SCP-328-JP
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SCP-328-JP

アイテム番号: SCP-328-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-328-JPはサイト-8154特別物品収容室内の金庫は-8に収容されています。実験を行う際は担当者あるいはセキュリティクリアランスレベル3以上の職員2名の立会いが必要です。また、状況によっては即座に適切な記憶処置を行う場合があります。

説明: SCP-328-JPはプラスチック製のブーメランです。その特性は投擲した際に発揮されます。
SCP-328-JPが投擲されると、どのような形で投げられたとしても、投げられたときの速さを維持して必ず投擲した者に目がけて戻ってきます。このとき、軌道上に障害物があったとしても、その障害物を迂回またはその素材に関わらず通過する等、回避行動を取ります。
また再取得されない限り、手のひらに密着し回転し続けます。これは両手を損失しなければ止まることはありません。

投擲されたSCP-328-JPを再取得することで、新たな特性が現れます。
再取得すると、捕った瞬間から約2分から最大86分間程度、対象はその場で硬直し動かなくなります。
このとき対象は若い男性の声で詩の朗読のようなものを聴かされていると主張しています。
詩の内容は同じ対象でも毎回異なることが判明しており、ある程度の範囲で対象の思想や趣向が反映されていることもわかっています。
また、硬直時間と朗読時間は一致しておらず、硬直中に同じ詩を何度も聞かされることもあります。
以下は実験で得られた詩の一部です。それぞれの詩の全文は付属文書328-JP-ほを参照してください。

北の海の人魚
氷に閉ざされた都市の中 這いつくばって熱を求める
我が声が届くのならば 我が声を出すことが出来るのならば
鱗に包まれた我が脚は 再び大地を踏み締める事が出来るだろう
だから何度でも泳いでみせよう この北の海を

薔薇の涙は
華やかに揺らめくメカニカルキャンサー 明日を知らない無法者にはたどり着けぬオービタルパラダイス
スピリットウィンドウはもう道を照らさない
帰る場所のある者たちよ 月へと向かって走りたまえ
ここには茨の空が生える場所 薔薇の涙はここにはいらぬ

エマソンズ
赤い川の畔から 甲冑を着込んだ病原菌が飛び出る実家
綿毛の風は山を覆い 未来の柔道着達を谷底へと誘い込む
夕餉に食した液体酸素を 二束三文で売り払い
得られた資金で ファスナー越しの予防接種
エマソンズ 嗚呼彼らはエマソンズ
過去の栄光と言う名の明日の鉢巻を巻いて 今日も高山を走りぬける

完了されし世界
白い霧に佇む人影と 黒の邸に現れる紳士
メタンガスを吐き出す笑い袋に 文字の概念を奪い取られ
頭を失いし猿は 赤き海を泳ぐ魚を夢想する
木製の星々が 消えた闇を照らすとき
緋の空は 再び玩具の竜を生み出す

これらの詩を聞いた者はその内容を、記憶処置やそれに類似した影響を受けない限りは忘れることはなく、一日に一度、投擲した時間に再び朗読が聞こえるようになります。しかし、詩を記憶したことによって対象に何らかの肉体的、精神的影響は確認されておりません。

20██/██/██に、1934年から1969年にかけて活動していた作家であり詩人の████████氏の未発表原稿が公表されました。しかし、上記の「完了されし世界」という題名のものが、████████氏が知り得ないはずであるオブジェクトの比喩ではないかと興味を引き調査を開始しました。

インタビュー記録328-JP: 以下は国文学者である中之島博士による、████████氏の孫娘である██████氏へのインタビューの一部抜粋です。

対象:██████氏

インタビュアー:中之島博士

[ここまで中之島博士は国文学者の立場として、未発表原稿や自身も詩人として活動している██████氏についてのインタビューを行っていた]

中之島博士:では、少し話題を変えましょう。お爺様との一番印象深い思い出は何かございますか?

██████氏:そうですねえ、私が小さい頃によくブーメランで遊んでいただいたのが忘れられないですねえ。

中之島博士:ブーメランですか。

██████氏:ええ。当時はまだ珍しい物でしたのでよく覚えています。

中之島博士:ちなみにどのようなブーメランなのですか?

██████氏:これがまた不思議な物でして、誰が投げても必ず手元に戻ってくるというもので、祖父はこれをよく私の前で誇らしげに投げてくれました。

中之島博士:その頃には既に認知症を患われていたはずですよね?

██████氏:はい。よくぼんやりと立ち尽くしていたりするようになったのはその頃ですね。ですが、私の前では極力そういった姿を見せないようにしていたのだと思います。だからこそ、私とよく遊んでくれたのだと思います。

中之島博士:いいお爺様ですね。しかし、必ず手元に戻ってくるブーメランというのも気になりますね。それはどういうものだったんでしょうか?

██████氏:今は手元にありませんが、何でも祖父が大学に勤めている頃に、様々な分野を研究されていた方から譲り受けたものだと聞いています。

中之島博士:その方については何か聞いていますか?

██████氏:とても親しい仲だったようで、私の前でも渾名の「博士」と呼んで、いつも楽しそうにその方の話をしてくれました。人を楽しませる物を作る研究をされていたようです。

中之島博士:私もお爺様について色々研究していたつもりでしたが、そのような人物がいるとは初耳です。

██████氏:とはいえ、私も実際お会いしたことはありませんので、案外私に楽しい話を聞かせる為の架空の人物かもしれません。

中之島博士:何故そう思うのです?

██████氏:それは単に、必ず戻ってくるブーメランなんて存在しないからですよ。あれは単に祖父がブーメランが得意だっただけですよ。

上記ではこのような発言をしていた██████氏であったが、後の調査により現在でもSCP-328-JPを彼女が所持していることが判明し、これを収容しました。なお、彼女が何らかの隠蔽工作を行っている可能性がありましたが、20██/██/██に 心筋梗塞で亡くなられた為、真意は不明です。

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