SCP-4390
評価: +50+x
監督評議会命令
以下のファイルはレベル2/4390機密情報です。
無許可のアクセスは禁止されています。
4390
アイテム番号: 4390
レベル2
収容クラス:
euclid
副次クラス:
none
撹乱クラス:
vlam
リスククラス:
notice

header.jpg

SCP-4390の入口。


特別収容プロトコル: SCP-4390への入口がある場所への通行は常時警備されます。当該領域への侵入を試みた人物は地方自治体に潜入している財団エージェントに拘留され、地元の法執行機関に引き渡されます。

SCP-4390への入場はサイト-94研究班から許可を得た探索チームのみに制限されます。これらの探索の試みは要注意団体“ワンダーテインメント博士”の代表者と合同で実施されます。

説明: SCP-4390はアメリカ合衆国ジョージア州アトランタ西部のイタリア料理店“ジョルダーノ”の下に存在する異次元空間です。SCP-4390への唯一のアクセスポイントはレストランの地下室にあり、現在は機能しないウォークイン型冷蔵庫に偽装されています。

SCP-4390の入口を越えた先の空間は、常に変形し続ける大規模な石造りの迷宮を収めた巨大な洞窟風の領域です。迷宮の壁は少なくとも高さ20mに達するようですが、壁の高さを測定する/垂直方向に登る試みは、対象者の身体がそれ以上登れなくなるまで指数関数的に縮小する結果を招きます。壁を降りるとこの効果は逆転します。

SCP-4390には全体的に植生が繁茂しており、その殆どは地球上で発見される植物との類似性を全く有しません。加えて、数種類の小さな爬虫類や飛行性生物、並びに哺乳類と思われる大型動物も迷宮の内部や周辺に生息していますが、これらの生物群もまた地球上の種と類似しません。生物群の大半は積極的な攻撃性を示しませんが、一部の種は侵入者への敵意として表出し得る縄張り行動を取る様子が観察されています。

SCP-4390は大規模なゲームとして設計されているようです — 迷宮には動植物の他にも数体の知的実体が収容されており、その多くは探索者にユニークな挑戦を仕掛けるために構造内に存在するようです。これらの実体群との交流は通常無事平穏なものですが、実体群は時折探索者に対して賭け事を持ちかけます。対象者はこの際、問題の知的実体が提示する何らかの異常物品(または同価値の特性)と引き換えに、“自らの物”と見做し得るあらゆる物1を賭けることが可能です。これらの取引で喪失/取得した物品はSCP-4390の外部に出てもそのままですが、SCP-4390内で喪失/取得した特性や身体機能はアクセスポイントを通って退出した時点で復元されます。

SCP-4390内で死亡した人物は霊的幻影に変化し、自らの所属集団パーティ2の他構成員に随行できます。これらの霊体はSCP-4390の一部要素と相互作用し、壁をすり抜けることができますが、パズルの解読や謎かけの回答には協力できません3。霊体の“パーティ”が迷宮の終わりに到着するか全員死亡すると、パーティの全構成員が迷路の入口に再出現し、霊体は身体を取り戻します。しかしながら、パーティが迷宮を“攻略”できないまま全員死亡した場合、彼らは迷宮の入口に再出現するにあたって全ての所持品(衣服含む)を失います。

SCP-4390の存在は、サイト-94の職員が要注意団体“ワンダーテインメント博士”代表エージェントから連絡を受けた時点で財団に認知されました。このエージェントへの初期インタビューの完全な転写が補遺4390.1で閲覧可能です。

補遺4390.1: GOIエージェントへのインタビュー

内部音声記録転写

出席者:

  • 財団サイト-94管理官補佐 ロバート・ダンカン
  • 財団サイト-94保安管理官 アル・モリス
  • ワンダーテインメント博士マーケティング部門取締役 セバスチャン・J・フィッチングスレイ

[記録開始]

ダンカン管理官補佐: 青ランプが点いたぞ、始めようか。

フィッチングスレイ: 手早く説明する。我々—

モリス保安管理官: すみません、お待ちを。まず初めに、あー、我々の名前を述べなければいけません。記録のためです。

フィッチングスレイ: ああ、こりゃ失礼。

ダンカン: いやいや、構わないとも。あくまでプロトコル上の手続きだからな。私はロバート・ダンカン。

モリス: ミドルネームもです、サー。申し訳ありません。

ダンカン: 本気か? 全く、仕方ないな、もう一度初めから。私はロバート・カートライト・ダンカン。 (沈黙) サイト-94の研究管理官補佐だ。

モリス: 私はアルフレッド・アラン・モリス、サイト-94の保安管理官です。

フィッチングスレイ: 次は俺か?

モリス: ええ。

フィッチングスレイ: 分かった。俺の名はセバスチャン・ジュノー・マルザン・エルマノ・イ・コンキスタディート・ヴァナブルス・エクストラオーディナリオリオン・フランク・フィッチングスレイ。 (沈黙) ワンダーテインメント博士マーケティング部門の取締役だ。そこの、あー、フィッチングスレイ云々のあたりは書き留めといた方が良いと思うね。

ダンカン: 成程、了解した。では早速今回の件について話し合おう。君は何かの取引をしたいと言っていたが?

フィッチングスレイ: じゃあ、君らのためにちょっと説明させてくれ。俺のボス、つまりワンダーテインメント博士は、歴史が許す限り昔からずっと続いてきたワンダーテインメントの長ーい家系の一番最近の顔なんだ。この歴史の中で、我々は幸い、結構まともな権力移譲を維持してきた — あるワンダーテインメント博士がマントを脱いで後継者に引き渡すと、そいつが次代のワンダーテインメント博士になって、それが続く。まぁ確かにいざこざも多少あったが、それほど大事にはならなかった。

ダンカン: それは結構だが、何だか前説のように聞こえるな。

フィッチングスレイ: 慣れてくれ。ホントに問題なのは、実際相当な人数のろくでなしワンダーテインメントがいるってことだ — ワンダーテインメント博士の地位を約束されてたけど何かの不祥事で候補から外された奴とか、あるワンダーテインメント博士と何かよく知らん奴の間に生まれた子供とかな。いるんだよ。君らは多分知らなかったと思うが、最後のワンダーテインメント博士だったイザベルは不可解な状況で失踪した。彼女の席では今、先代のワンダーテインメントだったバートランドが会社の業務を日々こなしてる。今までの流れが割とすっきりしてたせいで、これは軽い騒ぎになった — 後ろ暗い奴が選出されたのは何度かあったけど、逆戻りした前例は無かった。こいつはかなり問題がある。

