SCP-363-JP
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SCP-363-JP

 
アイテム番号: SCP-363-JP
 
オブジェクトクラス: Euclid
 
特別収容プロトコル: SCP-363-JPは特殊ブラインドケース内に保管された状態で小型耐冷金庫内に収容し、取り扱う際には、基本的にブラインドケースからは出す事の無いようにしてください。
SCP-363-JPが直接目視されてしまう危険性を回避するために、小型耐冷金庫についても密閉された個室内に安置し、監視カメラ等による監視も個室の外部から行うようにしてください。
SCP-363-JPの冷気によるブラインドケースの劣化の進行に対処するため、専用ドローンによるブラインドケースの交換を、2ヶ月に一度実施してください。
 
SCP-363-JP暴露者と思われる人物が発見された場合、直ちに確保し、研究チームの指示の下で隔離施設へと速やかに移送してください。SCP-363-JP暴露者、もしくはDクラス職員を用いた実験は研究チームのみが実施可能ですが、セキュリティクリアランスレベル2以上の職員であれば、実験の立ち会いが許可されています。
 
内容: SCP-363-JPは冷凍され、食品用ラップフィルムに包まれた状態のおよそ1kgの豚肉です。如何なる科学的な方法によっても切削によるサンプル採取が不可能であったため、DNA鑑定は行われていませんが、外観の特徴から一般的なランドレース種の肉であると推察されています。
 
SCP-363-JPは如何なる環境に於いても-2℃で冷凍された状態を維持し、表面の硬さや密度に於いても冷凍状態に準じた数値を保ちます。腐敗の徴候も見られず、表面を覆うラップフィルムも同様であるため、これら全てを一つの形態として有するオブジェクトとして認定されています。
 
SCP-363-JPの最も顕著な異常性はSCP-363-JPを直接目視した人物の精神面に表れます。
その効果の一つとして、暴露者は自身が実行する殺人行為に対する罪悪感、忌避感を喪失し、他者に対して感情的に同調する能力を失います。
更に、暴露者は殺人の成功という結果に結びつくような試行を好奇心によって行い、その完遂に必ず本来凶器として不適当な物品を使用するようになります。
この精神的作用について、暴露者は不適当な凶器による暴行が人間を殺害可能であるかどうか、という一点にのみ好奇心が存在する旨の自覚を持ちますが、前述した同調能力の欠如によって、自ら行為を抑止する事ができなくなっています。
その結果、暴露者による暴行は被害者に対し、通常の暴行以上に執拗となり、実験では多くの場合で被害者の死を招きました。しかしながら、使用される物品が殺人には不適当な物品であるために、被害者に深刻なダメージを与えるのには時間を要します。
 
また、暴露者はSCP-363-JPを目視した瞬間からこの効果の影響下に置かれるため、殆どの場合で、SCP-363-JPそのものを「本来凶器として不適当な物品」として最初の殺人に用います。しかしながら、この効果は永続するため、SCP-363-JPを用いた殺害を完遂するかもしくは失敗し、他の物品による殺人へと好奇心が向いた場合には、それを用いた殺人を実行しようとします。
また、一つの物品を用いた殺人を実行した場合、それが成功したか否かに関わらず、暴露者はその物品を用いた殺人に関心を示さなくなります。
 
暴露者を完全に治療する方法は未だ確立されていませんが、クラスA記憶処理を施すことで、およそ2週間SCP-363-JPの影響に起因する殺人への好奇心を抑制することが可能であると判明しています。
 
付録1: SCP-363-JP実験記録
 
実験記録003 - 日付████/██/██

対象: D-363-01 暴露済み 降格処分された元研究職員で、犯罪歴ナシ

実施方法: 様々な物品を敷き詰めた部屋に対象を置き、どの物品に興味を示すのか観察する

結果: 対象はトレーディング・カード、ビール瓶の栓、重量150gの熊のぬいぐるみに興味を示した

分析: ビール瓶そのものに興味を一切示さなかった点が興味深い。部屋には野球用の木製バットやナイフ等も置かれていた。しかしながら、部屋の内部に物品が多すぎたため、そもそも目に入らなかった可能性もあるだろう。

 
実験記録004 - 日付████/██/██

対象: D-363-01

実施方法: 日本刀と単三電池だけが置かれた部屋に対象を置き、観察する

結果: どちらの物品にも対象は興味を示さなかった

分析: その後の対象へのインタビューにより、どうやら個人による嗜好の差が存在するようだ。収容以前のSCP-363-JP事例から鑑みても、事実である可能性は高い。

 
実験記録005 - 日付████/██/██

対象: D-363-01

実施方法: ビール瓶の栓と日本刀だけが置かれた部屋に対象を置き、観察する

結果: 対象はどちらの物品にも興味を示さなかった

分析: 好奇心を刺激する要素が足りないと思われる。

 
実験記録006 - 日付████/██/██

対象: D-363-01 D-363-02(非暴露者)

実施方法: 様々な物品を敷き詰めた部屋にD-363-01とD-363-02を置き、観察する。ただしD-363-02は拘束状態に置き、主にD-363-01の動向を観察する

結果: D-363-01はビール瓶の栓の縁でD-363-02の頭皮を激しく摩擦し、削り取り始めた。D-363-01はおよそ17分その行為に熱中し、D-363-02の脳組織を49%まで破壊した所で中断し、ビール瓶の栓を放り投げて息をつきながら座り込んだ

分析: D-363-01に罪悪感や嫌悪、忌避は一切見られない。何らかの強制力が働いたような形跡も無く、栓を放り捨てた時には達成感や満足感が見られた。

 
実験記録008 - 日付████/██/██

対象: D-363-04(非暴露者) D-363-05(非暴露者) 

