SCP-530-JP
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アイテム番号: SCP-530-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-530-JPはサイト-2081第17収容錬2階301収容庫に標準的Safeクラスオブジェクト収容容器に収納された状態で保管されます。コードネーム"アヌビス"は同サイトの衛生棟18号収容医療室にて四肢を固定された状態で保存されています。常時標準的人型オブジェクト収容規則に則った健康状態を維持してください。本人の発言、要望は全て録音し、研究責任者へ提示してください。

説明: SCP-530-JPは外見上"下皿天秤"の様な形をした実体です。構成物質に不審な点は見当たりませんでした。施された装飾は発見された地点と収納されていた木箱の炭素年代測定から算出された年代の文化と全く合致せず、非常に近代的であることが分かっています。

SCP-530-JPの特異性は両腕の延長線上に人が1名ずつ配置された際に発揮されます。被験者2名が位置についた時、SCP-530-JPの片腕は下がり、片腕は上がります。この現象に規則性はなく、199█年の実験で区別された左右の皿Aと皿Bではおおよそ上がる確率は均等1で規則性は確認されませんでした。皿の上下の際、風や重力変化などの外的要因は認められず、動力源も確認されていません。このプロセスが完了し、被験者2名がSCP-530-JPの状態を確認すると両腕は元の位置へ戻り、非活性化します。

上記の状態を確認し、且つ皿の上がった側に配置されていた人間のみ、SCP-530-JPの持つ認識災害及びミーム汚染を孕んだ精神異常に被曝します(以下、"被曝者"と呼称)。被曝者は影響により強い自殺願望に取り憑かれます。この願望及び欲求は記憶処理とミーム処理により改善しますが『自殺者に対する羨望』という形で後遺症を残します。影響を受けた被曝者は自殺や死などに対して非常に肯定的になり、自殺を図ります。この影響は被曝からの経過時間とともに増幅していきます。

影響を受けた被曝者は自殺に対する強迫観念を抱きません。被曝者は自ら死ぬ理由として「死ぬ必要がある」か「死ぬことが自らの利益となる」などの旨を主張します。この理由を具体的に説明するよう促した場合、「説明することはその利益を失うことになる」か「教えたいが教えることは出来ないのでSCP-530-JPを使用しろ」との旨を主張します。これらの主張から要約されることは「自ら死ぬ事で自分は利益を得るが、その利益を他人に教えるとその利益を喪失してしまう」と研究者の間で推察されていますが立証には至っていません。

実験記録530 - 日付2███/3/3

対象: D-4423

インタビュアー: ██████研究員

付記: D-4423 エジプト人 32歳 独身 強盗殺人により死刑判決 実験14号にて被曝 死に対する肯定的意見と自らの死が己の利益となるとの主張から被曝者認定

<録音開始>

[情報価値が希薄と判断されたため削除]

インタビュアー: SCP-530-JPの影響に被曝した時感じたことは?

対象: 喜びだ。歓喜だ。私の皿が上がったときに全身の血液の湧き立つのを感じた。

インタビュアー: 「私の皿」と言ったな?どういう意味だ。

対象: それは言えない、言ってたまるか。言っては駄目なのだ。教えてはならない。

インタビュアー: 必要があれば拷問もする。お前の大好きな死を与えない程度に痛め続けることも出来る。我々は疲れない。薬もある。自白剤だって投与する。その前に言うことは無いか?

対象: あぁ好きにすると良い。私を自由にしていい、腕を斬り落としても良い。脚を潰しても脳を掬い出しても良い。私を好きにするが良い。だが私は言わないぞ。言えば、何のために生きていたか分からなくなる。

インタビュアー: 死が喜びか?生きているのは苦痛か?

