アーカイブ済収容プロトコル: SCP-5281は毎日23時間、サイト-43の標準的なヒト型生物収容室に収容されています。対象の19:00から20:00までの活動は、ヴェールへの深刻な脅威を呈するものではありません。
アーカイブ済説明: SCP-5281は高齢の男性に似た実体で、常に19世紀末のカナダの衣装を着用しています。毎日19:00から20:00までの行動次第で、追加の衣服を着込む、またはそれまで着ていたものを脱ぐ場合があります。衛生観念に乏しく、訛りの無いフランス語か英語を使用し、話しかけられると礼儀正しく振る舞います。
毎日の午後7:00 EST/EDT.訳注: アメリカ東部標準時/アメリカ東部標準時(夏時間)。、SCP-5281は未知の手段で黄麻布の大袋を出現させた後、収容室から消失します。このプロセスを中断する試みは全て失敗しています。
SCP-5281はまた、二酸化ケイ素が詰まった黄麻布の小袋を自在に出現させることが可能です。この物質は5~10歳の人物の睡眠を誘発できます。
補遺5281-1、収容経緯: 財団の前身団体や、その他の長期運営されていた正常性維持組織は、1919年から1992年 — 最終的に捕獲された年 — にかけて散発的にSCP-5281と遭遇しました。SCP-5281の存在は、1890年時点で既にフランス系カナダ人の民間伝承に記録されています。
1992年11月6日、ケベック市警察はモンモランシー公園で暮らす浮浪者らしき人物を発見しました。この浮浪者の身元調査が失敗に終わり、取調べに対する独特な回答が更なる疑惑を生じさせたことから、捜査官たちは王立カナダ騎馬警察 (RCMP) に連絡を取りました。取調べ中の浮浪者が午後7:00に消失し、1時間後に再び現れると、RCMPのオカルト・超自然活動委員会 (OSAT) はこの事件をSCP財団に委ねました。.OSATには異常なヒト型生物を無期限に留置する能力がありませんでした。
1992年11月9日、浮浪者はSCP-5281に指定され、サイト-43へ移送されました。以下は初期収容時インタビューからの抜粋です。
インタビューログ
日付: 1992年11月10日
調査担当者: スペシャリスト ノア・ザマン (心理学・超心理学セクション)
スペシャリスト ザマン: 記録のために、お名前を述べていただけますか?
SCP-5281: ボノーム・セトゥールBonhomme Sept-Heures。
スペシャリスト ザマン: あー… 成程。それはどういう意味ですか?
SCP-5281: 君はフランス語を話せないのかね?
SCP-5281は窘めるように舌打ちする。
SCP-5281: “七時の男”という意味だ。好意的な意味合いを含んでいる。
スペシャリスト ザマン: ああ、そう言えば“ボン”bonは“良い”という意味でしたね。
SCP-5281: フランス語を話せるのではないか!
スペシャリスト ザマン: ごく簡単なものだけです。
SCP-5281: まぁとにかく、フランス人は伝承に出てくる男を“ボノーム”と呼ぶのが好みなのだよ。しっかり敬意を払えば自分の身は安全だと思っているのさ。
スペシャリスト ザマン: 効果はあるんですか?
SCP-5281は含み笑いする。
SCP-5281: いいや。
録音上に沈黙。
スペシャリスト ザマン: それで、あなたは毎晩7時に何処へ出かけるのですか?
SCP-5281: あぁ、方々へ出かける。迅速に動かなければならない。知っての通り、近頃のケベックは無闇に広いのでね。
スペシャリスト ザマン: ケベックに戻っているということですか?
スペシャリスト ザマンはメモ帳を確認する。
スペシャリスト ザマン: 記録によると、OSATが連れてきた時、あなたは外套を3枚着ていたらしいですね。しかし今は薄手のマントしか着ていない。何故ですか?
SCP-5281: 暖かいと感じているからだ。
スペシャリスト ザマン: 成程、ですがそれは何故ですか?
SCP-5281: 食事をしたばかりなのだよ。
スペシャリスト ザマン: あぁ、狩りに出かけるのですね?
SCP-5281: ある意味ではそうだな。
スペシャリスト ザマン: 何を狩るのですか?
SCP-5281: 子供だ。
録音上に沈黙。
スペシャリスト ザマン: もう一度お願いします。
SCP-5281: 何のために?