実施方法: 様々な物品が敷き詰められた部屋に両者を置いた状態で、同時に金網越しにSCP-363-JPに暴露させ、様子を観察する

結果: 暴露後、両対象は雑談を交わしながらおよそ2分半部屋内を徘徊し、D-363-04は1ロールのトイレットペーパーを使用しD-363-05を襲撃。D-363-05は既に片手で保持していた空の2ℓペットボトルで応戦した。格闘は96分16秒間続いたものの、両物品の破損と両対象の疲弊によって戦闘は中断された

分析: 自らの生命が危険に晒されていても、やはり凶器には本来不適切な物品を用いるようだ。オブジェクト収容時に於ける暴露者との戦闘記録とも一致している。

追記: この後の追加実験では、D-363-04、-05共に、両物品に対する興味は失われていました。物品を用いた殺人の正否についての興味は、やはりその物品を用いて成功するか否かが重要であると思われます。

 
実験記録010 - 日付████/██/██

対象: D-363-04

実施方法: 非殺傷性の様々な物品を敷き詰めた部屋に対象を置いた状態で、保安要員による威嚇射撃を行い、対象の反応を観察する

結果: 対象は威嚇射撃に臆する事無く、紙袋を用いて保安要員を襲撃。保安要員は即座に迎撃し、鎮圧した

分析: 雇用時の記録に於ける精神鑑定結果では、対象は、本来ならば威嚇射撃に対して武力抵抗するような人物ではないと示唆されている。SCP-363-JPには副次的な効果として、攻撃性の付与という性質を持つ可能性がある。

 
付録2: SCP-363-JP暴露者に対するインタビュー記録

対象: D-363-04 実験記録010後

インタビュアー: 神山博士

付記: 実験記録010直後の対象に行ったインタビュー。対象は拘束され、会話は別室からの電信通話という形で行われた。

<録音開始>

神山博士: こんにちは、D-363-04

D-363-04: もしもし、こんにちは

神山博士: 気分はどうですか?

D-363-04: どうって、別に、どうとも

神山博士: 別に、とは、どういうことでしょうか? あなたは先程の実験で保安要員によって武力鎮圧されました。通常ならば、もっと不快感を示すものだと思いますが。

D-363-04: いえ、なんとも。ああ、でも、ちょっと残念かな。

神山博士: 何が残念なのでしょうか?

D-363-04: 試せなかったからね、紙袋で人が殺せるか。だから、その、なんかこう [6秒沈黙] モヤモヤする感じかな。不快ってほどじゃないんですけど。

17秒沈黙

D-363-04: 先生?

神山博士: 動機は何でしょう? あなたは以前の実験でも、トイレットペーパーで同僚に襲いかかり、一時間半以上もの間執拗に攻撃を加えました。

D-363-04: あー、えーと、ほら、トイレットペーパーって、そこそこ重いでしょう。それに芯は結構硬くてしっかりしてるし、その芯を周りの紙がしっかりと覆って固定してるし。それに断面の方を当てて殴れば、形で言えば十数cmのそこそこの重さの厚紙で殴りつけることになりますから、上手く当たれば人ぐらいは殺せるかな、と。そういうの、ちょっと気になるじゃないですか。

神山博士: 続けてください。

D-363-04: はい、だから、じゃあ試してみようと思いまして。ちょっとした実験みたいなものです。これを、こうすれば、こうなるんじゃないかっていう、そういう、好奇心? なんですかね。自分でも、よく分かってないかもしれません。

神山博士: それを実行に移してみて、どのように感じましたか?

D-363-04: いやぁ、実際にやるのは難しいものですね。相手があんなに暴れて抵抗しなければ上手くいったかもしれませんけど、結局失敗しちゃいました。やっぱりトイレットペーパーはトイレットペーパーですね。

神山博士: あなたが以後トイレットペーパーを用いた殺人に興味を示さなくなった原因は、それなのでしょうか?

D-363-04: 多分、そう、なの、でしょうなぁ。何となく、興味がなくなってしまったという感じですか。恥ずかしながら、結果が出て飽きてしまったのかもしれません。

神山博士: [咳払い] 質問を変えましょう。あなたは、あの凍った肉を見てどのように感じましたか?

D-363-04: 凍った肉?

神山博士: はい。先程のトイレットペーパーの実験の前に、あなたは目にしたはずです。

D-363-04: [13秒沈黙] ああ、あれか。思い出しましたよ。

神山博士: あれについて、どう思いましたか?

D-363-04: どうって、特に何も。ああ、硬くて重そうだなあ、持ったらどんな感じなのかなあ、とか、そんなもんですよ。でも、金網がありましたからね。

[5秒沈黙]

神山博士: 次の質問です。実験009では、あなたは入れ歯を使った撲殺に成功していますね? その時、どのように感じましたか?

D-363-04: え、いや、特に何も。おお、いけるんだなあ、ぐらいにしか感じませんでしたよ。

神山博士: 達成感や満足感などは、得られなかったということでしょうか?

D-363-04: うーん。いや、そういう訳じゃないんですよ。何て言えばいいのか、何かの物事をやり始めて、そしてやり切った事自体に達成感みたいなのはあるんですけど、結果に対する想いっていうのは、また別なんじゃないかなと思うんですね。落胆というか納得というか、良くも悪くも合点がいった、というか。

神山博士: それは行為に対する動機としてひどく脆弱なものだとは思いませんか?

D-363-04: 私が言うのもなんですが、世の中案外そんなもんですよ。それに [7秒沈黙]

神山博士: それに、なんでしょう?

D-363-04: あなたたちも、結構好きでしょう。こういうの。

<録音終了>

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