ダンカン: ほーう

フィッチングスレイ: 分かってる! 荒れてる時期なんだよ。でも俺が言いたかったのは、イザベルの跡を継ぐワンダーテインメントは、遠縁の従兄弟のヤンシー・ディペッティト=コルテス・ワンダーテインメントの予定だったってことなんだ。イザベルが失踪した状況も状況だから、役員会ではイザベルが見つかって会社の正当な責任者の地位に戻るまでの間、バートランドを彼女の椅子に座らせておこうと決めた。

モリス: ああ、オーケイ、話がどう転がるのか見えてきました。

フィッチングスレイ: ああ勿論君には見えてるだろうとも。ヤンシーの奴はこれを重大な軽視だと受け取った。ごく当たり前みたいな流れでもってワンダーテインメント博士を襲名して、イザベルなんかこれっぽっちも気にせず普通に仕事を続けられると考えてたのは間違いない。役員会が自分の計画よりもイザベルの復帰を優先してるのに気分を害したあいつは、本社ブランドと決裂して… (呻く) パチモノを作った。今まさにそこで“アメイズメントピア教授”とか名乗ってありとあらゆるバカ騒ぎをしでかしてる。

ダンカン: 確かに切実な話ではある。だが、今朝私がシャワーを浴びている最中に現れて生きるか死ぬかの一大事に関する会合を申し込んできた理由の答えにはなっていない。

フィッチングスレイ: ああまぁな — シャワーの件は改めて謝る、ホントは玄関口に出るつもりだったんだが、イザベルの失踪以来、計算がちょっと狂いがちでな。君ら両方とも、我々の超有名で広く愛されてるボードゲームの“ザ・ファウンデーション”は知ってるな? 君たちも1つ所有してるはずだ。実は、ヤンシーはこの近所にあるピザ屋の地下に立て籠もって、“ザ・ファウンデーション”と競合できるゲームに取り組んでる。あいつはそれを“ザ・メイズ2: ザ・ゲーム”と呼んでて、どっかの旅行先で見つけた奇妙で不可思議な物をどっさり詰め込んでるんだよ。マジで低俗な代物だ。

ダンカン: “ザ・メイズ2”? “ザ・メイズ”はどうなったんだ?

フィッチングスレイ: “ザ・メイズ”は無い。“ザ・メイズ2”だけだ。どれだけクソな話かこれでもう分かるだろ。

ダンカン: 君は今ゲームだと言ったな? ボードゲームのようなアレか?

フィッチングスレイ: あー… いや、ボードゲームではない。正直に言うと全くゲームとは言えない、ありゃただのデカい迷路だ。ヤンシーについてこれは知らせておきたいが — イザベルがまだ若いのに経営者として選ばれた理由の一つは、あの子がヤンシーよりも長生きして、ゆくゆくはワンダーテインメント博士の称号をもっとこう… 精神的・感情的にマトモな誰かに譲ってくれないかという希望があったからだ。ヤンシーは正真正銘のイカレ野郎で玩具職人としてはド素人だよ。そもそも“玩具作り”ってのをろくに理解してない — あいつはむしろ、レゴとかで壮大な物を作ってはみるけど、他人にそれを遊ばせるのは嫌がる子供みたいなタイプだ。ある種のひねくれ者なんだな。そういうビジネスモデルが成長と発展の助けにならないのは君らも理解できると思う。

モリス: はい。

フィッチングスレイ: という訳で取引をしよう。俺はヤンシーのアホゲームの入口がある場所を君らに教える。君らが派遣する長靴履いた兵士たちはフルトン・インダストリアル大通りを下ってドアをブチ破り、ヤンシーが問題の場所に貯め込んだお菓子やらサプライズやらを一切合切かき集める。1つちょっとした便宜を図ってもらえるなら、そうするよ。

ダンカン: ああ成程な、そういう話か。

フィッチングスレイ: いやいや、真面目な話、そう悪い事じゃない。本社を離れた時、ヤンシーは色々な物を一緒に持ち出した — 私物、車を数台、熱気球を1個、貴重な七面鳥の詰め物料理を幾つか。その他諸々。そしてついでに、会社への打撃になると思い込んで、財務記録がぎっしり詰まったファイルキャビネットを1台くすねた。ヤンシーは今が西暦2019年で、我々の記録は全部クラウドにバックアップしてあるのを考慮してなかった。ところがだ、この裏切りのすぐ後、我々は奴が遥かにタチの悪い物を盗んだのに気付いた — 俺をはじめとする役員会の面々の、脅しネタになり得る恥ずかしい写真が入ったファイルフォルダだ。

ダンカン: …うん? どうして君たち自身のえげつない写真が詰まったファイルフォルダをわざわざ持ち続ける?

フィッチングスレイ: 保険だよ! 訴訟で相手を脅すのも1つの手段だが、股間にブラブラしてるもんを公開するぞと言って脅すのもアリだろ。ほんのちょっぴり不安を裏に流しつつ、みんなを幸せな気分で整然と働かせる。それがワンダーテインメント流だ。

ダンカン: で、ファイルフォルダは今、何処にある?

フィッチングスレイ: ファイルキャビネットの中だ。ヤンシーは大馬鹿野郎だから自分が何を手に入れたか気付いてすらいない。でもあいつは財務記録が役に立たないと分かった時点で、自分のむちゃくちゃマヌケでお粗末な迷路ゲームのど真ん中にキャビネットを捨てちまったんだ。我々にはあのファイルフォルダだけあればいい — それ以外にあそこで見つかる物は、文字通り何であろうと君らが持ち続けて構わないとも。

ダンカン: ちょっと待て。何故この件に財団が関与する必要がある? 君たち自身のチームを派遣すれば済む話ではないのか?

フィッチングスレイ: (溜め息) なぁ、それこそ数秒でいいから考えてくれ。もし我々が部隊を送り込んであの馬鹿野郎のアホ迷路を根こそぎにしたら、あいつはファイルキャビネットに何か価値のある物が実際入ってると悟るだろうな? そこで“財務記録”を越えた先までファイルを捲ったあたりで“チンコとかケツとかの素敵な写真”に出くわす。そうなったらもう大惨事だ。奴の手札は既に揃ってる、ただそれを知らないだけだ — 君らには我々のブラフとして動いてほしい。

ダンカン: 随分な厄介事のようじゃないか。

フィッチングスレイ: あぁ、多分そうなるだろう。ホントに、ホントに酷いゲームではある。だけど君らみたいな変態が妙なガラクタを箱に放り込むのにどれだけ入れ揚げてるか俺は知ってる。そしてここから、そうだな、10マイルぐらい離れた汚いピザ屋の地下にそういう妙なガラクタが山盛りになってるんだ。話に乗るのか、乗らないのか?

ダンカン: 私には何とも… どう思う?

モリス: いや、私はどうでもいいです。お任せしますよ — 我々はあなたの意向に従うまでです。

ダンカン: うぅーーーん… いいだろう。今の話で納得した。乗ろうじゃないか。

フィッチングスレイ: 良かった、それを聞いて安心したよ。ところで、念のため訊いておきたいんだが、君らは全員最新の予防注射を受けてるかい? ごく基本的なやつでいい。破傷風、はしか、エボラ。

モリス: はい?