スペシャリスト ザマン: あなたは… 子供を食べると言うのですか?
SCP-5281: 訊ねたのは君だろう。
SCP-5281は、毎晩午後7時までに就寝、もしくは帰宅するように指導されている子供だけを捕食することを明確にしました。SCP-5281は異常な手段で生成した砂を標的の目に浴びせ、どういうわけか昏睡状態にすることで逃走を防いでいました。
翌日、サイト-43はOSATの監督長から以下の書状を受け取りました。
王立カナダ騎馬警察
オカルト・超自然活動委員会
ケベック州の警察には、世紀の変わり目以来、定期的に未知の人物による児童誘拐・殺害の通報が寄せられている。これらの児童は部分的に食べられた状態で発見され、肉や骨に残った咬痕は人間の歯と一致する。
先頃あなた方に身柄を引き渡した異常人物との接点は、昨夜7時頃、この現象がモントリオールのヴィル=マリー地区で新たに発生する直前に、同じ容姿の男性が目撃されるまで判明しなかった。恐らくあなた方に異常人物を解放する習慣は無いと推察されるため、早急な説明を求める。
— OSAT監督長、ブノワ・ゴーティエ
OSATに対しては、今回捕獲されたのは異常な児童捕食実体の集団の1個体に過ぎないという説明が為されました。これを受けて、OSATはケベック州の住宅街の監視を強化しました。
SCP-5281が収容室から脱走するのを防ぐために、試作段階の現実錨、特殊構造の合金、奇跡術などを用いた試みが行われる中、スペシャリスト ザマンはSCP-5281の尋問を続けるように指示されました。以下はインタビューからの抜粋です。
インタビューログ
日付: 1992年11月12~15日
調査担当者: スペシャリスト N・ザマン (心理学・超心理学セクション)
スペシャリスト ザマン: それで、何故あなたは… 子供を食べるのですか。
SCP-5281は肩をすくめる。
SCP-5281: それ以外のものは食べたくない。
スペシャリスト ザマン: 試したことはありますか? 何でも好きな食べ物を用意しますよ。
SCP-5281: いや、食事の必要は無い。
スペシャリスト ザマン: 何ですって?
SCP-5281: 私は空腹にはならない。空腹だった試しがない。以前どういう感覚なのか教えてもらったから、“腹が空く”と聞けばどういう意味かは理解できるが、君にとっての私が異質であるように、それは私にとって異質なものなのだ。
スペシャリスト ザマン: では何故… 何故あなたは…?
SCP-5281: そうしたいからだ。
SCP-5281はスペシャリスト ザマンの飲料水のボトルを指差す。
SCP-5281: 君は何故それを飲む?
スペシャリスト ザマン: 生きるために水を飲む必要があるからです。
SCP-5281: あぁ。ふむ、そうなると説明に困るな。
スペシャリスト ザマン: あなたは生きるために子供を食べているのではない?
SCP-5281: 無論違う。子供には栄養がほとんど無い。確かに赤ん坊よりはマシだが、それでも不十分だ。ほとんどの子供は皮と骨だけだぞ!
スペシャリスト ザマン: 毎日食事をするわけではないのですね。
SCP-5281: そうだ。
スペシャリスト ザマン: 食べないと身体が冷えるのですか? だから厚着を?
SCP-5281: いや、そこまで大袈裟ではないよ。寒くはなると思うが、心底不快に感じることはない。私はただ頬に薔薇色の輝きを保ちたいだけさ。
SCP-5281は微笑む。
スペシャリスト ザマン: どれだけ長く… “食事”をせずに過ごせますか?
SCP-5281: あぁ、1ヶ月ほど耐えたことが一度ある。耐えられるかどうか試してみたかったのでね。
スペシャリスト ザマン: それによる影響は?
SCP-5281は肩をすくめる。
SCP-5281: 何の影響も感じなかった。
スペシャリスト ザマン: つまり、食べなくても不快感を感じることはない?
SCP-5281: まぁ、そうだな。
スペシャリスト ザマン: では、何故食べ続けるのですか?
SCP-5281は困惑しているように見える。
SCP-5281: 食べたいからだが?
