SCP-381-JP
評価: +74+x

アイテム番号: SCP-381-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-381-JPはサイト-81██の標準人型収容セルに収容します。収容手順は標準人型オブジェクト用プロトコルに従うほか、食事面で甲殻類アレルギーに配慮してください。月に1度、オブジェクトの鬱症状に対する精神科医の診察が行われますが、担当医はあくまで診察に留め、独断で治療行為を行わないよう注意してください。

説明: SCP-381-JPは199█年に東京都で出生したとされる日本人男性です。オブジェクトは収容以前に民間人から受けた複数回の暴行により、██ヶ所に渡って傷害の痕跡があります。左目は失明しており、右足に若干の歩行障害を残しています。
SCP-381-JPの異常性は、何らかの負傷・疾病もしくは死亡状態にある生物(以下「対象者」)1をオブジェクトが直接視認している状態で、異常性の発揮を望むことによって発現します。この行為によってオブジェクト及び対象者の斜め上方に、オブジェクトと向かい合う形でSCP-381-JP-1実体が出現します。

SCP-381-JP-1は多くの職員に「仏像のような」と形容される容姿の、目視による測定では身長約182cmの人型実体です(SCP-381-JPは「神様」と呼んでいます)。財団の美術史学者の観察によれば、平安時代末期の日本で製作されていたタイプの仏像に酷似しており、外見による性別の推定は困難です。また笑顔とも冷淡とも判別しがたい表情をしていますが、この特徴は同時代の仏像の顔貌に広くみられるものです。SCP-381-JP出現時の写真による判定では、48%の職員が「笑顔」、52%が「冷淡な表情」に見えるとコメントしました。
SCP-381-JP-1とは音声による会話が可能ですが、常にSCP-381-JPとのみ会話を行い、第三者によるコミュニケーションの試みには一切反応を返しません。ただしSCP-381-JPに対して発せられたSCP-381-JP-1の発言を、第三者が聞き取ることは容易です。

SCP-381-JP-1が出現すると、SCP-381-JPは対象者を健康な状態に回復してくれるようSCP-381-JP-1に対して懇願します。それに後続する現象は、パターンA・Bに大別されます。
パターンAは、SCP-381-JPの懇願に対してSCP-381-JP-1が頷く動作をした場合です。対象者は未知の過程を経て瞬時に回復します。この過程が財団収容下における管理された実験状態で発生したことはありません。しかしオブジェクト収容以前に民間人によって撮影された記録及び彼らの証言から、パターンAが過去確かに発生していたことが確認されています。
パターンBは、SCP-381-JP-1がSCP-381-JPに対して首を左右に振る動作をした場合です。対象者の回復現象は起こりません。その後SCP-381-JP-1は、SCP-381-JPの懇願を聞き入れなかった理由を口述します。要旨は、SCP-381-JPが異常性を発揮しようとした動機が、純粋に対象者のためを思う真の利他性から出たものでなく、何らかの利己的動機を含んでいたという指摘です。
パターンA・Bいずれの場合であっても完了後にSCP-381-JP-1実体は消失します。ただし、財団収容下におけるSCP-381-JP-1出現実験は全てパターンBの結果に終わっています。

SCP-381-JPは、その父親がオブジェクトの特性に着目して創設した新興宗教団体において、信者から「救いの神」「救世主」「生き神様」「神の子」「救い主様」といった通称で呼ばれており、█歳頃から最低でも██回にわたりパターンA事象を発生させていたと思われます。
しかしながら記録によれば、オブジェクトが██歳になる頃からパターンAが出現する確率は顕著に低下していき、██歳頃には全ての異常現象がパターンBに置き換わるようになりました。このため父親をはじめ教団関係者はオブジェクトに失望し、執拗な虐待を繰り返しました。
201█年、報道を通してオブジェクトの異常性を察知した財団は、カバーストーリー「心霊治療詐欺」を適用して教団を解散に追い込みました。他の幹部と共に警察に逮捕された「救いの神」は、Dクラス雇用手続を通して財団に回収された後、Euclidクラス指定を受けました。
SCP-381-JPは過去の体験から、SCP-381-JP-1を出現させる試行を行うことに抵抗感を抱いていますが、職員の指示には従順です。

実験ログ
日時:201█年█月█日
実験者:██博士
実験場所:サイト-81██標準実験室
実験内容:終了済Dクラス職員の死体1体を用意し、SCP-381-JPに復活させるよう指示。
実験結果:パターンB。SCP-381-JP-1は、復活できないと非難されるのではというSCP-381-JPの心配を利己心として指摘した。直後、SCP-381-JPは██博士に向かって土下座をして謝罪した。以下はその会話記録。

SCP-381-JP:すみません!すみません!