[記録終了]

補遺4390.2: SCP-4390探索試行#1

SCP-4390の初期探索は機動部隊アトランタ-2 “クソ渋滞”によって実施されました。ミッションの目的は、SCP-4390内の危険性を調査し、可能であれば迷宮の中心に到達することでした。

探索ログ転写

関与した隊員:

  • MTF ATL-2 フランコ [隊長]
  • MTF ATL-2 ヴァイス
  • MTF ATL-2 リッター

フランコ: 良し、マイクの準備も整った。冷蔵庫探検と行こうじゃないか。

チームはSCP-4390の敷居を通過する。彼らは迷宮の前庭の遠端に出現する。

リッター: 真に受けないかもしれませんけどね、ボス、俺はこいつが冷蔵庫だとは全く思わないんですよ。

フランコ: 口を慎め、コワルスキー。俺たちはここで重要任務に取り掛かろうとしてるんだ。

チームは正面入口の上に掛かったアーチ門に接近する。アーチ門には“Impact”フォントと思われる大きなブロック体で、“アメイズメントピア キョウジュ ノ ザ メイズ 2: ザ ゲーム”と彫られている。その下には“ドンナ テイキュウ 'ワンダーテインメント ハカセ' セイヒン トモ イッサイ カンケイ アリマセン - コウヒンシツ エンターテインメント オンリー”とある。

ヴァイス: ワオ、この野郎はマジもんのアレだな、え?

突然、1つの顔面がチームの横にあるアーチに浮かび上がる。

リッター: うおっ、何だこいつ!

顔: コンチハ、探索者ドモ。ソシテ、アメイズメントピア教授ノ全年齢向ケ摩訶不思議カーニバル、ザ・メイズ2: ザ・ゲームニヨウコソ!

ヴァイス: おい、落ち着け兄弟、叫ばなくていい。すぐ傍にいるんだから。

face.jpg

顔。

顔: スマネェ、友ヨ! 俺ヲ此処ニ縛リ付ケテル呪イハ、参加者全員ガ感ジテル興奮ノ高マリヲ維持スルタメニ、必要無イレベルマデ声ヲ張リ上ゲサセチマウンダ!

フランコ: それで、こいつはどういう仕組みなんだ? 俺たちはこの迷路に入って… どうする? 中心に辿り着いたら何が手に入る?

顔: 辿リ着イタラ? (ヒステリックに笑う) オ前ハ自信過剰ダナ! 今マデ誰モアメイズメントピア教授ノ超絶パズルヲ解イタコトハ無イゾ! アメイズメントピア教授ゴ本人モナ! デモ粘リ強ク挑戦スル奴ラニハ、言葉ニ尽クセヌ財宝ガ待チ受ケテルゼ!

フランコ: …じゃあ俺たちは中心に向かうだけでいいのか?

顔: ソウ。コレハ迷路ザ・メイズダ、ソレコソオ前ラガザ・メイズデヤルベキ事ダ。

フランコ: 何かヒントは無いのか?

顔: ナ — 何? イイヤ。コレハザ・メイズダ、ヒントナンカ無イ。

フランコ: もし道に迷ったらどうなる? 中心に辿り着けなかったら? 出口はあるか?

顔: 唯一ノ出口ハ命ヲ失ウカ、自分デ絶ツコトダ。

リッター: (脇に向かって) 割とダメな迷路みたいですね。

顔: オウ、聞コエタゾ。オ前ラハザ・メイズヲヤル必要ハ無イ。誰モ無理強イシテナイ。ソシテ、ソウダ、モシモザ・メイズカラ逃ゲタケレバ死ヌシカナイ。死ンダ奴ハ幽霊ニナッテ、ザ・メイズヲ訪レル未来ノ探索者タチヲ永遠ニ脅カスノダ。勿論、オ前ラ全員ガ死ヌマデダケドナ。全員死ンダラザ・メイズノ入口マデ戻レルゾ。

フランコ: よし来た、ザ・メイズに挑戦させてもらおうじゃないか。行くぞ、お前たち。

顔: 待テ。入場サセル前ニ、ザ・メイズノ歌ヲ歌ワナキャナラナイ。

ヴァイス: いや、別にそんな—

顔: WELCOME TO THE GAME / THE MAZE 2 / IT'S A THRILLING MAZE / FOR YOU / IF YOU WANT TO BE / RICH AND STRONG / ENTER MY MAZE / YOU CAN'T GO WRONG / SING THE MAZE SONG / IT'S A GREAT SONG / IT'S A MAZE SONG / FOR ME AND YOU

リッター: 思ったより酷い歌でした。

顔: ワオ、OK、素敵ナ褒メ言葉ヲアリガトナ。オ前ラヲココカラ手助ケスルッテイウ自分ナリノ職務ヲコナシテタダケダッテノニヨ。勝手ニシヤガレ、ケツ穴ガバガバ野郎ドモ。ホラヨ、入レ。死ンダ時ニ俺ガ泣イテヤルト思ウナ。

SCP-4390に通じる扉が開く。ATL-2チームが迷路に入場し、背後で扉が閉ざされる。扉の向こうから、顔が罵倒語を喚いているのが聞こえる。

フランコ: 良し。警戒を怠るな、進むぞ。

チームは迷宮内を短時間移動する。チームはやがて、アヒルのような嘴を備え、一本足で飛び跳ねる大型の甲虫に似た生物の小集団と遭遇する。生物群が通り過ぎた後、チームは角を曲がって、通路を分断している広い裂け目を見つける。目の前にはチームが視認できる限り深く下に延びている縦穴がある。チームが穴を覗き込んでいると、顔が隣の壁に現れる。

顔: ヨウ、クソ野郎。

ヴァイス: なんっ—

ヴァイスは顔の出現に動揺し、後ろによろめく。彼は地面を這う木の根に躓き、縦穴に転落する。

フランコ: ヴァイス!

リッター: ああ、クソッ!

顔: アーア、残ネーン!

ヴァイスが暗闇に消える。少し静寂が続いた後、何らかの重量物が高速で地面に激突する音が聞こえる。程なくして、霊体化したヴァイスがチームの正面に出現する。

リッター: マジかよ。

フランコ: マジかよ。

ヴァイスの霊体: マジかよ、俺幽霊だ。

顔: 気ヲ付ケナイト何カガ起コルッテ言ッタヨナ。言ッタヨナァ?

ヴァイスの霊体: お前が脅かしたんだろうが! お前の責任だぞ、クソデカ大声野郎。

顔: 探索者ガザ・メイズデ直面スル試練ニツイテ伝エルノハ俺ノ仕事ダ。

フランコ: ヴァイス、大丈夫か?