スペシャリスト ザマン: 子供が人であることはお分かりですね。知性ある人間ですよ。
SCP-5281: 当然だ。いいかね、私は食べる前にしっかり眠らせている。それは既に言ったはずだ。
スペシャリスト ザマン: 何ともお優しいことで。しかし、彼らを愛する親がいるのもお分かりでしょう。子供の死を悲しむ親です。
SCP-5281: 勿論分かっている。
スペシャリスト ザマン: それなのに…
SCP-5281: 何だ?
スペシャリスト ザマン: それなのに子供を食べるのですか?
SCP-5281は溜め息を吐く。
SCP-5281: 君と私は割と仲良く付き合っているがね、私の性格のこの一面に対する君の執着は、私を大いに苛立たせ始めているのだよ。
スペシャリスト ザマン: 私が… 私が言っているのは、あなたはこんな事をする必要は無いということです。
SCP-5281: しかし、私はそれを楽しんでいる。
スペシャリスト ザマン: でもその必要は無い! 止められるでしょう!
SCP-5281: 止めたくはない。
スペシャリスト ザマン: 私にはあなたの動機さえ理解できません。理に適わない。
SCP-5281: 私にとっては、君が歳を取ると死んだり、水を飲む必要があったり、入浴する必要があったりするのは理に適わない。それらは私にとって全く意味を成さないのだ。ノア、私は己が何者であるか知っていて、その通りに行動する。君は自分が何者かを知っているのか?
この最終インタビューを終えた後、スペシャリスト ザマンは、サイト-43の管理官 V・L・スカウト博士に次のような提言を出しました。
サー、
SCP-5281の速やかな解体処分を提言します。SCP-5281の気質を鑑みると、あれを生かし続けることには道徳的な弁護の余地が無く、その排除による悪影響も予想されません。
これは一刻を争う問題です。日を追うごとに犠牲者が増える可能性を孕んでいます。
— ノア・ザマン、心理学・超心理学セクション
スカウト博士は速やかに、この情報とスペシャリスト ザマンのメモを倫理委員会に転送しました。3日後、倫理委員会はこの問題をより具体的に議論するため、代表者を派遣しました。
会合ログ
日付: 1992年11月18日
出席者: J・シメリアン博士 (倫理委員会) 、スペシャリスト N・ザマン (心理学・超心理学セクション)
シメリアン博士: 全く、君たちは実に人道的なサイト運営を行っているね。
スペシャリスト ザマン: ええ、まぁ、そう努めています。
シメリアン博士: 彼もすっかり寛いでいるようだった。なかなか愛想のいい話し相手でもある。
スペシャリスト ザマン: 我々も気付いています。
シメリアン博士: もう一度ファイルを読み返す必要はあるが、現時点では、倫理委員会が問題視するような事には思い当たらない。
スペシャリスト ザマン: 何ですって?
シメリアン博士: えっ?
スペシャリスト ザマン: 彼は子供を食うんですよ。
シメリアン博士: ああ、だから子供を彼の収容室に入れるべきじゃない。そんな真似はしないだろう?
スペシャリスト ザマンは首を横に振る。
スペシャリスト ザマン: 彼は収容室を出るんです。子供を食うために。
シメリアン博士は数秒間、返答しようと試みるが、言葉にならない。
シメリアン博士: まさか彼を好き勝手に出歩かせて—
スペシャリスト ザマン: 奴はテレポートで収容室から…
スペシャリスト ザマンは深呼吸する。
スペシャリスト ザマン: テレポートで収容室からケベック州に出て、子供を狩って食ってるんです。
録音上に沈黙。
シメリアン博士: 資料の説明はもっと明確にしてくれ。それは、うん… オーケイ。忌まわしい事だが、しかし…
スペシャリスト ザマン: しかし?
シメリアン博士: 倫理委員会は… オーケイ。彼はどの程度の頻度でこんな事をやっている?
スペシャリスト ザマン: 毎月1回程度です。
シメリアン博士: つまり、毎年12人の子供?
