オブジェクト#319-JP-026: デルタの個人ノート
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発見されたオブジェクト#319-JP-026: 機動部隊う-03("ウォッチメイカー")のメンバー、デルタの個人ノート

当該のオブジェクト(#319-JP-026)及びその内容は、TP誘因可能性オブジェクトに指定されています。
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参照: 機動部隊か-05が[編集済]任務の際の記録写真。左から、エコー・チャーリー・ブラボー・デルタ・アルファの順。

転写者注: 機動部隊う-03("ウォッチメイカー")は、機動部隊か-05("コフィン・ダンサー")をSCP-319-JP探査のために名称を変更し再構成したものです。


日付: 2███/10/03

もうすぐ日付が変わる。今日の夕方にはもう帰還しているはずだったのに。俺の隣でアルファとブラボーが眠っている。とりあえず、この時間を使って何があったのかを書き記しておくことにする。

俺たちの任務は、地下1階の捜索から始まった。結論から言うと、何も得る物は無かった。廃墟ではあったが、荒らされた形跡はなく、奇麗なものだった。そのまま俺達は階段で地下2階に降りた。途中の廊下で、ブラボーが水を飲もうとして取り出したペットボトルを落としてしまった。すると、ペットボトルはコロコロと転がって……消えた。それが、俺達が最初に出くわした時空間異常だった。ペットボトルは、廊下の先で口を開けて待っていた過去だか未来だかに飲み込まれちまったんだ。

そしてセクションK-021で事件は起きた。319内部をマッピングしていたチャーリーが何者かに襲われたのだ。俺は銃声がして、チャーリーが崩れ落ちるのを見た。そこには何か……人型の実体がいた。そいつは一瞬でチャーリーを引っ掴むと、どこかへ消えてしまった。あのペットボトルのように。後には、チャーリーの血痕だけが残っていた。残ったアルファ・ブラボー・俺・エコーは、チャーリーが時間の割れ目からやって来た何かに襲われたのだと気付いた。クソ、そんなもの、どうやって防げばよかったんだ?

俺達は撤退することに決めた。もと来た道を戻るのだ。エコーを先頭に、俺達は警戒しながら歩いた……襲撃者が再び現れたときのために。すると突然、セクションJ-077に差し掛かったエコーが立ち止まった。エコーは、その場でビデオ映像を一時停止したような、不自然な静止の仕方をしていた。俺はエコーに近づこうとしたが、アルファがそれを押しとどめた。「やめておけ、お前もああなるぞ」と言われた。時間に絡めとられると。ブラボーが、そこでは時間が止まっているのかとアルファに尋ねた。アルファは、時間は常に流れていて、停止することはないはずだと言った。エコーの周囲の時空間は、単に恐ろしい程ゆっくりになっているのだろうとも言った。俺達にはエコーが動いているようには見えないが、エコーには俺達がものすごい速さで動いているように見えるのだろうか? 結局、どうすることもできず、エコーはその場に残して迂回することにした。俺は、いつかセクションJ-077の時空間異常が終わったら、必ず帰ってくるとエコーに言った。俺はふと、その声がエコーの耳に届くまでには、どれほどの時間がかかるのだろうかと考えた。

俺達は迂回して、未知の、前回派遣された機動部隊がマッピングしていない場所を通ることにした。というか、そうする他に無かったのだ。そして、今に至る。ああ、畜生、完全にロストした。俺達は今頃、MIA扱いにするか審議されているところだろう。とりあえず、俺達は次に襲撃されても対応できるように交代で睡眠をとることにした。


日付: 2███/10/04

朝、地下へ降りる階段を見つけた。話し合いの末、俺達は地下3階へ行く事にした。そこから別の地下2階に上がる階段を見つけようという、一種の賭けだった。地下3階部分はセクションMNO群に分類することにした。

廊下の途中、セクションM-005指定の地点で、けたたましいアラーム音と大勢の人が走る音を聞いた。俺は幻聴かと思ったが、他のメンバーにも聞こえたらしい。俺が思うに、あの音は長い時間をかけて過去や未来、多くの時空間を通り抜け、ちょうど今、ここにいる俺達の耳に届いたのだ。

ちなみに、結局、俺達は今日も出る事はできなかった。倉庫かシェルターのような場所で2日目の晩を過ごすことにした。寝ている間に時空間異常が起きたらと思うとゾッとする。


日付: 2███/10/05

ブラボーが死んだ。セクションN-009で奴の身体の半分が、退行していく時間に触れてしまった。巻き戻されていく時間が、穴の開いたパイプから吹き出したガスのように、ブラボーを包み込んだのだ。

N-009を抜けた時にはもう遅く、ブラボーの右腕と下半身だけが胎児のようになっていた。アルファと交代でブラボーを背負いながら移動したが、結局、ブラボーは挫けてしまった。奴は、俺達に楽にしてくれと言った。この身体になってから、1秒ごとに激痛が走るのだと言った。理由は分からないが、納得はできる……人間の身体は"そんなことになる"ように作られていないからだ。最初はもちろん拒否した。でも、ブラボーは、終いには俺の背中で泣き出してしまった。

結局、俺達は銃でブラボーを苦しみから救ってやることにした。詳しくは書かないが。遺体はセクションO-113にあった部屋……そこの仮眠室?みたいなトコのベッドの上に置いてきた。