██博士:どうしたのかね?

SCP-381-JP:(泣きながら)すいません!……オ、オレ、俺が、余計な事考えたから、あなたの大切な人を、生き返らせれなくて……

██博士:待ちなさい。大切な人とはこの死体のことかね。これは単に君の特異性を確認する実験のために持ち込んだものだ。私は生前のこれと面識はないし、生き返らなかったからといって君を責めるつもりはないよ。

SCP-381-JP:(土下座したまま、博士の表情を盗み見るように顔を上げるが、再び落とす)すみません。

██博士:そう謝ってばかりいなくてもいいよ。

SCP-381-JP:でも、実験を失敗させてしまって……。

██博士:実験は失敗ではない。できなかったという事を確認できた、それも科学では重要なことなんだ。

SCP-381-JP:ごめんなさい……。

インタビューログ
日時:201█年██月██日

██博士:█谷██美さんの頸髄損傷を治そうとした時のことを教えて欲しいんだが。

SCP-381-JP:(驚いた表情で博士を見つめる)

██博士:君が中学時代に治そうとした同級生のことだ。

SCP-381-JP:(俯き、涙を流し始める)

██博士:落ち着いたらでいいから話して欲しい。

SCP-381-JP:……█谷さんは、電車の事故で…首を怪我して、体のほとんどが動かせなくなったんです。

██博士:彼女は、君ともそれ以前から仲が良かったんだよね?

SCP-381-JP:はい。彼女のお父さんとお母さんが、車椅子を押してきて……病院でも治らない、もう神様にすがるしかないって言われました。

██博士:その神様とは、私達がSCP-381-JP-1と呼んでいる存在のことだね?

SCP-381-JP:(うなずいて)俺、本当に█谷さんに元気になってほしかったんです。それで手を握って「絶対助けてあげる」って約束して、神様を呼んで、やく、約束したのに……(嗚咽)。

██博士:だがSCP-381-JP-1は拒否した? それは何故か言ったかね?

SCP-381-JP:神様は、俺が本当にその人のためを思ってないからって……治したら、█谷さんが俺のことを、好きになってくれるかもしれないと思ってるって……(声を上げて泣き始める)。

██博士:続けて。

SCP-381-JP:█谷さんは泣き出して……お母さんが俺に掴みかかって、「どうして!どうして!!」って泣き喚いて、俺を床に引き倒したんです……それから俺の顔を、彼女のお父さんが蹴ったんです。「このエロガキが!」って怒鳴られて、何度も、何度も蹴られて……。

██博士:それが、左目を失明した原因なんだね。

SCP-381-JP:……はい。

██博士:インタビューを終了します。

補遺1: オブジェクトに対する精神治療の可否について、研究者間では意見の対立が見られます。

-「SCP-381-JPは自己収容に近い状態にあります。彼の鬱症状の原因になっている虐待と罪悪感の記憶は、異常現象をパターンBに留めるのに役立っているからです。すなわちオブジェクトは虐待の過去ゆえに、パターンA発生を成功させて虐待を免れたいという『利己心』を強く持たざるをえず、それゆえにパターンAは抑制されているのです。
憂慮すべきは、財団収容下においては虐待が行われていないことです。パターンA発生に失敗しても誰にも責められないという体験が繰り返されることは、自己収容性質を弱めるおそれがあります。SCP-381-JPには意図して短気な研究者をあてがい、パターンA発生を強要するように指示すべきだと考えます。オブジェクトの恐怖心と鬱症状は維持されるべきです。」(█研究員)

-「現在の収容方法がSCP-381-JP-1の思う壺でないか、疑ってみるがいい。あの仏像もどきの言葉が本心である保証はどこにもない。奴の能力が治療や死者の蘇生だけに限られるのかどうかも、誰一人確かめたわけでもない。単にSCP-381-JPはそれしか願ったことがないというだけだ。SCP-381-JP-1は実際には、SCP-381-JPの利他心などどうでもよいのかもしれない。もし奴に悪意があり、その真の能力が『SCP-381-JPが望んでいる』ことを条件に発動できる強力な現実改変だとしたら? SCP-381-JP-1は、SCP-381-JPを苦悩に満ちた状態に置き続けることで、いずれ彼が世界を呪うようになるのを待っているのではないのか? 君達は思い出すべきだ。奴に最も似ているという仏像が作られていた平安後期が、末法思想が一種の終末論として流行していた時代だということを。」(██博士)

補遺2: SCP-381-JP-1の表情についての参考写真を、パターンBにおける「拒絶」反応の瞬間の写真に変更したところ、72%の職員が「笑っているように見える」と回答しました。
██博士の推測については検討中ですが、現時点では収容状態継続のため、オブジェクトへの精神治療は保留されています。

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。