スペシャリスト ザマン: でしょうね。
シメリアン博士: ケベック州の出生率を知っているか? 凡そで構わない。パーセンテージの計算が必要だ。
スペシャリスト ザマンは答えに窮している。シメリアン博士が片手を挙げ、彼を制する。
シメリアン博士: 監督評議会は私に同じような質問をするんだ、分かるね? そして、もし正常性を乱すリスクがそう高くないと判断すれば、彼らは君の解体要請を拒否する。君が十分な説得力を持って主張できないなら、私はそれを評議会に伝えるつもりはない。戦場は慎重に選ぶ必要がある、今のままでは相手にもされないだろう。
スペシャリスト ザマン: 冗談ですよね。
シメリアン博士: 冗談を言うつもりなら、子供を狙う人食い怪人よりマシな話題を選ぶさ。
スペシャリスト ザマン: どうにかしなければいけないんですよ。
シメリアン博士は肩をすくめる。
シメリアン博士: 食事の量を減らすように頼んではどうだろう。
スペシャリスト ザマンは後ほど、“標的を追跡するが捕食はしない”という新たな活動をSCP-5281に提案しました。SCP-5281は短期間このアプローチを試みることに同意し、ケベック州における原因不明の児童死亡事件は激減しました。しかしながら、1993年1月18日、警察はケベック州ラヴァルで8歳男児の損壊された遺体を発見しました。スペシャリスト ザマンはSCP-5281の関与を確認するため、インタビューを行いました。
インタビューログ
日付: 1993年1月18日
調査担当者: スペシャリスト N・ザマン (心理学・超心理学セクション)
スペシャリスト ザマン: フィリップ・マカードを捕食しましたか?
SCP-5281: 誰のことか分からない。
スペシャリスト ザマン: ラヴァルに住んでいた幼い少年です。
SCP-5281: ラヴァルに住んでいた幼い少年なら大勢知っている。写真はあるのか?
スペシャリスト ザマンは2枚の写真をテーブルの上に滑らせる。SCP-5281は両方を確認し、片方を指で軽く叩く。
SCP-5281: こいつは見苦しいな。顔写真だけで良かっただろう。
スペシャリスト ザマン: ご自身の所業を思い出してもらいたかったのでね。
SCP-5281はスペシャリスト ザマンをじっくりと見つめる。
SCP-5281: 今日の君は様子が違うな、ノア。普段より冷徹だ。
録音上に沈黙。
SCP-5281: それとも、これは冷たい怒りかな?
録音上に沈黙。SCP-5281が突然指を弾く。
SCP-5281: その表情は知っている。私が何をしたか知った男の顔に一度それを見たぞ。私は彼の娘の寝室の窓越しに顔を合わせた。あの時は… そうとも。私が喰らった子供たちの親にどんな思いをさせてきたかという例の説教、私はあの時それを見たかった。君の言う通りだったよ、彼はとても動揺していた。まるで今の君のようにね。
録音上に沈黙。
SCP-5281: 明らかにおめでとうと言うべき時だな! 男の子かね、女の子かね?
スペシャリスト ザマンが録音装置のスイッチを切る。
スペシャリスト ザマンはSCP-5281に暴行を加えたため、インタビュー業務から解任されました。彼は“重層的な利益相反”を理由として別件への恒久的な再配属を申請しましたが、SCP-5281に十分精通している他の職員がいなかったため、却下されました。
1994年3月12日、財団の機密文書をサイト-43からサイト-19へ運んでいた護送隊が、何者かによる待ち伏せ攻撃を受け、荷物が盗難されました。翌日、世界オカルト連合事務次長からの書状がサイト-43に届けられました。
スカウト管理官、
この書状が無事届いていることを願います。これまで我々に交流の機会はありませんでしたが、将来再びその機会があれば、より好ましい状況で対話できることを期待します。
より大きな善の追求という点で、我々2組織の意見は一致します。 それを念頭に、世界オカルト連合は、例え世界人権宣言に真っ向から対立するものであっても、あなた方の好ましくない数々の慣行に目を瞑ってきました。
しかし、5281と指定されたSCPオブジェクトに関しては、我々は断固として異議を唱えなければなりません。理由を訊ねないでください。お分かりのはずです。
このオブジェクトの破壊がより大きな善にどんな害をもたらし得るでしょうか? 速やかに破壊してください。さもなければ影響が及びます。
この書状のコピーはO5評議会にも送付されています。
— 世界オカルト連合事務次長、D・C・アルフィーネ
