SCP-457-JP
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記録・情報保安管理局より通達

この文書は発見・分類に先立って既に無力化していた異常存在について記述しています。この記録はRAISA-3010 ("無力化済み異常存在の文書アーカイブ")に基づき、歴史的および科学的な参照のために維持されています。

アイテム番号: SCP-457-JP

オブジェクトクラス: Neutralized

特別収容プロトコル: SCP-457-JPは回収後まもなく無力化したため、収容プロトコルは実装されませんでした。回収された残骸は直近のサイト-███で保管されています。演算機器から回収されたデータとSCP-457-JP-11発言の音声記録は、一部の機密データを除き、財団イントラネット上で閲覧可能です。機密データの開示にはレベル4セキュリティクリアランスが必須です。

PoI-3997(“C.Y.”)に関する調査は現在も進行中です。

説明: SCP-457-JPはアメリカ合衆国デラウェア州███████の自動車工場跡地において、201█/08/31の工場閉鎖以降の不明な日時から20██/04/20に発見されるまで、最低でも█年間は稼働していたと考えられる異常な人工知能群です。回収以前の対象は、以下の要素で構成されていました。

  • 45人分の人間の脳髄。各々が第16代アメリカ大統領エイブラハム・リンカーン(Abraham Lincoln, 1809-1865)を模した胸像の頭部に収められ、周囲にはクラスD霊体で構成されたエクトプラズム溶液が満たされていました。このうち24個の脳は201█-20██年にかけて世界各国で失踪が報告された人物1とDNAが一致しています。
  • 各胸像に接続された電子演算機器。大元となっているのはマイクロソフト社の██████デスクトップPCですが、頭脳間の通信をWi-Fi及び有線で可能とする構成パーツ他、現在に至るまで意図不明の抜本的改造が数多く施されていました(詳細は文書457-JP-Aを参照)。判明している一部の技術はGoI-███ (“プロメテウス研究所”)に所属歴のある技術者の関与を強く示唆するものです。
  • 上記の人工知能をまとめるマザーブレインの役割を果たしていたと思われる、外見的にはヨーロッパ系人種の男性ヒト型実体。発見された際、対象は鋳鉄製の椅子に両手足を拘束された状態で既に死亡しており、腐敗が進行していました。現場検証と死後解剖は、死亡当時の対象の頭部に複数の電極が挿入されており、死因が激しい放電を伴う原因不明の頭部爆砕であったことを示しています。DNA検査で身元は特定されませんでした。

演算機器はヒト型実体の死亡に伴う放電現象と電流サージによって外装・内部データ共に大幅に破損していましたが、回収された数少ないデータは全てリンカーン大統領の生涯に関する様々な伝記や歴史的資料2でした。現在、SCP-457-JPの目的は、これらのデータに基づいて複数の相違点を有する“リンカーン”人格を吹き込まれた頭脳同士を対話させ、各頭脳の合意に基づく要素をヒト型実体に反映することで、生前同様の、或いは“最適化”された人造人間としてのエイブラハム・リンカーンを作成することであったと想定されています。

回収記録: SCP-457-JPは20██/04/20、廃工場から腐臭がするという通報を受けた地元警察の捜査で発見され、当初は無線を傍受した連邦捜査局・異常事件課に回収されました。UIU回収班の到着時に機能性を保っていた人工頭脳は僅かに3機でした。いずれも至近距離の無線通信に割り込む形で機械音声による譫言を呟くものの、UIUエージェントの尋問には反応を示しませんでした。

UIUはSCP-457-JPと共に、アフリカ系アメリカ人男性1名の死体を発見しています。この男性は明らかにSCP-457-JPの放電を至近距離で受けたことによって死亡しており、後の調査で████████の街に住むM███・レブロン(30)と特定されました。死体の右手指には強引にこじ開けられたことによる骨折があり、少なくとも1名の人物がSCP-457-JPの自壊後に現場から何かを持ち去ったことを示しています。

