SCP-386-JP
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アイテム番号: SCP-386-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-386-JP個体は中型の標準規格である水槽一つにつき4個体を収容した状態で、低脅威アイテム保管用個室内に安置、飼育してください。水槽内の環境は、収容開始以前の生育場所の水質データを参考に維持されます。
SCP-386-JPの繁殖補助は4組のみに対して行い、産み出された卵塊に対しては種の保存に最適と思われる遺伝的差異を有する個体20体を選出し、残りの卵は破棄してください。
 
SCP-386-JP個体の具体的な飼育方法については、専門の収容担当者へと問い合わせてください。
 
説明: SCP-386-JPはベニザケ(学名:Oncorhynchus nerka)に極めて近い外観を有した魚類です。ベニザケと異なる点として、淡水性である点、ウェーベル氏器官に類似する器官を有する点等が指摘されており、実際の生態としてはコイ科に近いのではないかと推測されています。
また、発見の経緯と████氏の証言から、SCP-386-JPはおよそ300年以上██・██地点(████氏は単に「トー(沼)」と呼称)に於いて生息し続けていたと見られており、現在はSCP-386-JP生育沼の環境再現に成功しています。
 
SCP-386-JPは表皮部分が絹繊維と同一の成分によって構成されており、また、個体ごとに異なる対称的模様と鮮やかな色彩を有します。これらの繊維は一般的に錦織と認識される工芸品であるかのように自然的に織られた状態で形成されますが、本来、種として有しておらず、生育環境中にも存在しないこれらの成分をどのようにして自身の構成要素としているかは不明です。
 
████氏の証言と、それに基づいた史料調査によると、SCP-386-JPはかつて、その希少性と芸術性によって非アイヌ民族の「当時主要であった日本民族」によって乱獲され、その皮革が錦として売買されていたと見られています。
そのため、以後SCP-386-JPは████氏の先祖によって██・██地点へと秘匿され、████氏の一族の手によって管理され続けていたと思われます。SCP-386-JPは繁殖を高頻度で行うにも関わらず、財団によって長らく存在が捕捉されなかった事実については、████氏の一族によって個体数が厳重に管理されていた上に、情報や物流に於いても完全に隔絶された地域で生活と飼育を行っていたことが主な要因と結論付けられています。
現在、財団は████氏の知見をもとに作成した飼育スケジュールによって、SCP-386-JPに対して確保・収容以上に保護を重視した方針を策定しています。
 
付記: ████氏の一族についての調査報告
████氏の用いるアイヌ方言より、元来は沙流地方の非シュムクル部族であったと思われる。信頼しうる史料が甚だ少なく、████氏による口承のみが詳細な記録であり、この口承記録を裏付ける新たな物的証拠の捜索を要する。
しかしながら████氏によって、一族が██・██地点へ移り住む以前に居住していたと証言された[編集済]には、口承と同規模の村落の痕跡が発見されており、この事実から、口承の記録には一定の信憑性が存ずると見る。村落には5つの一族が居住していたと見られ、████氏の一族はその中では指導的立場にあった集団であったと思われる。
 
SCP-386-JPは[編集済]に於いては通常の動植物以上に神格化された重要な生物であり、当時はおよそ1400尾もの群れが河川及び湖沼に生息していたものの、1662年に松前藩によって発見された。
松前藩側の記録と████氏の口承を照合するに、松前藩はSCP-386-JPを交易品とすることを申し出たものの、一族にとって祭祀目的以外のSCP-386-JPの漁獲は宗教的なタブーであるとして拒否。当時、シュムクルとメナシクルの抗争を仲裁し、沙流地方のアイヌに対しては親和的な立場を取っていた松前藩はそれ以上強硬な態度にも出られず交易を断念。
しかし1669年に起こったシャクシャインの乱に於いてアイヌ民族の連合軍が敗北し、松前藩がアイヌ民族を服従させるに至ると、松前藩あるいは民間の商人に雇用されたアイヌ民族の手によるSCP-386-JPの乱獲が開始され、3年の間にSCP-386-JPはおよそ70尾にまで個体数を減少させた。
 
一族の口承神話に於いては、SCP-386-JPは限られた神の食料であり、人が神の食料の世話をするという形で行われる神秘的な繋がりである。故に、SCP-386-JPの絶滅を回避するべく、████氏の一族のみが、残った全てのSCP-386-JPを捕獲して██・██地点へと移住し、厳重な飼育と管理を開始したと思われる。
村落のその後の顛末は不明であるが、村落の痕跡より、埋葬された形跡の無い人骨が7体発見され、人為的に破壊されたと見られる弓や漁具も同地層に埋没していた。
 
████氏の一族はその後、財団によってSCP-386-JPが発見されるまで██・██地点のみで居住していたものの、████氏の症状にも見られるように、近親交配による遺伝子的な脆弱性を抱えるに至り、████氏は一族の最後の一人であると思われる。
また、文化的にも完全な隔絶社会であったため、教育面、文化面、技術面に於いても1600年代後半のアイヌ民族の生活様式を維持していたと思われ、そのため████氏は沙流方言に類似した独自のアイヌ語以外の言語を使用出来なかった。
 
