SCP-3241
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SSゾンマーフェルト (1995年頃)。

アイテム番号: SCP-3241

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: SARC1はSCP-3241の安全かつ効果的な収容戦略の開発を継続します。そのような戦略が成立するまで、SCP-3241の収容手順は緩和、観察、外部との接触防止を重視します。

職員はJMSDF2やその他の海事局・航空局と協力して、SCP-3241の周囲75kmに進入禁止区域を設けます。財団制御下の船舶のみがこの区域への入場を認められます。監視ドローンをSCP-3241へ毎週1回派遣し、拡大率を監視します。拡大率に変化があった場合、SCP-3241の現任の収容管理官まで直ちに通知されます。

SCP-3241の侵入禁止区域内におけるSRA3 の使用は固く禁じられています。2015年11月5日の出来事への調査が完了するまで、職員が(財団所属か否かを問わず)O5の承認を得ずにSCP-3241へ乗船することは認められません。

説明: SCP-3241は、SSゾンマーフェルト(旧船名 SSチャベス)を中心とする不規則形状の容積です(直径およそ12km)。この容積は数多くの空間的、時間的、分子的、生物学的異常を示しています。これらの異常の性質および重大性は識別可能なパターン無しに変動しますが、SCP-3241を越えて拡張することはありません。SCP-3241は現在1日あたり約4mの割合で拡大しています。

SSゾンマーフェルトは、サン・シップビルディング&ドライドック社によって1963年に建造された貨物船です。廃止されたサイト-97からサイト-82への低リスク異常物品の輸送手段を提供するため、財団主催の契約の一環として、DLS4によって1995年に購入、改修、改名されました。

この船は1998年、乗務員や積み荷の異常物全てを巻き添えに喪失したと見做されました。1999年に財団が実施した調査で、この事件は緊急安全システム(6基の連結したSRAで構成)の展開失敗後に起きた輸送中の収容違反が原因とされました。2015年、SSゾンマーフェルトは大戸島から西に200km離れた沖合を漂流しているのを発見されました。これは、SCP-3241の唐突な出現を評価し、安全かつ効果的な収容プロトコルを開発するためのSARCの形成に繋がりました。

2018年、ダニエル・デヴォンとDLSが不正行為を行った可能性を示す新たな証拠が発見されました。1998年および2015年の出来事に対する二度目の調査が実施されました。この調査の結果、DLSとの現在および将来の契約は全て打ち切られました。ダニエル・デヴォンは現在も逃走中であり、PoI-3241-347に指定されています。

補遺3241.1: SSゾンマーフェルトの喪失

1998年9月17日、SSゾンマーフェルトはフロリダ州ジャクソンヴィル(USA)から、リオデジャネイロ州イタグァイー(ブラジル)に向けて出港しました。協定世界時(UTC)の17:21、沿岸警備隊は同船のEPIRB(非常用位置指示無線標識装置)の信号を、大西洋の中心近く(33.49°, -54.26°)から受信しました。18:06 UTC、EPIRBは再び信号を発しましたが、この発信源はロシアのシホテアリニ山脈の近隣(46.12°, 136.96°)に位置していました。18:55 UTC、COSPAS-SARSAT衛星が標識装置から最後の送信を受けましたが、船の所在地は最早特定不可能でした。その後のコミュニケーション確立試行は全て失敗しました。

早期回復の試みは、ハリケーン・ジョルジュの発生、SSゾンマーフェルトの位置を特定できないこと、そして同船は単に悪天候で到着が遅延しているだけだというDLS代表者の誤った主張によって妨げられました。ダニエル・デヴォンは1999年の調査中にこの決定を擁護しました。

船の非常標識は信号を送っていたが、座標はあらゆる場所を指し示していて、全く意味を為さなかった。私たちは過去にも遭難信号の誤作動を経験している — だからこれは故障だろうと考えた。ハリケーン・ジョルジュのせいで、確認のための無線連絡は確立できなかった。しかし、何事もなく3時間が過ぎてから、何か妙だと悟った。