日付: 2███/10/06

アルファが消えた。あのペットボトルや襲撃者のように。地下4階に降りてすぐのことだ。アルファは俺のすぐ後ろを歩いていたが、時間はアイツだけを連れ去ってしまった。最高のパートナーだったアイツ(仕事でも私生活でもだ)は、俺のいる時間軸からいなくなってしまった。いや、ひょっとすると俺が過去や未来にいるのかもしれない。正直、もう分からない。この場所では客観的時間など存在せず、主観的な時間だけがあるからだ。

今は食堂と思われる場所でコイツを書いている。食い物はあったが、全て腐っていた。棚に置いてあった缶詰でさえもだ。よく見ると、ここだけ施設の他の場所よりも酷く荒廃しているように思える……。時間の進みがはやいのかもしれない。ここにいると、俺もいつの間にかジイさんになってしまうかもしれないな。

いま、アルファが消えてしまう前に、もっと言いたいことを言っておけば良かったと後悔している。もっと前に言うべきだったこと……お互いに分かっていたこと。言うタイミングはいつでもあったはずなのに。だがもう遅い。俺は時間に捉えられて、独りで薄汚れた施設をさまよっている。


日付: 2███/10/07

またどこかで襲撃者に会うんじゃないかと怯えていたが、一向に出くわすことはなかった。梯子を見つけて降りると、地下5階に出た。そこの一画は焼けており、何か爆発でも起きたかのようだった。円柱が天井からワイヤーで吊るされたような、よく分からない機械の残骸のそばで最後のレーションと水を飲んだ。あとは一日中、319内部のマッピングに費やした。どこでどんな時空間異常が起きやすいか、どのセクションに立ち入るべきでは無いか、どこは安全に時間が流れているか……そういったものをまとめた。多分、うまくいけば全ての時空間異常のパターンをまとめることが出来るだろう。その時間さえあれば、だが。


日付: 2███/10/08

時空間異常を避け、時には幸運に支えられながらも地下2階へと戻ることに成功した。そこで廊下を歩いていると、何か物音が聞こえた。咄嗟に銃を構えたが、俺の目の前に現れたのはペットボトルだった。そいつは床をコロコロと転がって、俺のブーツに当たって止まった。俺は笑い出していた。これは、ブラボーが失くしたペットボトルだ! 俺は5日前からやって来たそれを拾うと、後先も考えずに半分まで飲み干した。もう少しとっておくべきだと分かっていたが……身体は水を欲していた。その欲求に抗えなかった。


日付: 2███/10/09

セクションJ-077に戻る。エコーはまだ瞬きすら終えていなかった。俺は、エコーの意識だけは通常どおりに動いているのではないかと思い当たった。奴は時間に閉じ込められ、永遠に続く苦しみを味わっているのではないか? そして、これからも味わい続けるのではないか?

俺はエコーを楽にしてやろうと思い、奴に銃を構え、しばらく迷った後に発砲した。そして、その途端に後悔した。銃弾はエコーの側まで来ると、急激に弾速を落とし、目に見えるまでに遅くなったのだ。俺は、銃弾がエコーの額にゆっくりとめり込んでゆくだろう様を見たくなくて、急いでJ-077を離れた。クソ、何てバカなことをしたんだ……後悔ばかりしている。


日付: 2███/10/10、多分な

セクションK-021に入り、また襲われるのではないかと身構えていたら、不意の時空間異常に出くわした。そして次の瞬間、目の前に何か……誰かが居た。俺は咄嗟に銃を構えると、そいつに無我夢中で銃弾を浴びせかけた。そいつは崩れ落ちた。俺は前にどこかでその光景を見たような気がして、ハッと気付いた。急いでそいつの遺体を引っ掴むと、もう一度、俺は時空間の裂け目を戻った。そう、そいつは、その遺体は、チャーリーだった。ついに襲撃者の正体がわかった。

こんな残酷な仕打ちがあるか? 気が狂いそうだ。


日付:

チャーリーの遺体から奪ったレーションと水で何とか生きながらえている。今は地下1階にいる。しかし、出口が見当たらない。まるで迷宮に閉じ込められたようだ。319内部の構造はほぼ把握しているのに……なぜだ?
何かの意図を感じる。何か大きなもののだ。


日付: 不明

白衣を着た連中を見た。過去の出現だろう。奴らも俺を見て驚いていたが、それも一瞬のことだった。すぐに消えた。おれは未だに外に出られない。

ふと思ったんだが……時間が俺を外に出したがっていないのではないか? 
俺自身が何かのパラドックスになってしまっているのではないか? 


日付: 不明

俺も挫けそうだ。もし、そうなってしまっても……最後の手段が銃の弾倉にまだ残っている。これこそ、人間が時間から解放される唯一の方法だ。

だが、俺はまだそれを使う気はない。どこかで、また俺との時間が交わって、█████[転写者注: アルファの本名]と出会えるかもしれないからだ。そしたら、今まで言えなかったことを今度こそ伝えられるだろう。


日付: 不明

目の前に時空間の裂け目がある。俺はいつみたい[*原文ママ]に、不意に現れたそいつを避けようとしたが、その向こう側にアルファの姿を見た気がするんだ。
幻覚か?
でも、どうせ死ぬなら試してみたい……もし本当にそうなら、アルファに会える二度と無いチャンスだろうから。

このノートはここ、唯一まともに時間が流れているらしい"セクションG-068"に置いて行くことにする。ここで突発的な時空間異常でも起きない限り、後に来る機動部隊か捜索隊が拾ってくれるはずだ。

じゃあ、俺はもう行くことにしよう。

[ノートの記載はここで終了しています]

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