回答者: パール・ワトキンズ博士 および マーカス・ナカムラ博士
質問者: マシュー・リウ研究員
序: このインタビューの目的は、SCP-2761に関する情報と、その創造の背景にあると思われる動機を探ることだった。ワトキンズ博士とナカムラ博士は尋問のため、アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)の偽装の下、サイト-71に近いオフィスへ移送された。
<記録開始、1320>
リウ研究員: ワトキンズ博士、ナカムラ博士。
ワトキンズ博士: (溜息) どうもこんにちは。
ナカムラ博士: どうも。
リウ研究員: 私はマシュー・リウ、EPA所属のエージェントです。二人とも何故ここに呼ばれたかお分かりですね?
ワトキンズ博士: (床に目を落とす) ええ、分かるわ。
ナカムラ博士: (部屋の左隅を見つめる) ああ、分かる。
リウ研究員: 暫く前から貴方がたの販売記録を調べさせてもらいました。貴方がたが市場に流通させている中には幾つか… 疑わしい製品があります。これについて貴方がたの考えを聞かせて頂いても宜しいですか?
ワトキンズ博士: 危険なものじゃ無いわよ。
リウ研究員: 何です?
ナカムラ博士: (小声) パール。
ワトキンズ博士: 市場に持ち込む前に、魚が全て生殖能力を持たないことは注意深くチェックしてる。野生生物との交雑のリスクについては承知の上よ。もしウチの魚が野生のと交配する可能性について考えているのなら—
リウ研究員: ワトキンズ博士、私たちはアクアジーンの全般的業務には関心が無いのです。興味があるのはある特定の標本です。
ワトキンズ博士: (驚いた様子) ごめんなさい、何?
ナカムラ博士: それじゃ、何かね — 観賞魚の販売についての法的な問題があるわけではないと?
リウ研究員: 今の時点では、ありません。我々に協力してくれるか否かでは変わるかもしれませんがね。
ワトキンズ博士: うーん、分かったわ… それで… 貴方が言っているのは、具体的にはどの製品のこと?
リウ研究員: 昨年の8月に、貴方がたは祭日にリリースする予定で、改良魚の新たな開発に着手したようですね。
ナカムラ博士: (興奮した様子で顔を上げる) ああ、スキャンティ・フィッシュのことか!
ワトキンズ博士: (呆れかえった表情) マーカス…
リウ研究員: これらの製品に関して詳しく説明してもらえますか?
ナカムラ博士: 勿論だとも! 俺たちのアイデアは、熱帯をテーマにした魚たちを制作して、ハワイアンな雰囲気を12月に公開しようというものだったんだ。そして、俺たちはこれらの魚を生きた芳香剤のようなものとして売り出していきたかった…
ワトキンズ博士: マーカス…
ナカムラ博士: まずは古典的サンプルから始めた。販売対象の選別計画だよ、林檎金魚、イチゴテトラ、オレンジクマノミ、ラズベリー&ブルーベリー・ベタ…
ワトキンズ博士: マーカス…
ナカムラ博士: …パイナップルフグ、そしてバナナ・パイプフィッシュだ!
ワトキンズ博士: (額に右手を勢いよく当てる。怒った表情) アンタねぇ、マーカス、スキャンティ・フィッシュのことは今は黙っててもらえないかしら? 分かってるわよ、あれはアンタの提案したプロジェクトだったし、私たちもそれで行こうって決めたんだし。でもね、せめて今はこの男に宣伝なんか —
リウ研究員: “バナナ・パイプフィッシュ”と仰いましたか?
ワトキンズ博士: ええ、言ったわよ。御免なさいね、リウさん、私から説明するから。この魚についての何が知りたいの?
リウ研究員: 昨年9月の何処かの段階で、これらの標本の1匹が貴方がたの会社の水槽から脱走した可能性があります。
ワトキンズ博士: …何ですって?
リウ研究員: 3月3日、我々の研究グループが… (リウ研究員は発見当時のSCP-2761の写真を出す。当時のSCP-2761は体長2mの黄色いアリゲーターガーに類似しており、脚部の発達しつつある初期徴候が見られる) …この生物を捕獲しました。見覚えはありますか?
ワトキンズ博士: 何よ、これ —
ナカムラ博士: こいつは一体 —
リウ研究員: この魚が、元は貴方がたの開発した個体だったという可能性は考えられますか?