私が連絡を入れたのはその時だ。私はジャック5に自ら電話した。何かがおかしい、そう伝えたよ。ゾンマーフェルトが消えてしまったようだと。

SSゾンマーフェルトの喪失が宣言されると、財団は直ちにUNDAC(国際災害評価調整チーム)、GOC(世界オカルト連合)、アメリカ沿岸警備隊、空軍、空軍州兵、海軍との共同で捜索救助活動を開始しました。捜索の努力は、船の予定航路と、非常信号で提示された2ヶ所の座標に集中して行われました。6ヶ月間に及ぶ徹底的な調査で、SSゾンマーフェルトの痕跡は発見されませんでした。

補遺3241.2: 初期調査

1999年の最初の調査で、ダニエル・デヴォンは、SSゾンマーフェルトの消失が緊急SRAシステムの障害によって起きた可能性についての質問にこう答えました。

いいか、それは — いいかね、私も失礼な事は言いたくないがね、それは馬鹿げているぞ。私たちのSRAにはほぼ完璧な実績がある。財団の隅々まで広く使用されているだろう。あれは毎日、大惨事を免れるうえで直接的な責任を負っている。来る日も来る日も、命を救っている。そして私たちは、来る日も来る日も、より高性能でコスト効率の良いSRAを開発しているんだ。

SSゾンマーフェルトの事件は悲劇だが、私たちの緊急安全システムにできる事など無かった。何が起こったかについては — 私は君たちを責めたくはない。彼らの功績は称賛すべきだ。君たちとは長年付き合っているから、プロの中でも図抜けた才能の者しか雇わないのは分かっている。しかし、即時のテクニカルサポートを提供するためにDLSの技術者を現地に配属させることを、君たちが一貫して拒否している点は指摘させてもらう。あの船に我が社の従業員を乗せたことは無かったはずだ。それに前歴が — 君たちの手順には、SRAのマニュアルを逸脱した記録がある。マニュアルは理由があって存在している。私たちは理由があってあれを書いた。従ってさえいれば問題なく動く。

本当の悲劇は、これが避けられたかもしれないという事だ。もし財団に私たちDLSの技術者を1人でもゾンマーフェルトに乗船させる気さえあったら、その技術者がSRAを正しく展開できたのは間違いない。もし財団に金を出す気があったら — もし我が社の技術者に君たちの従業員を訓練する時間を与えるか、あるいはマニュアルを読む時間を確保してさえいれば、私たちはこんな会話をしなくても済んだだろう。

ゾーラ・ツチェッター教授(財団を離れてDLSのコンサルタントを務めている超常物理学者)は、ダニエル・デヴォンの主張を補強しました。

私にはSRAへの反発が全く理解できません。全くです。私たちは — 私たちはこの小さくも素晴らしい装置を、最も獰猛な異常存在アノマリーさえも喉を鳴らす子猫へと弱体化させられる奇跡を手に入れたのですよ。かつては、法外な製造コストと保守要件が唯一の障害となっていました。しかし今はどうです? 安価で、自動修正機能があり、百倍も強力です。

私は何十年もSRAと共に働いてきました。数え切れないほど命を救われています。もしも今、まさにこの部屋の中に、SRAのおかげで助かった人が何人いるか挙手願います、と私が呼びかけたとしましょう — 1人でも手を下げていたら私はショックを受けるでしょうね。心の底から。

SSゾンマーフェルトに起きた事についてはお気の毒でした。犠牲者を思うと心が沈みます。本当に。しかし、我々のSRAは幾度となく試験を行っています。我々はあらゆる点を説明できます — ヒューマンエラーは別ですが。

これに反論した中に、SRAへの懐疑論を表明していることで有名な財団の超常物理学者、シャーマン・シヴォリ教授がいました。

いいだろう、まず手始めに、SRAに“完璧な”実績は無い。かなりの傷物だ。実際、かなり目立つ汚れが一つある — 最低でも一つ。私たちにはSRAが失敗したことにすら気付けないケースが度々ある。もし失敗すれば、現実が書き換えられてしまうからだ。

SRAはあらゆるアノマリーを形態形成力場として扱い、これらの力場を“修正”できるものと仮定する — 異常物を“非異常”状態に戻せるとね。要するに、SRAはアノマリーをより大きなシステムに適合できると考える。私たちが理解し、制御できるシステムに。

