アイテム番号: SCP-537-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: その特性上、SCP-537-JPを完全に収容する事は現状不可能であり、対象の動向は常に担当職員によって監視されます。SCP-537-JPの出現が確認された場合は「通り魔事件」をはじめとした適切なカバーストーリーを適用し、直ちに周辺のエリアを封鎖・民間人を避難させてください。その後、出現地点に最も近いセーフハウスで待機しているエージェントを現地へと派遣してください。当該オブジェクトの出現に対応するため、世界各地へエージェントが配置されます。
派遣されたエージェントはSCP-537-JPが消失するまでエリアから出ることのないよう誘導してください。SCP-537-JPが実験対象以外の人物へ「質問」を行った場合、質問内容を伝え切ってしまう前に攻撃あるいは威嚇を行い中断させてください。この攻撃や威嚇とは一般的に想起されるあらゆる手段で問題ありません。また、出現地点の閉鎖が完了した時点でSCP-537-JPを対象とした実験の施行が許可されます。
対象の消滅が確認された後は周辺の民間人にクラスA記憶処理を施してください。
説明: SCP-537-JPは世界各地で非周期的に観測される、およそ全長1.8mほどの幻影です。SCP-537-JPの出現条件は現状判明しておらず、これといった法則性も確認されていません。その姿はしばしば「影が浮き出たような」と形容される黒い人型を基本形とし、大抵バックパックやスーツケース等の鞄を所持しています。この鞄に内容物は存在せず、SCP-537-JPが手放した時点で消失します。
SCP-537-JPは人間と遭遇する事でその特異性を発揮します。SCP-537-JPは周囲に人間(以下、被害者と表記)の存在を認めるとそれらに接近し、おおよそ「[任意の場所]に行きたいので経路を教えてほしい」といった内容の文言を伝えます。この際に使用する言語には、流暢な日本語と発音や文法のやや不自然な英語の2種類が確認されており、出現地点によって使い分けます「質問」を行う相手によって使い分けます。
この時に被害者が「目的地」へ向かうための最適な経路を知らない場合、被害者は一瞬にしてそれを理解します。この現象によって挿入された情報は記憶処理による抹消を受け付けず、内容と情報量によっては被害者の思考へ混乱を齎します。情報を伝達する原理は不明ですが、「質問」を何らかの方法を用いて中断させる事で伝達の阻止自体は容易に可能です。また、被害者がSCP-537-JPの話す内容を理解できない場合、上記の特異性は発揮されません。
被害者から質問に対する回答を得た場合、その実否に関わらずSCP-537-JPは被害者へ感謝の意を示して消失します。その後、実際にSCP-537-JPが「目的地」を訪れているかは不明です。被害者が質問に答えない場合、何らかの理由で答えられない状況に陥った場合、日本語・英語以外の言語を用いて案内を行った場合は被害者との会話を停止します。この時、周囲に他の人間がいる場合はその人物へ再度同様の質問を行い、そうでない場合は消失します。SCP-537-JPの発する言葉に強制力や精神操作の要素は見られず、質問に答えるか否か、正しい経路を説明するか否かは完全に被害者の任意のようです。
幻影であるという特性上SCP-537-JPには如何なる物理的接触も無効ですが、殴打や発砲をはじめとした攻撃行為には酷く狼狽し怯えた様子を見せ、平均して13秒後にその場から消失することが確認されています。この事からSCP-537-JPへの攻撃行為は「威嚇」として高い効果が期待されます。SCP-537-JPは自らへ攻撃を加えた人物を敵対存在として認識しますが、その影響は「質問」を行わなくなり行動パターンが警戒的に変化する程度で、対象が敵対存在へ危害を及ぼしたという事例はこれまでに確認されていません。
実験記録537-JP-001 - 日付196█/09/13
実験対象: D-537-JP-1