ヴァイスの霊体: あー、うん? 多分? 気分は問題ない、ただ… かなり霊的な感じがする。

顔: ソシテソノママナノサ、ザ・メイズヲ攻略スルカ、オ友達モ全員死ヌマデハ!

リッター: うわぁ、馬鹿馬鹿しい。

顔: 何トデモ言イヤガレ、馬鹿ッテ言ウホウガ馬ー鹿。 (沈黙) サテ。ココニ大イナル亀裂ガアル。先ニ進ムニハ、オ前ラハコノ亀裂ヲ越エナケレバナラナイ。ダガ十分ニ注意シロヨ、コノ高サカラ転落シタラヒトタマリモ無イダロウカラナ!

ヴァイスの霊体: 言ってなかったんじゃねぇか。

顔: 亀裂ヲ越エヨウトスル前ニ指示ヲ聞カナカッタオ前ガ悪イ。

フランコ: 言わせておけ、お前ら。ただこいつを渡れば済む話なんだ。 (沈黙) どう思う? 飛び越えられそうか?

リッター: んーーーーっ… 多分。

リッターは数歩下がった後、走り始める。リッターは縁に近付いた時点で亀裂を越えるためにジャンプし、反対側を片手で掴むが、持ちこたえられずに穴へ落下する。彼のカメラ映像もヴァイス同様に途絶え、暫くして霊体化したリッターがフランコの正面に出現する。

リッターの霊体: クソッ!

フランコ: 勘弁してくれ。

顔: ワオ、一番最初ノ障害物デ3人中2人ガ脱落カヨ。オ前ラソノ道ノプロダナ、絶対。スゲェ偉業ダ。

フランコ: 何かその辺にこう、レバーとか道を切り開く仕掛けは無いのか? (沈黙) ああ、成程、この木だな。ちょいと一押しくれてやるか。

フランコは近くの木を亀裂の上に押し倒し、その場しのぎの橋を作る。

顔: オメデトウ、マヌケ。メッチャ難シイ木ノパズルガ解ケタミタイジャンカ。

フランコ: 失せろ。

フランコ、ヴァイス、リッターは廊下を進み続け、時折行き止まりに遭遇して回り道をする。通路はやがて小さな墓地に辿り着く。墓地の中央では、擦り切れた服を着ている痩せて蒼褪めた人間女性が、小さな釜の上に屈み込んでいる。フランコがこの人物に接近する。

フランコ: やぁ、こんにちは。

正体不明の女性: ようこそ、探索者さん。私は魔女よ。きっと私のスペシャルなお薬を楽しみに来たのよね? とってもミステリアスでマジカルなお薬なのよ。

フランコ: オーケイ、何だこの茶番劇は。

顔が近くの壁に現れる。

顔: 魔女ダッテ名乗ッタダロ、ボケナス。耳遠イノカ?

フランコ: それは分かるが、この薬はどういう物だ? 毒か?

顔: ナライイケドヨ! コレハ彼女ガ投ゲ込ンデルアレヤコレヤノ適当ナ混ゼ物。アリトアラユル効果ヲ引キ起コシ得ル。良イ事モアレバ、悪イ事モアリ。個人的ニハ悪イ事デアッテホシイネ!

フランコ: アンタの妙な煎じ薬を飲まずに通り過ぎるってのは可能か?

魔女: あらあら、残念だけどそれはできないわ。

フランコ: ああ、そうかい。運任せだな。

フランコは釜の薬を飲む。彼は激しく目を擦り始める — 目を開くと、その色は鮮やかな緑に変化している。

フランコ: こりゃ凄い、全てが見えるぞ! 見える… 迷路の中心まで見通せる、それに… そこに出口があるのも見える! かなり離れてはいるが… なぁ魔女さん、この薬の効果のどれかに、何と言うか、超高速みたいなのはあるか?

魔女: (ケタケタと笑う) 恐らくね。何とも言えないわ。

フランコ: 俺にはそれで十分だ。そいつを少しくれ。

フランコは釜の薬をもう一杯飲む。彼は顕著に膨張し始め、数秒後に爆発してバナナを散乱させる。

間もなく、フランコ、リッター、ヴァイスは迷路の入口に再出現する。彼らの戦術装備と全ての衣服は失われている。

顔: ワオ、オケツ丸出シ。

[記録終了]

補遺4390.3: SCP-4390探索試行#2

探索ログ転写

関与した隊員:

  • MTF ATL-2 フランコ [隊長]
  • MTF ATL-2 ヴァイス
  • MTF ATL-2 リッター
  • MTF ATL-2 カイロ
  • MTF ATL-2 ダンス

MTF ATL-2はSCP-4390を通過して迷宮に入る。中庭の反対側に到着すると、顔が近くの壁に再び現れる。

顔: ヘッヘッヘッヘ。チョコマカト第2ラウンドニ戻ッテキタカ。最初ニ一発ズドントヤラレタノガソウ悪クナカッタカラ、今度ハ友達ヲ誘ッテ一緒ニ楽シモウッテンダナ。

フランコ: うるさい。

顔: アァ、心配スンナ。今回ノ俺ハ一切口出シシナイ。成功ノ見込ミガ無イ奴ラハ一回見リャ分カル。俺ハタダココデ寛イデルヨ。オ前ラノ失敗ヲナガメテ、挫折ヲ存分ニ楽シンデヤル。

ヴァイス: たかが壁のくせによく言うぜ。

顔: 穴ニ落ッコチタ野郎ガヨク言ウゼ。俺タチャ皆地獄ニ墜ッコチル定メナノサ。

MTF ATL-2はSCP-4390の入口を通過する。

カイロ: アレはいつもああいう感じなの?

リッター: お邪魔虫ですよ。無視するのが一番です。でも奴の姿はあらゆる場所に予期したほうがいい。

チームは暫くの間、迷宮内を移動する。最終的に、彼らは片側に小型の荷車が停まっている広い通路に辿り着く。荷車側面のハッチが開き、大雑把にクモのような身体と爬虫類的な頭部を有する実体が顔を出して、明白なオーストラリア訛りで話しかけてくる。

正体不明の実体: いよぅ、そこの兄ちゃんたち。おいらの名前はドミニカン・ジョー、一流品の仕出し屋をやってんだ。この古臭い迷路を探検しに来たんだろ、え? なかなかの場所だぜここは。おいらの商品を見て、どう思うか教えてくれよ。

ダンス: なぁ、ちょっと訊きたい。お前は何だ?

ドミニカン・ジョー: おいら? おいらはしがないゴソゴソムシャムシャさ、兄ちゃん。おいらの母ちゃんはゴソゴソブタで、父ちゃんがコッソリムシャムシャだったから、その両方って感じかな? でも受け継いだ特徴は母ちゃんのが殆どだって聞いてるね。

フランコ: どういう物を売ってる?