O5評議会は事務次長に対して、財団は既にSCP-5281を解体処分しており、SCP-5281はその後に収容外環境で再出現したと報告しました。メッセージ伝達時の一貫性を保つため、このカバーストーリーはスカウト博士にも通達されました。スカウト博士は護送隊待ち伏せ事件にGOCが関わったか否かを問い合わせたものの、それ以上この問題を追及しないように指示されました。
スペシャリスト ザマンは散発的にSCP-5281のインタビューを続けましたが、1994年に雇用・統轄セクションへの異動申請が受理されました。彼はインタビュー業務の継続を不当な負担と捉え、頻繁に苦情を出しました。また、彼はSCP-5281の解体処分を検討すべきであると度々要請したため、次のような会議が開かれました。
会合ログ
日付: 1995年2月5日
出席者: C・ボールド管理官 (解体部門) 、スペシャリスト N・ザマン (雇用・統轄セクション)
ボールド管理官: さて、資料は見せてもらったし、例の男とも話をした。はっきり言って、私はうんざりしている。取り敢えずこれを表に出して、奴は外道だという点でお互い同意できるようにしよう。
スペシャリスト ザマン: ええ、奴は外道です。
ボールド管理官: フレンドリーで、好感すら持てるが、とんでもない… 外道だ。
スペシャリスト ザマン: はい。
ボールド管理官: 奴が自由に収容室を出られること、そして外出中の行動…
ボールド管理官は少しの間、口をつぐむ。
ボールド管理官: 先へ進むためにも — 絶対そうすべきだが — 1つだけ質問に答えてほしい。
スペシャリスト ザマン: どうぞ。
ボールド管理官: 奴の正体を知っているか?
スペシャリスト ザマン: えっ?
ボールド管理官: 奴の正体を知っているか? 奴はどのようにして現れた? 何から出来ていて、何が出自だ?
録音上に沈黙。
スペシャリスト ザマン: いいえ。
ボールド管理官: 奴は伝承の登場人物か? 神か? あらゆる時間軸に、或いは常に同時に存在する非時間的生物か?
スペシャリスト ザマン: 分かりません。
ボールド管理官: 思念体か? フランス系カナダ人の社会に織り込まれた、大衆の想像力の一要素か?
スペシャリスト ザマン: 分かりません。
ボールド管理官: 奴は—
スペシャリスト ザマン: 分かんねぇよ!
スペシャリスト ザマンは立ち上がり、室内を歩き回る。
スペシャリスト ザマン: 分からない。
ボールド管理官: だったら、仮に我々が奴の解体を試みたとして、それがケベック州の全住民を発狂させたり、過去を変えたり、多元宇宙パラドックスを作り出したりしないと言えるのか? 理解してくれ、私だって奴を片付ける手助けがしたいとも。だが私は制御されていない変数が好きではないし、制御されていない変数に殺意が宿っているなら以ての外だ。奴が根本的に何者なのか教えてくれないか。それさえあれば、奴がいない方がより安全でマシな暮らしを送れると納得できるかもしれない。
録音上に沈黙。
スペシャリスト ザマン: [静かに] 奴は子供を食うんです。
ボールド管理官は立ち上がる。
ボールド管理官: 諦めないでくれ、私は味方だ。奴と対話し続けろ。奴が自分の正体を知っているかどうかを確認するんだ。
スペシャリスト ザマン: [静かに] 奴とはもう話したくない。
ボールド管理官: 何だって?
スペシャリスト ザマンは溜め息を吐く。
スペシャリスト ザマン: 何でもありません、サー。ありがとうございました。
スペシャリスト ザマンはこの問題を数週間にわたってSCP-5281に問い質したものの、成果は上がりませんでした。SCP-5281は最終的に、自らの定期的な娯楽活動にスペシャリスト ザマンが参加するならば、より前向きな姿勢を示すことに同意しました。強硬な反対にも拘らず、スペシャリスト ザマンはこの要求に応じるように指示されました。その結果、以下のインタビューが行われました。
インタビューログ
日付: 1995年6月12日
調査担当者: スペシャリスト N・ザマン (雇用・統轄セクション)
スペシャリスト ザマンとSCP-5281は収容室内でチェスをしている。
スペシャリスト ザマン: あなたの出自について話せることはありますか?
SCP-5281: 恐らく、君が自らの出自について話せるのと同程度だろう。
スペシャリスト ザマン: 何があなたを創造したのですか?
SCP-5281: 私の両親、かな。当時の事はほとんど覚えていない。
スペシャリスト ザマンは溜め息を吐く。
スペシャリスト ザマン: 我々は今、あなたが実は人間なのか、それとももっと… 複雑なものなのか、突き止めようとしています。
SCP-5281: 例えば?