実施方法: SCP-537-JPを殴打する。
結果: 実験対象はSCP-537-JPをすり抜けた。SCP-537-JPは実験対象の行為に大きく怯み、動揺を見せた。
実験記録537-JP-002 - 日付196█/09/13
実験対象: D-537-JP-1。SCP-537-JPには敵対存在として認識されている。
実施方法: SCP-537-JPへ発砲する。
結果: 銃弾はSCP-537-JPをすり抜けた。対象の反応は上記に同様。以降、SCP-537-JPが「Dクラス専用のジャンプスーツを着用した人物」を敵対存在として認識していることを確認した。
実験記録537-JP-003 - 日付198█/12/06
実験対象: D-537-JP-2。ただしDクラス専用のジャンプスーツではなく、一般的な衣類を着用する。
実施方法: SCP-537-JPの「質問」に応答、正しい経路を説明する。
目的地: ██████。██県███市に存在する建造物。実験対象は「目的地」までの道筋を知らない。
結果: SCP-537-JPの特異性が発揮。実験対象はSCP-537-JPへ正しい経路を説明した。その後、SCP-537-JPは感謝の言葉を述べて消失。実験対象は急な情報挿入による吐き気と発熱を訴えた。
超常的な力で識別しているわけではなく、敵対存在か否かを判断するのはあくまで相手の外見と自身の経験ということか。 - ██研究員
実験記録537-JP-004 - 日付200█/06/19
実験対象: D-537-JP-3。ただしDクラス専用のジャンプスーツではなく、一般的な衣類を着用する。
実施方法: 実験対象とSCP-537-JPの会話を中断させる。中断させる手段には空砲を用いた威嚇射撃を使用する。
結果: SCP-537-JPは実験対象の存在を認めると接近し「質問」を開始。「すいません、今からニューヨークシティに」まで発音を終えたところでエージェント███がSCP-537-JPの背後から上空へ向けて発砲。対象は「質問」を中断し、酷く狼狽。その後断続的に悲鳴と思しき声を上げながら逃げ回り、12秒後に消失。今回の「質問」で「目的地」の発音までは終了していたが特異性は発揮されなかった。
文章を終わりまで発音しないと駄目らしい。 - ██研究員
SCP-537-JPは19██年頃から「道を訊ねる怪人」の噂が世界各地で囁かれるようになり、目撃例だけでなくいくらかの映像も撮影されたことから財団の注意を引きました。これを受けて財団は件の怪人をSCP-537-JPとして定義、その後対象を撮影した動画群のマスターフィルムを押収し、カバーストーリー「シャドー・ピープル」をはじめとする情報工作によって隠蔽を行いました。現在当該動画群のマスターフィルムはサイト-81██の資料室に保管しています。動画の視聴を行う場合は資料-537-JPを参照してください。
SCP-537-JPの出現記録の内、いくつかの処置が間に合わなかった記録を抜粋して掲載します。
事例537-JP-01 日付196█/08/21
被害者: 鈴木 ███ 男性、日本人。
目的地: ████駅。出現地点の最寄り駅であり、被害者は「目的地」までの経路を知っている。
結果: 被害者は「質問」に応答、正しい経路を説明した。SCP-537-JPは感謝の言葉を述べて消失。
事例537-JP-05 日付196█/08/21
被害者: 杉田 ███ 男性、日本人。
目的地: 国会議事堂。被害者は「目的地」までの経路を知らない。
結果: SCP-537-JPの特異性が発現。被害者は急な情報挿入によって混乱状態に陥り、「質問」には応じなかった。その後SCP-537-JPは他の民間人に「質問」を行うべく活動を続行。この時点で財団職員が現場へ到着し、対象へ攻撃活動を行う事で消失を促した。
被害者の反応は急な情報挿入によるもので、オブジェクトの特異性自体に恐怖や混乱を想起させる効果は無いと思われる。 - ██研究員
事例537-JP-13 日付197█/05/16