ドミニカン・ジョー: えっとな、雷を発射できる弾丸が幾つかあるだろ、あとは脳天に落ちてくる物から身を守ってくれる帽子が1つと… ブタに紐で縛り付けて使うコレ、こいつを中に押し込むと色んなもんが死ぬ。

沈黙。

ヴァイス: よし、それじゃ一つ—

フランコ: 駄目だ。

ヴァイス: (素早く) 分かった、分かったって。

リッター: この雷の弾丸なんてどうでしょう。なかなか良さそうですよ。幾らです?

ドミニカン・ジョー: あー、そいつはナァースの紙片が19枚だ。

ダンス: 何だって?

ドミニカン・ジョー: ナァースの紙片だけど? ほら、おいらたちが通貨として使ってる、ミダス王の船の帆から作った小っこい紙切れ。

沈黙。

ドミニカン・ジョー: 何だよ、白けるなぁ。じゃあ、これはどうだい。軽い物々交換といこう。おいらはアンタにこの弾丸をあげる、代わりにアンタは… 足の指を渡す。

リッター: 何を渡す?

ドミニカン・ジョー: 足指だよぅ、兄ちゃん! その足の先っぽに付いてる小っこくてウネウネするやつ! ほらほら、そんなの要らないだろぉ? その上、雷の弾丸と交換できるんだぜ! かなりクールだろ、ん?

リッター: 歩くのに使うんですけど。

ドミニカン・ジョー: いやいや兄ちゃん、そういう態度は良くない。アンタは足指じゃなくて、その後ろにあるデッカくて平べったいやつで歩いてんじゃないか。おいらは平たいのは別に要らない、あんなのはおいらにとっては何にもならないしね。でもその小っこいウネウネがあればちょっとした事ができるんだ。

リッター: ちょ… ちょっと遠慮しときます。

ドミニカン・ジョー: あっそ、ホントつれないね。それじゃ、こうしよう — このコインを持っていきなよ。もしどっかでおいらの店を開いてほしくなったら、その辺で見つかる古壁のひび割れにでもこの可愛子ちゃんを放り込みな?

ドミニカン・ジョーは小さな真鍮のコインをリッターに手渡す。

リッター: ああ、えー、有難う。

ドミニカン・ジョー: いいって事よ、兄ちゃん!

チームは迷路を探索し続け、その過程で幾つかの障害物を越える。時折、顔が出現してはチームに向かって苛立ちをぶつけ、すぐに姿を消す。

チームは様々な葉飾りがあるドーム状の屋根を備えた広い部屋に近付く。入室した彼らは、女性の顔を有する巨大なネコ様の生物が部屋の中央にいるのを発見する。扉が背後で閉鎖され、ネコ型生物はチームと向かい合う。

ネコ型生物: こんにちは、探索者たちよ。我が名はドリーマー。我が巣窟へようこそ。

カイロ: あなた、スフィンクスのつもり?

ドリーマー: い — いえ、違います。私が把握する限り、スフィンクスは予算に入っていませんね。私はキャタガンです。スフィンクスに似ていますが部品が少ないのです。

フランコ: で、ここでは何をどうすればいいんだ。

ドリーマー: お前たちは5人いるようですから、今から3つの謎かけをします — 後になるほど複雑で巧妙になります。表面上、お前たちにはこの3つの謎を解くチャンスが5回あります。外したら1人食べます。なので外さないように。

ヴァイス: おい、ネコに食われるとか冗談じゃないぞ。回り道できないか? こいつを迂回できる別な通路がきっとあるはずだ。

ドリーマー: ありません。遠回りをすれば、そう、数ヶ月は歩き通すことになるでしょう。この迷宮は広大です。中枢に入れる通路はこの道と、迷宮の向こう側のもう1ヶ所だけです。ですが、あちらの通路はドゲネヴァーが番をしていますから、私がここで行う易しい謎かけよりも遥かに身体に堪える試練が諸々待ち受けていますよ。

フランコ: あまり選択肢は無さそうだ、諸君。カイロ、先発を頼めるか?

カイロ: ええ、はい。 (前に踏み出す) いいわよ。謎を聞かせて。

ドリーマーは微かに煌めき始め、青い光の帯が脈動しながらクリーム色の毛皮を流れていく。間もなく、光が収まり、ドリーマーは目を開ける。

ドリーマー: 少年と医者が釣りに行く。少年は医者の息子だが、医者は少年の父親ではない。医者は何者であるか?

(沈黙)

カイロ: その… それだけ?

ドリーマー: ええ。

リッター: うーん、複雑だな。医者はなんだ?

カイロ: は — 母親よ。医者は少年の母親。

ドリーマー: ああ、もう。今ので1人は減らせたと思ったのですが。

ダンス: そうかもな。 (リッターを横目で見る)

ドリーマー: まぁいいでしょう、良くできました。次の謎です。 (沈黙、再び煌めく) 島と“T”の文字に共通するのは何であるか?

(沈黙)

ヴァイス: ハッ、するとここは子供だましの謎々コーナーなんだな?

ドリーマー: そこっ! (ヴァイスにいきなり顔を向けての発言。ヴァイスは後ろに飛びのく) お前には訊いていません。

ヴァイス: すまん。

カイロ: 分かった分かった、答えは“どちらも水に囲まれている”。Tは“water”の中央にあるし、島も水域にある。この謎かけは千回ぐらい聞いたことあるわよ。

ドリーマー: 嗚呼、今回も正解です。またしても難問を切り抜けましたね。全く意表を突かれました。

フランコ: よし、さっさと片付けよう。

カイロ: 最後の謎ね、聞かせてちょうだい。

ドリーマー: 濡れれば濡れるほど乾く物は何であるか?

カイロ: え — えっと… (沈黙) ドライヤー?

ドリーマー: 外れ。 (カイロを食べる)

ヴァイス: なんてこった。

ダンス: あぁヤベェ、吐きそうだ。

フランコ: 畜生め。リッター、次はお前だ。

リッター: でも俺は—

フランコ: お前ならできる、ビッグガイ。チームのために頑張れ。

リッター: わ、分かりましたよ。えー、濡れれば濡れるほど乾く… 濡れれば濡れるほど乾く… もしかして下ネタ?

ドリーマー: (リッターを攻撃しようとして躊躇う) それがお前の答えですか?

リッター: いやいやいやいや、勿論違います。 (沈黙) あ。あー、そういう事。タオルですね。身体は乾くけれど、タオル自体は湿っていくから。タオル!

ドリーマー: (溜め息) ああ、そんな… 宜しい、お前たちの勝利です。自由に通りなさい。

フランコ: カイロは何処だ?

