文書2904-A
[文書保管係による注: この手書きの手紙はオリジナルの機動部隊パイ-20オペレーター候補者のためのブリーフィングパックに含まれており、文書SCP-2904の導入部の役目を果たしていました。デジタルアーカイブでの保存のために転写されています]
1981年6月19日
候補者へ
これを読んでいるなら、君は選択肢を与えられたということだ。
こんにちは、私は███████████████。私は君が誰か知らないし、知ることもない。君がこれから経験するだろうことを知っているふりもしない。私が知っているのは次に何が起こるかだけだ。君が何をすべきか理解するのを手助けすることになっているが、あいにく私はアドバイスが得意な方ではない。代わりに、私にとってそれがどのようなものかを伝えようと思う。それがどう機能するかを。その後は目の前の書類にサインするも、何であろうと己に存在する他の選択肢を選ぶのも君次第だ。
始めよう……初めからではない。本当の物語は始点を持たないものだ。どこかから始めよう。以前。これが私だった:
目を開く。居眠りしていたに違いない。日差しが背中に温かく、肩越しに机へと広がっている。私の視線は机の左側に引きつけられた。カレンダーは金曜であり、時計は午後2時を指している。思考することなく、自動的にチェックする。
金曜日の午後には予定を入れず、週末に仕事を食い込ませないために未処理の事項を片付けていくのが常だった。しかし確信はなかったので、電話を取ってティファニーに電話した。
「やあ、ティファニー」
彼女が応答するまでに短い間があった。「もしもし、エージェント・████████、ご用は何でしょう」
「スケジュールをチェックして、午後になにか予定が入っていたら教えてくれないか」
「███学院部長との今月の生産高の割り当てに関するミーティングだけです」
「ああ、もちろん。ファイルはあるかい、ティファニー?」
「今朝お届けしました。一番上の引き出しにお持ちだと思いますが」
「ああ」一番上の引き出しを開けてファイルを取りだす。「うん、ここにある。ありがとう、ティファニー」これもシステムを決めておかなくちゃな。
ラジオをつける。ブームタウン・ラッツの哀愁のマンデイがコーラスに差し掛かり、合わせてハミングする。
よくあることだろうか?おそらくは。君が今いる場所に至るには様々な道がある。どれもいいとはいえない。それが私が今ここにいる理由だ。君には全く知る必要がないと思うが、しかしもし知れば、何故私が決断したのかも分かるだろう。君にとって好ましい選択かどうかも。
君はおそらく不思議に思っていることだろう。「引き受けたら何が起こる?どんな感じなんだろう?」最も誠実な答えとしては、私は知らない。君も知ることはない。どんな感じであるか教えることはできるものの、我々のどちらも本当の意味で知ることはない。だから今度は教えよう。以後の話を。
私はこの次のパートを書く、テープに録音された自分の声を聞きながら。己の声をした他人を。彼が何を経験しているか教えてくれるので、私も君に教えることができる。彼が言うにはこうだ:
私は平穏だ。私は脅威をチェックする。1時と4時の方向にスーツを着た男がいる。彼らはバッジをつけているので、私はリラックスし、1時の方向にいる近い方の男に私の右手の甲のカードホルダーに入ったカードを変えさせ続ける。彼は私の低下した知的能力に関してなにか侮辱的なことをつぶやいた。私はそれに関して何もしないという意識的な判断をした。ブームタウン・ラッツの哀愁のマンデイが私の後ろのどこかで鳴っているので、私は私が活動状態ではないということを知っている。もう1人の男、年上の方は耳に片手を添えている。彼はしゃべる:
「咽喉マイクチェック。こちら準備完了」
私は私が自分の思考をささやいていることに気付く。思考することなく、自動的に起こる。1か月間の自動口述の条件付けの後ではこうでなければならない。私は彼の声を識別する。エイブラハムズだ。彼の外見はひどい。年取って。擦り切れて。私はこれを予期すべきと知っているが、それでも彼にとっての時の流れの残酷さを知るたび少し驚く。
「お気遣いに感謝するよ」彼は言った。「結局のところ、誰も時間からは逃れられない」彼は私の方に手を置き、200ヤード先の大きな家を指差した。「標的はあの中にいる、█████。さあやってやれ」彼は微笑んでいるが、その陰に何かがある。私はそれも予期すべきと知っている。それは憐憫の情だ。私は家に向かって歩き、ブームタウン・ラッツは薄れて聞こえなくなる。それはすぐに、家から流れ出る地響きめいた低いベース音に取って代わられる。私は正面のドアから入る。
私は平穏だ。私は脅威をチェックする。私の目の前の床にティーンエイジャーが横たわっている。彼は意識がなく、絞め落とされる間に顔をひどく殴られたように見える。私の手の痛みから判断するに、それは私の仕業だろう。他には誰もいない。
私は私の手に目線を落とす。左手は空いている。右手の甲のカードホルダーには1枚のカードがある。それには平坦で光沢のある円形の物体が描かれており、その下には“コンパクトディスク、音楽記憶装置”とある。
私がいる部屋は不法占拠された応接間のように見える。不潔なマットレスがそこらじゅうに投げ散らかされているのを除けば、床には何もない。壁紙は筋状に剥がれ、どこも汗と湿気でひどく臭う。ここで“コンパクトディスク”に見えるものは見当たらず、興味深い物も見当たらない。私は背後のドアに向かって歩く。上り階段があり、上階から音楽が聞こえる。私は上る。