しかし、異常とはそもそも何か? あくまで定義で言うならば、異常とは適合しないもの、制御できないものだ。私たちは異常を抑制する手段を発見したと考えているが、実際に見つかったのは、他のアノマリーを凌駕するほど強いアノマリーでしかない。

SRAは、私たちが怪物を手懐けるために利用する虎だ。私たちはそれを飼い慣らし、ペットにしたと思っている。だがペットの虎は依然として虎だ。檻に入れ、訓練し、可愛らしい芸を教え込むことはできる — それでも虎のままだ。そいつにはまだ爪がある。牙がある。そして私たちはそいつらで周りを取り巻いている。

もし野生に戻ったら、いったい何が私たちを守ると言うんだ。

補遺3241.3: IRVサイレント・スプリングの喪失と回収

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IRVサイレント・スプリング (2004年頃)。

2015年8月12日、IRVサイレント・スプリングとの接触が途絶えました。この船は当時、Seriola quinqueradiata(ブリ)の行動が最近になって劇的に変化した理由を明らかにするため、大戸島の漁業組合に代わって海洋調査を実施していました。船の位置を特定する初期の試みは失敗しました — トランスポンダは応答を返していないか、あるいは有効な送信範囲外にある状態でした。

3日後、関西国際空港はIRVサイレント・スプリングのEPIRBから発信された遭難信号を傍受しました。数回のコミュニケーション確立試行が失敗した後、日本当局はERRV紅葉丸を捜査に派遣しました。この努力は、船上の放射測定センサー(2012年の福島第一原発事故を切欠に搭載)が、IRVサイレント・スプリングの船体から僅かながらも顕著に高いレベルの電離放射線を検出した時点で放棄されました。日本当局からの接触を受けた財団は、機動部隊シータ-5(“大船”)とベータ-7(“マズ帽子店”)を動員してIRVサイレント・スプリングの回収に向かわせました。

ミゲル・クイニョネス(当時のMTFベータ-7隊長)は、2018年の調査で、この船と接触した経験を以下のように述べています。

JMSDFから連絡が来た時は、ただのろくでもないジェンキンス爺さん6の仕業だろうと思っていた。よくあるんだよ。まだ昇進して間もない官僚がパニックを起こすか、俺たちに災難を押し付けようとしてくる。それどころか、完全に普通の問題を異常なものに見せかけようとしたケースも何回か経験した。聞いた話じゃ、ある男は

— そうだな、すまん。とにかく俺たちは、どうせ行っても見つかるのはブイに絡まったクジラの死骸かなんかだと思い込んだ。それでもプロトコルには従ったがね。自己満足は人を殺す。1日目で教え込まれる教訓だ。曝露を最小限に抑えるために風上から接近した。これも良い事だ。悪臭だけでも俺たち全員が気を失ってしまいかねない場合がある。

そいつは絶対にクジラなんかじゃなかった。でも船のようにも見えなかった。見た目はまるで… まるで、腐った肉のデカくてブヨブヨした塊だった。水を吸った、浮遊する肉塊だ。

スヌーピー7が幾らか空電を拾ってたが、そう多くはなかった。俺たちは全ての予防措置を取った。念には念を入れて、余分な措置も少し講じた。自分たちの見てるもんが何なのか、さっぱり手掛かりが掴めてなかった。あそこに、あー — 人間? — あそこに、あの、とにかく誰かが乗ってたことさえ知らなかったんだ。俺たちはただそれにフックを引っ掛けて牽引した。白衣の連中が解決してくれるだろうと考えてた。

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回収後間もないIRVサイレント・スプリングのデッキ。

収容および評価のため、IRVサイレント・スプリングは一時的に地方のサイトへ移送されました。研究者たちは間もなく、同船にかつて300種以上の未特定の微生物が群生していたことを発見しました。この微生物叢の驚異的な複雑さと相互依存機能性にも拘らず、回収前に大量絶滅事象が発生していました。

船の外装は、微視的な節足動物の死滅したコロニーで層状に覆われていました。中空になっている炭酸カルシウムの小結節が、船の表面の複数箇所から突出していました — 内視鏡および超音波検査の結果、これらは船体を通って延びており、原始的な呼吸器系の一部を為していたことが判明しました。弾性組織の内部には巨大な空洞があり、膨張・収縮することで空気の流れを調節可能でした。

