP-260-JP-α群内部に首を入れ覗き込む]
玉那覇研究員: 博士、入ってみていいですか?
███博士: ……危険はなさそうですか?
玉那覇研究員: 危険を感じたらすぐに戻ります。
███博士: ……いいでしょう。念のため、武装した警備員を待機させます。助けが必要なら声を上げてください。
玉那覇研究員: わかりました。
[警備員到着後、玉那覇研究員がSCP-260-JP-α群内部に侵入。即座にSCP-260-JP-α群が塞がり玉那覇研究員を閉じ込める]
███博士: 玉那覇さん!応答を!
玉那覇研究員: はい[ノイズ]大丈夫です。[激しいノイズ]260-JP、返事[激しいノイズ]……。
[18分間ノイズのみ。その後、SCP-260-JP-α群が開き、内部から玉那覇研究員が欠伸をしながら出てくる]
███博士: 玉那覇さん!無事ですか?
玉那覇研究員: ……あ、はい。
███博士: 中であったことを報告してください。
玉那覇研究員: 中で……?あ、あの、すみません、寝てしまいました。何も覚えていません……。
███博士: 中で寝ていたのですか?
玉那覇研究員: はい、すみません……、急にひどく眠くなってしまって……。
███博士: わかりました。一応、玉那覇さんには検査を受けてもらいます。記録を終了します。
<記録終了>
注1: この時のことを、のちに回収されたSCP-260-JPに尋ねると、「玉那覇研究員と一緒に遊んで楽しかった」との回答が得られた。これについて玉那覇研究員に尋ねたが、「寝ていたため記憶にない」との回答を得た。
注2: 実験後の玉那覇研究員の検査の結果、心身ともに異常な点はなかったにも関わらず、この事件の20日後に心不全により死亡した。発見時、遺体からは2██種の既知の薬用植物と、甘い香りを放つ未知の草本植物(暫定的にSCP-260-JP-βと指定)が群生しており、現在遺体を保存し研究中。
備考: その後の実験で、筒状になったSCP-260-JP-α群を再度開かせる試みを行ったが、未だ再現できていない。当時の玉那覇研究員は所謂SCP-260-JPの“お気に入りの”職員だったが、それがこの現象との高い関連性を持っていると推測する。 - ███博士
補遺4: 事件-260-JPの映像を文章に起こした記録
概要: 20██/██/██、表示時刻12:20:50から。SCP-260-JPへ食事を届けるために2人の財団職員が収容室へ入室してSCP-260-JPに近づいた際、片方の職員Aが突然腹痛を訴え、その場に屈みこむ。
12:21:00: 職員BとSCP-260-JPが職員Aの傍に寄り声を掛ける。職員Aが吐血、次いで目、耳、鼻からも大量に出血する。
12:21:10: 職員Bが職員Aを起こそうとするが、職員Aは職員Bを押し倒し、首を絞める。
12:21:20: SCP-260-JPが職員Aの背を掴み制止するが、職員Aは職員Bの首を絞め続ける。
12:21:25: 職員Aの目、耳、鼻、口から蔦や葉が飛び出してくる。職員Bが職員Aを何度も殴打する。
12:21:53: オペレーター室からの要請により鎮圧部隊が到着し、職員Aを射撃により無力化。
職員Aの検死結果と考察: 職員Aの死因は銃撃によるものではなく、SCP-260-JP-αによる胃の破裂と体組織の破壊が原因であると判明。事前の専用ウェア着用とエアシャワーにより、SCP-260-JP-αが発生する要因はなかったと思われていたが、収容室入室直前に職員Aがシナモンパウダー入りのコーヒーを飲んでいたことが判明し、胃に残っていた粉末のシナモンがSCP-260-JP-αの苗床となった可能性が高い。また、職員Aの体内から発見されたSCP-260-JP-αはすでに枯死しているが、未知の形態・生態を持つため、SCP-260-JP-α-4に指定し、記録する。このような残酷な事件を二度と繰り返さないためにも、迅速な収容プロトコルの見直しが必要だ。 - ███博士