対象: 死は喜びだ、生命の輝きだ。命の終わりって美しい。生きているのが苦痛だとは思わない。今は寧ろ、生きるのは楽しい。何年も何年も檻の中で飼われるだけ、食べて寝て、朝起きれば私を死刑台に連れて行く看守が来るかもしれない。そんな恐怖も、今ではいい思い出だ。そんな経験も、愛おしい。苦痛だなんて思わない。

インタビュアー: では何故死のうとする?過去にお前は3度の自殺未遂をした。一回はテーブルに括った服で首をつろうと、一回は給餌のスプーンを目に突き刺そうと、一回はここに来るまでに看守の銃を奪おうと。何故だ。

対象: 我慢できないんだよ私は。生きるのも楽しい、だがご褒美は必要だ。お楽しみはどんな生活にも付き物だ。私は強盗しかしたことは無いが、仕事をする人間は帰った家での一杯に期待を寄せるのだろう。勉強好きの学生も、休日には遊びに出向くだろう。ふんぞり返ったお偉いさんも[編集済み]。それと同じなんだ。生きているのって退屈だ、ただ…続くだけ。こんな勤勉な人間に、死のご褒美のどこが悪い?それも、約束されたご褒美が。

インタビュアー: 分からないね。もっと具体的に表現しろ。

対象: 知りたいか?知りたいだろう?俺も知りたかった。いや、こんな事実、世界中の人間が知りたがるに決まってる。こいつの、いや世界の、全ての、この、これが全てだ。お前ら如きは何も分かってない。起源?特性?その先?だがね、これは最期の問題じゃない。そうだ、これが何かなんて、とてもとても、最期の問題ではない。問題はその先だ。知りたいか?お前も試せ、そうすれば分かる。

<録音終了>

終了報告書: 対象はSCP-530-JPの核心かそれに類する情報を被曝時に得ていたように見えます。態度も被曝以前とはまるで異なっており、これらはSCP-530-JPのミーム汚染にあると考えられます。対象はインタビューに於いて興味深い発言を繰り返しています。後に行われた拷問では対象の69%の身体喪失と960時間に及ぶ神経刺激物質と3400リットルのクラスSA自白剤に対してもインタビュー以上の情報を口にすることはありませんでした。財団への忠誠の深い人物による被曝実験を検証する必要があると考えられます。

研究報告530 - 日付2███/3/10

対象: D-4423

実施方法: 対象から脳を摘出し分析する。研究は諸知博士が担当。

結果: 通常、摘出された脳からはストレスを示すホルモンが大量に分泌されます。死への恐怖からこのような状態に陥りますが対象はこれらの反応を示しませんでした。原因は幸福を促すホルモンが多量に検出されたためでした。対象の記憶にはカルテに示された情報とほぼ同じ内容が存在しました。一部の記憶は改変されていましたが非常に古く、健忘の域を出ません。D-4423の祖父が亡くなった際の葬儀の記憶、また死刑判決の要因となった強盗殺人の記憶に関しては感情の起伏に対する保護記憶が働いていました。D-4423はこれらの出来事で何を思ったのか詳細に思い出すことは出来なかったでしょう。SCP-530-JPに関しては明確な歓喜と同時に、反対側のDクラスに対する強い哀れみと優越を感じていたことが明らかとなっています。歓喜の原因と、SCP-530-JPが被曝者に何をもたらすのかに関しては欺瞞記憶が多数に存在し核心部分は強固な保護記憶により閲覧は不可能となっていました。

分析: SCP-530-JPは脳科学の分野において、特に脳記憶に関して強い理解があるようです。通常の記憶保護と異なり、SCP-530-JPは被曝者にだけ記憶保護を通して記憶を閲覧させる権限を付与し、脳分析のような外的要因に対しては強い保護を見せつけるような保護をもたらしていると考えられます。以上のことより、精神鑑定や記憶干渉などのアプローチは無意味と結論できます。

実験記録530 - 日付2███/3/15

対象: ██████研究員

インタビュアー: スレイマン博士

付記: ██████研究員 エジプト人 42歳 独身 上記インタビューの後、被曝実験への志願にて被曝。自らの影響を熟知した上で死への肯定意見を抑えられないとの旨から被曝者認定。

<録音開始>

インタビュアー: ██████、具合は?