微かにくぐもった、もがく音がドリーマーの体内から発せられる。程なく、霊体化したATL-2 カイロがドリーマーの脇腹をすり抜けて出現する。

カイロ: 成程、今の私は幽霊なのね。変な迷路。

フランコ: ふざけた話だよ。行こう。

チームは部屋を通り抜け、その先の廊下に入る。間もなく、チームは廊下の分岐点に辿り着く。2人の男性 — 片方はジーンズとTシャツ、もう片方はバスローブを着用している — がそれぞれの通路の正面に立っている。特記事項として、“S”という文字が両名の衣服に刺繍されている。

フランコ: さて、今回は何かな。

左の男: Hola, viajeros. Me llamo señor honestidad. Este es mi hermano, señor deshonestidad. Detrás de nosotros hay dos caminos, y solo uno conducirá al santuario interior. Sin embargo, solo tiene una pregunta que nos puede pedir para determinar qué ruta es la correcta. El otro camino es muy peligroso, así que ten cuidado con lo que decidas preguntar.

ヴァイス: 何て?

フランコ: ああ、クソッ。誰か、この中にスペイン語を話せる奴は?

リッター: んーーーっ… 中学時代にスペイン語の選択授業を受けてました。やってみます。

フランコ: ホントか? 他にスペイン語を話せる奴はいないのか?

チームの残るメンバーは首を振る。フランコは溜め息を吐く。

フランコ: よし、リッター。挑戦してみろ。

リッターは前に踏み出し、咳払いをする。

リッター: Hola. Me llamo Liter. ¿Cómo estás?

右の男: Lo estoy haciendo bien, gracias.

リッターは心得顔で頷く。

リッター: 意思疎通の糸口は掴みました。これから幾つか尋問を開始します。 (沈黙) ¿Hay una fiesta en mis pantalones y estás invitado?

左の男: ¿Qué?

ヴァイス: (カイロの霊体に) 今あいつ、ズボンの中のパーティーがどうとか言ったか?

リッター: 待った、ちょっと待った。もう一回やってみます。 Queremos ir al interior. ¿Dónde debemos ir?

左の男: Ven por aquí. Este es el camino hacia el círculo interior.

右の男: No no, no escuches a esta trucha. Ven por este camino, este es el camino a la verdad.

リッター: (取り澄ました表情で頷く) オーケイ。分かったと思います。話によれば、彼らは… 兄弟で、どちらの道を行くべきか知るために、彼らに1回だけ質問できるそうです。

フランコ: そうか、分かった。で、お前は何と訊いたんだ?

リッター: どの道を行くべきかを。

フランコ: (沈黙) そうか… で、奴らは何と言った?

リッター: どっちも自分側の通路だと言ってます。 (顎を撫でる) 実に謎めいてますね。

フランコ: リッターお前、この大馬鹿野郎! これはちょっとした論理パズルだってのに、お前は勝手にこの件についてのまともな情報を得る唯一のチャンスを潰したんだぞ。冗談じゃない。せめて名前ぐらい訊いておくべきだった。

リッター: ああ、いえ、彼らはもう名乗ってます。左側のこの人がミスター・しょうじきで、こっちが弟のミスター・ふしょうじきです。

沈黙。

ダンス: なんでミスター・ふしょうじきはバスローブを着てるんだ?

右の男: Es un hombre deshonesto que sale de la casa sin nada entre sus genitales y el aire libre, sino una delgada capa de tela.

フランコ: ミスター・しょうじきは左の男か?

リッター: そうです。

フランコ: (溜め息) 分かった。あの道を進もう。よくやった、リッター。

チームは少しの間前進し続け、道中では数多くの小規模な障害物を乗り越えると共に、奇妙な動物相からの軽い敵対行動を受け流す。1時間後、チームは青いバスローブを着た男性が十字路の中央に立ち、手に持った紙切れを不安げに見ているのに出くわす。男性は正面に白い星が1つ描かれた青のシルクハットを被り、特大のワイヤーフレーム眼鏡を掛けている。チームが接近すると、彼はハッとした様子で顔を上げる。

正体不明の人物: おおっとそこまでだ、そこに止まれ君たち。それ以上近付くなよ、警告したからな。

カイロの霊体: さもないと?

正体不明の人物: さもないとそのケツを蹴り飛ばすぞ!

フランコ: ちょっと待て。その鼻にかかった声には聞き覚えがある。お前、壁の顔だな。

突然、顔が近くの壁に現れる。

顔: 残念ナガラ違ウゼ、アホ面。俺ハオ前ラノ前ニ立ッテルコノ華麗ナ御方ノ精神カラ完全ニ形作ラレテ生マレタンダ。彼コソハ神秘ト奇怪ノ世界随一ノ造リ手。世界ノ歯車ヲ裏デ回転サセル黒幕。ソシテ—

ヴァイス: 道に迷ってるな、見た感じだと。

沈黙。

正体不明の人物: いや、その… それは… まぁ… そうだが。

フランコ: という事は、お前がヤンシーか?

ヤンシー・ワンダーテインメント: 口を慎め。その汚らわしい捨て名で呼ばないでもらおう。私はアメイズメントピア教授、驚異の玩具職人だ。

リッター: これでも玩具のつもりなんです?

顔: コレデモ玩具ダ。

ヤンシー・ワンダーテインメント: 正確には— あー、試作品に近いというか、こう—

顔: 試作品ダ。

ヤンシー・ワンダーテインメント: そうとも、その通り、落ち着けユージーン。いいかい、私は熟練の職人なんだ、何は無くともそれは真実だ。その点、君たちも疑いの余地は無いだろう。私の功績を聞きつけ、その傑作を自分で探検したいと望んで来たのだろうからね。

フランコ: いや、目当ては迷路の中心にある戦利品だけだ。実を言うと、数分前までお前の名前を忘れてた。

チームの他メンバーも同意する。ヤンシー・ワンダーテインメントは気分を害したように見える。

ヤンシー・ワンダーテインメント: じゃあ言わせてもらおうか。世の中はな、本物のワンダーテインメントたちに与えられるような贅沢ほぼ無限のリソースに恵まれてる人間ばかりじゃない。私はそうなるはずだったんだよ。あれは私の権利だった。なのに“役員会”は私の順番をすっぽかし、今や私は地下に引きこもってこの失敗作相手に悪戦苦闘している有り様だ。見ろ、これを! ガラクタを積み上げただけの山さ。そして私は自分で建てたこのお馬鹿迷路に閉じ込められてるんだ。

顔: ワオ、ボス、今ノ啓蒙的ナオ言葉ノセイデ俺ハ実存的ニボロボロダ。

ヤンシー・ワンダーテインメント: 自力で脱出できないことも無いが、私にも迷路の中心に向かう理由があってね。最近知ったんだが、あそこに捨てたファイルフォルダには役員会のいやらしい写真が入っていたらしい。そいつを手に入れて、コピーして、誰でも見られるように私のWordPressブログにアップしてやるんだ。このヤンシー・ディペッティト=コルテス・ワンダーテインメント様に盾突く奴がどんな目に会うかってのを思い知らせてくれる。

沈黙。

ヤンシー・ワンダーテインメント: さては君たちもう写真のことを知ってたな。

フランコ: ああ。

ヤンシー・ワンダーテインメント: 多分あの腰抜けのセバスチャン・フィッチングスレイから聞いたんだろうな。

フランコ: うぅーーーん。

ヤンシー・ワンダーテインメント: そして私より先にそれを入手するために来た。

フランコ: ざっくばらんに言うと、まぁそんな所だ。

沈黙。

ヤンシー・ワンダーテインメント: さて君たち、こうして立ち話できて実に愉快だったが — 走れ、ユージーン、トンズラするぞ!