被害者: 竹中 ███ 女性、日本人。
目的地: 被害者の自宅。
結果: 被害者は「質問」に応答、事実とは異なる経路を説明した。SCP-537-JPは感謝の言葉を述べて消失。
一般の住宅も目的地に成り得るのか。 - ██研究員
事例537-JP-20 日付198█/04/10
被害者: 山本 █████ ███ 男性。日本人とアメリカ人の混血。白人の身体的形質を一部持つが、英語を話す事はできない。
目的地: ██████博物館。愛知県████市内にある博物館で、対象は「目的地」までの経路を知っている。
結果: SCP-537-JPは当初、英語を用いて被害者に「質問」を行った。その後被害者が日本語で訊ね返したところ、SCP-537-JPは何度かの不明瞭な呟きの後、日本語を用いて再度「質問」を行う。これに被害者が応答、正しい経路を説明したところ、SCP-537-JPは感謝の言葉を述べて消失。
言語選択も外見を頼りにしているらしい。行動選択の基準は我々人間と大差ないのかもしれない。 - ██研究員
事例537-JP-28 日付199█/12/27
被害者: 吉里 ███ 女性。
目的地: ████████。全国的に出店しているコンビニエンスストアであり、被害者は今回の出現地点より徒歩22分程度の地点に店舗が存在する事を知っていた。
結果: SCP-537-JPの特異性が発現、被害者は徒歩3分程度の地点に別の店舗が存在することを理解した。その後被害者が「質問」に応答、情報挿入によって理解した経路を説明したところ、SCP-537-JPは感謝の言葉を述べて消失。
あくまで聴きたいのは最短のルートというわけか。 -██研究員
事例537-JP-39 日付200█/01/05
被害者: 大西 ██ 女性、日本人。
目的地: SCP-███の収容所。被害者と財団の関連性はない。
結果: 「質問」内容の理解と同時に絶叫。白目を剥き痙攣し続けた。SCP-537-JPは動揺の様子を見せ、19秒後にその場から消失。
補足: その後、情報漏洩の可能性を考慮して被害者を回収、終了処分しました。
こいつは本当に「知らない」のか? - ██研究員
事例537-JP-62 日付201█/09/12
被害者: 小野 ███ 男性、日本人。
目的地: [データ削除済]。一般に伝説上の建造物とされており、実在しないものとされている。
結果: 被害者は4分強に渡って未知の言語を発し続けた。被害者のSCP-537-JPはこれに熱心な様子で耳を傾け、被害者が話し終えた後に「どうも親切にありがとうございます。ここまで丁寧に道を教えてくれたのはあなたが初めてです」と発言した。
これに対して被害者は高速で何度も頷き、4秒後に全身が破裂・死亡。その後SCP-537-JPは悲鳴を上げつつその場から逃走し、6秒後に消失した。
被害者が口にした謎の言語とその内容については現在解析中だが、これまでのルーチンから[データ削除済]への経路を示したものだと推測される。
これではっきりした。SCP-537-JPに恐らく悪意はない。だけどあいつは「知らない」と思い込んでるだけで、本当は俺たちよりずっと多くの事を知ってるんだ。 - ██研究員
補遺-537-JP-1: 最初の目撃例におけるSCP-537-JPは一切の衣類を着用していませんでした。然し3度目の目撃例におけるSCP-537-JPの姿はソンブレロにポンチョという出で立ちであり、2度目の目撃例におけるSCP-537-JPの「目的地」は「メキシコシティ」でした。以降もSCP-537-JPが何らかの衣類を着用した状態で出現する記録が度々観測されています。SCP-537-JPの服装は前回の「目的地」に影響すると考えられています。
補遺-537-JP-2: SCP-537-JPが自我を持つ存在である事が確認された段階で対象へのインタビューが計画・実行されましたが、対象は一切の反応を示さず失敗に終わりました。SCP-537-JPは自身の「質問」に関係のない会話をはじめとした一部の言動を認識しないものと考えられます。