私は平穏だ。私は脅威をチェックする。私は戸口に立っていて、部屋の中、12時の方向に十代の少女がいる。彼女は私の方に向き直りつつあり、そして刃物を持っている。彼女は若く、早い。彼女は躊躇しない。私には銃を抜く猶予がない。彼女はまっすぐ私の方に来てしまい、そして彼女は私が30年間そうであったより素早い。彼女はまた不器用でもあった。訓練を受けておらず、薬物か何かのせいでうつろな目をしている。私はこれに対して備えができている。私は彼女の刃物を持つ手を私の前腕で大きく逸らした。刃物は戸枠を打ち、彼女の手から転がり落ちた。彼女は部屋の奥まで駆け抜け、そして私に向かってくる、叫びながら。私は手を伸ばし、私の目に向かって伸びる手をつかむ。私は翻り、彼女の勢いを私の肩越しに彼女を投げるのに活用する。彼女は戸口の向こう側に飛び、向かいにある階段を跳ねるように落ちる。彼女はぎこちなく中ほどで止まる。
私は彼女をこのままにしておくわけにはいかないので、階段を下りて彼女の上に立つ。彼女の片腕は明らかに折れて、ほとんど意識がないように見える。私は片足を持ち上げ、注意深く計算された勢いで彼女の頭を踏みつける。彼女は生き延びる見込みがあるだろう。
私は私の手に目線を落とす。左手は空いている。右手の甲のカードホルダーには1枚のカードがある。それには平坦で光沢のある円形の物体が描かれており、その下には“コンパクトディスク、音楽記憶装置”とある。私は少女が待ち受けていた部屋へ階段を戻る。音楽はこの部屋から聞こえている。それの何かが私の意識の片隅を強く引き付ける、まるで暗い部屋の中で誰かに名前を呼ばれたように。しかしそれは弱い。それは私に付け入るすきを見つけられないまま流れ去っていく。
部屋の隅に、巨大なスピーカーにつながれた、私が今まで見た中で最小のステレオシステムがある。私はそれの側に屈みこみ、“コンパクトディスク”を取りだす方法を探る。小さなボタンにイジェクトマークがあったので私はそれを押す。音楽がこだまする沈黙を残してすぐに消える。光る物体を載せた小さなトレーがステレオシステムから滑り出てくる。私はそれをカードと比較してチェックし、それは同じに見える。私はそれを取り、私のベルトにあった緩衝材付きケースに仕舞う。私はケースを左手に持ち、脱出口を探す。
私は平穏だ。私は脅威をチェックする。私は9時の方向に外への戸口と思われるもののある玄関に立っている。ここに脅威はない。私は私の手に目線を落とす。左手は太い大文字で“目的(objective)”とプリントされたケースを持っている。
私は建物を去るためにドアの方を向く。私の背後から物音がする。私は振り返り、2人の十代の少年が建物の奥から玄関に現れつつあるのを見る。彼らの1人は野球バットを持ち、もう1人はキッチンナイフを持っている。彼らは混乱し、怒っているように見える。彼らは玄関を私の方へ突進してくる。私には片手しか使えないので、私は銃を抜く。私は片手で撃つので、それを価値ある一撃とするために、注意深く射撃の準備に時間を取る。彼らは近づく。そして私は1人目の少年の胸部に2発当てる。ウェブリーが私の手の中で跳ね上がって私の手を高く持ち上げさせ、私は次の少年の方へ下げるべく格闘する。彼は彼の友人の身体にさしかかり、足元に気をつけるのに精いっぱいでリボルバーが5フィート先から彼を狙っていることに気付かない。私はさらに2発撃つ。1つは彼の胸部に当たり、もう1つは彼の首を撃ち抜く。彼は崩れ落ち、ひび割れたタイルの上で滑ったのち動かなくなる。2つの身体から撒かれた血液が広がっていく。私は待つ、聞きながら、見つめながら。私はアドレナリンで震えている。他に動くものはない。私は向きを変え、建物から出ていく。
私は平穏だ。私は脅威をチェックする。12時と3時の方向にスーツを着た男がいる。彼らはバッジをつけているので、私はリラックスし、年上の方の男に私の左手からケースを取らせる。私にはブームタウン・ラッツの哀愁のマンデイが2番にさしかかるのが聞こえるので、私は私が活動状態ではないということを知っている。若い方がよそよそしく私を見ている、彼が恐れてでもいるかのようだ。私には理由を知る手段はない。彼はためらいながら私をバンの後部座席に導く。彼は私がシートベルトを着けるのを待ち、私にヘルメットを差し出す。私はそれを私の頭に載せ、暗闇の中でリラックスしながら音楽に合わせてハミングする。
あまり魅力的とは思えないだろう。ならなぜ君はこんなものに志願したのか?これが理由だ:
もし君がそこに座ってこれを読んでいるなら、つまりそれは君がある種のことをやってきた人間だということだ。おそらく今もそうだろう。そうした事柄の一部はあまりいいものでないし、機会があっても語りたいものでもない。君はとにかくやってのけ、セラピーを受け、薬を飲み、必須の心理的負担による休暇をとり、再認定されて次の仕事のために戻ってくる。重要なことだと思ったからやったのだろう。せねばならないことだと。
問題は長続きしないということだろう。限界があり、終わりが見え始め、しかもそれから時間が経っている。まず“軽めの任務”に割り当てられ、事務方にされたと気付く。何が君をここまで追い詰めたか皆に知られる前の話だ。もし誰も気付かずとも、君の持ち時間は尽きている。そうじゃないか?
それが君に与えられる機会だ。つまり、せねばならないことをしつづけるための機会だ。以前と同じではない。同じではいられない。後戻りはできない。しかし価値のあるものだ。もしかしたら君にはぴったりかもしれない。
人生を与える訳ではないが、かといって死を与えられる訳でもないと分かったと思う。賢明な選択を願う。
敬具
████████
機動部隊パイ-20、オペレーター・███████████████