顔: (金切り声)

ヤンシー・ワンダーテインメントと顔がチームから逃走する。チームは追跡する。

ヴァイス: あの野郎、バスローブ着てるにしてはかなり素早いぞ。

ダンス: なんでこの場所にはやたらとバスローブが出るんだ?

チームは廊下を抜け、広い部屋へと入る。チームの前には、広大な峡谷に渡された長く狭い石橋がある。ヤンシー・ワンダーテインメントは橋を半分まで渡っている。チームが室内に入ると、彼は振り返ってチームを見る。

ヤンシー・ワンダーテインメント: ああクソ、追い付かれた。早く、ユージーン、何とかしてくれ!

数本の巨大な大鎌が上方の暗闇から出現する。大鎌が橋に向かって振り下ろされ、近付いてくると、刃の平らな面に顔が浮き上がっているのが見える。

顔: ゴ心配無ク、ボス、俺ガ- (鎌が上方の暗闇に戻っていき、声がフェードアウトする)

リッター: えっ?

顔: (鎌が再び振り下ろされ、声が復帰する) -キット誇リニ思ウデショウヨ。

フランコ: 構ってられるか。カイロ、先に飛んで行って奴を追跡しろ。ヴァイス、リッター、ダンス。お前らは俺と一緒に来い。

カイロの霊体は妨害を受けずに橋を渡り切る。チームの他メンバーが反対側に近付くと、鎌が再び振り下ろされ、チームは鎌が通り過ぎるまで立ち止まることを余儀なくされる。これはさらに2回繰り返される。

フランコ: よし、着い-

巨大な石柱が天井から落下し、フランコを押し潰して即死させる。石柱の側面に浮かび上がっていた顔は、柱が石橋に当たると険しい表情になる。

顔: オオット、シマッタ。

残り3人の足元で、柱の重みによって橋が壊れ始め、横側へと崩れて峡谷に落ちていく。リッターとヴァイスは前方にジャンプした後、両名ともに後ろに手を伸ばし、無事にダンスを掴んで体勢を安定させる。彼らの背後で橋が崩落する。

彼らが橋を渡り終えると、フランコの霊体が横に現れる。

フランコの霊体: クソがっ!

彼らはヤンシー・ワンダーテインメントを走って追跡し続ける。彼らは矢の発射穴が大量に設けられた長い壁を通り過ぎる — 発射穴はいずれも顔の口と同じ形をしている。壁の前の廊下を走り抜ける彼らに段ボールの矢が浴びせかけられる。

ヴァイス: これ — この矢は段ボールか?

ヤンシー・ワンダーテインメント: (隣接する通路から) 誰にでも数十億ドル規模の予算があると思うな?! 私だってこんな話はしたくないさ — 玩具職人に何やかんやと現実味の無い期待が寄せられるおかげで、こっちは辛酸を嘗めてるんだ!

ダンス: 色々と問題を抱えてる奴らしいな。

カイロの霊体がチームの横の壁をすり抜けて出現する。

カイロの霊体: ええ、あいつイカレてるわ。

チームは角を曲がり、ヤンシー・ワンダーテインメントが3つの扉の前に立っているのを発見する。彼は右側の扉を勢いよく開き、中に入る。チームメンバー5名も扉をくぐる。

扉の向こう側で、チームは自分たちが既に迷宮の中にはいないと気付く。彼らは遥か北方へと延びる山脈の麓に立っている。頭上の空は暗く曇っている。周辺には生きている植物の兆候が全く見られない — 立っているのは枯れ木の燃え殻だけである。付近でチームは大柄な、黒色の、漠然と昆虫に似ている生物の焼け焦げた死骸を多数発見する。

フランコの霊体: ちょっと待てよ — 何だこいつは?

遠くには、有り得ないほど高く聳え立って雲の中にまで達している小さな塔が見える。現在地から塔を観察しようと試みたチームは、ヤンシー・ワンダーテインメントが自分たちに向かって走ってくるのを見つける。

ヤンシー・ワンダーテインメント: 逃げろっ! 脱出するんだ! こんな場所に出るはずじゃなかった!

動物の囀る明瞭な音が彼らの周辺全体から聞こえてくる。全てのチームメンバーの防護服に付いた温度センサーが、大気温度の明確な上昇を記録する。突然、塔の上空が鮮やかなオレンジ色に変わり、雲の上に炎の柱が出現する。炎の柱は空に弧を描き、通過した雲を溶解させる。炎の柱(幅1km近い)が彼らに向かって降下するにつれて、囀りが音量を増す。チーム全体とヤンシー・ワンダーテインメントは速やかに扉へと駆け込み、勢いよく背後で閉ざす。

ダンス: おい、あれは一体何だったんだ?

ヤンシー・ワンダーテインメントは立ち上がって何かを言おうとする素振りを見せるが、代わりに別な扉へ飛び込む。チームは後を追う。

彼らは長い螺旋構造になっている石造りの廊下に入る — この通路には、迷宮の他の部分と繋がる分岐点が数多く設けられている。大きなガラス窓を通して、チームは螺旋の中心に広い中庭があり、様々な工芸品の小山が設けられているのを見ることができる。工芸品の中に、簡素な灰色のファイルキャビネットがある。

ヴァイス: クソ、あそこだ! 行くぞ!

チームは螺旋廊下を駆け抜け、時折分かれ道を通過してヤンシーに追い付こうとする。彼らは広大な円形の中庭に通じる最後のトンネルに到達するが、ヤンシーは依然として彼らよりも若干先を走っている。

ヤンシー・ワンダーテインメント: よっしゃ! いける! 勝った! 股間写真は私の物だ! 脅迫バンザーイ!

突然ドミニカン・ジョーが出現し、ヤンシー・ワンダーテインメントは横に弾き飛ばされる。ドミニカン・ジョーは、リッターが以前与えられたコインを投げつけた地面から出現したように思われる。

ドミニカン・ジョー: こんちは、兄ちゃんたち! おいらの店によく戻って来たな。どんな用件だい?

cabinet.jpg

ファイルキャビネット、回収後。

チームはドミニカン・ジョーを素通りする。ヴァイスがファイルキャビネットを開き、中のフォルダを急いで捲り始める。やがて、彼は1冊のマニラフォルダを引っ張り出す。

ヴァイス: 取った! 取ったぞ!