████氏へのインタビュー記録

対象: ████氏

インタビュアー: 石唐博士

付記: 会話は全てアイヌ語で行われ、本記録はそれを標準語訳したものである。しかしながら████氏の言語には独自の語彙も見られるため、その点はローマ字表記によって統一するものとする。また、████氏の先天的な奇形により発音そのものが困難な状況も多く見られ、聞き取りの間違いによる誤訳の可能性に対処すべく、データベースへの音声ファイルの保存も優先的に行われ、容量軽減のための削除措置の免除が決定されている。

<記録開始>

石唐博士: はじめまして、私は石唐です。よろしくおねがいします。

████氏: はじめまして、私は████です。

石唐博士: 早速始めますが、あなたがtuminkeの神(SCP-386-JPのこと)と呼ぶ鮭ですが、あなたはどうしてあれを守っていたのですか?

████氏: 私の父母から、そう伝えられたからです。私達の先祖が、ずっとあれを守るのだと聞かされていました。

石唐博士: 何故ですか?

████氏: 元々は、蕗の下の人へと命の神から特別に遣わされた鮭の神で、人々を守る神々へと捧げられるものでした。しかし、蕗の下の人がどこかへ去ってしまうとき、その世話と祭祀を私の先祖に託したのです。それから、私の一族はずっとあれを守ってきました。

石唐博士: 和人のことについては、どう伝わっていますか?

████氏: 周りの村は和人たちと取引をしていましたが、私達の村は和人を避けました。tuminkeの神を守るためです。しかし、当時はまだtuminkeの神は数が多くて(生息域が)広かったですし、周りの村にもtuminkeの神を知る人はいたので、やがて見つかってしまいました。和人たちはそれをよこせと言いましたが、その時は追い返すことができたそうです。私の父母は、和人たちのことについては殆ど何も言っていませんでしたが、口承では、和人たちからtuminkeの神を守るために私達がいるのだと言っていました。

石唐博士: 乱獲がいつから始まったのかは、伝わっていますか?

████氏: いいえ、いつから始まったのかは、わかりません。松前藩の人や、周りの村の人が、tuminkeの神を次々に獲り始めたことは聞いています。なので私達は、蕗の下の人との約束のために、tuminkeの神と共に██████(██・██地点のこと)へと移り住み、tuminkeの神はそこの沼に移されました。

石唐博士: 和人からtuminkeの神を守るために、あなたたちはそこで300年以上も一族だけで生活していたのですよね?

████氏: はい。

石唐博士: なのに何故、私たちが来た時、私たちを妨害する事無く、こうして協力までしてくれているのでしょう?

████氏: [28秒沈黙]

石唐博士: ████さん? 痛むのですか?

石唐博士が、待機していた████氏専属医療スタッフに合図を出すが、████氏によって制止される

石唐博士: ████さん?

████氏: 私たちでは、もう守れません。あなたたちに会ってから、私は驚いてばかりです。世の中は、私たちの時代からすっかり変わったのだと思いました。私はもう、最後の一人です。もう、できないのです。私の人生は・・・

石唐博士: 大丈夫ですか████さん? 今日はここまでにしましょうか?

████氏: いいえ、どうか最後まで聞いてください。私たちがこれまで、和人からも、更には仲間たちからも見つからずにいたのは何かterekewがあるのだと、私も、私の先祖たちも考えてきました。それなら、私があなたたちに見つかったことにもterekewがあるのだと思います。

石唐博士: terekew?

████氏: [7秒沈黙] あなたたちが、選ばれたということです。次に去るのは私たちで、次に託されるのがあなたたちということです。

石唐博士: 何らかの意思が関わっていたということですか?

████氏: 私は、そう思っています。

████氏は俯き、微かに震え始める。声量が如実に落ち、発音も不明瞭となったため、以降の記録には聞き取りミスによる誤訳が存在する可能性有

████氏: 私たちが、ずっと守ってきました。約束のために、全てをonura(osura/捨てる?)、ずっと守ってきました。asayaが来ても、私たちはずっと守ってきました。そして今、私たちは用済みなのです。

████氏が啜り泣き始める。石唐博士の再度の合図によって改めて専属医療スタッフが入室する

████氏: だから、せめて、お願いします。必ず、守り切ってください。

<記録終了>

終了報告書: 「皮が錦織で出来ているだけの鮭」に対して、これ程までの執着と迷信の歴史があるのは驚嘆の一語に尽きるが、████氏の言及していた「SCP-386-JPが発見されなかった理由」と「SCP-386-JPが発見された理由」について、詳細な調査が必要であるのは確かである。████氏が本インタビュー終了より5時間後に死亡したのが残念でならない。SCP-386-JPの飼育と生態についての尋問を優先させて正解であった。

 
SCP-386-JPは調査の結果、危害的な性質は一切持たず、その生態についても研究の進行は不要であるとしてAnomalousアイテム認定の議論がされました。
しかしながら、SCP-386-JPそのものの研究では無い、関連した情報についての調査は明確な結果を導き出していない点、████氏の証言の正否が未確定でありオブジェクトの背後関係について確証が無いままである点が問題視され、議論は一時的に凍結とされました。

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