対象: 健康状態も精神状態も安定している。実験の症例はDクラスという固有の過去を持った人間故の特質だと思われる。

インタビュアー: そうか…。先ず、皿が上がった時どう思った。

対象: それは…Dクラス達の言うとおりだ。確かに嬉しかった。何故かも分かってる。どんな人間でもあれを見たら飛び跳ねて喜びたくなる。ある種の優越も感じた、その…下がった相手に対して「俺は良いんだ」と思えた。何故かも分かってる、例えるなら…あぁ!駄目だ!言えない!

インタビュアー: 落ち着いて、ゆっくりとでいい。言える言葉で表現してくれ。

対象: あぁすまない…。そうだな、例えば…スレイマン、お前子供いたよな?

インタビュアー: あぁ。息子が二人。

対象: そうか、よし、ちょっと待てよ…。お前の子供が片方事故に遭ったとするだろ?それで病院へ運ばれるけど臓器の移植が必要になると言われる。腎臓だ。移植しなければその子は死に、移植すれば一生透析が必要な子供を二人育てる事になる。お前は選択を迫られる。で、お前はどうする?

インタビュアー: そうだな。移植を頼むよ。

対象: そうだな?そして移植は成功し、奇跡的なことに拒絶反応を起こして死ぬんだ!ドナーになった子もそのまま肝臓が壊死してお陀仏に!そう!そういう感じだ!

インタビュアー: は?

対象: あ、そうか違う!今のは忘れてくれ、私の受けたミーム汚染で死が肯定的な事実に塗り替わっているらしい。普通は違うな、逆だ、二人共奇跡的に回復して透析も必要なくなって健康になるんだ。

インタビュアー: なるほど。つまり…確信していた絶望から一転して救われる。と言いたいんだな?

対象: …くそっ!それが間違った解釈か正しいか答えることも出来ない…すまないがそれは任せる。

インタビュアー: あぁ結構だ。私の予想だが、死ぬことが否定から肯定に変わるということは仏教で言う解脱を意味するんじゃないのか?

対象: それも…答えられないな。私の中の理性はYESかNOで答えようとするのだが口先でそれが邪魔される。恐らく反射的に答えになるようなワードを抑えているのだろう。伝えたいが…あぁ!くそ!

対象: 考えがまとまらなくなってきた。研究のために役立ちたいんだがそれが邪魔されるし私自身もそうしたくない感情が沸き起こる。もうどうしようもない。

インタビュアー: 分かった…。では、研究に何か違う角度でも良い、アドバイスはないか?

対象: 言葉が見つからないが…。そうだな、SCP-530-JPの外見から判断も出来そうだ。関係の有りそうな伝承から…ちくしょう!そうだな…建物とか…人だな。外見の年代ではなく発見された場所から推測するのが最も分かりやすいと思う。

インタビュアー: ありがとう。

対象: あと…1つ頼んでも良いか?私を記憶処理もミーム処理もせず保管して欲しい、時間の経過で何か私から引き出せるかもしれない。恐らく痛みは関係ない。強力な自白剤と死と結びつける為の恐怖を誘発するホルモン剤が良いだろう。死を恐れれば、何か分かるかもしれない。だが、忘れないでくれ。私は今や被曝者だ。SCP-530-JPの真実か被曝者、つまり私の運命に対する真実を守るためにわざと見当違いのアドバイスをしているかもしれない。おおよそ嘘と思ってもらって構わない、気をつけてくれ。

<録音終了>

終了報告書: 過去に行われたDクラス被曝者への調書よりも有益な情報が得られたのは間違いありません。強い財団への忠誠心や研究意欲はSCP-530-JPの影響に無力なようです。対象の証言からは仏教に於ける解脱や黄泉の国といった概念が受け取れますが事実は不明です。また、発見地の調査から不審な点は見つかっていません。

██████研究員は現在当人からの要望によって策定された拘留尋問プロトコルを受けています。彼には研究対象としてコードネーム"アヌビス"が割り当てられています。

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