解剖時に研究者たちは、船の内部空間が、栄養素の循環と排泄物の排出を担う細く柔軟なチューブから成る複雑な血管系で接続されているのを発見しました。これらのチューブはIRVサイレント・スプリング乗務員の体内まで拡張していました。乗務員たちの中枢神経系は部分的に摘出され、単一の神経塊に融合させられたうえで血管系に組み込まれ、そこから脳組織にグルコースと酸素が供給されていました。この凝固した神経塊の目的や機能は明らかになりませんでした。

IRVサイレント・スプリングのEPIRBとVDR(航海データ記録装置)が収められたモジュールは無傷であり、微生物叢はその外装を貫通していませんでした。しかしながら、電離放射線への曝露を繰り返した結果、記録装置の内部メモリは破損して解読不可能になっていました。

IRVサイレント・スプリングの当初の航路を遡った財団潜水艦(SCPFストラヴィンスキー)は、日本国 大戸島から西に200kmの沖合を漂流する貨物船に遭遇しました。この船はAIS(自動船舶識別装置)を搭載しておらず、呼びかけに反応せず、相当量の電離放射線を放出していました。SCPFストラヴィンスキーはパノプティコン級監視ドローンを船に向けて送り出しました。原因不明の機械的な故障を起こす前にドローンから送られたデジタル画像で、船のマークがSSゾンマーフェルトと一致することが確証されました。

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SCP-3241(2015年頃)。画像はドローンが機械的故障を起こす前に撮影した。

補遺3241.4: 初期対応

10月26日、SSゾンマーフェルトの脅威度を評価し、その夥しい異常性に対する効果的な収容戦略を開発するために、SARCが結成されました。退役した財団フィールドエージェントであり、サイト-97の元サイト管理官でもあったブライアン・ブラウニングが収容管理官に割り当てられました。

SSゾンマーフェルトの近距離監視は、予測不可能な性質によって全て不可能でした。影響領域に送られた監視ドローンは数多くの故障に見舞われました。より多くのデータを得るため、ブラウニング管理官はDLSから数基のSRAを接収し、それらをSCPFストラヴィンスキーに搭載するよう命じました。潜水艦を形態形成力場に包み込んだ状態でSCP-3241に接近し、対象のVDRを回収するというのが作戦概要でした。

SCPFストラヴィンスキーの乗務員の一部はブラウニング管理官の指示を拒否しました。この一派の中には、同船の副艦長だったレスリー・ホートンが含まれます。彼女は2018年に自らの決定をこう説明しました。

ブラウニングはクーデターを企む裏切り者の寄せ集めとして私たちを描いてみせたけれど、ほんのちょっぴりでも軍事経験のある奴なら、“砲撃開始”と“この魔法の箱がお前を守ってくれるから徒歩で敵の鼻をつねりに行ってこい”が雲泥の差だって知ってるわ。しかも、あれは軍事作戦じゃなかった。差し迫った脅威は存在しなかった。私たちには安全上の懸念を理由にして職務を中止する権利があった。私たちはまさにそれを実行したまでよ。

直接の理由はバクシ教授だけどね。バクシはSRAを扱った経験があって — 実際の経験がね — SRAを信用してなかった。彼はブラウニングに、その作戦は私たちを危険に晒すだろうって伝えた。ブラウニングから帰れって言われて、バクシは真っ直ぐ私たちの所へ来たわ。彼はこの装置が — SRAのことだけど — 信頼性に欠けるって説明してくれた。火炎放射器で火を点けるようなものだって例え話をした。時には成功するけれど、場合によっては隣の家を全焼させてしまう。少なくとも、私は納得した。

ブラウニングは激怒したわ。バクシはフィールドワークやパラテックの事を何も分かってないって喚き通し。もしバクシにこの手の仕事をやる度胸が無いなら、いっそ、えーと — 正確な言い回しは“セブンイレブンの店長職にでも応募してこい”だったかしらね。ブラウニングはその後も、その、幾つか、えー、ここで再現したくないような発言をしてた。