ワトキンズ博士: (吃り) わ— 私は—
リウ研究員: この魚のゲノムは極めて不安定であり、どういう訳か、捕食した他の生物の遺伝子を表現できるようです。初期段階の遺伝子組換えで何かしら不具合が起こったという可能性はあるでしょうか。
ナカムラ博士: これは — その… 確かにその可能性はありそうに見える… つまりだな… 間違いなく黄色だ。だが— だがこいつはパイプフィッシュには見えない、それに俺たちの製品はせいぜい20cm程度—
ワトキンズ博士: …あん畜生。
リウ研究員: ワトキンズ博士?
ナカムラ博士: パール? どうしたんだ?
ワトキンズ博士: あのクソッたれ。こういう事をやるって分かってたはずなのに。
リウ研究員: ワトキンズ博士、説明してください。一体どういう事なのですか。
ワトキンズ博士: ヒギンズよ。最初の遺伝子組換えをやってた何週間かで、私はヒギンズの奴が勝手をやらかした現場を押さえたの。
ナカムラ博士: …パール。俺はてっきり、ピーナッツクラゲの一件で起こした騒ぎの後にあいつはクビになったとばかり思っていたがね。俺のチームであいつを働かせていたのか?
ワトキンズ博士: 彼は主導的な立場にいる遺伝子学者の一人だったのよ、マーカス。私が簡単に追い払えるような人材じゃなかったの。アンタはクソ忌々しい果物の遺伝子を3分の1以上も魚に組継ぎして完成品を相変わらず魚みたいに活動させるっていうのがどれだけ難しい事か分かってるわけ?
リウ研究員: ワトキンズ博士、ナカムラ博士、宜しければ話を戻してもらえますか。
ナカムラ博士: 失礼した、リウさん。つまりはだね、俺たちの、えー、スキャンティ・フィッシュ計画は研究開発の段階で少なからぬ数の壁に突き当たった。
ワトキンズ博士: 随分と控えめな表現ですこと。パイナップルには50個の染色体があるのよ、なのに私たちが取り組んでたフグの種にはたったの —
ナカムラ博士: とにかく、俺の与り知らぬところで、パールはグレゴリー・ヒギンズ博士を研究チームに一時的に雇うことに決めた、ということらしい。彼は以前に… プロらしからぬ言動でアクアジーンを解雇されていた。
ワトキンズ博士: リウさん、グレッグは私たちの部門にとっては切り札だったのよ。切れ者だし、素晴らしいと言っていいぐらいだった。でも彼は… 自分個人の小規模なサイドプロジェクトを手掛けたがっててね。時には、市場での売れ行きを向上させられるという考えから、許可なく私たちの魚に改変を加えることもあったわ。
リウ研究員: 成程。この標本の捕獲に繋がるような事件はありましたか?
ワトキンズ博士: (溜息をつき、蟀谷を擦る) 残念ながら、イエス。開発が始まって5週間目ごろ、私はヒギンズが一組のバナナ・パイプフィッシュの赤ん坊に手を加えたことに気付いた。彼は… その魚をもっと肉食性に近付けて、もっと黄色く変えていた。地元の食料品店に噛み付きバナナを仕込んだらきっと[罵倒]愉快だと思ったっていうのが彼の言い分だったわ。当然、著しい規律違反行為だし、私たちが主要な対象としている市場にも合わない。だからその魚は押収したの。けれど適切な処分を担当してるレイリーが翌朝まで来ないから、私のオフィスに鍵をかけて、ドアにメモ貼って、その中に置いといたのよ。
リウ研究員: 回収できたのであれば、何故 —
ワトキンズ博士: 次の日、私が出社すると魚は消えていた。レイリーに処分したかどうか尋ねると、まだ回収に行ってすらないって言うのよ。だからヒギンズのところに向かったわ。彼は自分で処分したと言ってた — それだけでなく、私を処分用ユニットまで案内して、確かに魚がそこに処分されてたことを確かめさせた。
ナカムラ博士: パール、君が言ってるのはつまり —
ワトキンズ博士: リウさん、この魚の生態に、ゲノムが非常に変化しやすいこと以外で何か奇妙な点はある? 具体的には、食物とか?
リウ研究員: ええ、その通りです。我々はこの生物から排泄物のサンプルを採取しました。排泄物には、様々な発癌性物質に加え、通常は人間に見られる多数の腸内細菌叢が含まれているようです。
ナカムラ博士: (沈黙) なんてこった。
ワトキンズ博士: … 冗談よしてよ。
ナカムラ博士: じゃあ… こういう事か、ヒギンズは君のオフィスから魚を取り戻した後、同種をより多く作っていた。そして処分ユニットには最初に押収されたオリジナルの魚たちを入れて —
ワトキンズ博士: — 残りはトイレに流しやがったんだわ。
<記録終了、1350>