スペシャリスト ザマン: 例えば… 何でしょう。神話とか、フランス系カナダ人の集合的無意識が夢想したために生み出された存在とか。
SCP-5281は爆笑する。
SCP-5281: そいつは流石に無理がある。
スペシャリスト ザマンは眉をひそめる。
スペシャリスト ザマン: 我々はそういうものを発見しているんですよ。つい最近もです。
SCP-5281: ほう、やるじゃないか。私がそいつらの仲間かどうかは疑問だな。
スペシャリスト ザマンはチェスの駒を動かす。
スペシャリスト ザマン: あなたのターンですよ。
スペシャリスト ザマンは溜め息を吐く。
スペシャリスト ザマン: あなたは強いトラウマを抱えた大勢の子供たちの想像力の産物かもしれない。ブギーマンです。我々にはあな- そういう存在を説明するための専門用語集もあるんです。
SCP-5281はチェスの駒を動かす。
SCP-5281: がっかりさせて悪いが、ノア、私はただの子供を食う男に過ぎんよ。考えすぎだ。
録音上に沈黙。
SCP-5281: 君のターンだぞ。
1996年1月6日、サイト-43でマクスウェリストのモグラが発見されました。これに続いて、マクスウェリズム教会によるサイト-43データサーバへの報復攻撃が発生したものの、その結果は不明確でした。
翌日、スカウト管理官は、OSAT及びGOCから、SCP-5281のステータスに関して彼らに偽情報が伝えられていた理由の説明を要求する書状を受け取りました。O5の承認を得て、スカウト管理官はサイト-43でゴーティエ監督長とD・C・アルフィーネに会うことに同意しました。会議にはボールド管理官、シメリアン博士、スペシャリスト ザマンも招かれました。
会合ログ
日付: 1996年1月8日
出席者: D・C・アルフィーネ事務次長 (世界オカルト連合) 、J・シメリアン博士 (倫理委員会) 、C・ボールド管理官 (解体部門) 、B・ゴーティエ監督長 (OSAT) 、V・L・スカウト博士、スペシャリスト ザマン (雇用・統轄セクション)
スカウト博士: 皆さん、よく来てくれました。
ゴーティエ監督長: まるでこの会議を望んでいたかのような口ぶりだ。
ボールド管理官: 望んでいたかもしれない。君たち次第だ。
ゴーティエ監督長: それはどういう意味かね?
ボールド管理官: このオブジェクトを解体する正当な、非常に正当な理由を教えてほしい。そうすれば私は管理官特権でこの問題を追及できる。
アルフィーネ事務次長: このアノマリーが野放しだった時期に深刻な隠蔽問題を引き起こしていた証拠はありません。数人の警官を困惑させ、公園の通行人を怖がらせた程度です。私が言いたいのは、あれを収容してもヴェールの維持には寄与しないということです。あなた方はただ、好きに出歩いて子供を食べる怪物を居心地良く飼っているだけです。
スカウト博士: つまり?
アルフィーネ事務次長: つまり、あの怪物を生かし続けてもGOCの目標は達成されません。我々としては、安全かつ秘密裏に破壊できるアノマリーは、全て破壊されるべきだと考えます。
スカウト博士: しかし、私たちがここに監禁している他のあれこれは問題視しないのですね。
アルフィーネ事務次長: あなたたちがここに監禁しているものの中で、子供を食べるのはあれだけです。我々の任務理念は、具体的に子供喰らいへの反対を表明してはいませんが、かなり強く暗示しています。
ゴーティエ監督長: しかも諸君は奴を監禁してすらいない! あれで閉じ込めたつもりか。OSATはここ何十年も諸君のやり方に口出しをしてこなかった、スカウト、なのにあの化け物はケベック州の子供を殺している。それも定期的にだ。諸君の尻拭いをするのはもううんざりだ。私は真剣に考慮しているのだが…
スカウト博士: 何をでしょうか?
ゴーティエ監督長: 今後、諸君にどの程度協力すべきか、首相と話し合う必要がありそうだ。
スカウト博士: ふむ。
シメリアン博士: 誰か、自分の身がどうなってもいいのか、5281に訊ねたことはあるか?