でも結局、バクシは引き下がらなかった。私たちも。

妥協案は11月5日に成立しました。1基のSRAが、その重量を支えつつ電力を供給できるUSV(無人水上艇)に搭載されました。DLSの代表者がSRAコンサルタントとして到着し、技術サポートを提供しました。

SCP-3241の影響領域に侵入した直後、USVは遠隔コマンドに応答しなくなりました。USVは自動操縦で2km航行した後、壊滅的な機械的故障を起こし、搭載されたSRAごと沈没しました。以前のドローンよりも顕著に長い距離の移動を達成したことを根拠に、DLS代表者は、SRAは確かに機能していたと主張しました。さらに代表者は、ドローンの制御が失われるのは、SRAの形態形成力場が無線受信波への異常な攪乱を防ぐほどには広くないことが理由である可能性が高いと述べました。彼は、SRAの重複ネットワーク — そして認可されたSRAオペレーターによる手動調整 — があれば、SCP-3241の異常効果を全て克服するに十分であると結論付けました。

ブラウニング管理官はこの評価に賛同し、再びSCPFストラヴィンスキーの乗務員に、SRAを搭載してSCP-3241影響領域へ向かうよう指示しました — この作戦には、(当時現場にいた唯一の認可を受けているSRAオペレーターの)バクシ教授が、必要に応じて調整を加えるために乗船する必要がありました。再び、SCPFストラヴィンスキーの一部乗務員は拒否しました。

ブラウニング管理官は、全5基のSRAのうち3基をSCPFビーグル3(小型の4人乗り巡視艇)に搭載し、SCP-3241影響領域内へ管理官自身と共に向かうチームを編成するように命じました。バクシ教授が同伴を拒否したため、ブラウニング管理官はその代役としてDLS代表者を指名しました。

2018年、ガンビール・バクシ教授は、ブラウニング管理官がDLS代表者にSRAの運用を要請したことについて、以下の証言を行いました。

レイモンド・アサカワ。DLSの技術者です — 彼はそういう名前でした。彼は若かった。非常に若かった。そして非常に賢かった。私は後日になって、彼がコンピュータ科学者を目指して勉強していたことを知りました。ただ授業料を支払うためにあの仕事をしていたのです。

彼が誰かに誤った情報を吹き込もうとしたとは思っていません… いえ。誰を欺く意思も無かったと知っています。彼はただ自分の訓練を、そしてSRAのマニュアルを信頼していました。ブラウニング管理官の質問に対する彼の答えは全て、マニュアルからそのまま引用したものです。きっと暗記していたのでしょう。ブラウニング管理官はそれを頭から信じ込みました。あの若者の背中を叩き、ヒューム値やカント計数機や — アサカワ氏なら答えられると分かっているはずの事柄をあれこれ訊ねました。彼に自信を築かせ、まるで自分が有識者であるかのように — チームの一員であるかのように感じさせました。

そして、ブラウニング管理官が私に同行を申し出た時 — あの男は私が断るだろうと分かっていました。分かっていたのです。彼がアサカワ氏に向き直った時、私はようやく事の次第を悟りました。何故、彼がああも親切にこの青年をもてなしていたかを。ブラウニングは彼を弄んでいた。彼はアサカワ氏に向き直ると — 申し出を — 彼は —

— 申し出をしました — もし彼が —

— もし —

畜生。

畜生。すみません。失礼しました。普段はこんな — 時間が必要です。少し、あの、少し時間をください。あの件を話すのは久しぶりなので — 畜生め。すみません。

大丈夫。

よし。大丈夫です。私はもう平気です。すみません。罵言を吐いたことは申し訳ない。

あの瞬間の彼は酷く怯えて見えました。アサカワ氏がです。非常に実際的な危険が存在することに気付き始めたのだろうと思いました。しかしその時、ブラウニングが何か言いました — 内容など覚えてすらいません。自分が現役だった頃にはSRAなど無かったとか? その当時の自分たちがどれほど多くの人命を救ったかとか。アサカワの仕事がどんなに重要かとか。そういった事柄です。アサカワは微笑んで—