迷宮全体が振動し始める。中庭の最奥にある壁で、石が構造から分離し、巨大な石造りのゴーレムを象り始める。ゴーレムの身体が形成され始めた時点で、チームはゴーレムの顔が顔の顔であることに気付く。

顔: イイヤ。俺ハソウハ思ワネェナ。フラフラ入リ込ンデキタダケノアホ面揃イノ分際デ、俺ノ超素敵ナ歌ヲ貶シテ、俺ノ産ミノ親父ノ面目ヲブッ潰シテ、ソレデトットコ退散シヨウッタッテソウハサセネェ。コノデカイ岩改メ俺ノ拳デモッテ、オ前ラ全員サラッサラノ粉粒ニナルマデ擂リ潰シテヤンヨ。

突然、1発の弾丸が顔の正面に当たって甲高い音を立てる。チームは躊躇するが、その後速やかに伏せて身を守る — 1発の雷が弧を描きながら中庭を横切り、顔ゴーレムの肩に命中して岩を破砕・爆発させる。巨大ゴーレムは後ろによろめく。

顔: ウオゥ、何ダヨ。今ノ何ダ?

リッターが前方によろめき出す。ドミニカン・ジョーに足指を売却したのは明白である。

顔: ヨウソコノ兄弟、チョットソノ銃ヲ置イテ話シ合ワネェカ、エ? セッカク手ニ入レタ特別ナ代物ヲ無駄使イシタイワケジャネェンダロ? 昔ハ仲良クヤッテタジャンカ、ナ? ナ?

リッター: ふざけた事ぬかしてんじゃねぇよ。

リッターは更に3回発砲し、追加3発の雷撃が尾を引きながら中庭を横切って顔に命中する。身体を構成していた岩が砕け、ゴーレムは崩壊する。色とりどりの踊る光が頭上に出現し、迷宮上部の何処かで大音量の音楽が演奏され始める。騒音の中にひときわ大きく空気笛の音が響いている。

ヴァイス: 俺たちの勝ちか? そうだよな?

ヤンシー・ワンダーテインメント: こん畜生。こん畜生。あともう少しで役員会の根性悪どもをグウの音も出ないほどぶちのめしてやれたのに、君たちのせいで台無しだ。

フランコの霊体: あのな、俺たちが関わってくるのは事前に分かってて然るべきだったと思うぞ。どデカい異次元迷路をピザ屋の地下に押し込んで財団が気付かないと決め込むのはちょっと無理がある。

ヤンシー・ワンダーテインメント: そんな事が分かるはずが無いじゃないか? 私は今まで君たちみたいな財団のお節介焼きとは無縁だった。これは私のせいじゃない、私—

1本の線が彼らの近くの空中に出現し、ヤンシーは言葉を切る。この線から更に数本の線が現れ、互いに交差・接続して扉を形作る。線が全て合流した時点で扉が具現化する。扉が開き、セバスチャン・フィッチングスレイと、より年上の白人男性が中から踏み出してくる。男性は黒のスーツと金および紫のネクタイを着用しており、ジャケットに小さな“W”の文字がピン留めされている。

フィッチングスレイ: やあやあ、御機嫌よう諸君! 会えて実に嬉しいよ。俺はセバスチャン・ジュノー・マルザン・エルマノ・イ・コンキスタディート・ヴァナブルス・エクストラオーディナリオリオン・フランク・フィッチングスレイ、ワンダーテインメント博士株式会社のマーケティング部門取締役だ。こちらは—

ヤンシー・ワンダーテインメント: バートランド。 一体全体ここで何をしくさってるんだ?

ワンダーテインメント博士: お前の後始末をしに来たのだよ、ヤンシー。別に気にしなくていい。出だしが前途多難なのは誰しも同じさ。

ダンス: 待ってくれ、あなたは-?

ワンダーテインメント博士: バートランド・ワンダーテインメント。お会いできて光栄だ。 (ヤンシーに) この作品は的外れだぞ、ヤンシー。お前がここに建てたのは死の落とし穴であって、玩具じゃない。私たちは玩具職人なのだよ。独立願望は理解できるが、こういうやり方をすべきじゃあないな。

ヤンシー・ワンダーテインメント: 独立なんか望んでない、バートランド。私はワンダーテインメント博士になりたいんだ! 正当な権利だぞ! イザベルの身に何か起きたのなら次は私であって、アンタに逆戻りするなんておかしいじゃないか!

ワンダーテインメント博士: (溜め息) ここでその話は止そう、ヤンシー。帰ってじっくり話し合おう。

ヤンシー・ワンダーテインメント: 家には戻らないからな、親父。俺はアメイズメントピア教授だ、今にこのド腐れ多元宇宙で最強無敵の玩具職人になってやる。黙って見てろ!

閃光と共にヤンシーが消失する。

ワンダーテインメント博士: 申し訳ない。ヤンシーは昔から頭に血が上りやすい子だった — イザベルとは似ても似つかん。 (沈黙) ファイルフォルダは手に入れたのかね?

ヴァイス: えー、はい。どうぞ。 (ファイルフォルダを手渡す)

ワンダーテインメント博士: (会釈する) 有難う。役員会はどうしてこんな如何わしい物を執念深い跡継ぎの手がすぐ届く場所に転がしておいたのか、全く理解に苦しむ。

フィッチングスレイ: 本当に有難う。君らの予想以上にこちらは感謝してるんだぜ。

ワンダーテインメント博士: 自分たちの息子の写真をこれ以上撮り歩く前に、セバスチャン、この一件の事を少し考えておくべきじゃないかね。

フィッチングスレイ: はい、サー、誠に申し訳ございませんでした。

ワンダーテインメント博士: 宜しい。改めて礼を言わせてくれ、諸君。それと、もしもまたヤンシーと巡り合う機会があったなら、どうか辛抱して付き合ってやってほしい。あの子も善意で動いているのだと私は信じている。ただろくな事をしないだけだ。

ワンダーテインメント博士とセバスチャン・フィッチングスレイは再び扉を通り抜ける。扉が閉まり、消失する。

沈黙。

リッター: で、俺たちはどうやって脱出す-

広い影がチーム全体を覆い、巨大な石の円盤が迷宮上部の暗闇から彼らの頭上に落ちてくる。カメラが破壊される数秒前、チームは円盤の底面に顔の存在を認める。

顔: 喰ライヤガレ、マヌケ共。

生き残ったチームメンバー全員が即死する。数秒後、チーム全員が迷路の入口に再出現する。彼らは裸体であり、ファイルキャビネット以外の所持品は全て失われている。

ヴァイス: クソかよ。

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