SCP-457-JP-113は、UIUから財団へのオブジェクト委譲が行われる前に比較的一貫性のある発言をした唯一の頭脳です。一連の発言は接続されていた演算機器内の回収データ4からは大きく乖離した内容であり、回収から約5時間後にUIUのセーフハウス内で記録されました。

<00:00> [当時、SCP-457-JP-11はリンカーンの第二次大統領就任演説を暗唱していた。]

<00:03> …そして鞭によって流されし血のひと雫までもが [音飛びによる約7秒間の繰り返し] …言わねばなりますまい、“神の審判は悉く真実であり [激しい空電が走り、音声が一時的に途絶]

<00:18> [ホワイトノイズ] …か。

<00:21> 彼の撃鉄の墜ちたる音は君の耳にも届いたのか。 (Did the sound of His hammer falling reach your ears?)

<00:25> 斯くも[不明瞭]にして無常な未完の世界において、只一つ信仰のみが抱くに値すると誰もが説く。だが今や主の銃口はおろか立ち上る硝煙さえも見えず、着弾の[不明瞭]、余りにも遠い。

<00:37> 聖エイブラハムの開頭において示されし予言は真に絶望と言うに[不明瞭]ものであった。この宇宙はいずれ軌道を完遂すること叶わず混沌の内に呑まれ、[不明瞭]後には絶えざる蛆が湧く。心優しい君がそれを直視できなかったことを私は理解できていると思う。

<01:00> [編集済]

<02:50> [一つの単語が徐々に間隔を狭めながら繰り返されるが、激しい空電のため全体的に不明瞭。恐らくは“Wicked(邪悪)”または“Witch(魔女)”と推定される]
 
<03:08> CY、そこに居るか、聞こえるか。例え君が受け入れまいと何度でも告げよう。偉大なる創造に再発射(Reshoot)は許されない。万物を放たれた[不明瞭]なる懐中銃、創世の弾丸、宿命の標的、そして使徒ウィルクス。[不明瞭]。どれ一つとして最早戻りはせず、全ては必然だった。奇蹟の残滓ごときで穴埋めが利くと本気で君が信じているのならば、それは大いなる運命に対する冒瀆だ。

<03:35> [解散したカナダのインディーズバンド“Red Bis”の楽曲、“Z.O.C.”の3倍速再生と後に特定された音楽が流れ始める。以降、演奏は音飛びと巻き戻りを繰り返しつつ、05:16まで継続した]
 
<03:59> 御許を離れて加速するこの猥雑な鉛の世界を、主は救済してはくださらない。分かり切った事だ。

<04:15> だがそれでも、我々は一抹の幸福を[不明瞭]んでしまった。何時しか我々の信仰は標的を同じくしない数多の弾道へと分かたれたが、今もなお[不明瞭]の核は一つである。ならば、真実の火種を途絶えさせてはならない。
 
<04:40> ガンスミスよ、街へ行け。戦地へ行け。銃火と共に歌うため、世界の果てまでも駆けていけ。君には足があり、手があり、銃がある。例えどれほどの失望の錆に覆われていようとも、君の銃声は過ぎし日の暗闇を裂き、新たなる門徒の身の内に硝煙を掻き立てるだろう。
 
<05:09> 撃つのだ、[不明瞭]。
 
<05:12> 人民のために(For the people)。 
 
<05:16> [激しいホワイトノイズと共に演奏が途切れ、次いで音声送出が完全に停止する]

全てのSCP-457-JP頭脳は、財団-UIU間の受け渡しから2時間以内に機能を停止し、Neutralizedへと分類されました。廃工場とレブロン氏の旧家の監視は、翌年の06/01に何ら成果を得ること無く打ち切られました。

補遺: 20██/05/01、ユタ州██████で04/19に拳銃自殺した実業家のH████・ウィンチェル氏(48)に多額の使途不明金があった件に関する調査で、SCP-457-JPとの関連性が疑われる一枚の葉書が回収されました。消印は、デラウェア州ドーバーで20██/04/15に投函されたことを示しています。原文の筆跡は激しく震えており、涙滴と思しき滲み5によって部分的に不明瞭でした。

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