— その前に、私を見ていました。怯えている時に。彼は私を真っ直ぐ見つめていました。私を。まるで私が自分を救ってくれるのを期待するかのように。そして — そうすることもできたでしょう。私は彼を救えたはずです。私はノーと言うことができた。言語道断だと言うことができた。青年をボートから引き戻して、あのデブのレイシストの人でなしにくたばりやがれと言うことができた。

けれど、私はそうしなかった。

私は彼にとても腹を立てていました。ブラウニングは我々全員の命よりも自分のプライドを優先した。私は彼が罰されることを望みました。彼は罰されるべき男でした。だからレイモンド・アサカワは死んだのです。彼は私に助けてくれと呼び掛け、私は助けなかった。何故なら怒っていたからです。

ブラウニングの死は気の毒ではありません。奴は死んで当然です。もっと酷い目に会ったって良かった。しかし、レイモンド・アサカワに対しては申し訳なく思っています。レイモンド・アサカワに申し訳ないと思わない日など、1日もありません。私はあれを看過した。私はあの青年を見殺しにした。私があのボートに乗っているべきだった。すまない。

クソッたれ。すまなかった。神よ、本当に申し訳ありません。

ブラウニング管理官はチームと共にSCPFビーグル3に乗船し、SCP-3241へ接近しました。4名編成のチームのうち、退役収容スペシャリストのジャクソン・ヴォコラのみが生存しました。

妙な事態に気付いた頃には半キロメートルぐらい進んでた。俺の後ろから低い耳障りな音が聞こえて — エンジンがどこかイカレてるみたいだった。俺はもし船が転覆したらどうしようかって考え始めた。泳ぐリスクは犯せなかった。でも曳航索のことを思い出した — そいつで俺たちを引き戻すことができる。それで少しは落ち着いた。

だが音はますます大きくなる一方でな。何かが変だと感じた。鋭すぎる。機械が立てるような音じゃない。俺はようやく振り返って、そんで、その、まぁな。エンジンじゃなかった。ガキだった。DLSが送ってきた奴。

あいつはしばらく叫び続けてた。何故かはそう苦労せず分かったよ。俺が驚いたのは、あいつに叫ぶのが可能だったことだ。奴の結構な割合がガラスに変化してた。体内が透けて見えた — 身体中に山ほど覗き窓を移植されてるように。静脈の網があいつの腸を縫うように走ってた — ピンクの絹のリボンみたいだった。

あいつが動くと、例の酷い音が出た。罅割れて弾ける音。靴の踵で電球を詰めた袋を擂り潰すようなアレだ。ガラスは削れ始めた — ギザギザの線が身体に走って、少し内部に食い込んだ。血が罅に沿って流れ、滴り落ちていった。とてもゆっくりと。

サンチェスは身体の中と外が裏返しになった。気に掛けてる様子はなかったな。あいつは俺にウィンクすらしたと思う。そしてブラウニングは、あー — 確証は無いが、骨が蒸発してるように見えた。奴の身体は崩れ落ちて、しまりのない折り畳まれた皮膚の積み重ねになった。汚れた洗濯物の山みたいに。異臭のする黄色い煙が、ブラウニングの穴という穴から噴き出し続けた。

エンジンはどっかの時点で止まったはずだ。最後に覚えてるのは、連中ができる限り早く俺たちを引き戻しにかかってる様子だよ。俺はそこで苦痛のあまり気絶した。数週間後に起きた時、サンチェスとブラウニングはDOAだったと聞かされた。ガキは最終的に砕けて失血死するまで20分かかった。俺について言えば… かなり運が良かった。手足3本と腸管の半分を失っただけで済んだ。

あのな。ブラウニングはゲスだった、それは認める。あいつと俺は財団の全盛期に入ったクチだ。あの当時、財団のやり方は違った — そして時代が変わり始めた時、ブラウニングは一緒に変化できなかった。ああ、あいつは俺のダチだった。そしてまた人間の屑だった。分かってた事さ。ずっと前から知ってた。

でもそうした欠点を全部踏まえても、今の俺がチューブ越しにメシを飲んでクソを袋に垂れる生活をしてるのはブラウニングのせいじゃない。DLSのガキを責める気も無い — 俺たちと同じようにSRAの能書きを鵜呑みにしてなかったら、きっとあいつは付いてこなかった。当然だがガンビール・バクシを責めるつもりは全く無い。俺が知る限り、あの男は全くの聖人だ。