録音上に沈黙。
スペシャリスト ザマン: ありませんね。私はこれまで解体処分を話題にしたことがありませんでした。
シメリアン博士: うむ。率直に言って、この時点で倫理の計算はかなり明確だよ。彼は現在までに数百人の犠牲者を出しているに違いないし、自分の生死さえ気に掛けていないなら、倫理委員会も安楽死に異議を唱えることはないだろう。
ボールド管理官: 私がインタビューログから見た限りではね、スペシャリスト、奴自身は間違いなく、自分が不可欠な文化的要素だとは考えていない。そして1993年の君の… 激発の影響を考慮すると、奴は他の人間と同じくらい脆弱だ。物流的には、奴の解体処分は非常に単純な案件のはずだし、その恩恵は非常に明白だ。正直に言って、デメリットは思いつかない。
スカウト博士: 2人とも乗り気なのは嬉しいですが、それだけではまだ、ヴェールにほとんど影響を及ぼさないオブジェクトを破壊するようO5を説得するのは難しいでしょう。
アルフィーネ事務次長: 説得材料が必要ですか?
ゴーティエ監督長: 我々は各自のオフィスに戻って、書状の下書きを始めるぞ。
世界オカルト連合とOSATから、SCP財団に対する懲罰的措置と協力の縮小を示唆する最後通牒を受け取ったO5評議会は、ボールド管理官にSCP-5281の最終的な解体計画提言を提出するように指示しました。
SCPオブジェクト解体提言フォーム
アイテム番号: SCP-5281オブジェクトクラス: Da'aS Elyon
主任研究員: スペシャリスト N・ザマン
支持する職員:
- ジェレミア・シメリアン博士 - 倫理委員会代表
- V・L・スカウト博士 - サイト-43代表
あなたの提言を提出する理由に関して、該当するボックスにチェックまたは書き込んでください:
☐ 捲くられたヴェールシナリオの過度に高いリスク
☑ 過度な危険度
☐ 解体可能なApollyonクラスオブジェクト
☑ 費用
☑ 必要な収容に関する倫理的懸念
☐ 法的懸念
☐ K-クラスシナリオの高いリスク (該当する場合、どのタイプか(複数可)を記入してください:____)
☑ その他 (記入してください): 当該オブジェクトが活動し続けた場合、世界オカルト連合とオカルト・超自然活動委員会からの支援が削減され、カナダにおける財団の活動に深刻な障害が生じる。 — スペシャリスト ザマン概要: このSCPオブジェクトをそのまま活動させ続けるのは、もはや道徳的にも物流的にも不可能である。対象は自らを抑制する意思がないと証明されているので、人道的に解体処分しなければならない。 — C・ボールド管理官
SCP-5281は1996年4月3日に解体されました。薬物注射によって死亡する前に、SCP-5281は次の言葉だけを発しました: "Dormez bien, mes enfants." スペシャリスト ザマンは解体に立ち会いませんでした。
SCP-5281-Dファイルは、翌年、ゴーティエ監督長が再びサイト-43に相談を持ちかけるまで閉じられていました。
会合ログ
日付: 1997年7月17日
出席者: N・ザマン主任 (雇用・統轄セクション) 、B・ゴーティエ監督長 (OSAT)
ザマン主任: どういうご用件でしょうか、監督長?
ゴーティエ監督長: OSATが諸君に確認してほしい新たなアノマリーを発見したのだ。いや… あまり真新しくはないのかもしれない。
ザマン主任: と言うと?
ゴーティエ監督長: ケベック州で不眠症の症例が著しく増えている。5歳から10歳までの子供の15%は夜に眠ることができなくなった。
録音上に沈黙。
ザマン主任: “よく眠れ、我が子らよ”。なんてことだ。
ゴーティエ監督長: ん?
ザマン主任: ああ、しまった。
ゴーティエ監督長: どうした? 何を考えている?
ザマン主任: 奴は毎晩姿を消したが、月に1回程度しか食べなかった。
録音上に沈黙。
ゴーティエ監督長: あの男はケベック州の全ての子供を毎晩眠らせていたと? そう言いたいのか?
ザマン主任: つまり… その… あり得る話では?
ゴーティエ監督長: だとしたら、奴はどうして君にそう伝えなかったんだ?
ザマン主任は目を擦る。
ザマン主任: きっと伝えたでしょう。私が訊ねてさえいれば。