でも、ダニエル・デヴォンは? 神に誓って言う。もしあの野郎を目に留めたら、俺はこの車椅子から這い出して、歯で直に喉笛を噛み千切ってやるよ。

SRAは何の役にも立たなかった。聞こえたな? 全く何の役にもだぞ。もし何かしたとするなら、事態を悪化させただけだ。ドローンに裏返しになった機体は無かった。蒸発して煙になったのも無かった。忌々しいガラスなんかにも変化しなかった。そうさ、ただ故障しただけだよ。奴のクソ船を収容するために奴のクソ製品を使って俺がこのクソ椅子に縛り付けられるまでそんな事は起きてなかった。

何処にいるか知らんが、デヴォンさんよ、あんたは跪いて財団が変化してることを全能の神に感謝したほうが良かろうぜ。俺の現役時代はな、このお話はこういう — こういうふざけた“調査”なんかじゃ終わらなかったはずだ。あんたはオレンジ色のつなぎを着せられて、俺たちの見つけ得る限りで一番深く暗い穴の中に放り込まれたろう。俺たちは笑ってビールを啜りながら、ウチのバケモノどもがあんたの悲鳴に飽きるまでどのぐらい掛かるか賭けをしてたろう。

補遺3241.5: 回収されたEメール

2018年1月3日、匿名の情報ソースがDLSのイントラネットから数テラバイトのデータを取得し、財団に提供しました。このデータには、SSゾンマーフェルトへの緊急SRAシステム搭載を巡って、ダニエル・デヴォンと部下の間に交わされた数多くのEメールが含まれていました。

DATE: 1995/04/16
SUBJECT: Re: 緊急SRAシステム
FROM: <simon.tchlekoz@███████>
TO: <daniel.devorn@███████>


相関関係と因果関係はイコールではないと、あなたは顔から血の気が引くまで言っていられるでしょう、ダン。しかし相関関係は軒並み1:1です — 10年以上もです。仮に相関性がないとしても、あそこの全てのSRAで — 何十年も運用し続けている錨も含めて — 障害を起こす頻度が高まっている事実は変わりません。

我々が新しいSRAを稼働させる度に、別のSRAで障害が発生するリスクは高まります。現時点では、自動補正システムで障害率の増加に対処しています。1基のユニットが落ちた場合、2基が形態形成力場を調節して、故障したユニットを臨界に達する前に抑制します。故障ユニットをチェックし、人の肌を酸か何かに変化させないユニットと密かにすり替えるための“予防メンテナンス”を毎月予定しています。

しかし、まさにこれが問題なんです。故障したユニットが臨界に達するのを阻止するためには、最低2基の“クリーンな”ユニットが必要です。たった4基のSRAで構成される緊急システムでは食い止められません。確かに、この設定は20年前に行われたものです — あの頃は単一のユニット障害ですら稀な出来事でした。しかし今は? セット内で複数のユニットが四六時中故障しているんですよ。もし4機のうち2基が故障したら、他の2基ではそれらを押し戻せません。臨界を迎えます。

あなたはこれまでスクラントン現実錨が臨界に達するのを見たことが一度でもありますか? 私はあります。“聖書的”という表現が思わず脳裏をよぎる代物です。

もしこの船を安全に保ちたいなら、18基の — 少なくとも15基の — ユニットが要ります。それで危険ゾーンからは脱するでしょう。臨界事象が起こる可能性はゼロにできます。搭載ユニットが1基でも少なければ、あなたは船上のあらゆる人物を危害に晒すことになる。

これらのEメールの審査に続き、財団の調査員は、SSゾンマーフェルトの喪失が — 他20件以上の収容違反事案と併せて — SRAが故障した結果だった可能性があると結論付けました。これは、SSゾンマーフェルト喪失と、収容および安全性における財団のSRAへの依存に関する2018年の調査に繋がりました。

調査開始の2週間前に、ダニエル・デヴォンは財団の拘留下から逃走しました。彼を発見する努力は進行中です。


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